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学園生活をエンジョイする

各々の恋愛事情

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俺が訓練所に戻ると、案の定ヤルノがイキシアを問い詰めて尋問していた。

俺が近づくと、ヤルノの側で興味なさげに宙を眺めていたペッテリが目をキラキラさせて跪いた。

「ああ、お帰りなさいませエルネスティ様……!私に近づいて来られるお姿も実に天使……!」

ペッテリの行動により俺の存在に気づいたヤルノは俺の方を振り返った。

「あっ、お帰りなさいませ、エルネスティ様。イキシア、予想通りでしたよ」

「やはりですか……」

「一目惚れらしいです」

イキシアは照れるように顔を背けた。さながら初恋をした少年である。ダーヴィド乙女脳近衛騎士に見せたら吐血するだろうな。

「……確かにマティルダ様は可愛らしい方でしたよね」

「そうですね。それにマティルダ嬢は決して曲がらない強い芯みたいなものがありました。魅力的な女性ですよね」

俺とヤルノがそんな会話をすると、イキシアは不貞腐れたように頬を膨らませた。おいコラいい歳した男がそんなことをしても可愛くないぞ。いくらワンコ系でも。

……待ってそう言やイキシアって何歳だ?

「……イキシアって歳はいくつですか?」

浮かんだ疑問は直ぐに零れ、イキシアはキョトンとしながらも筆を動かした。

[20歳]

「へえ、意外と若いですね。ヴァイとひとつ違いですか」

ふむふむ、と頷いていると、イキシアとヤルノから何か生暖かい視線を送られた。なっ……何だよ急に……。何もおかしいこと言ってないだろ……。

「……どうかしました?」

「いえ。愛称でお呼びになるとは、随分と仲良くなられたのですね、と思っただけです」

「……えっ。私、今、ヴァイナモのことヴァイって呼びました……?」

「はい。バッチリと」

ヤルノの肯定につられてイキシアもうんうんと頷く。俺は羞恥で顔が沸騰したので、2人に背を向けて蹲る。

マジか……マジか……!2人きりの時だけって決めてたのに……!はっ、恥ずかしくて死にそう……!

「そう恥ずかしがることではありませんよ。お2人は婚約者なのですし」

「それはそうですが……ってなんで知ってるのですかっ!?」

「ペッテリがその時の衣装を仕立てましたので。そうだよな?ペッテリ」

「はい……!皇帝陛下に頼まれました……!私はエルネスティ様がお召ししたお姿を拝見していないのですが……どうでしたか……!?」

ペッテリは期待に満ちた表情でそう聞いてきた。俺は小っ恥ずかしさで爆発しそうになるのを何とか堪えて、咳払いを1回した。そして気持ちを切り替えてペッテリの問いに答える。

「……流石ペッテリです。とても着心地が良くて、センスが良かったですよ」

「ヴァイナモ様は何か仰ったのですか?」

「……いえ、何も」

「そこは褒めないといけないじゃないですかヴァイナモ様!」

ヤルノはヴァイナモを大声で非難した。ちなみにヴァイナモは今、ここにはいない。今日はお休みの日だ。……良かったかもしれない。ヴァイナモがいたらちょっと気まずくなるヤツだ。

まあ別に自分で選んだ服じゃないから、褒められたいとかは思わなかったけど。あの時はそれより混乱が勝ってたし。

「……エルネスティ様はあまり気にしてないんですか?」

「えっ?ええ。別に」

「……まあエルネスティ様らしいですが」

ヤルノは呆れたようにそう呟いた。……なんかヤルノに言われるのは釈然としないんだけど。仕事一筋限定的ドMには言われたくないんだけど。

「そう言うヤルノは思うのですか?好きな人に服装を褒められたいとか」

「いえ、そんなことをする人ではないことは知ってるので、期待してませんよ」

「……えっ?ヤルノ、好きな人いるの?」

ペッテリの指摘にヤルノがハッとなって手で口を覆った。珍しいな。ヤルノが口を滑らすなんて。変人隠蔽常人擬態得意なのに。

ペッテリは珍しく俺の前で普段時の様子崇拝解除状態でヤルノを問い詰めた。

「誰!?僕も知ってる人!?何で!?いるなら教えてくれても良かったじゃん!僕はヤルノのためなら何でも相談にのるのに!」

「……いや、お前に相談してどうにかなるモンじゃないし。それに……望み薄だから、告白するつもりも仲を進展させるつもりもない」

「でも……話すぐらいは!」

「俺の話は良いだろ。今はイキシアだ」

ヤルノは煩わしそうな表情で無理矢理話を逸らした。イキシアは急に話を振られて肩をピクッとさせる。ペッテリは思いの外冷たいヤルノの反応に驚いて固まってしまっていた。

……ペッテリに対してあの態度は珍しいな。何やかんやでヤルノはペッテリに甘いのに。本当に触れて欲しくないのか。もしかして、本人だったりする?……まあ邪推でしかないけど。とりあえず俺の話を蒸し返されても困るし、イキシアの話に戻すか。

「……イキシアはどうするつもりですか?出来るだけ貴方の自由にさせてあげたいのですが、貴方にも事情がありますし……」

イキシアはせっせとスケッチブックに文字を書いた。そしてそれを俺たちに見せて来る。

[何もしない。気持ち、伝えない。俺、奴隷。彼女、貴族。身分違い過ぎる。相応しくない]

イキシアは寂しそうに目を伏せた。イキシアも自分の立場は十分に理解していたようだ。

……マティルダ嬢は男爵令嬢で、しかも次女だから、もしイキシアが普通の平民だったら幾らでもチャンスはあったんだけどな。流石に犯罪奴隷は、平民相手とのお付き合いでも難しいからね。

イキシアは続いてこんなことを書いた。

[安心してください。仕事に害、出さない。態度、出さない。気持ち、殺す]

イキシアはそれを見せると、文字をかいたその紙をビリッと破り、火魔法で燃やした。紙はパチパチと燃えながらイキシアの手から離れ、黒い点々となって地面に落ちる。まるでイキシアが恋心を消しているようだった。イキシアなりの決別、かな。

イキシアは燃え尽きる紙を眺めた後、不細工な笑顔をこちらに見せた。一目惚れとは言え、本気で好きだったのだろう。辛いな……。何かやってあげられないのが歯痒い。

その場に重い空気が流れた。それを払拭するように、ヤルノが口を開く。

「……イキシアって色んな魔法を使えるんだな。この前は水魔法を使ってなかったか?」

それを聞いたイキシアは目をパチパチさせた後、何かをスケッチブックに書き始めた。

……そう言やイキシアって魔法得意だったな。アムレアン王国で魔法剣士やってたぐらいだし。初めて会った時に使ってたのは土属性だったけど、何種類か適正属性を持ってるのかな?

そんなことを考えていると、イキシアは書き終えて紙をこちらに向けた。

[五大魔法属性、全部、使える]

「へえ、凄いな。それなら引く手数多で職に困らないだろ。……って、失言だったな、すまん」

ヤルノは感心していたが、直ぐに失言を謝った。イキシアは犯罪奴隷だから、どれだけ彼が望んでも就きたい職には就けないのだ。……ヤルノらしくない失言だな。動揺してるのか?

その場がまた微妙な空気になったので、今日はもう実験を切り上げ、解散することにした。
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