73 / 107
屋敷の門に着く※エイシオ視点
しおりを挟む次の小さな村で一休みしようと思ったが、村は浸水の被害を受けていた。
だから僕は無理をして、家まで馬車を走らせ続けることにした。
雨のなか、やっと門に着いたのは夜中。
屋敷は高い塀に囲まれて守られているので、門番に声をかけて開けてもらう必要があった。
「エイシオ様!? エイシオ様よくお戻りに!! みんなーーエイシオ様のおかえりだ!」
老年の門番が僕の顔を見てすぐに気付き、先に伝令魔法陣で城に伝えている。
とりあえず馬車ごと、門の中に入ることができた。
浸水被害を受けている小さな村に、救助と応援を派遣するように伝える。
「屋敷っていうか……お城じゃないですか……すごい」
暗闇に浮かび上がる白い城。
戦争もなくなった今は、ところどころに発光石を使っているので深夜の大雨の中でもその全貌がわかる。
もう一人の門番が合羽を着ているとはいえ、濡れきった僕達に駆け寄ってきた。
「エイシオ様は幌の中でお休みください。運転は私が代わります! おい、そこの御者!!」
「彼は僕の大切な人だ、失礼は許さない……!」
またか……!
「そっそれは大変失礼致しました!」
「エイシオさん、いいんですよ」
うっ……アユムはいつもの優しい微笑み。
僕はつい怒鳴ってしまいそうになるのに……。
「よくはない。何をどうして、こんなに素敵で輝いているアユムを怒鳴りつけることができるんだ」
「エッエイシオさん、恥ずかしいですから! 輝いていないです!」
「申し訳ございません! 大変失礼致しました!」
「いえいえ、大丈夫ですよ~気にしないでくださいね」
「アユム……」
アユムに『エイシオの恋人』という看板を持たせたい。
そうすれば、誰も彼を御者だとは思わないだろうし、変な虫も来ない。
うん……いいかもしれない。
看板は無理でも服の刺繍とか……?
ドレス作りはやめさせて、アユムの服を作らせる……いいかもしれない。
「エイシオさん?」
「あっいや、それでは幌に乗ろう。此処から城までもかなりあるんだ」
「はい」
幌に入るとダニーとシャンディも、疲れ顔だが安心したように微笑む。
「エイシオ様。その御二人は……?」
「城が呼びつけたドレスの仕立てた屋だそうだ」
「そ、そうですか……失礼しました」
門番は、もう何も言わず幌の前面を閉めて馬車を動かし始める。
あの雨の中、身体が冷え切らなかったのはアユムのおかげだ。
燃やすこともなく、ギリギリの暖かさで火をコントロールできるだなんて神業としか言いようがない。
「エイシオさん、寒くありませんか?」
「僕は大丈夫だよ」
「コーヒー飲みましょう」
「ありがとう」
門番からもらった砂糖たっぷりの熱いコーヒーを、四人分のコップにアユムが注いでくれた。
はぁ……染みるように美味い。
さて、こんな夜中に数年ぶりの帰宅だ。
どんな事になるのやら。
雨音とアライグマのいびきを聞きながら、僕達はまた馬車に揺られる。
35
お気に入りに追加
246
あなたにおすすめの小説
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

俺の妹は転生者〜勇者になりたくない俺が世界最強勇者になっていた。逆ハーレム(男×男)も出来ていた〜
七彩 陽
BL
主人公オリヴァーの妹ノエルは五歳の時に前世の記憶を思い出す。
この世界はノエルの知り得る世界ではなかったが、ピンク髪で光魔法が使えるオリヴァーのことを、きっとこの世界の『主人公』だ。『勇者』になるべきだと主張した。
そして一番の問題はノエルがBL好きだということ。ノエルはオリヴァーと幼馴染(男)の関係を恋愛関係だと勘違い。勘違いは勘違いを生みノエルの頭の中はどんどんバラの世界に……。ノエルの餌食になった幼馴染や訳あり王子達をも巻き込みながらいざ、冒険の旅へと出発!
ノエルの絵は周囲に誤解を生むし、転生者ならではの知識……はあまり活かされないが、何故かノエルの言うことは全て現実に……。
友情から始まった恋。終始BLの危機が待ち受けているオリヴァー。はたしてその貞操は守られるのか!?
オリヴァーの冒険、そして逆ハーレムの行く末はいかに……異世界転生に巻き込まれた、コメディ&BL満載成り上がりファンタジーどうぞ宜しくお願いします。
※初めの方は冒険メインなところが多いですが、第5章辺りからBL一気にきます。最後はBLてんこ盛りです※
【完結】元魔王、今世では想い人を愛で倒したい!
N2O
BL
元魔王×元勇者一行の魔法使い
拗らせてる人と、猫かぶってる人のはなし。
Special thanks
illustration by ろ(x(旧Twitter) @OwfSHqfs9P56560)
※独自設定です。
※視点が変わる場合には、タイトルに◎を付けます。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜
車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第2の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる