上 下
106 / 107

逃走中※アユム視点

しおりを挟む


 まさかの……いや、想像してたけどザピクロス様の浮気グセのせいで修羅場中。

 でも決着がついたのかな?

 絶縁を叩きつけられて、ザピクロス様は口を大きくあけて呆然としている。
 灰になる一歩手前のアライグマ状態だ……。

 そしてエイシオさんも、同じように愕然としている……。

 俺も、ど、どうしようと頭のなかが軽くパニックだ。

「私はもう、そんなあなたになんか興味はないの! これからは勇者と、転移者殿と一緒に私も暮らすのよ」
 
 突然の、テンドルニオン様の言葉。

 つまりはザピクロス様の次に、テンドルニオン様が俺達と一緒に暮らすってこと?

 エイシオさんが、悲壮に溢れた顔をしている……。
 地獄に落とされる前の人のようなげっそりとして……。
 エイシオさんのオーラが、ムンクの叫びのようにうっすら見える……!!

「アライグマが……またアライグマに……アライグマチェンジ……しただけじゃないか……」

 ぶつぶつとエイシオさんの言葉がかすかに聞こえる。
 あぁ、エイシオさん!!

「うふふ、人間の食べ物を食べるのは私も楽しみだわぁー転移者殿のお料理にお酒に……うふふ」

 テンドルニオン様は、何か妄想をしているのか料理本を取り出して、楽しそうに読み始めてるっっ!!

「アユム……!」

「は、はいエイシオさん……!」

「行こう……!」

「えっ?」

 エイシオさんがザッと立ち上がり、荷物を背負う。
 慌てて俺もテーブルの横にあった荷物を手に持って、一緒に立ち上がった。

 そんな俺をエイシオさんは抱き上げる。
 お、お姫様抱っこされちゃった!?
 
「わぁ!」

「テンドルニオン様! 私たちは急用を思い出しましたのでこれにて失礼致します! ごちそうさまでした!」

「えぇ!? 勇者!? なにを!」

 突然のエイシオさんの言葉に、テンドルニオン様は驚く。
 壁で呆然としていたザピクロス様もハッ!? となってこちらを見た。

「それでは失礼!」

「あぁ! 勇者!! 転移者殿!!」

 テンドルニオン様が止める間もなく、エイシオさんは俺を抱いたまま走り出した。

「エイシオさん!」

「あぁ、僕はもうアライグマに間に挟まれるのはまっぴらごめんだよ! アユムとあの家で二人だけで一緒に暮らすんだ……!」

「……エイシオさん……」

「いいだろう? アユム! 帰ったら結婚式をしよう! 僕とずっと一緒にいてほしい!」

 抱き上げたまま、エイシオさんはすごいスピードでテンドルニオン様の神殿内を走る走る。
 そんな状況なのに、エイシオさんの言葉が俺の心に熱く刺さって……。

 今までも沢山、幸せになる言葉をくれた。
 でも、今の言葉がすごく嬉しくて嬉しくて、目が熱くなって涙が溢れてくる。

「……はい! エイシオさん大好きです!」

 俺は強くエイシオさんの首もとに抱きついた。
 エイシオさんは額から汗を流しながら、走る荒い息のまま『やったぁー!』と叫ぶ。

 走って走って、二人で手を取り合って俺たちは逃走した。

 逃げ出しちゃったのは悪い事かもしれないけれど、ごめんなさい神様達。
 今はどうか二人っきりの時間をください。
 
 キラキラ輝く笑顔。
 大好きなエイシオさんの笑顔。

 それが嬉しくって、俺も笑顔になる。

 人って怖いだけだと、思ってた。
 言葉って傷つくだけだと、思ってた。
 自分に価値はないと思っていた。

 キラキラでみんなに好かれている人に、悩みはないと思ってた。
 
 でも、それは間違っていた。
 
 人ってこんなに温かくて。
 言葉ってこんなに嬉しくって。

 俺なんかにも価値を、愛をくれる人がいた。
 どんな人にも苦悩があって、俺なんかの愛でも救えることもわかった。

 見つけてくれて、ありがとう。
 出逢ってくれて、ありがとう。

 
 俺は此の異世界で、愛する人と出逢える事ができました。





 ※次回最終回です。
しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています

ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた 魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。 そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。 だがその騎士にも秘密があった―――。 その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。

動物アレルギーのSS級治療師は、竜神と恋をする

拍羅
BL
SS級治療師、ルカ。それが今世の俺だ。 前世では、野犬に噛まれたことで狂犬病に感染し、死んでしまった。次に目が覚めると、異世界に転生していた。しかも、森に住んでるのは獣人で人間は俺1人?!しかも、俺は動物アレルギー持ち… でも、彼らの怪我を治療出来る力を持つのは治癒魔法が使える自分だけ… 優しい彼が、唯一触れられる竜神に溺愛されて生活するお話。

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】ホットココアと笑顔と……異世界転移?

BL
裏社会で生きている本条翠の安らげる場所は路地裏の喫茶店、そこのホットココアと店主の笑顔だった。 だが店主には裏の顔が有り、実は異世界の元魔王だった。 魔王を追いかけて来た勇者に巻き込まれる形で異世界へと飛ばされてしまった翠は魔王と一緒に暮らすことになる。 みたいな話し。 孤独な魔王×孤独な人間 サブCPに人間の王×吸血鬼の従者 11/18.完結しました。 今後、番外編等考えてみようと思います。 こんな話が読みたい等有りましたら参考までに教えて頂けると嬉しいです(*´ω`*)

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

弟、異世界転移する。

ツキコ
BL
兄依存の弟が突然異世界転移して可愛がられるお話。たぶん。 のんびり進行なゆるBL

処理中です...