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一見の常連たち

一見の常連たち3

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「実はですね。ひと月前から、ありがたいことに来店されるお客様が増えてきたのです。」

それは良いことでは?
おれの秘密のベストプレイスを他人に知られるのは少し癪ではあるが、マスターのお店が繁盛するに越したことはない。

「それは良かったですね!」
大谷も同じように思ったようだ。

「ええ、すごくありがたいのですが、開店してから10年。急に繁盛するなんてことなかったものですから、、、特に広告を出したり、店を売り出すような努力もしていないもので、少し驚いています。」

たくわえたグレーの髭を触りながらマスターはさらに続ける。

「さらに奇妙なことに、来るお客様みなさん、新規のお客様なのです。」

「と、いいますと?」

「一度来店していてただいて、気に入って通ってくださるお客様がうちはほとんどですし、立地も大通りに面していないですので、新規のお客様が毎日来店されることなんて、今までなかったんですよ。」

なるほど。毎日一見のお客様が来るのは不可解であると、そう言いたいのだな。
どおりで、人が少なく静かで落ち着ける店内なわけだ。

大谷はすかさず聞いた。
「常連さんが宣伝してるとか?」

「私もそう考えて、常連さんに尋ねましたが、誰もそういったことをされている方はおりませんでした。」

大谷はさらに続ける。
「SNSとかで誰かが宣伝してるんじゃないですか??インフルエンサーとか?」

おれは疑問に思い、つい口を挟んだ。

「インフルエンザー?なんでウイルスがでてくるんだ?」
おれが聞くと、明らかにバカにしたような顔で大谷は答えた。

「インフルエンサー、SNSで影響力のある人のことよ?知らないの?」

知らなかった、、、、
なんでそんな紛らわしい名前なんだ。
咳払いをして自分を落ち着かせる
「コホン、ワトソンちゃんインフルエンサーの説は薄いのでは?」

ムッとした表情で大谷は言い返す。
「なんでそんなことがわかるのよ」

「この店は誰かの紹介できた場合チョコレートがサービスされるからだ。」
店内に貼られた貼り紙をおれは指差した。

大谷は、さきほどの疑問が解けたようで
ああと唸る。

「つまり、マスターが紹介であることを知らないということは、マスターがチョコレートを出していないということ。よって、誰かの紹介ではないということだ。新規の客が何人も来ていて1人も紹介であることを言わないのであれば、インフルエンサーとやらの説は薄いだろう」


ふーんともうーんとも取れる声をだし大谷は貼り紙を見つめる。

ふっ。おれをバカにするからだ。インフルエンサーを知らなくとも、この店のことはおれが誰よりも知っている。舐めるなよ、大谷。

我ながら器の小さいこと小皿の如し。


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