80 / 95
80.地面が揺れる前の、イザベラとマリウスの話
しおりを挟む
80.地面が揺れる前の、イザベラとマリウスの話
上から光の差してくる洞窟で、一人と一頭は静かに過ごしていた。
マリウスは投げ入れられた緑の玉がおいしいらしく、気ままに食べては中央に湧き出る水を飲んでのんびりしていた。
イザベラは座ったまま、額に手をやってため息をついた。「困ったわね、マリウス。あなただけよ、そんなに食欲があるのは」
馬のしっぽが左右に揺れた。
「これだけのピンチはなかなかないわね。外に出て、話の分かる誰かが見つかればいいけど。蟻一族に捕まってごらんなさいよ。二人ともおしまいになっちゃうわ」
静かな洞窟で、マリウスが草を食べる音が調子よく響き続けた。
イザベラは目を閉じて、何か良い考えが浮かばないかと静かに呼吸を続けた。少し眠気がやってきたので、また目を開けて両腕を伸ばし、座ったまま伸びをした。
どこかでさわさわと何かが動く音が聞こえた。伸びをしたまま固まって、辺りを見た。マリウスも気が付いたらしく、じっとして耳をぴんと立てた。イザベラはそっと立ち上がってマリウスのそばに寄ると、剣に手をかけ、様子を伺った。マリウスは口に残っていた草の最後を飲み込んだ。
さわさわいう音は次第に大きくなり、イザベラがこれだ! と思ったときには目の前に現れていた。それは大量の水が流れてくるようにやってきた大量の羽毛だった。洞窟のどこかから流れてきたそれはあっという間にイザベラとマリウスを巻き込んだ。イザベラはマリウスの手綱を掴んだものの、大量の羽毛の川に流されて一人と一頭はばらばらになった。日が差し、水が湧き出、仮にも外につながっている場所から再び暗い洞窟のどこかへと運ばれていった。
羽毛に運ばれていくなか、時折イザベラは苦労して「マリウスー!」と呼んだ。一人と一頭は長い時間をかけて暗い洞窟を流され、イザベラがもはやこれまでかと観念したときに羽毛の流れと共に洞窟から勢いよく吐き出された。地面にはその羽毛が厚くふんわりと積もっていて、一人と一頭は難なく着地した。
辺りは潮の匂いがした。波の音がして、太陽は最後の輝きを放ちながら水平線の下に隠れようとしていた。
顔や髪についた羽毛をはたき落しながら彼女は愛馬がどうなったかと周りを見渡した。
馬はふわふわの羽毛の上で仰向けとなり、ごろごろと体を揺らしていた。遊んでいるように見える姿に思わず「……マリウス?」と呼びかけると、馬はハッと我に返って急いで立ち上がった。
やがて周囲に厚く溜まっていた羽毛は震えだしたかと思うと、順番に飛び上がってまた大きな流れを作り、どこかへ飛んで行ってしまった。
イザベラは砂浜が広がる海辺を改めて眺めた。海の反対側は高い崖になっていたが、上り口はきっとどこかにある気がした。
首の辺りに何かが触っている気がして手をやった。さっきの羽毛が残っているのかと思った。だがそれは首にかけられていた紐で引っ張り出してみると、落としてなくしたとばかり思っていた黒い羽根が現れた。
「どうしてあるのよ?」イザベラは不満の声をあげた。「おかしいじゃない。あんなに探しても見当たらなかったのに」
彼女はしかし、これ以上考えるのは面倒だと結論付けた。「少し休みましょう」彼女は愛馬にそういうと、自分は崖を背にしてどっかりと腰を落とした。「とりあえずは外へ出られたことを感謝しなくてはね」
上から光の差してくる洞窟で、一人と一頭は静かに過ごしていた。
マリウスは投げ入れられた緑の玉がおいしいらしく、気ままに食べては中央に湧き出る水を飲んでのんびりしていた。
イザベラは座ったまま、額に手をやってため息をついた。「困ったわね、マリウス。あなただけよ、そんなに食欲があるのは」
馬のしっぽが左右に揺れた。
「これだけのピンチはなかなかないわね。外に出て、話の分かる誰かが見つかればいいけど。蟻一族に捕まってごらんなさいよ。二人ともおしまいになっちゃうわ」
静かな洞窟で、マリウスが草を食べる音が調子よく響き続けた。
イザベラは目を閉じて、何か良い考えが浮かばないかと静かに呼吸を続けた。少し眠気がやってきたので、また目を開けて両腕を伸ばし、座ったまま伸びをした。
どこかでさわさわと何かが動く音が聞こえた。伸びをしたまま固まって、辺りを見た。マリウスも気が付いたらしく、じっとして耳をぴんと立てた。イザベラはそっと立ち上がってマリウスのそばに寄ると、剣に手をかけ、様子を伺った。マリウスは口に残っていた草の最後を飲み込んだ。
さわさわいう音は次第に大きくなり、イザベラがこれだ! と思ったときには目の前に現れていた。それは大量の水が流れてくるようにやってきた大量の羽毛だった。洞窟のどこかから流れてきたそれはあっという間にイザベラとマリウスを巻き込んだ。イザベラはマリウスの手綱を掴んだものの、大量の羽毛の川に流されて一人と一頭はばらばらになった。日が差し、水が湧き出、仮にも外につながっている場所から再び暗い洞窟のどこかへと運ばれていった。
羽毛に運ばれていくなか、時折イザベラは苦労して「マリウスー!」と呼んだ。一人と一頭は長い時間をかけて暗い洞窟を流され、イザベラがもはやこれまでかと観念したときに羽毛の流れと共に洞窟から勢いよく吐き出された。地面にはその羽毛が厚くふんわりと積もっていて、一人と一頭は難なく着地した。
辺りは潮の匂いがした。波の音がして、太陽は最後の輝きを放ちながら水平線の下に隠れようとしていた。
顔や髪についた羽毛をはたき落しながら彼女は愛馬がどうなったかと周りを見渡した。
馬はふわふわの羽毛の上で仰向けとなり、ごろごろと体を揺らしていた。遊んでいるように見える姿に思わず「……マリウス?」と呼びかけると、馬はハッと我に返って急いで立ち上がった。
やがて周囲に厚く溜まっていた羽毛は震えだしたかと思うと、順番に飛び上がってまた大きな流れを作り、どこかへ飛んで行ってしまった。
イザベラは砂浜が広がる海辺を改めて眺めた。海の反対側は高い崖になっていたが、上り口はきっとどこかにある気がした。
首の辺りに何かが触っている気がして手をやった。さっきの羽毛が残っているのかと思った。だがそれは首にかけられていた紐で引っ張り出してみると、落としてなくしたとばかり思っていた黒い羽根が現れた。
「どうしてあるのよ?」イザベラは不満の声をあげた。「おかしいじゃない。あんなに探しても見当たらなかったのに」
彼女はしかし、これ以上考えるのは面倒だと結論付けた。「少し休みましょう」彼女は愛馬にそういうと、自分は崖を背にしてどっかりと腰を落とした。「とりあえずは外へ出られたことを感謝しなくてはね」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、マリアは片田舎で遠いため、会ったことはなかった。でもある時、マリアは、妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは、結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる