何でも起こるこの世界で

ヤギー

文字の大きさ
上 下
12 / 29

冬のくねくね(2)

しおりを挟む
「玲は今、寝てるんですか?」
「ええ。しばらくしたら目を覚ますわ。その時、正気を保っているかは知らないけどね」

 玲を見てもただ眠っているようにしか見えない。でもこの玲の中にくねくねが寄生しているとフローレンスは言った。

「くねくねってあの? 田んぼとかにいる」

 昔、ネットで流行った怪談に出てくる化け物だ。
 その正体を見てそれが何なのか理解してしまうと精神崩壊するという話。

「そうね。それが少し変化したもの、かしら」

 変化。たしかに怪談の状況とは違う。あれはそもそも夏の怪談だし、この場で玲がくねくねを見た瞬間が思い当たらない。会話中に突然、こうなったのだ。

「見たところ、寄生して精神を食べているのね」
「せ、精神を⋯⋯。何とかならないんですか?」
「何とかはなるわね」

 縋る気持ちで聞くと、言葉をなぞるようにして返される。そこから続く台詞はフローレンスから出てこない。ただ微笑むだけ。
 何とか、という漠然とした質問はダメ、そう判断し要求した。

「⋯⋯くねくねを取り除く方法を教えてください」
「ふふ。そう、楽してはダメよ」

 その台詞は魔女、フローレンスの線引きのようなものに感じる。状況に対する逸る気持ちはあるけどフローレンスの言動には納得感があった。

「私なら記憶に触れるついでに精神に潜むくねくねを殺すことができるけど⋯⋯、貴女ならどうするか。もちろん普通の人間には不可能よ。でも、貴女だけが取れる方法があるように私は思うわ」
「私だけ?」

 それは夢の力のことを言ってるんだろう。でも今この状況で、玲に直接関与してくねくねを取り出すなんてことはあまり想像できない。くねくねなんて玲の中にはそもそも存在しない、みたいな事実を作り出すことも、さっきの玲の異変を見てしまった後だともう無理だろう。
 私にできることは何か。そうじゃなく、どうやってくねくねを取り除くかを考える。

「⋯⋯一つ、思いついたものがあります」
「それは?」
「できるかも、くらいの想像なんですけど、私が、玲の中に入るんです。夢を経由して。そしてこの手でくねくねを殺します」

 にこり、とフローレンスが笑う。

「いいわね、それ。面白いわ」
「なのでこれから酒飲んで寝ます」

 調達した缶ビールを開封し喉に流し込む。これが正しい行動なのかわからない。間違っていたらフローレンスが止めてくれるか、その笑みが正しいことの示唆か。私にわかっている事実は何もない。
 これは私が自分の力の理解を後回しにしたツケ。例えば夏帆ちゃんだったら、この状況で明確な行動をすることができたんだろうか。できるんだろうな、と漠然と思う。
 顔が腫れたように熱い。五感が鈍くなり認識がブレる。幸せ心地。開けたビール一缶を飲み干すまでもなくこの有り様。このまま横になればそのまま眠れそうだ。
 玲の隣に寝転び目を閉じる。

「夢を見る所まで誘導するわね」
「ん」
「その後、真奈とこの子の記憶をリンクさせるわ。そこからはどうなるか私にもわからないから、貴女の裁量次第よ。頑張って」
「⋯⋯」

 早くも意識を手放しつつある。でもこのまま眠ってはいけない。狭間を維持する。
 椅子に座っている感覚。手をゆっくり動かしてみる。目は閉じたまま、思考はあまり加速させない。⋯⋯いい傾向だ。
 瞼越しの明るさは丁度いい。今、目を開けても目は覚めないはずだ。夢——明晰夢を見るには目を開けるタイミングが肝要だ。間違えば夢は終わる。
 意を決して目を開けた。
 
「⋯⋯」

 玲の部屋の中ではない。
 ここは、駅に停まる電車の中。外は猛吹雪だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

Change the world 〜全員の縁を切った理由〜

香椎 猫福
キャラ文芸
お気に入り登録をよろしくお願いします カテゴリー最高位更新:6位(2021/7/10) 臼井誠(うすい まこと)は、他人を友人にできる能力を神から与えられる その能力を使って、行方不明中の立花桃(たちばな もも)を1年以内に見つけるよう告げられ、人付き合いに慣れていない臼井誠は、浅い友人関係を繋げながら奔走するが… この物語はフィクションです 登場する人物名、施設名、団体名などは全て架空のものです

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

日本国転生

北乃大空
SF
 女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。  或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。  ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。  その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。  ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。  その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。

妖狐と風花の物語

ほろ苦
キャラ文芸
子供のころ田舎の叔父さん家の裏山で出来た友達は妖狐だった。 成長する風花と妖怪、取り巻く人々の物語

生贄の花嫁~鬼の総領様と身代わり婚~

硝子町玻璃
キャラ文芸
旧題:化け猫姉妹の身代わり婚 多くの人々があやかしの血を引く現代。 猫又族の東條家の長女である霞は、妹の雅とともに平穏な日々を送っていた。 けれどある日、雅に縁談が舞い込む。 お相手は鬼族を統べる鬼灯家の次期当主である鬼灯蓮。 絶対的権力を持つ鬼灯家に逆らうことが出来ず、両親は了承。雅も縁談を受け入れることにしたが…… 「私が雅の代わりに鬼灯家に行く。私がお嫁に行くよ!」 妹を守るために自分が鬼灯家に嫁ぐと決心した霞。 しかしそんな彼女を待っていたのは、絶世の美青年だった。

転校先は着ぐるみ美少女学級? 楽しい全寮制高校生活ダイアリー

ジャン・幸田
キャラ文芸
 いじめられ引きこもりになっていた高校生・安野徹治。誰かよくわからない教育カウンセラーの勧めで全寮制の高校に転校した。しかし、そこの生徒はみんなコスプレをしていた?  徹治は卒業まで一般生徒でいられるのか? それにしてもなんで普通のかっこうしないのだろう、みんな!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...