2 / 32
第1章:アンドロイドの少女
アンドロイドの少女と秘密の場所
しおりを挟む
昨日の今日でまた会えるとは思わないけど、期待だけはしてしまう。ニンゲンとはそういうものなんだろう。ロボットの父さん母さんには理解できない感情だ。
崩れかけのビルが建ち並ぶ道を歩く。ガラスは割れたまま、傾いたビルも直る事はない。過去の人類の栄華はことごとく崩壊に向かっている。
家と学校を往復する日々。ロボットしかいない世界でたった一人のニンゲンの僕はどう生きるべきなのだろう。
「あ」
つい声が漏れ出る。
あの子だ。
アンドロイドの彼女。
今日も花束を持って何処かへ行く。
淡々とただ生きるだけだった僕の生活は、昨日、彼女を見た時に変わろうとしていたのかもしれない。
僕の事に気づいていない様子の彼女。何故だか僕は彼女の後の追う事にした。自然とそうするのが当然のように思えた。
ーーー
彼女はビルを抜け橋を渡る。
河を越えた先は雰囲気が違って感じる。
住宅街というのだろう。一軒家が多く並ぶエリアだ。年月が経ち崩れて瓦礫の山になった家がポツポツと点在している。しっかりと建っている家も植物に侵食されていて、家としての機能が果たせるのか疑問になるくらいだ。
鳥の声がした。
鳥の鳴き声なんて初めて聞いた。
植物がこれだけあるという事は、鳥の食料になる昆虫なんかも十分にいるという事なんだろう。
僕が住んでいる辺りは、野草を採る空き地以外に生き物がいそうな場所はなかったから、新鮮な体験だ。
初めての場所、経験にドキドキと胸は高鳴る。あちこちの家が気になる。お店の跡、本物の学校らしき建物、誰かが住んでいた家々。ここにはニンゲンが生活してたという事がはっきり分かる物で溢れていた。ロボットだらけの街にいるより、ここの方が心地よく暮らせるんじゃないかって考えてしまう。
ようやく彼女が目的地に着いたらしい。
とある建物へと入っていく。
門をくぐった彼女は建物の中へは入らず奥へ進む。
四角い石が並ぶエリアのある地点に来ると彼女は立ち止まった。
ここはどういう施設なんだろう。
僕はニンゲンではありながら、ニンゲンの事が分かっていない。そう感じた。
「あなた。こんな所に何の用かしら」
「え?」
「私の後を着けてきたの?」
「あ、うん」
彼女の問いに僕はしどろもどろになりながらようやく返事をした。
「そう。ここがどんな所が知ってるの?」
「いや、全然。僕はニンゲンなのに、ニンゲンの習慣も文化も全然知らないんだって思ったよ」
「あなたニンゲンなのね?」
驚いた表情になる彼女。
ロボットではこんな事は出来ない。
父さんや母さんは一度だって表情を変えた事などない。いや、変えようがないんだけど。
「君は、何者?」
「私の質問に質問で返さないで」
「う、あ、そ、そうだね。確かに僕はニンゲンだ。ケンタローって名前がある」
僕は胸に手を当て言った。手が震えてた。ドキドキする。鼓動が強くなるのを感じた。
「ニンゲン。そう、あのニンゲン……」
「ニンゲンがいるって言っても、僕だけ。僕は一人ボッチなんだよ。だからニンゲンみたいな君を見て気になってしまったんだ」
「でも、私もニンゲンでは無いわ。分かってるんでしょ?」
「そうだけど。でも君はロボットとも違うじゃないか」
「そうね。私はアンドロイドだもの。ロボットとは、少し、違うわ」
彼女の顔が微かに曇る。
「でも君はニンゲンみたいじゃないか」
「所詮はニンゲンみたいな物なのよ。ニンゲンじゃない」
「それがイケナイ事なの?」
「ニンゲンのあなたには分からない事よ」
そう言ってから彼女は何も言わなくなった。
「僕、一人では帰れないんだけどさ……」
「…………」
「ここ初めてだから道が分からなくて」
「…………」
「ここは何をする所なの?」
「…………」
僕もいつしか何も言わなくなった。言えなくなった。彼女のする事を見ているだけになる。
文字の刻まれた四角い石に花を手向け、手を合わせ何か祈る。凛とした空気。ここが特殊な場所なんだとようやく理解した。何が特殊なのかは分からないけれど、僕が軽々しく立ち入るべきではない場所なんだ。
「…………」
彼女が僕を見る。
何も言葉を発しないけれど、多分「帰るから着いて来い」というメッセージだろう。
僕の前を彼女が歩く。
僕は彼女の後ろを着いて行く。
何故か少し懐かしさを覚えた。
そんな記憶なんてないはずなのに。
橋を渡り終えた所で彼女は振り返って僕を睨む。
「もう自力で帰れるでしょ。もう私には構わないで」
そう言い残してそそくさと去ってしまった。もっと聞きたい事があったのに。呼び止める間もなく、彼女の背中はすぐに遠くなっていった。
「また会いたいな。今度はもっと話したいな。名前も知らない。まずは名前を聞かなきゃ」
僕は一人呟く。
日が暮れてきた。
僕は急いで家へと向かう。
明日も彼女に会えるだろうか。
崩れかけのビルが建ち並ぶ道を歩く。ガラスは割れたまま、傾いたビルも直る事はない。過去の人類の栄華はことごとく崩壊に向かっている。
家と学校を往復する日々。ロボットしかいない世界でたった一人のニンゲンの僕はどう生きるべきなのだろう。
「あ」
つい声が漏れ出る。
あの子だ。
アンドロイドの彼女。
今日も花束を持って何処かへ行く。
淡々とただ生きるだけだった僕の生活は、昨日、彼女を見た時に変わろうとしていたのかもしれない。
僕の事に気づいていない様子の彼女。何故だか僕は彼女の後の追う事にした。自然とそうするのが当然のように思えた。
ーーー
彼女はビルを抜け橋を渡る。
河を越えた先は雰囲気が違って感じる。
住宅街というのだろう。一軒家が多く並ぶエリアだ。年月が経ち崩れて瓦礫の山になった家がポツポツと点在している。しっかりと建っている家も植物に侵食されていて、家としての機能が果たせるのか疑問になるくらいだ。
鳥の声がした。
鳥の鳴き声なんて初めて聞いた。
植物がこれだけあるという事は、鳥の食料になる昆虫なんかも十分にいるという事なんだろう。
僕が住んでいる辺りは、野草を採る空き地以外に生き物がいそうな場所はなかったから、新鮮な体験だ。
初めての場所、経験にドキドキと胸は高鳴る。あちこちの家が気になる。お店の跡、本物の学校らしき建物、誰かが住んでいた家々。ここにはニンゲンが生活してたという事がはっきり分かる物で溢れていた。ロボットだらけの街にいるより、ここの方が心地よく暮らせるんじゃないかって考えてしまう。
ようやく彼女が目的地に着いたらしい。
とある建物へと入っていく。
門をくぐった彼女は建物の中へは入らず奥へ進む。
四角い石が並ぶエリアのある地点に来ると彼女は立ち止まった。
ここはどういう施設なんだろう。
僕はニンゲンではありながら、ニンゲンの事が分かっていない。そう感じた。
「あなた。こんな所に何の用かしら」
「え?」
「私の後を着けてきたの?」
「あ、うん」
彼女の問いに僕はしどろもどろになりながらようやく返事をした。
「そう。ここがどんな所が知ってるの?」
「いや、全然。僕はニンゲンなのに、ニンゲンの習慣も文化も全然知らないんだって思ったよ」
「あなたニンゲンなのね?」
驚いた表情になる彼女。
ロボットではこんな事は出来ない。
父さんや母さんは一度だって表情を変えた事などない。いや、変えようがないんだけど。
「君は、何者?」
「私の質問に質問で返さないで」
「う、あ、そ、そうだね。確かに僕はニンゲンだ。ケンタローって名前がある」
僕は胸に手を当て言った。手が震えてた。ドキドキする。鼓動が強くなるのを感じた。
「ニンゲン。そう、あのニンゲン……」
「ニンゲンがいるって言っても、僕だけ。僕は一人ボッチなんだよ。だからニンゲンみたいな君を見て気になってしまったんだ」
「でも、私もニンゲンでは無いわ。分かってるんでしょ?」
「そうだけど。でも君はロボットとも違うじゃないか」
「そうね。私はアンドロイドだもの。ロボットとは、少し、違うわ」
彼女の顔が微かに曇る。
「でも君はニンゲンみたいじゃないか」
「所詮はニンゲンみたいな物なのよ。ニンゲンじゃない」
「それがイケナイ事なの?」
「ニンゲンのあなたには分からない事よ」
そう言ってから彼女は何も言わなくなった。
「僕、一人では帰れないんだけどさ……」
「…………」
「ここ初めてだから道が分からなくて」
「…………」
「ここは何をする所なの?」
「…………」
僕もいつしか何も言わなくなった。言えなくなった。彼女のする事を見ているだけになる。
文字の刻まれた四角い石に花を手向け、手を合わせ何か祈る。凛とした空気。ここが特殊な場所なんだとようやく理解した。何が特殊なのかは分からないけれど、僕が軽々しく立ち入るべきではない場所なんだ。
「…………」
彼女が僕を見る。
何も言葉を発しないけれど、多分「帰るから着いて来い」というメッセージだろう。
僕の前を彼女が歩く。
僕は彼女の後ろを着いて行く。
何故か少し懐かしさを覚えた。
そんな記憶なんてないはずなのに。
橋を渡り終えた所で彼女は振り返って僕を睨む。
「もう自力で帰れるでしょ。もう私には構わないで」
そう言い残してそそくさと去ってしまった。もっと聞きたい事があったのに。呼び止める間もなく、彼女の背中はすぐに遠くなっていった。
「また会いたいな。今度はもっと話したいな。名前も知らない。まずは名前を聞かなきゃ」
僕は一人呟く。
日が暮れてきた。
僕は急いで家へと向かう。
明日も彼女に会えるだろうか。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
片翅の火蝶 ▽半端者と蔑まれていた蝶が、蝋燭頭の旦那様に溺愛されるようです▽
偽月
キャラ文芸
「――きっと、姉様の代わりにお役目を果たします」
大火々本帝国《だいかがほんていこく》。通称、火ノ本。
八千年の歴史を誇る、この国では火山を神として崇め、火を祀っている。国に伝わる火の神の伝承では、神の怒り……噴火を鎮めるため一人の女が火口に身を投じたと言う。
人々は蝶の痣を背負った一族の女を【火蝶《かちょう》】と呼び、火の神の巫女になった女の功績を讃え、祀る事にした。再び火山が噴火する日に備えて。
火縄八重《ひなわ やえ》は片翅分の痣しか持たない半端者。日々、お蚕様の世話に心血を注ぎ、絹糸を紡いできた十八歳の生娘。全ては自身に向けられる差別的な視線に耐える為に。
八重は火蝶の本家である火焚家の長男・火焚太蝋《ほたき たろう》に嫁ぐ日を迎えた。
火蝶の巫女となった姉・千重の代わりに。
蝶の翅の痣を背負う女と蝋燭頭の軍人が織りなす大正ロマンスファンタジー。
下っ端妃は逃げ出したい
都茉莉
キャラ文芸
新皇帝の即位、それは妃狩りの始まりーー
庶民がそれを逃れるすべなど、さっさと結婚してしまう以外なく、出遅れた少女は後宮で下っ端妃として過ごすことになる。
そんな鈍臭い妃の一人たる私は、偶然後宮から逃げ出す手がかりを発見する。その手がかりは府庫にあるらしいと知って、調べること数日。脱走用と思われる地図を発見した。
しかし、気が緩んだのか、年下の少女に見つかってしまう。そして、少女を見張るために共に過ごすことになったのだが、この少女、何か隠し事があるようで……
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる