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四章……亡霊騎士は少女を誘う

第26話:デュラハンの討伐

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 夜も深まった時刻、ふわりふわりと紫の人魂が姿を現す。けらけらと笑うゴーストを従えてデュラハンは再びやってきた、かしゃんかしゃんと鉄が擦れる音を鳴らしながら。

 首がないので表情は分からないはずだというのに怒りのようなものを感じる。覇気が周囲に放たれているようだ。

 フィリベルトが大楯を構えるとデュラハンは剣を抜く――それを合図にゴーストたちが襲ってきた。


「月の加護を――」


 ブリュンヒルトがロッドを掲げて詠唱を始める。紫の魔法石が月の光のように淡く輝きだすとゴーストたちが悲鳴を上げて悶え苦しむ。

 ゴーストをブリュンヒルトに任せてクラウスはデュラハンの元へと駆けだす。気配を、足音を消して。

 デュラハンの剣が振り下ろされるがフィリベルトは大楯で受け止め、その勢いで突き飛ばす。馬はよろけるが倒れることなく態勢を整えて再び迫ってきた。

 間を縫うようにクラウスが二刀の短刀でデュラハンに攻撃を仕掛けるが、剣を受けきられてしまった。デュラハンは勢いよく剣を振ってクラウスを弾く。

 倒れはしなかったものの、態勢を崩したクラウスは手を地につける、その隙をデュラハンが狙った。ぶんっと勢いよく剣が下ろされる瞬間、大楯が防ぐ。


「はぁっ!」


 フィリベルトは大楯で防いだ剣を押し出した。たっと馬が後ろに飛んで二人から距離を取るとデュラハンは警戒したように様子を窺っている。

 フィリベルトの大楯に守られたクラウスはすぐに態勢を整えて短刀を構え直した。睨み合うように相手の動きを読む、それはデュラハンも同じだ。剣を構えて二人の出方を窺い、馬は主の指示を待つ。

 先に動いたのはデュラハンだった。馬が嘶き、駆けだすのをクラウスとフィリベルトは飛び避ける。再び駆けてくる馬を大楯で殴ると明らかに痛みを感じているように悲鳴を上げた。

 すかさず、クラウスがデュラハンを斬りつける。光る刃は薄汚れた鎧に傷をつけ、その衝撃をデュラハンは受けたようにぐらりと揺れた。

 ダメージが通っているのを相手も気づいたらしく、少しばかり動揺しているようにも見える。聖なる光を付与された武器の効果が効いているようだ。

 クラウスはそれを確認すると気配を消す。息遣いも、足音も、全てを。

 デュラハンが剣を向けてフィリベルトが大楯を構えた時だ、馬が飛び上がった。


「ヒィィィィィィっ!」


 悲痛な声を上げて馬が暴れる、その股には矢が刺さっていた。聖なる光の加護を得た矢がさらに降ってくる、アロイがクロスボウを構え狙い撃ったのだ。

 放たれる光の矢は的確に身体を狙っていく、馬はその痛みから暴れてデュラハンの言うことを聞かない。

 暴れる動きにデュラハンが制御できないでいると背を突き刺される。音も気配もなく飛んだクラウスが隙をついて背後を取った。

 イメージするのは光、突風のような――きらりと指にはめられた指輪の深紅の魔石が鈍く光る。ぶわっと光が溢れて短刀に光が集まり風を起こすと破裂し突風を巻き起こした。

 背後からの強い衝撃と風の勢いにデュラハンは吹き飛ばされ、馬から落馬する。がしゃんと激しい音を鳴らして地面に叩き落とされたデュラハンだったが、起き上がろうと手をついたその時。


「聖なる輝きを、此処にっ!」


 眩い光が周囲を包みこむ。ゴーストはその光に焼かれて、馬は倒れる。デュラハンは聖なる光に動きを封じられて身体が硬直していた。


「沈めっ!」


 フィリベルトの強い声と共に光輝く剣がデュラハンを貫いた。胸深く刺された剣から紫のオーラが抜けていき、苦痛の声が響く。

 さらさらと砂ように散って吹き抜けた風に乗ってデュラハンは消えた。ころんと紫の宝石のような塊ひとつを残して。

 馬も、ゴーストも浄化されてしまったようにいなくなっている。眩い光が治った周囲はしんと静まっていた。

 クラウスははっと息を吐いて短刀を納める。デュラハンがいなくなったことであれだけ冷たかった空気が元の温かさを取り戻しているようだった。

 フィリベルトは暫く地面を見つめていたが、デュラハンを倒したのだと実感したようで同じように息をしてから地面に転がる紫の宝石を拾うとクラウスに投げた。突然のことに驚きながらもそれを受け取れば、「お前が持っておけ」と言われる。


「私には必要ない」
「……そうか」
「助かった」


 フィリベルトはそう言って優しげに微笑みをみせた。それは安堵したような、全てが終わったような表情だった。

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