上 下
66 / 95

66.ジョンの話

しおりを挟む
66.ジョンの話
 不死の花をもらって、ぼくとサフソルムは赤い鳥が待っている海岸に向けて歩いていた。一本の幅の広い道がまっすぐに伸びていて、両隣には高い木がずらりと並んでいた。夕方過ぎには海岸に着いて、そこには羽根の入った袋が運ばれていて、古き良き時代より生き長らえてきた者たちは遠路をはるばるやってきているはずだ、とサフソルムはいった。
 道のずっと遠くを見ると木が途切れていた。そのあたりから海岸が広がっているような気がした。
 どこか殺風景な道の行く先に誰かが立っていた。近づいていくと、体の大きな男ときれいな顔をした……
「やぁ。元気? いま、おれのこと女かもって思った?」
 ぼくは渋々答えた。「そんなことない。ここで誰かに会うのが珍しいって思っただけさ」
 ははは、ときれいな顔をした方が笑った。
「ねぇ、ちょっと時間ないかな? おれはユーリア、こっちがフォブ」
 時間はない、と下からサフソルムが答えた。
「ああー、ちょっと」と男はいった。「もしかして人間? ここのところ人間にはよく出くわすよ」
 ネコもぼくも連れの男までが、きれいな顔の男を驚いて見た。
「違うんだよ。そんなことはどうでもいいんだ。きみ、名前は?」
 サフソルムは二人の足元を抜けて、さっさと先へ進みだしていた。
「悪いけど、急いでる」ぼくも通り過ぎようとした。でも大きい方の男に腕をつかまれた。
「ちょっとしたことなんだ」と大きな男はいった。「おれたち久しぶりの再会を祝ってこれから酒を飲むつもりなんだ。あんたも、あんたもどうかと思って」
「申し訳ないけど、本当に急いでるんだ」ぼくは腕を男の手から外すとサフソルムの後を追った。
 やがて両隣の林が消えて、海沿いの岸壁に出た。
 サフソルムが「赤い鳥はまだ来ていないようだ」といった。
 ぼくたちは適当な石に座った。弱い風が吹いていて、顔を撫でていった。
 本を取り出して目を通すことにした。「以上の材料を、全てを受け入れる余裕のあるものに渡し、風を起こし、羽根を取り戻したい者の名前を唱えること」
 隣でネコがうなずいた。「うむ。そういうことだ。オレさまも何度か読んでいる」
「きみがマグナスの名前をいうかい?」
「うむ。そうだな。歌うたいでは心配であるから、オレさまがしっかりとマグナスの名前をゆうとしよう」
 肩から少し力が抜けていった。海は心を和ませたし、吹いてくる風は心地よかった。ぼくたちは黙って赤い鳥を待った。
 後ろから咳払いが聞こえた。振り向くと、さっきの二人だった。きれいな顔の方が酒の瓶を持っていた。「一杯だけ。ね、いいだろ? これはおれたちの村で作った人気の酒さ」
 ぼくは海の方へ向き直った。
「要はさ、ここでおれたちが出会ったことに乾杯したいんだよ」後ろからの声は続いた。
 サフソルムが後ろを向いた。「あっちへゆけ」
「いやだ。乾杯してくれるまでここを動かない。な、フォブ?」
「全くだ。人間の世界じゃ、誰かが酒をおごるといったときにはこんなに冷たいのか?」
 サフソルムは隣で伏せの状態で座った。「オレさまたちは大変重要なことをこれから行うのだ」
「お、おれたちだって酒を飲むことがどれだけ大事かッ……!」
 悲壮感漂う声が勢いよく響いて、むなしく消えていった。
 サフソルムが落ち着いた声でいった。「オレさまは酒を飲まぬ。歌うたいは少しは飲める。しかし酒を飲んだことで失敗があってはならぬのだ」
 男たちがバタバタと足音をさせて、ぼくの目の前に回り込んできた。
「一口だけならどうだい? まさか一口でまずいことになるなんてことないだろう?」
 二人は目の前であぐらをかいて座った。顔のきれいな方がカップを三つだして酒を注いだ。それぞれが手に持ち、一つをぼくに差し出した。「さあ、どうぞ」
 とりあえずぼくは受け取った。サフソルムがやめておけ、といった。
「ほんとに一口だけにするよ。なんでそんなにぼくに飲ませたがるのか全然わかんないけど」
 ぼくはカップを口のところまで持っていった。
 二人はものすごい笑顔になった。「乾杯!」「乾杯!」
 ついで二人は口をつけ、一気に酒を飲んだ。「うまい!」「ああ、全く!」
 ぼくは匂いを嗅いで、爽やかな木の香りみたいだと思った。これまでに飲んだことのない種類だなとは思った。ほんの少しを口に含むと強烈な味と香りが一気に広がった。むせる間もなく、喉の奥に入っていって数秒後、ぼくは意識を失った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

処理中です...