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間に挟まるザピクロス様※エイシオ視点
しおりを挟むまた夜更かしをしてしまったけれど、僕は幸せな朝を迎えている。
心から愛しいアユムと、同じベッドで迎える朝。
何か夢を見ていた気がした僕はまだまどろみの中にいけれど……傍にいるアユムの体温が嬉しい。
この世の恋人達や夫婦はこんな幸福を味わっているのか……。
「グウグゥ……グプィ! ……グウグゥ」
幸福な朝。それなのに、まだこのアライグマ……間に挟まってくる。
いやいや、偉大な神、ザピクロス様だ。
心のなかとはいえ、そんな事を思ってはいけない。
こっちを向いたアユムに朝の目覚めのキスをしようと思うのに、寝相の悪いアライグマが、顔の前をベタンバタンと転がる……。
くっそぉ……。
「むふふ……もふもふ」
「ググクゥ……」
あぁアユムが寝ぼけながら、ザピクロス様を抱き締めて撫でている。
そこには僕がいるはずなのに……!
こんな嫉妬心は初めてだよ。
アライグマ相手になら情けないけれど、偉大な神相手なら許されるだろうか。
絶対キスするなよ!
「あ……おはようございます……エイシオさん」
「おはようアユム」
「んーおはよう~転移者殿。勇者」
少し二人の時間を味わえるかと思ったら、一緒に起きた、このアライグマ。
「朝ご飯を作りますね」
「我の卵はスクランブルエッグにして。生っぽいの嫌だから、しっかり焼いてくれな。ベーコンもほしい」
このアライグマ……普通のご飯食べるのか!
しかもワガママ!
「はい、ザピクロス様。まずは顔を洗いましょうか」
「うむ」
「行きましょう、エイシオさん」
えぇえええ! ちゃっかりまた抱きかかえられてる!
ちょっと! なんなの!
僕とアユムの甘い新生活の間に挟まりすぎなんじゃ……!?
そうは言っても相手は神……取り上げて窓からぶん投げるわけにはいかない。
あぁ冷静沈着な僕が、何をそんな事を考えているんだ。
僕はそのままアユムと一匹と一緒に顔を洗って歯を磨いて……髪を整え身支度をする。
「見た目だけは大層な美丈夫だの、勇者は」
ザピクロス様は洗面所のタライで何回も顔を洗っている。
アユムは先に台所に行ってしまった。
「僕は勇者ではありませんよ」
「それはお主が決める事ではない、そういう事になってるんだからそういう事なんじゃ」
なんだ……神の世界ではどういうことになっているんだろう。
あとで詳しく聞かなければ。
そんな立場にしてほしくはないが、アユムが転移者という何か天命を受ける立場なら僕も勇者でいた方が良いのかもしれない。
「ザピクロス様、テーブルに牛乳とオレンジジュースを用意しましたよ。お好きな方をお飲みください」
「気が利くのう~」
そう言って、ザピクロス様はピヨンと飛び跳ねて行ってしまった。
はぁ……と息を吐いて後に続こうと思ったら……。
「あの」
アユムに、腕を捕まれた。
下を向いて表情がわからない。
「あの……エイシオさん……」
アユム、もじもじしてる……可愛いな。
あ……僕達、今二人きりだ。
この時間をわざと……?
「アユム……」
アユムが二人きりで、キスを求めてくれたんだ。
その事に気付いた時はもう心臓が飛び出しそうなほどに心が疼いて、隠れるように僕達は朝のキスをした。
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