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一章……聖女の護衛

第5話:村人の依頼を受けることに

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 この村にもう用はない。クラウスはなら自分は此処で離脱しようとブリュンヒルトに話しかけた。


「俺は此処で……」
「聖女様っ!」


 そんなクラウスの言葉を遮るように大声がしてブリュンヒルトに女が一人、縋るように抱き着いた。まだ若く見えるその村人は涙を溜めた瞳を向ける。


「聖女様、お助けください。私の、私の妹がゴブリンに……」
「こらっ! やめぬか!」


 縋る彼女を村長が止めに入る。それでも離れようとしないので、ブリュンヒルトは「何があったのですか?」と問う。すると、村長は言いにくそうに口を開いた。

 数日前のことだ、村はゴブリンの被害にあった。畑で手伝いをしていた少女を攫っていったのだという。


「ギルドへはお願いをして、すでに三人の冒険者が……」
「でも、あの冒険者は明らかに初心者だったわ! それに二日も経つのに戻ってこないじゃないの!」


 攫われた少女の姉は叫ぶ。二日経っても戻ってこないということは既にやられたか、逃げ出したかの二択だなとクラウスは思った。

 落ち着いてくださいとブリュンヒルトは言うものの、彼女は暴れるように叫びながら「お願いします」と地面に額を擦り付ける。

 ブリュンヒルトは困ったように眉を下げてクラウスを見た。真っ青な瞳が子犬のように潤んでいる様子にやめてくれとクラウスは思う、そんな眼で見るなと。

 泣き叫ぶ姿にブリュンヒルトは「あのですね」と声をかける。


「こちらの方、Bランク冒険者なんですよ!」
「おい」


 Bランク冒険者と聞き、顔を上げて攫われた少女の姉はクラウスのロングコートを掴む。またこの状態かとクラウスは額に手を当てる。この光景はブリュンヒルトに護衛を頼まれた状況と似ていた。

 ブリュンヒルトは「大丈夫ですから」と彼女を安心させるように言う。


「私もいますし、、大丈夫です!」
「待て、まだ受けるとは言っていない」


 勝手に引き受けようとするブリュンヒルトを止めるようにクラウスが割って入ると、「何故ですか!」と彼女は声を上げて見てくる。


「まず、情報だ。ゴブリンでも何パターンかある」


 群れを形成しているタイプ、数匹で行動しているタイプ、リーダーが存在し巨大化しているタイプとパターンは多い。その情報によっては自分一人では無理だとクラウスははっきりと告げる。


「俺にも戦える限度がある」
「妹を攫ったのは二体のゴブリンです……」


 少女を攫ったのは小柄なゴブリン二体。様子を確認しに行った村人の話では洞窟のほうへと走っていったらしい。

 洞窟はゴブリンの住処でよくある場所だ。複数体で村を襲わなかったということは数がまだ増えていないのかもしれない。クラウスは考えるように顎に手を当てる。

 クラウスが「洞窟がどんな形状か分かるか」と問うと、「それほど大きくはなかったはずです」と村長が答えた。魔物が住み着く前まではクラガリダケというキノコを採取していたので長さは知っていると。

 入口から少し先に行くと二手に分かれており、真っ直ぐ進むと行き止まりで曲がると少し広くなった空間に出るのだと教えてくれた。

(曲がった先だな)

 住処としてならばその広い空間が最適だろう。そして、罠を仕掛けるならば二手に分かれたているところだ。

 空間の広さを聞き、まだ数が揃っていないだろうという想定でクラウスは話す。


「確認をしに行くのはいい。ただ、ゴブリンの数が想定よりも多い場合、撤退する。ギルドに早めの要請を俺からする。それでいいのならば、見に行こう」


 さらに「もし、ゴブリンを退治できたとしても妹の無事は期待するな」とクラウスは忠告する。


「無傷は期待するな。数日経っているのならば、尚更だ。ゴブリンは女子供を弄ぶ。死んでなければ良い方だと思え」


 その言葉に少女の姉は声を上げて涙を流した。ブリュンヒルトが驚いたふうの瞳を向けてくるが、クラウスは「隠してどうする」と返す。


「隠すだけ無駄だ。助けた時に分かるからな。それに覚悟は必要だ」
「そ、それはそうかもしれないですけど……」


 そんなきっぱりとブリュンヒルトが呟く。そんな彼女を無視して、どうするのだとクラウスは問う。


「……お願いします」


 悲痛な声だった。クラウスははぁと溜息をついて「分かった」と返事をすると、村長に場所を聞いて歩き出す。


「ま、待ってくださいよ!」
「なんだ」
「私も行きます!」


 ブリュンヒルトの言葉に「はぁ?」とクラウスは返す。彼女は「私が最初に言い出したことですし」と言った。


「私、一応は聖女ですから、役に立ちます!」
「お待ちください、聖女様!」


 リジュが止めに入る、話を聞いていたのですかと。

 ゴブリンは人間の女子供を弄ぶのだ、「そんな危険な魔物の元に行くなどとんでもない」とファルも言う。クラウスも二人の意見に頷いたけれど、ブリュンヒルトは引かない。


「何かあった時の連絡役がいないのは良くないです!」
「むしろ、偵察なら一人のほうがいいのだが……」


 じっと見つめる真っ青な瞳を見て、置いていってもついてくる気がした。クラウスは何度目かの溜息を吐いて「前には絶対に出るな」と同行の条件を出した。

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