27 / 29
生贄村(7)
しおりを挟む
「倉木さん、木々に服が引っかからないよう気を付けてください」
「はい。ありがとう存じます」
村までの道中、意外にも一戸さんが倉木さんを気遣っていた場面が何度か見受けられた。それは明らかな特別視だ。流石に好意があるというよりはビジネスライクな感じの方が強いけど、それにしても違和感がある。問いたかったけど、優しさを見せる度に話しかけるなオーラを感じたので遠慮した。
周囲を警戒しながら道も何もない斜面を真っ直ぐ登って行くと、高く伸びた板塀に行き当たった。左右に続いていたので一戸さん判断で右に進んで行く。
板塀伝いに歩くと門が見えてきた。その門は破られていて隙間から中を見ると半壊した住居がある。ここで合ってるんだろうか。
砂代くんと目を合わせると小さく頷く。私も周りに知られないように頷き返した。
「この中が今回の仕事場となります。見た所そこまでの広さはないようなので、班を分けることはせず一塊となって行動しましょう。戦い方は、基本的に遠距離から安全に攻撃して寄られたら各自対応してください」
各自対応か。正直不安ではある。ナイフだけでも握っておくか。
目を瞑り、右手を軽く握り、振る。
よし。出せた。フローレンスの時に買ったサバイバルナイフだ。
「まあ。それが夢を実現させる能力ですね?」
倉木さんが手を合わせて驚く。
「まだ現実じゃこれしかできないですけどね。⋯⋯そうだ、桜庭さん。桜庭さんのエアガンの魔法について、軽くでいいから教えてもらえない?」
「何でよ」
「予めこういう現象が起こるってことを私が認識してないと、魔法が発動されない可能性があるから」
「⋯⋯なるほどね。現象を言えばいいのね? 普通のエアガンと変わりはないわよ。ただ、bb弾に貫通力を付与してるだけだから、強いていうなら撃ったら敵が穴ボコになるってことくらい」
「うーん、まあ、多分大丈夫かな。そのエアガンで撃ったらそうなるって認識しておく」
「それでいいわ」
思ったより理解が早いな。これだけで納得してくれた。
「視界の共有を怠らないでください。⋯⋯それでは入ります」
突入。
何かが待ち構えてるとかはなく、すんなり入れた。
静かなものだ。何の気配も感じない。
「居るね」
あ、居るんだ。
「適当に撃っちゃっていい?」
「そうですね。建物を壊すなという指示は受けてないので、魔法が適用されるか試すのも兼ねて撃ってください」
「了解」
桜庭さんが銃を持った右腕を前に伸ばし少し半身に構えた。
建物に狙いを定めて引き金を引くと、トン、と空気が破裂したような音が小さく鳴る。
ヒュン、と飛んでいった小さな玉は住居の外壁をものともせず貫通していった。
「いけるね」
満足そうに呟いた桜庭さんは銃を連射する。
反動はそんなになさそうだ。音もエアガンそのもの。それでいて威力はとんでもない。
bb弾自体は小さいので遠くからみた住居にはそう変化は見えないけど、中身は荒れに荒れてるはずだ。
「おや」
蜂の巣になった住居から吐き出されるようにして何かが飛び出てきた。それは首が異様に長く、一見して分かる妖怪だ。
銃の標的がそれに変わり、貫く。いとも容易く動かなくなった。その騒ぎを聞きつけて、別の場所からも異形のモノが姿を現している。
全身毛むくじゃらの大男。一つ目の子供。下半身がない女。傘。コウモリ。四本足で立つ動物のような何か。
ぞろぞろと様子を伺うように顔を出し、出した順から撃ち抜かれる。
一方的だ。
「各家に潜んでると見た方が良いですね」
そうなのか。
感心するばかりで私の出番はなさそうだ。これなら、こんな大所帯で来る必要もなかったように思う。
「そろそろ弾切れ」
そう予告し、少しして撃ち切った。
射撃を止めた桜庭さんは、手早く弾倉を入れ替えセットする。その間、妖怪たちに襲ってくる動きはない。
再び銃撃が始まった。
「もうこれだけしてれば良くない?」
その呟きに答える人はいない。でも皆そう思ってるはずだ。
「少しずつ移動していきましょう」
一戸さんの声に従い、一同は時計回りに動いた。
回って回って、蚊取り線香のように中央へと寄っていく。突けば出てくるモンスターハウスもいくらかあったけど、その単調な行動に内心飽きてきた。
荒んだ村がさらに荒んでいく。ここを取り戻して何になるのか。ここまで一方的になるなら別に取り返さなくてもいいんじゃないかと思わないでもない。
回りきった。時間にして三十分といった所。
「終わりですね。撤収しましょう」
呆気ないな。桜庭さんは酷く疲れた様子だけど、魔法の使用でそうなってるんだろうか。
まあともあれ終わりか。出番がなかった砂代くんはキョロキョロと周りを見ている。そういえば砂代くんの姉とかマナナンガルはどこにいるんだろう。帰ってしまって大丈夫だろうか。
そんな心配をしながらも、入り口に向かう皆の後をついて行くと、
「もうお帰り?」
入り口を塞ぐように一人の女性が立っていた。
「はい。ありがとう存じます」
村までの道中、意外にも一戸さんが倉木さんを気遣っていた場面が何度か見受けられた。それは明らかな特別視だ。流石に好意があるというよりはビジネスライクな感じの方が強いけど、それにしても違和感がある。問いたかったけど、優しさを見せる度に話しかけるなオーラを感じたので遠慮した。
周囲を警戒しながら道も何もない斜面を真っ直ぐ登って行くと、高く伸びた板塀に行き当たった。左右に続いていたので一戸さん判断で右に進んで行く。
板塀伝いに歩くと門が見えてきた。その門は破られていて隙間から中を見ると半壊した住居がある。ここで合ってるんだろうか。
砂代くんと目を合わせると小さく頷く。私も周りに知られないように頷き返した。
「この中が今回の仕事場となります。見た所そこまでの広さはないようなので、班を分けることはせず一塊となって行動しましょう。戦い方は、基本的に遠距離から安全に攻撃して寄られたら各自対応してください」
各自対応か。正直不安ではある。ナイフだけでも握っておくか。
目を瞑り、右手を軽く握り、振る。
よし。出せた。フローレンスの時に買ったサバイバルナイフだ。
「まあ。それが夢を実現させる能力ですね?」
倉木さんが手を合わせて驚く。
「まだ現実じゃこれしかできないですけどね。⋯⋯そうだ、桜庭さん。桜庭さんのエアガンの魔法について、軽くでいいから教えてもらえない?」
「何でよ」
「予めこういう現象が起こるってことを私が認識してないと、魔法が発動されない可能性があるから」
「⋯⋯なるほどね。現象を言えばいいのね? 普通のエアガンと変わりはないわよ。ただ、bb弾に貫通力を付与してるだけだから、強いていうなら撃ったら敵が穴ボコになるってことくらい」
「うーん、まあ、多分大丈夫かな。そのエアガンで撃ったらそうなるって認識しておく」
「それでいいわ」
思ったより理解が早いな。これだけで納得してくれた。
「視界の共有を怠らないでください。⋯⋯それでは入ります」
突入。
何かが待ち構えてるとかはなく、すんなり入れた。
静かなものだ。何の気配も感じない。
「居るね」
あ、居るんだ。
「適当に撃っちゃっていい?」
「そうですね。建物を壊すなという指示は受けてないので、魔法が適用されるか試すのも兼ねて撃ってください」
「了解」
桜庭さんが銃を持った右腕を前に伸ばし少し半身に構えた。
建物に狙いを定めて引き金を引くと、トン、と空気が破裂したような音が小さく鳴る。
ヒュン、と飛んでいった小さな玉は住居の外壁をものともせず貫通していった。
「いけるね」
満足そうに呟いた桜庭さんは銃を連射する。
反動はそんなになさそうだ。音もエアガンそのもの。それでいて威力はとんでもない。
bb弾自体は小さいので遠くからみた住居にはそう変化は見えないけど、中身は荒れに荒れてるはずだ。
「おや」
蜂の巣になった住居から吐き出されるようにして何かが飛び出てきた。それは首が異様に長く、一見して分かる妖怪だ。
銃の標的がそれに変わり、貫く。いとも容易く動かなくなった。その騒ぎを聞きつけて、別の場所からも異形のモノが姿を現している。
全身毛むくじゃらの大男。一つ目の子供。下半身がない女。傘。コウモリ。四本足で立つ動物のような何か。
ぞろぞろと様子を伺うように顔を出し、出した順から撃ち抜かれる。
一方的だ。
「各家に潜んでると見た方が良いですね」
そうなのか。
感心するばかりで私の出番はなさそうだ。これなら、こんな大所帯で来る必要もなかったように思う。
「そろそろ弾切れ」
そう予告し、少しして撃ち切った。
射撃を止めた桜庭さんは、手早く弾倉を入れ替えセットする。その間、妖怪たちに襲ってくる動きはない。
再び銃撃が始まった。
「もうこれだけしてれば良くない?」
その呟きに答える人はいない。でも皆そう思ってるはずだ。
「少しずつ移動していきましょう」
一戸さんの声に従い、一同は時計回りに動いた。
回って回って、蚊取り線香のように中央へと寄っていく。突けば出てくるモンスターハウスもいくらかあったけど、その単調な行動に内心飽きてきた。
荒んだ村がさらに荒んでいく。ここを取り戻して何になるのか。ここまで一方的になるなら別に取り返さなくてもいいんじゃないかと思わないでもない。
回りきった。時間にして三十分といった所。
「終わりですね。撤収しましょう」
呆気ないな。桜庭さんは酷く疲れた様子だけど、魔法の使用でそうなってるんだろうか。
まあともあれ終わりか。出番がなかった砂代くんはキョロキョロと周りを見ている。そういえば砂代くんの姉とかマナナンガルはどこにいるんだろう。帰ってしまって大丈夫だろうか。
そんな心配をしながらも、入り口に向かう皆の後をついて行くと、
「もうお帰り?」
入り口を塞ぐように一人の女性が立っていた。
10
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
CODE:HEXA
青出 風太
キャラ文芸
舞台は近未来の日本。
AI技術の発展によってAIを搭載したロボットの社会進出が進む中、発展の陰に隠された事故は多くの孤児を生んでいた。
孤児である主人公の吹雪六花はAIの暴走を阻止する組織の一員として暗躍する。
※「小説家になろう」「カクヨム」の方にも投稿しています。
※毎週金曜日の投稿を予定しています。変更の可能性があります。
Change the world 〜全員の縁を切った理由〜
香椎 猫福
キャラ文芸
お気に入り登録をよろしくお願いします
カテゴリー最高位更新:6位(2021/7/10)
臼井誠(うすい まこと)は、他人を友人にできる能力を神から与えられる
その能力を使って、行方不明中の立花桃(たちばな もも)を1年以内に見つけるよう告げられ、人付き合いに慣れていない臼井誠は、浅い友人関係を繋げながら奔走するが…
この物語はフィクションです
登場する人物名、施設名、団体名などは全て架空のものです
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
日本国転生
北乃大空
SF
女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。
或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。
ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。
その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。
ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。
その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。
生贄の花嫁~鬼の総領様と身代わり婚~
硝子町玻璃
キャラ文芸
旧題:化け猫姉妹の身代わり婚
多くの人々があやかしの血を引く現代。
猫又族の東條家の長女である霞は、妹の雅とともに平穏な日々を送っていた。
けれどある日、雅に縁談が舞い込む。
お相手は鬼族を統べる鬼灯家の次期当主である鬼灯蓮。
絶対的権力を持つ鬼灯家に逆らうことが出来ず、両親は了承。雅も縁談を受け入れることにしたが……
「私が雅の代わりに鬼灯家に行く。私がお嫁に行くよ!」
妹を守るために自分が鬼灯家に嫁ぐと決心した霞。
しかしそんな彼女を待っていたのは、絶世の美青年だった。
転校先は着ぐるみ美少女学級? 楽しい全寮制高校生活ダイアリー
ジャン・幸田
キャラ文芸
いじめられ引きこもりになっていた高校生・安野徹治。誰かよくわからない教育カウンセラーの勧めで全寮制の高校に転校した。しかし、そこの生徒はみんなコスプレをしていた?
徹治は卒業まで一般生徒でいられるのか? それにしてもなんで普通のかっこうしないのだろう、みんな!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる