上 下
68 / 95

68.ジョンの話

しおりを挟む
68.ジョンの話
 ぼくが目を開けたとき、全ては……、全ては終わってはいなかった。
 目を開けると少し白っぽくなった、明るい空が見えた。
 体を起こそうとしたけど、起こせなかった。仕方なしに頭をまわすと海の遠くに山のような何かがいくつか浮かんでいるのが見えた。
 目だけを動かして足元のずっと遠くを見ると大きな赤い鳥が見え、しかも一羽だけではなく四羽が相談をするように固まってギィギィ鳴いていた。
 ぼくはもう一度海のほうを見た。波がそれらにあたっては砕けていた。危険はあるのかないのか、でも好奇心のが勝った。近くの岩につかまってやっと半分だけ身を起こした。
 目の前の海から沖合まで三つの固まりが並んでいた。それらの一つずつが山のように大きくて、島にしか見えなかった。時折ブオーッとそれぞれの島から水があがって霧になって空に消えていった。海は透明で、一番近くの島の水面下を見ることができた。真っ黒な体に一面にくっついている噴火口みたいな岩のほかに、少しどんよりとした表情の大きな目が見えた。
 つまり、とぼくは思った。サフソルムがいるなら尋ねたに違いない。こいつが古き良き時代より生き長らえてきた者たち、ってわけだ。
 サフソルムはどこへ行ったか。ゆっくりと辺りを見渡したが見つけられなかった。
 ぼくはそばに置かれていた本を手に取った。これが終われば無事にレネアのところへ帰れるはずだ――。そのときにはレネアに歌を聞いてもらう機会があるだろう。もしかしたらマグナスよりぼくに好意を持つようになるかもしれないな。ぼくが彼女のことを好きかどうかっていうのはちょっと分からないことではあるけれど。レネアは顔もきれいだし、気持ちも優しい。なにせぼくの歌をいいと思ってくれているのだから。だから何が起こるのかはわからないといえる。まぁいずれにしろ、あの宮殿にしばらく住まわせてもらえるのならそれはそれでいいことだ。うん。
 ぼくはゆったりとした気持ちになって、葉っぱのしおりを頼りに本を開いた。そこにはこう書かれていた。

   『あまりにも飛ぶことから遠ざかっていたものは体が重く感じるものであるし、少し恐怖を覚えるものかもしれない。元々の能力と頭を目覚めさせるためにハチミツと卵の殻(蛇の殻が特に望ましい)、そして琥珀の石も同時に用意して渡すこと。次いで「いざ飛ばん。太古の眠りから目覚めし時。美しき目の空駆ける者よ」と唱えるべし』

 顔をあげ、ネコを探した。
 ハチミツならちょうど食料の袋に入っているから問題ない。琥珀の石はベルナーからもらったものを使うことにした。マグナスは確かに飛ぶことから長く遠ざかっているに違いなく、久しぶりに飛ぶとなると恐怖を覚えるものかどうかは不明だったが、マグナスが再び翼を持つにあたっては万全の態勢を整えておくに越したことはなかった。よって今ここでぼくが琥珀の石をケチるわけにいかないのは明白だった!
 それと――。蛇か。海から蛇が出てきた恐怖を思い出し、最も苦手なものになりかねないなと思った。
 ゆっくりと立ち上がって、――頭はまだくらくらした――、卵の殻を探すことにした。でも正直、そんなものがどこにあるのか見当もつかなかった。
 ぼくは辺りを歩き回った。すると何かの卵の殻を半分だけ見つけた。しゃがみこんで拾い、まじまじと眺めた。灰色のような、薄黄色のような、はっきりいって何の殻であるかは全く分からなかった。
 でも、これでいいような気がした。なんなら後でサフソルムに確認してみたらいい。
 赤い鳥たちのいるところにネコはいるに違いなかった。ぼくは真珠の粉の入った箱、不死の花、卵の殻とハチミツに、琥珀と本を持って、ゆらゆらと夢心地の気分で歩いていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

処理中です...