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「…あ、気が付きました?」
気が付くと夕方だった。隆はベッドに横になっていて、その横には看護婦が立っていた。
「あれ、ここは?」
少しぼーっとする頭を振りながら隆がつぶやくと、看護婦は、
「看病疲れで倒れたんです。朝から今までずっと寝てましたよ」
と言い、続けて、
「でも、そこまで看病してくれる人がいるなんて、彼女が羨ましいわ。」
羨ましそうに微笑みながら言った。
看護婦のその言葉を聞きながら、隆は徐々に覚めつつある頭で考えた。
―寝てた?今までずっと?それじゃぁ、昨夜の出来事は、夢だったとでも言うのか―
それにしても、夢と言うには余りにもはっきりとした感触を、隆は覚えている。
それでも夢だというのなら…
「あの、千佳の容態は?」
隆は看護婦に聞いてみると、看護婦は、
「それが、今朝目を覚ましたんですよ。先生は『奇跡が起こった』なんて言ってましたけど」
そう言った。
隆はその言葉を聞き終わらないうちにベッドから跳ね上がり、病室から飛び出した。
「千佳!」
そう言いながら乱暴にドアを開けて集中治療室に飛び込むと、
「あ、隆」
千佳がベッドに身体を起こしながら言った。
隆は千佳に駆け寄り、思い切り抱きしめて、
「…良かった…」
一言だけつぶやいた。
その言葉を聞いて、千佳は、
「心配かけちゃったね、ごめんなさい。それに私が寝ている間、隆、ずっと私のそばにいてくれたんだって?それで倒れちゃったんでしょ?看護婦さんに聞いたわ。本当にごめんね、私何も覚えてないの」
と、ちょっと申し訳なさそうに言った。
「いいんだよ、そんな事」
隆がそう言うと、千佳はふと思いだしたように、
「あ、でも、一回だけ夢を見たのを覚えてるわ」
そう言った。
「夢?」
「そう」
「どんな夢を見たんだ?」
「あのね、真っ暗な所に私が独りぼっちでいるの」
「…」
「そしたら、どこからか女の人の声が聞こえるの。『あなたが一番したい事はどんな事?』って」
「うん…」
「それで私が『隆と一緒にいる事』っていったら、『わかったわ。あなたの願いをかなえてあげる』って言って、目の前に隆が現われたの」
隆は黙って聞いていた。
「それで私が隆の手を握ると、だんだん周りが明るくなってきて、気が付いたら病室のベッドに横になっていたの」
そこまで聞いて隆は、やっぱり昨夜のことは夢じゃなかった事を確信した。
隆は、
「そうか…」
と一言だけ言って、千佳をもう一度抱きしめた。
それでも隆は一つだけ気になる事が残っていた。
『自分の命と引き換えに』してまで千佳を助けたけど、今自分がここにいるという事だった。
「ちょっと隆、苦しいよ」
少し強く抱きしめ過ぎたのか、千佳が言った。
「あぁ、ごめん」
隆がそう言って少し力を弱めると、シャツの胸ポケットで何やらカサカサという音を立てるものがある事に気付いた。
取り出してみると、それは折り畳まれた紙切れだった。
紙を広げると、簡単なメッセージが書いてあった。
どんな事があっても、人の命を奪ってしまう事を主はお許しになりません
だから、あなたの命を半分だけ、彼女にあげる事にしました
そうすればあなたも彼女も悲しまないで済むでしょ?
ささやかだけど、私からのクリスマス・プレゼント
メリークリスマス
お幸せに
隆はその走り書きを読むと、何も言わずにくしゃくしゃっと丸めて、ゴミ箱に捨てた。
「何、今の?」
千佳が聞くと、隆は
「ン?いや、何でもない」
とだけ答えた。
ちょっとの間の後、
「あのね、隆。さっきお医者様が言ってたんだけど、わたし、もうすぐ退院できるんだって。そうしたら、ちょっと時期外れだけど、クリスマスパーティー、やらない?」
千佳が口を開いた。
隆は微笑んで、千佳の言葉に応えた。
「あぁ、そうだな。ちょっと遅いけど、パーティーをしよう。それと、買い物にも行こう」
「買い物?何を買いに行くの?」
千佳が聞くと、隆は千佳の耳に顔を持って行き、内緒話をするように言った。
「婚約指輪」
気が付くと夕方だった。隆はベッドに横になっていて、その横には看護婦が立っていた。
「あれ、ここは?」
少しぼーっとする頭を振りながら隆がつぶやくと、看護婦は、
「看病疲れで倒れたんです。朝から今までずっと寝てましたよ」
と言い、続けて、
「でも、そこまで看病してくれる人がいるなんて、彼女が羨ましいわ。」
羨ましそうに微笑みながら言った。
看護婦のその言葉を聞きながら、隆は徐々に覚めつつある頭で考えた。
―寝てた?今までずっと?それじゃぁ、昨夜の出来事は、夢だったとでも言うのか―
それにしても、夢と言うには余りにもはっきりとした感触を、隆は覚えている。
それでも夢だというのなら…
「あの、千佳の容態は?」
隆は看護婦に聞いてみると、看護婦は、
「それが、今朝目を覚ましたんですよ。先生は『奇跡が起こった』なんて言ってましたけど」
そう言った。
隆はその言葉を聞き終わらないうちにベッドから跳ね上がり、病室から飛び出した。
「千佳!」
そう言いながら乱暴にドアを開けて集中治療室に飛び込むと、
「あ、隆」
千佳がベッドに身体を起こしながら言った。
隆は千佳に駆け寄り、思い切り抱きしめて、
「…良かった…」
一言だけつぶやいた。
その言葉を聞いて、千佳は、
「心配かけちゃったね、ごめんなさい。それに私が寝ている間、隆、ずっと私のそばにいてくれたんだって?それで倒れちゃったんでしょ?看護婦さんに聞いたわ。本当にごめんね、私何も覚えてないの」
と、ちょっと申し訳なさそうに言った。
「いいんだよ、そんな事」
隆がそう言うと、千佳はふと思いだしたように、
「あ、でも、一回だけ夢を見たのを覚えてるわ」
そう言った。
「夢?」
「そう」
「どんな夢を見たんだ?」
「あのね、真っ暗な所に私が独りぼっちでいるの」
「…」
「そしたら、どこからか女の人の声が聞こえるの。『あなたが一番したい事はどんな事?』って」
「うん…」
「それで私が『隆と一緒にいる事』っていったら、『わかったわ。あなたの願いをかなえてあげる』って言って、目の前に隆が現われたの」
隆は黙って聞いていた。
「それで私が隆の手を握ると、だんだん周りが明るくなってきて、気が付いたら病室のベッドに横になっていたの」
そこまで聞いて隆は、やっぱり昨夜のことは夢じゃなかった事を確信した。
隆は、
「そうか…」
と一言だけ言って、千佳をもう一度抱きしめた。
それでも隆は一つだけ気になる事が残っていた。
『自分の命と引き換えに』してまで千佳を助けたけど、今自分がここにいるという事だった。
「ちょっと隆、苦しいよ」
少し強く抱きしめ過ぎたのか、千佳が言った。
「あぁ、ごめん」
隆がそう言って少し力を弱めると、シャツの胸ポケットで何やらカサカサという音を立てるものがある事に気付いた。
取り出してみると、それは折り畳まれた紙切れだった。
紙を広げると、簡単なメッセージが書いてあった。
どんな事があっても、人の命を奪ってしまう事を主はお許しになりません
だから、あなたの命を半分だけ、彼女にあげる事にしました
そうすればあなたも彼女も悲しまないで済むでしょ?
ささやかだけど、私からのクリスマス・プレゼント
メリークリスマス
お幸せに
隆はその走り書きを読むと、何も言わずにくしゃくしゃっと丸めて、ゴミ箱に捨てた。
「何、今の?」
千佳が聞くと、隆は
「ン?いや、何でもない」
とだけ答えた。
ちょっとの間の後、
「あのね、隆。さっきお医者様が言ってたんだけど、わたし、もうすぐ退院できるんだって。そうしたら、ちょっと時期外れだけど、クリスマスパーティー、やらない?」
千佳が口を開いた。
隆は微笑んで、千佳の言葉に応えた。
「あぁ、そうだな。ちょっと遅いけど、パーティーをしよう。それと、買い物にも行こう」
「買い物?何を買いに行くの?」
千佳が聞くと、隆は千佳の耳に顔を持って行き、内緒話をするように言った。
「婚約指輪」
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