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四章……亡霊騎士は少女を誘う

第21話:亡霊退治の依頼

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 早朝のギルド内は受付嬢以外に人がいない。そんな人気のない奥のテーブル席の端にクラウスたちはいた。 

 早い朝食を食べながらクラウスがブリュンヒルトと共にいる理由をアロイに明かす。パーティを組む以上は知る必要があると判断したのだ。彼はパンを口に頬張りながらへーっと聞いていた。 


「一応、理解した」 
「なので、聖女というのは内密にお願いします」 
「それは構わないぜ。ヒルデの嬢ちゃんが危険な目に合うのは避けないとな」 


 聖女がうろうろしているだなんて知られれば、悪さに利用されないとは限らない。本当に必要な時以外は隠しておくべきだとアロイはそれを了承する。 


「にしても、大変だったねぇ」 
「まぁ……。でも、クラウスさんもいましたから大丈夫です!」 
「俺は大してやっていないが」 


 そう言うクラウスに「何を言っているんですか!」とブリュンヒルトは返す。一緒に連れて出てくれたことだけでも十分ですよと。 

 俺にできることといったらそれぐらいだっただけだとクラウスは思ったけれど、口に出すことはしなかった。倍になって返ってきそうだったから。 

 ブリュンヒルトの境遇を思ってか、アロイはよしよしと彼女の頭を撫でる。 


「辛いことはさっさと忘れてしまうのが一番さ」 
「そうですね! 今を大事にします!」 
「そう、今だ今。で、このパーティのことなんですよ」 


 アロイはそう言ってとんっとテーブルを指で鳴らす。 


「まず、パーティ資金と取り分は分けるべきだ」 


 パーティを組む以上、衣食住が共になる。宿代と食費だ。それを捻出する資金と自分たちの取り分はきっちりと分けておくべきだとアロイは言う。 

 一人一人が取り分から出すよりも良い。二人の時は一緒にしても問題なかったが、人数が増えた以上はちゃんと考えなければならない。 

 アロイの言い分にクラウスは異論はなかった。ブリュンヒルトも同じだったのかうんうんと頷いている。 


「私、クラウスさんに出してもらってましたし……」 
「蓄えはあったからな」 
「クラウスの兄さん、優しいねぇ。まぁ、それはいいとして。で、その資金管理はリーダーでいいと思うんだわ」 


 リーダーが管理するほうが持ち逃げなどの被害を考えなくていい。リーダーが持ち逃げしないということが前提ではあるのだが、信頼のおける人物に渡すのが一番だ。 

 リーダーと聞いてブリュンヒルトはクラウスを見た、それはアロイもだった。二人に見られ、彼は俺かと呟く。 


「いや、クラウスさん以外にいます?」 
「クラウスの兄さんが一番じゃね?」 
「俺は信用に値すると」 
「話を聞くかぎりだとな」 


 あんたはパーティ経験もあるし、戦闘能力も高い。ブリュンヒルトを見捨てなかった優しさもある。助けてもらった経緯もあるので信用には値するとアロイは言う。 

 ブリュンヒルトも「クラウスさんがいいと思います! 」と強く推すものだから、クラウスは断ることもできず、わかったと頷くしかなかった。 


「で、昨日やった依頼の報酬、分けずにとっておいてくれって言っただろ? それをまずパーティ資金にする、全部」 

「次の依頼から取り分と資金を分けるのか」 
「その通り。これなら問題ないっしょ?」 


 アロイは銀灰の瞳を細めて笑う。 

 提案は悪いものではなかったので、クラウスはそれで構わないと頷く。ブリュンヒルトも異議はないようだ。二人の様子にじゃあこれでいこうとアロイは締めるように手を叩く。 

 次にお互いのランクへの認識だ。数度、依頼はこなしたので知っているが、アロイはBランク冒険者だ。殆ど、一人でやってきたがコツコツと依頼を成功させて上がったタイプで、大物の魔物と対峙した経験は少ない。ブリュンヒルトはやっとCランクに上がったところだった。クラウスは変わらず、Bランクのままだ。 

 BランクからAへ上がるにはそれなりに腕があることを示さねばならない。三人ともランクを上げたいわけではなかった。ランクが全てというわけではなく、依頼をこなしていけば評価というのはついてくると思っているのだ。

 ただ、中にはランクを上げることに必死な冒険者もいるので、この考えの一致はパーティを組むうえで重要だ。此処が相違していた場合、争いの原因になりかねない。 


「まー、考えが一致したところで次の依頼だな。なるべく資金は集めておきたいから」 
「二人ともBランクですもんねぇ。私が足引っ張ってるような……」
「パーティ組んでるんだから、依頼こなしてけばそのうち上がるって」


 CランクからBランクまで上がるにはこつこつと依頼をこなしていくか、中級魔物を狩っていくしかない。毎回、そんな相手をしているわけにはいかないので、地道にやっていくほうが早いだろうとクラウスは言った。

 焦ることはないと二人に言われてブリュンヒルトは納得したようにはいと返事をする。


「亡霊ですか……」
「はい。お願いできませんでしょうか」


 ふと、受付のほうで会話が聞こえた。亡霊という言葉にブリュンヒルトは反応してか、振り返って様子を窺う。

 受付を訪れていたのは年老けた執事姿の男だった。彼は依頼書らしき用紙を手に「頼みたいのですが」と受付嬢にお願いしている。

 依頼書を確認しながら受付嬢は困ったように眉を下げた。何かしら問題があったのだろうかとクラウスもなんとなしに二人を様子を見る。


「うちは幽霊退治できる冒険者はいなかったと……」
「そうですか……」
「ちょっと待ってください!」


 がばっと立ち上がってそう声を上げるとブリュンヒルトは二人のほうへと駆けた。あまりの行動の速さにクラウスは突っ込むこともできず、アロイは目を瞬かせている。

 ブリュンヒルトの声に二人が反応したのを見て「詳しく話を聞かせてください!」と、彼女は身を乗り出した。これはまた勝手に動いているのを見てクラウスは小さく息を吐き、ゆっくりと立ち上がる。アロイもやれやれといったふうだ。


「亡霊って幽霊ですか?」
「はい。とても恐ろしい亡霊なのです」


 老執事はマルリダの町から少し離れた、イルシューラという村の村長に仕えていた。村長には身体の弱い娘が一人いるのだが、少し前から亡霊が彼女の前に現れるようになったのだという。

 その亡霊は部下だろう幽霊を引き連れて言うのだ、「あと少し、あと少し」と。それを娘から聞いた村長は冒険者を雇って討伐を頼んだのだが、今は一人の冒険者を除いて他の者たちは恐れをなして逃げてしまった。

 老執事は「あの方だけでは亡霊を追い払うことはできないでしょう」と、他の冒険者にも声をかけるためにこのギルドがあるマルリダを訪れたことを話した。


「幽霊で間違いないですか?」
「わたくしめはそう聞いております。実際に見たこともありますが、幽霊のように思えましたので……」


 話を聞いたブリュンヒルトは「ちょっと待ってください!」と老執事に断りを入れてから、クラウスとアロイにひそひそと話す。


「私、聖女なんで幽霊系の浄化は得意なんですよ」
「あー、なるほど」
「攻撃とかは苦手ですけど、浄化は得意なんで!」
「それで話をきいていたのか」


 ブリュンヒルトの行動に納得いったのかクラウスが問えば、「はい!」と返事が返ってきた。アロイも彼女が何を言いたいのか察したようで、「悪い話じゃないな」と呟く。


「そこの執事さん。依頼料はどれくらいだい?」
「大したものではありませんが……」


 アロイに問われて老執事は依頼書を見せた。そこには大したものとは言い難い、相場よりも高い報酬が記されていた。思わず、ヒューっと口笛を吹くアロイにクラウスはどうしたものかと腕を組む。

 浄化ならば聖女であるブリュンヒルトに任せればいいだろう。ただ、それだけではない気がしたので「残っている冒険者はなんと言っていた」と質問した。


「あの方は「ただの亡霊ではない、倒さねばならない」と言っておりましたが……」
「戦う系ってなると、どんな亡霊だったか」
「何種類かいた気がするな……」


 クラウスとアロイは顔を見合わせて考える。そんな二人の様子にブリュンヒルトはただの幽霊ではないのかと首を傾げていた。


「もし、お三方は亡霊退治に慣れている方で?」
「ないわけではないが……。祓うことに長けているのは彼女だ」
「そうそう! このお嬢、修道院育ちなもんで!」
「え、あっはい! 大丈夫です!」


 アロイはブリュンヒルトの肩を掴むと押し出す。それに驚きながらも今は乗っておこうとブリュンヒルトは「問題ないです!」と紫の魔法石が装飾されたロッドを握った。

 話を聞いた老執事は「あの方にぜひ力を貸してください」と深々と頭を下げた。依頼を受ける冒険者が現れたことで受付嬢は彼らがいいのならとそれを受領する。

 クラウスは二人に「本当に大丈夫なのか」と声を潜める。ブリュンヒルトは「浄化なら任せてください!」と自信ありげに言った。


「戦いはちょっとあれですけど、浄化は得意なので! あれならば聖なる光を皆さんの武器に付与することもできますから!」

「クラウスのリーダー、この依頼を逃すのは駄目ですぜ」
「……とりあえず、残っているという冒険者に話しを聞こう」


 二人の押しに負ける形でクラウスはその依頼を受けることにした。

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