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門を通過※アユム視点
しおりを挟む領内に入る門で、エイシオさんだとわかった皆は一気に盛り上がって騒ぎ始めた。
「エイシオ・ロードリア様!」
「勇者様のご帰還だ!!」
「領主様に報告をーー!」
「「「勇者様だぁー!」」」
「「「獣人化されているわーキャーー!!」」」
すごい声……!!
「あーー! お願いだ! 騒ぎをやめてくれ! 野暮用でロードリア領内に戻っただけなんだ。どうか騒がないでくれ!」
エイシオさんが慌てて場を鎮めようとするけど、まるで芸能人が来たかのように皆嬉しそうだ。
こういうアニメを見た事あるよなぁ……と俺は思う。
「お前は従者か」
「は、はい」
「ご苦労さん」
作ってもらった身分証は特に調べられることもなく、なんなら見てた? っていう感じで返された。
ザピクロス様は、僕のリュックの中にいる。
エイシオさんの権威のおかげで、リュックの中までは調べられる事はなさそうだ。
「さぁアユム行こう」
俺はすんなり馬車に乗れたけど……。
馬車に乗り込もうとするエイシオさんを、皆がワイワイと取り囲む。
「まぁーったく勇者め……なんであんな人気あるの? 顔がいいやつはムカつくぜぇ……」
背中のリュックから声が聞こえてきた。
「ザピクロス様、リュックの中に入れたクッキーまだありますよね? 少し我慢してください」
「サクサク……これで最後の1枚だもん……サクサク」
「ええぇ、この門を抜けてから次の目的地までまだ結構あるのに一袋もう食べちゃったんですか!?」
「サクサク……だって、美味しいんじゃもん……ごっくんちょ」
「もう~」
「勇者はまだぁ?」
「まだですよ~」
皆にワイワイ囲まれてるエイシオさん……。
本当に人気者なんだな~。
「アユム、ごめんよ。もう少しだけ待っていてくれ」
「はい! 全然大丈夫ですよ!」
わーサインを貰いに子ども達が……。
女性達も駆けつけてきた。
クッキー買ったお店でも田舎だから楽しみがないって言ってたもんなー。
「エイシオ様、昨日ラミリア様も此処をお通りになりましたよー!」
えっ……。
ドキッとした。
ラミリアさんもこっちに向かっていた……。
あの湖での攻撃を思い出す。
でも、あれ以来攻撃はもうないし……誰かを疑うなんて嫌だ。
ラミリアさん、ごめんなさい……!!
俺はモヤモヤと、考え込むクセがあるんだよね。
なんでもネガティブで駄目だなって思っているのに……!
「あぁ、皆すまない! もう時間がないんだ! これで僕は行かなきゃならない! では皆さらばだ!」
元の世界ではサラダバーってみんなが言うような言葉をエイシオさんが叫んだ。
エイシオさんが言うとさまになるなー。
「歓迎のお返しだ! 受け取ってくれ!」
朝にエイシオさんが、何故か花束を買っていた理由がわかった。
花束をほどいて、馬車からフワッと皆へ撒いた。
皆へのプレゼント……かぁ。
かっこいいー!
皆が嬉しそうに受け取ったり拾ってる。
俺達は、その間に門をくぐってロードリア領内に入った。
「エイシオさんの人気はすごいですね」
「はは……そうだね……皆に感謝だよ」
そういうエイシオさんは、何故かちょっと寂しそう。
もう門が遠くなってから、俺は馬車の運転の邪魔にならないようにエイシオさんに寄り添った。
「あんな風に歓迎されているのに、ずっと寂しかったなんて失礼だよね」
「そんな事ありませんよ……今は大丈夫ですか?」
「もちろん、アユムがいてくれる」
陰キャだった俺には到底わからない世界だけど、それでも寂しいと感じた事に罪なんか無い。
俺がいる事で、エイシオさんがもう寂しくなくて良かった。
ザピクロス様のいびきを聞きながら、僕達は寄り添い道を行く。
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