5 / 60
一章……聖女の護衛
第5話:村人の依頼を受けることに
しおりを挟むこの村にもう用はない。クラウスはなら自分は此処で離脱しようとブリュンヒルトに話しかけた。
「俺は此処で……」
「聖女様っ!」
そんなクラウスの言葉を遮るように大声がしてブリュンヒルトに女が一人、縋るように抱き着いた。まだ若く見えるその村人は涙を溜めた瞳を向ける。
「聖女様、お助けください。私の、私の妹がゴブリンに……」
「こらっ! やめぬか!」
縋る彼女を村長が止めに入る。それでも離れようとしないので、ブリュンヒルトは「何があったのですか?」と問う。すると、村長は言いにくそうに口を開いた。
数日前のことだ、村はゴブリンの被害にあった。畑で手伝いをしていた少女を攫っていったのだという。
「ギルドへはお願いをして、すでに三人の冒険者が……」
「でも、あの冒険者は明らかに初心者だったわ! それに二日も経つのに戻ってこないじゃないの!」
攫われた少女の姉は叫ぶ。二日経っても戻ってこないということは既にやられたか、逃げ出したかの二択だなとクラウスは思った。
落ち着いてくださいとブリュンヒルトは言うものの、彼女は暴れるように叫びながら「お願いします」と地面に額を擦り付ける。
ブリュンヒルトは困ったように眉を下げてクラウスを見た。真っ青な瞳が子犬のように潤んでいる様子にやめてくれとクラウスは思う、そんな眼で見るなと。
泣き叫ぶ姿にブリュンヒルトは「あのですね」と声をかける。
「こちらの方、Bランク冒険者なんですよ!」
「おい」
Bランク冒険者と聞き、顔を上げて攫われた少女の姉はクラウスのロングコートを掴む。またこの状態かとクラウスは額に手を当てる。この光景はブリュンヒルトに護衛を頼まれた状況と似ていた。
ブリュンヒルトは「大丈夫ですから」と彼女を安心させるように言う。
「私もいますし、、大丈夫です!」
「待て、まだ受けるとは言っていない」
勝手に引き受けようとするブリュンヒルトを止めるようにクラウスが割って入ると、「何故ですか!」と彼女は声を上げて見てくる。
「まず、情報だ。ゴブリンでも何パターンかある」
群れを形成しているタイプ、数匹で行動しているタイプ、リーダーが存在し巨大化しているタイプとパターンは多い。その情報によっては自分一人では無理だとクラウスははっきりと告げる。
「俺にも戦える限度がある」
「妹を攫ったのは二体のゴブリンです……」
少女を攫ったのは小柄なゴブリン二体。様子を確認しに行った村人の話では洞窟のほうへと走っていったらしい。
洞窟はゴブリンの住処でよくある場所だ。複数体で村を襲わなかったということは数がまだ増えていないのかもしれない。クラウスは考えるように顎に手を当てる。
クラウスが「洞窟がどんな形状か分かるか」と問うと、「それほど大きくはなかったはずです」と村長が答えた。魔物が住み着く前まではクラガリダケというキノコを採取していたので長さは知っていると。
入口から少し先に行くと二手に分かれており、真っ直ぐ進むと行き止まりで曲がると少し広くなった空間に出るのだと教えてくれた。
(曲がった先だな)
住処としてならばその広い空間が最適だろう。そして、罠を仕掛けるならば二手に分かれたているところだ。
空間の広さを聞き、まだ数が揃っていないだろうという想定でクラウスは話す。
「確認をしに行くのはいい。ただ、ゴブリンの数が想定よりも多い場合、撤退する。ギルドに早めの要請を俺からする。それでいいのならば、見に行こう」
さらに「もし、ゴブリンを退治できたとしても妹の無事は期待するな」とクラウスは忠告する。
「無傷は期待するな。数日経っているのならば、尚更だ。ゴブリンは女子供を弄ぶ。死んでなければ良い方だと思え」
その言葉に少女の姉は声を上げて涙を流した。ブリュンヒルトが驚いたふうの瞳を向けてくるが、クラウスは「隠してどうする」と返す。
「隠すだけ無駄だ。助けた時に分かるからな。それに覚悟は必要だ」
「そ、それはそうかもしれないですけど……」
そんなきっぱりとブリュンヒルトが呟く。そんな彼女を無視して、どうするのだとクラウスは問う。
「……お願いします」
悲痛な声だった。クラウスははぁと溜息をついて「分かった」と返事をすると、村長に場所を聞いて歩き出す。
「ま、待ってくださいよ!」
「なんだ」
「私も行きます!」
ブリュンヒルトの言葉に「はぁ?」とクラウスは返す。彼女は「私が最初に言い出したことですし」と言った。
「私、一応は聖女ですから、役に立ちます!」
「お待ちください、聖女様!」
リジュが止めに入る、話を聞いていたのですかと。
ゴブリンは人間の女子供を弄ぶのだ、「そんな危険な魔物の元に行くなどとんでもない」とファルも言う。クラウスも二人の意見に頷いたけれど、ブリュンヒルトは引かない。
「何かあった時の連絡役がいないのは良くないです!」
「むしろ、偵察なら一人のほうがいいのだが……」
じっと見つめる真っ青な瞳を見て、置いていってもついてくる気がした。クラウスは何度目かの溜息を吐いて「前には絶対に出るな」と同行の条件を出した。
20
お気に入りに追加
293
あなたにおすすめの小説
妻を寝取ったパーティーメンバーに刺殺された俺はもう死にたくない。〜二度目の俺。最悪から最高の人生へ〜
橋本 悠
ファンタジー
両親の死、いじめ、NTRなどありとあらゆる`最悪`を経験し、終いにはパーティーメンバーに刺殺された俺は、異世界転生に成功した……と思いきや。
もしかして……また俺かよ!!
人生の最悪を賭けた二周目の俺が始まる……ってもうあんな最悪見たくない!!!
さいっっっっこうの人生送ってやるよ!!
──────
こちらの作品はカクヨム様でも連載させていただいております。
先取り更新はカクヨム様でございます。是非こちらもよろしくお願いします!
勇者パーティを追放されそうになった俺は、泣いて縋って何とか残り『元のDQNに戻る事にした』どうせ俺が生きている間には滅びんだろう!
石のやっさん
ファンタジー
今度の主人公はマジで腐っている。基本悪党、だけど自分のルールあり!
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のリヒトは、とうとう勇者でありパーティリーダーのドルマンにクビを宣告されてしまう。幼馴染も全員ドルマンの物で、全員から下に見られているのが解った。
だが、意外にも主人公は馬鹿にされながらも残る道を選んだ。
『もう友達じゃ無いんだな』そう心に誓った彼は…勇者達を骨の髄までしゃぶり尽くす事を決意した。
此処迄するのか…そう思う『ざまぁ』を貴方に
前世のDQNに戻る事を決意した、暗黒面に落ちた外道魔法戦士…このざまぁは知らないうちに世界を壊す。
倒した魔物が消えるのは、僕だけのスキルらしいです
桐山じゃろ
ファンタジー
日常のなんでもないタイミングで右眼の色だけ変わってしまうという特異体質のディールは、魔物に止めを刺すだけで魔物の死骸を消してしまえる能力を持っていた。世間では魔物を消せるのは聖女の魔滅魔法のみ。聖女に疎まれてパーティを追い出され、今度は魔滅魔法の使えない聖女とパーティを組むことに。瞳の力は魔物を消すだけではないことを知る頃には、ディールは世界の命運に巻き込まれていた。
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。
ヒツキノドカ
ファンタジー
誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。
そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。
しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。
身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。
そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。
姿は美しい白髪の少女に。
伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。
最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。
ーーーーーー
ーーー
閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります!
※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!
とあるオタが勇者召喚に巻き込まれた件~イレギュラーバグチートスキルで異世界漫遊~
剣伎 竜星
ファンタジー
仕事の修羅場を乗り越えて、徹夜明けもなんのその、年2回ある有○の戦場を駆けた夏。長期休暇を取得し、自宅に引きこもって戦利品を堪能すべく、帰宅の途上で食材を購入して後はただ帰るだけだった。しかし、学生4人組とすれ違ったと思ったら、俺はスマホの電波が届かない中世ヨーロッパと思しき建築物の複雑な幾何学模様の上にいた。学生4人組とともに。やってきた召喚者と思しき王女様達の魔族侵略の話を聞いて、俺は察した。これあかん系異世界勇者召喚だと。しかも、どうやら肝心の勇者は学生4人組みの方で俺は巻き込まれた一般人らしい。【鑑定】や【空間収納】といった鉄板スキルを保有して、とんでもないバグと思えるチートスキルいるが、違うらしい。そして、安定の「元の世界に帰る方法」は不明→絶望的な難易度。勇者系の称号がないとわかると王女達は掌返しをして俺を奴隷扱いするのは必至。1人を除いて学生共も俺を馬鹿にしだしたので俺は迷惑料を(強制的に)もらって早々に国を脱出し、この異世界をチートスキルを駆使して漫遊することにした。※10話前後までスタート地点の王城での話になります。
パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~
一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。
彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。
全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。
「──イオを勧誘しにきたんだ」
ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。
ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。
そして心機一転。
「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」
今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。
これは、そんな英雄譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる