何でも起こるこの世界で

ヤギー

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生贄村(7)

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「倉木さん、木々に服が引っかからないよう気を付けてください」
「はい。ありがとう存じます」

 村までの道中、意外にも一戸さんが倉木さんを気遣っていた場面が何度か見受けられた。それは明らかな特別視だ。流石に好意があるというよりはビジネスライクな感じの方が強いけど、それにしても違和感がある。問いたかったけど、優しさを見せる度に話しかけるなオーラを感じたので遠慮した。
 周囲を警戒しながら道も何もない斜面を真っ直ぐ登って行くと、高く伸びた板塀に行き当たった。左右に続いていたので一戸さん判断で右に進んで行く。
 板塀伝いに歩くと門が見えてきた。その門は破られていて隙間から中を見ると半壊した住居がある。ここで合ってるんだろうか。
 砂代くんと目を合わせると小さく頷く。私も周りに知られないように頷き返した。
 
「この中が今回の仕事場となります。見た所そこまでの広さはないようなので、班を分けることはせず一塊となって行動しましょう。戦い方は、基本的に遠距離から安全に攻撃して寄られたら各自対応してください」

 各自対応か。正直不安ではある。ナイフだけでも握っておくか。
 目を瞑り、右手を軽く握り、振る。
 よし。出せた。フローレンスの時に買ったサバイバルナイフだ。

「まあ。それが夢を実現させる能力ですね?」

 倉木さんが手を合わせて驚く。

「まだ現実じゃこれしかできないですけどね。⋯⋯そうだ、桜庭さん。桜庭さんのエアガンの魔法について、軽くでいいから教えてもらえない?」
「何でよ」
「予めこういう現象が起こるってことを私が認識してないと、魔法が発動されない可能性があるから」
「⋯⋯なるほどね。現象を言えばいいのね? 普通のエアガンと変わりはないわよ。ただ、bb弾に貫通力を付与してるだけだから、強いていうなら撃ったら敵が穴ボコになるってことくらい」
「うーん、まあ、多分大丈夫かな。そのエアガンで撃ったらそうなるって認識しておく」
「それでいいわ」

 思ったより理解が早いな。これだけで納得してくれた。

「視界の共有を怠らないでください。⋯⋯それでは入ります」

 突入。
 何かが待ち構えてるとかはなく、すんなり入れた。
 静かなものだ。何の気配も感じない。

「居るね」

 あ、居るんだ。

「適当に撃っちゃっていい?」
「そうですね。建物を壊すなという指示は受けてないので、魔法が適用されるか試すのも兼ねて撃ってください」
「了解」

 桜庭さんが銃を持った右腕を前に伸ばし少し半身に構えた。
 建物に狙いを定めて引き金を引くと、トン、と空気が破裂したような音が小さく鳴る。
 ヒュン、と飛んでいった小さな玉は住居の外壁をものともせず貫通していった。

「いけるね」

 満足そうに呟いた桜庭さんは銃を連射する。
 反動はそんなになさそうだ。音もエアガンそのもの。それでいて威力はとんでもない。
 bb弾自体は小さいので遠くからみた住居にはそう変化は見えないけど、中身は荒れに荒れてるはずだ。

「おや」

 蜂の巣になった住居から吐き出されるようにして何かが飛び出てきた。それは首が異様に長く、一見して分かる妖怪だ。
 銃の標的がそれに変わり、貫く。いとも容易く動かなくなった。その騒ぎを聞きつけて、別の場所からも異形のモノが姿を現している。
 全身毛むくじゃらの大男。一つ目の子供。下半身がない女。傘。コウモリ。四本足で立つ動物のような何か。
 ぞろぞろと様子を伺うように顔を出し、出した順から撃ち抜かれる。
 一方的だ。
 
「各家に潜んでると見た方が良いですね」

 そうなのか。
 感心するばかりで私の出番はなさそうだ。これなら、こんな大所帯で来る必要もなかったように思う。
 
「そろそろ弾切れ」

 そう予告し、少しして撃ち切った。
 射撃を止めた桜庭さんは、手早く弾倉を入れ替えセットする。その間、妖怪たちに襲ってくる動きはない。
 再び銃撃が始まった。

「もうこれだけしてれば良くない?」

 その呟きに答える人はいない。でも皆そう思ってるはずだ。

「少しずつ移動していきましょう」

 一戸さんの声に従い、一同は時計回りに動いた。
 回って回って、蚊取り線香のように中央へと寄っていく。突けば出てくるモンスターハウスもいくらかあったけど、その単調な行動に内心飽きてきた。
 荒んだ村がさらに荒んでいく。ここを取り戻して何になるのか。ここまで一方的になるなら別に取り返さなくてもいいんじゃないかと思わないでもない。
 
 回りきった。時間にして三十分といった所。

「終わりですね。撤収しましょう」

 呆気ないな。桜庭さんは酷く疲れた様子だけど、魔法の使用でそうなってるんだろうか。
 まあともあれ終わりか。出番がなかった砂代くんはキョロキョロと周りを見ている。そういえば砂代くんの姉とかマナナンガルはどこにいるんだろう。帰ってしまって大丈夫だろうか。
 そんな心配をしながらも、入り口に向かう皆の後をついて行くと、

「もうお帰り?」

 入り口を塞ぐように一人の女性が立っていた。
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