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生贄村(3)
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名取から連絡が入った。いよいよ、生贄村についての説明と依頼があるらしい。
いつもの喫煙所に入ると、既に名取と砂代朝樹君がいた。
「来たな」
名取の一言と砂代くんの会釈に迎えられる。
「あれ、ベンチなんてあったっけ?」
喫煙所内の内装が少し変わっていた。窓際にベンチがあり、その反対側にも腰掛けバーが設置されている。
砂代くんがベンチに、名取が腰掛けバーに陣取り向き合っている状況だ。
「私が用意させた」
興味がなさそうに言うのを聞き、私は砂代くんの隣に座る。
「いいじゃん、便利で。⋯⋯で、仕事の話?」
「ああ。いつか話した生贄村の件、覚えてるよな。その日程が決まった」
「いつですか」
砂代くんが前のめりに聞く。
「一週間後。場所は浦沢町の山奥にあった集落だ」
「浦沢町っていったら西海岸か。遠いね」
車で二時間ってとこか。めんどくさいな。
「目的地のふもとにあるコンビニにまずは集合してもらうことになる」
「集合? ここから二人で行けばいいじゃん。あ、それとも砂代くんは現場の近くに住んでる感じ?」
「いえ、俺は今はこの辺に住んでます」
はあ、と名取が深いため息を吐き、吸っていたタバコの先をスタンド灰皿に擦り付ける。
「別班もいるんだよ」
「なに。怒ってるの?」
「そう思ったら聞くな。⋯⋯今回のメンバーはお前らを入れて男女三人ずつ。三、三になるよう指示があったんだよ」
「あー、偉い人からか。たしか私のことも編成しろって指示もあったんだっけ」
「同じ奴だよ、言ったのは。そいつの娘が望月さんのファンで、しかもカプ厨なんだと。だからこの編成の意図はただの金持ちの道楽でしかないんだよ」
「恋愛リアリティショーを期待されてるってこと? 面白いじゃん、私も見てみたい」
「あんた、当事者なんだが」
「別に期待に答えようとかしなくていいんでしょ? というかしないし」
「ああ、それは好きにしていい。逆にリアルじゃなきゃダメなんだと」
「同感」
ジト目で見られる。
「背景なんてどうでもいいです。俺は何をしたらいいんですか」
「そうだな。今回の目的は集落を人間の手に戻すことだ。あそこには今、多くの異形が住み着いている。それを蹴散らしてくれ」
「あーやっぱりそんな感じか。すごく足を引っ張ることになりそう」
「砂代はカバーしてやってくれ」
「もちろん、構いません」
「ごめんね。なるべく大人しくしてるから」
砂代くんに気にした素振りはない。ただ熱意があるだけといった感じだ。
「ああそうだ。一つ気になってることがあるんだけどさ、マナナンガルって何かわかる? 多分今回のことと関係あるんだけど」
「どこでそれを⋯⋯?」
食いついたのは砂代くん。ばっとこっちを向いた。それに気づかない振りをして続ける。
「私の夢の中にそれを自称するのがいるんだけどさ、生贄村に戻りたいって言うんだよね。その辺、詳しく知らないかな」
「そう、ですか」
名取は何も喋らず、どこか訳知り顔の砂代くんに視線を向ける。
いつか因縁があると示唆した砂代くんには何か秘密があるんだろうね。
「⋯⋯」
砂代くんは、口に手を当て虚空を見つめている。
「言ったらどうだ。少なくともこの人は協力者だ」
「ん?」
「そうですね。そうします」
「ん」
「望月さん。そのマナナンガルは、俺の姉なんです」
「⋯⋯おー、姉」
魔女が姉ね、いいじゃん。
「どういう状況で、なんで望月さんの夢の中にいるのかは知らないです。⋯⋯ただ、マナナンガルはあの村のルールでした。わざわざ外に出ていく理由は本人にはないはずです」
「ルールね。⋯⋯じゃあ砂代くんは生贄村出身ってこと?」
「はい。まあ⋯⋯、そうです」
「ふうん。なるほど」
妙に言いにくそうに言葉をならべているので、それ以上の詮索はやめた。
「砂代が村にいた頃は知らないが、今は人間の影は一つもないらしいな。おそらく皆殺しにされたんだろう」
名取から補足が入る。
「砂代にとっては仇討ちのような形になるのか」
「そうですね。今、あの村に巣食ってる奴らを殺し尽くせば、それで全て解決です。⋯⋯それで終われます」
「そうみたいだね」
と、同意してみても、違う予感がある。
全部殺して終わり。それはそれでエンディングには入れるんだろうけど、トゥルーを見るにはまだ立ってないフラグがあるんだろうな。⋯⋯なんてゲーム的思考、フローレンスのことを言えないな。
まあ、私としては何エンドでもいいんだけど、その場のノリで決めたさはある。
「私としては殺さない化け物がいてもいいと思うけどね。砂代くんには悪いけど、人を殺してようが話せるヤツの方が好きだし」
「⋯⋯変わった倫理観ですね」
乾いた笑い混じりに呟く。疲れたような、呆れたような、そして諦めたような顔。
「今日の所は解散でいいかな? この一週間でやりたいことができた」
「現場の下見とかは無しだぞ。普通に化け物がうろついてるからな」
「それはしないよ。するのは、夢の中の自称マナナンガルとの対話だから」
砂代くんに目を向けると、下を向き目を固く閉じていた。
いつもの喫煙所に入ると、既に名取と砂代朝樹君がいた。
「来たな」
名取の一言と砂代くんの会釈に迎えられる。
「あれ、ベンチなんてあったっけ?」
喫煙所内の内装が少し変わっていた。窓際にベンチがあり、その反対側にも腰掛けバーが設置されている。
砂代くんがベンチに、名取が腰掛けバーに陣取り向き合っている状況だ。
「私が用意させた」
興味がなさそうに言うのを聞き、私は砂代くんの隣に座る。
「いいじゃん、便利で。⋯⋯で、仕事の話?」
「ああ。いつか話した生贄村の件、覚えてるよな。その日程が決まった」
「いつですか」
砂代くんが前のめりに聞く。
「一週間後。場所は浦沢町の山奥にあった集落だ」
「浦沢町っていったら西海岸か。遠いね」
車で二時間ってとこか。めんどくさいな。
「目的地のふもとにあるコンビニにまずは集合してもらうことになる」
「集合? ここから二人で行けばいいじゃん。あ、それとも砂代くんは現場の近くに住んでる感じ?」
「いえ、俺は今はこの辺に住んでます」
はあ、と名取が深いため息を吐き、吸っていたタバコの先をスタンド灰皿に擦り付ける。
「別班もいるんだよ」
「なに。怒ってるの?」
「そう思ったら聞くな。⋯⋯今回のメンバーはお前らを入れて男女三人ずつ。三、三になるよう指示があったんだよ」
「あー、偉い人からか。たしか私のことも編成しろって指示もあったんだっけ」
「同じ奴だよ、言ったのは。そいつの娘が望月さんのファンで、しかもカプ厨なんだと。だからこの編成の意図はただの金持ちの道楽でしかないんだよ」
「恋愛リアリティショーを期待されてるってこと? 面白いじゃん、私も見てみたい」
「あんた、当事者なんだが」
「別に期待に答えようとかしなくていいんでしょ? というかしないし」
「ああ、それは好きにしていい。逆にリアルじゃなきゃダメなんだと」
「同感」
ジト目で見られる。
「背景なんてどうでもいいです。俺は何をしたらいいんですか」
「そうだな。今回の目的は集落を人間の手に戻すことだ。あそこには今、多くの異形が住み着いている。それを蹴散らしてくれ」
「あーやっぱりそんな感じか。すごく足を引っ張ることになりそう」
「砂代はカバーしてやってくれ」
「もちろん、構いません」
「ごめんね。なるべく大人しくしてるから」
砂代くんに気にした素振りはない。ただ熱意があるだけといった感じだ。
「ああそうだ。一つ気になってることがあるんだけどさ、マナナンガルって何かわかる? 多分今回のことと関係あるんだけど」
「どこでそれを⋯⋯?」
食いついたのは砂代くん。ばっとこっちを向いた。それに気づかない振りをして続ける。
「私の夢の中にそれを自称するのがいるんだけどさ、生贄村に戻りたいって言うんだよね。その辺、詳しく知らないかな」
「そう、ですか」
名取は何も喋らず、どこか訳知り顔の砂代くんに視線を向ける。
いつか因縁があると示唆した砂代くんには何か秘密があるんだろうね。
「⋯⋯」
砂代くんは、口に手を当て虚空を見つめている。
「言ったらどうだ。少なくともこの人は協力者だ」
「ん?」
「そうですね。そうします」
「ん」
「望月さん。そのマナナンガルは、俺の姉なんです」
「⋯⋯おー、姉」
魔女が姉ね、いいじゃん。
「どういう状況で、なんで望月さんの夢の中にいるのかは知らないです。⋯⋯ただ、マナナンガルはあの村のルールでした。わざわざ外に出ていく理由は本人にはないはずです」
「ルールね。⋯⋯じゃあ砂代くんは生贄村出身ってこと?」
「はい。まあ⋯⋯、そうです」
「ふうん。なるほど」
妙に言いにくそうに言葉をならべているので、それ以上の詮索はやめた。
「砂代が村にいた頃は知らないが、今は人間の影は一つもないらしいな。おそらく皆殺しにされたんだろう」
名取から補足が入る。
「砂代にとっては仇討ちのような形になるのか」
「そうですね。今、あの村に巣食ってる奴らを殺し尽くせば、それで全て解決です。⋯⋯それで終われます」
「そうみたいだね」
と、同意してみても、違う予感がある。
全部殺して終わり。それはそれでエンディングには入れるんだろうけど、トゥルーを見るにはまだ立ってないフラグがあるんだろうな。⋯⋯なんてゲーム的思考、フローレンスのことを言えないな。
まあ、私としては何エンドでもいいんだけど、その場のノリで決めたさはある。
「私としては殺さない化け物がいてもいいと思うけどね。砂代くんには悪いけど、人を殺してようが話せるヤツの方が好きだし」
「⋯⋯変わった倫理観ですね」
乾いた笑い混じりに呟く。疲れたような、呆れたような、そして諦めたような顔。
「今日の所は解散でいいかな? この一週間でやりたいことができた」
「現場の下見とかは無しだぞ。普通に化け物がうろついてるからな」
「それはしないよ。するのは、夢の中の自称マナナンガルとの対話だから」
砂代くんに目を向けると、下を向き目を固く閉じていた。
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