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その二

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 十年前、夏の盛りだけ過ごす別邸で起こった凄惨な事件。フェニルは一秒たりとも忘れたことはない。

 あの年、父は業務のため本邸に残り幼いフェニルと母親、そして少数の使用人だけを連れて別邸へ行った。滞在は一月。その間何事も起こらずに過ごせるであろうと誰もが思っていた。

 けれど丁度一週間目の夜、異変は起こった。フェニルはとなりにいた母親にしがみつき、震えており、母親は真っ青になっていたことを覚えている。悲鳴、罵声、負の感情が飛び交った別邸。段々と
その声は二人の部屋にも近づいてきた。

『ねえ、フェニル』

 その時発された母親の言葉は今もはっきりと思い出せる。

『少し隠れていられる? あの柱時計の中に。暗くて怖いかもしれないけど、お口は閉じて、ね?』

 悲鳴はどんどん部屋に近くなり、フェニルは恐怖ですくみながらも素直に母親の言葉にうなずいた。

 それからの記憶は真っ暗な置き時計の中のチクタクと動く針の音、それと夜が明け悲鳴が聞こえなくなってからの血の海だけだ。

 ――――――あとから事件の詳細を聞いて、事件を起こしたのは竜人だと知った。
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