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第2章:謎の町にて

ガラスに眠る人形

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 不思議な静けさ。
 外では何人もの人に話し掛けられたというのに、ここでは僕とエリー以外には誰もいない。

 荘厳な教会の装飾。
 聖書の一場面らしいステンドグラスが上部にいくつかあり、柱には月桂樹の彫り物。
 壁にはワインのように赤いビロードの幕が張られている。

「僕は……?」

 いつの間にか掛けられていた毛布。
 長椅子に横になっていた僕。
 眠ってしまった所とは違う場所だ。

「さすがに入口すぐの所じゃ良くないから」

「ごめん。重かったよね」

「アンドロイドだから。そのくらいの力はある」

 抑揚のない言い方。
 少しは仲良くなれたと思っていたのに。
 そう簡単には心を開いてくれないみたいだ。
 きっと、本物のニンゲンでもそうなのだろう。

「大丈夫?」

「ああ」

「水」

 僕は彼女からグラスを受け取る。

「ありがとう」

 冷たくて美味しい。
 ごくごくと一気に飲み干した。

 生き返る。
 喉は渇くし疲れてるしで、ここに来た時にはかなり辛かった体。
 今はかなり休まった感じだ。

「ここが目的の場所なんだよね?」

 僕は彼女に尋ねる。

「そうよ」

 彼女は祭壇を指差す。

 祭壇には燭台が置いてあるだけだった。

「何も無いみたいだけど……」

「ここは隠し部屋があるの。誰にも知られてはいけない隠し部屋が」

 へえ。
 教会にはそんな物が付いているものなのか。
 僕は好奇心に抗えずにキョロキョロと周囲を見てしまう。

 隠し部屋か。
 神聖な場所だって学んだんだけど、以外とそんな事はないのかな?
 それとも、何か特別に訳があって造ったとかかな?

「こっちよ」

 祭壇の向こう。
 幕を捲ると鉄の重厚な扉があった。
 ナンバーを入力する鍵が付いている。
 彼女が手早く数字を入れると、ガシャンと重い音がした。

「さあ」

「う、うん」

 僕たちが入ると扉は閉まる。

「すぐに閉まって鍵が掛かる仕組みになってるの。どんな仕組みかは分からないけどね」

 彼女が簡易ライトを手に先を進む。
 コツコツと二人の足音だけがする。
 
 更に奥へと進むと、今度は小さな木の扉があった。

 彼女がゆっくりとノブを回す。
 すんなりと扉が開いた。

「ここに何が。エリーにとって必要な物だって話だけど……」

 僕はごくりと唾を飲み込む。

 明かりが点く。

「どうやらエネルギー系統は問題無いようね」

 こじんまりとした部屋。
 そこにあったのは良く分からない機械類と、円筒のガラスケース。

 そのガラスケースに入っていたのは……。

「え、エリー!?」

 エリーそっくりのニンゲンだった。

 エリーはアンドロイドのはずだ。
 では、このエリーに似たニンゲンは何者なのか。
 いや、本当に中に入っているのはニンゲンなのだろうか。

「これで良し」

 彼女が機械の操作をしていたらしい。
 一体どんな秘密があるのだろうか。

「僕がここに来る理由は何だったの?」

 ここまで僕は何もしていない。
 ずっと彼女に案内されて着いてきただけだし、今だって機械の操作を彼女自身で行っていた。
 僕がいなくても全てできた事だ。

「まだよ」

「まだ?」

「あなたが必要になるのはこれから。私ではどうしてもできない事があるから」

 彼女ではどうしてもできない事?

「とにかく、今日はもうやる事がないから上で休みましょう。料理も少しはできるから」

 そうだ。
 ご飯をずっと食べていない。
 一段落着いたからか、急にお腹が空いてきた。
 ぐぅ、とお腹が鳴る。

「ふふ。早く準備しなきゃね」

 彼女が初めて笑った。

「はは。そうだね」

 僕も笑っていた。

 少しだけ僕たちの心が通じあった気がした。
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