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27.マグナスとマリオンの話
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27.マグナスとマリオンの話
マリオンはマグナスと一緒に食堂に静かに腰をおろしていた。テーブルには明かりのついた燭台がいくつか並んでいて、辺りを照らしだしていた。マリオンの手によって一階の鎧戸は完全に締め切られていたが、ふと彼女はざわざわとした気配が屋敷の外にあるのを感じ取った。彼女は耳をそばだて、それが何なのか確かめようとしたがよく分からなかった。
マリオンが小さくいった。「外に何かがいるわ。それもすごくたくさん」
「きみの知らない何か、かい?」
「そうよ。動物でもない。人間でもない。得体のしれない、あまり気持ちのよくない者たちよ。荷物を持って三階へ行きましょう。食べ物も。何が起こるかわからないから」
二人は何回か行き来して、明かりや水、食べ物などを上の階へ運び上げた。
マリオンが三階の大きな扉を開けて、案内した部屋は大きな広間になっていた。部屋に入ると床に敷かれた分厚い絨毯に足が沈み込んだ。
真ん中に大きな丸いテーブルと椅子がいくつか並んでいて、明かりのいくつかがそこに置かれた。明かりは壁際の飾り棚や本棚、書き物机、クッションの置かれた長椅子を浮かび上がらせた。マリオンは次いで広間の隣の小さな部屋の扉を開けた。マグナスに明かりを持たないようにいって、二人で部屋に入ると扉を閉め、外に面した小さな窓を開け、鎧戸を開けた。
「今夜は明るい月が出ている。眩しいくらいの」マリオンはそういって、マグナスに外を見せた。
マグナスは月明りのもと、外にいるという者たちの姿を見極めようとした。
そこからは多くの場所を見渡すことができた。はじめ、壊れた噴水のある大きな庭に動くものはないように思えた。石畳の庭は明るい月の光のもと、グレーに輝き、いっぽうで木々の影は地面に濃く映って黒いまだら模様を作っていた。物音も聞こえず、しばらくの時が過ぎたが、マグナスの目に見間違いかと思うほどの変化が映った。小さな影が時々動いているのを認めて、いった。「ここから遠く離れた荒野に住んでる者たちだ」
「どうしてこんなところへ」
「わからない。夜中にやってくる、例の……、名前はつけないのかい?」
「名前なんて。弟の子供たち二人の名前だって、ろくに覚えていないのに。おじやおばは聞いてきて教えてくれたけど。何だったかしら。彼らをもっと可愛がっていたらこんなひどい仕打ちはされなかったのかしら。そうね、夜中にやってくる者の名前は『例のあいつ』にするわ」
マグナスは笑みを浮かべた。「例のあいつがやってきたら彼らは逃げていくさ」
「そうね」マリオンは答えた。「あんなの見たら逃げ出したくなる」
「きみは逃げ出さないのに」
「だってここは私の家、一族の家だもの。誰にも渡さないわ」
「きみが、もし強くなかったなら、とっくに……」マグナスは肩をすくめ、言葉をひっこめた。
「病になってるかしら。真っ青な顔になって泣きわめいて正気じゃなくなってるかしら。でもどこか安全なところへ逃げ出したところで、ここがどうなるかを考えているほうが気持ちがおかしくなるでしょうね」
「わかったよ」マグナスはマリオンの答えに小さく笑った。「きみだからこその決断ってことが」
二人はお互いを見て微笑んだ。
やがてマリオンはまじめな顔をして「それで」と静かにいった。「あなたにいったい何が起きたのか。どうしてそうなったのか」
「おれの至らなかった話だ」
「気分を悪くした? いいたくない話なのね」
「いや、すでに多くの者が知ってるよ。噂話やお喋りの好きな者もたくさんいるから。きみの耳にまで入らなかったというだけに違いない」マグナスは一呼吸置いて続けた。「月が見えるここで話すよ」
マリオンはマグナスと一緒に食堂に静かに腰をおろしていた。テーブルには明かりのついた燭台がいくつか並んでいて、辺りを照らしだしていた。マリオンの手によって一階の鎧戸は完全に締め切られていたが、ふと彼女はざわざわとした気配が屋敷の外にあるのを感じ取った。彼女は耳をそばだて、それが何なのか確かめようとしたがよく分からなかった。
マリオンが小さくいった。「外に何かがいるわ。それもすごくたくさん」
「きみの知らない何か、かい?」
「そうよ。動物でもない。人間でもない。得体のしれない、あまり気持ちのよくない者たちよ。荷物を持って三階へ行きましょう。食べ物も。何が起こるかわからないから」
二人は何回か行き来して、明かりや水、食べ物などを上の階へ運び上げた。
マリオンが三階の大きな扉を開けて、案内した部屋は大きな広間になっていた。部屋に入ると床に敷かれた分厚い絨毯に足が沈み込んだ。
真ん中に大きな丸いテーブルと椅子がいくつか並んでいて、明かりのいくつかがそこに置かれた。明かりは壁際の飾り棚や本棚、書き物机、クッションの置かれた長椅子を浮かび上がらせた。マリオンは次いで広間の隣の小さな部屋の扉を開けた。マグナスに明かりを持たないようにいって、二人で部屋に入ると扉を閉め、外に面した小さな窓を開け、鎧戸を開けた。
「今夜は明るい月が出ている。眩しいくらいの」マリオンはそういって、マグナスに外を見せた。
マグナスは月明りのもと、外にいるという者たちの姿を見極めようとした。
そこからは多くの場所を見渡すことができた。はじめ、壊れた噴水のある大きな庭に動くものはないように思えた。石畳の庭は明るい月の光のもと、グレーに輝き、いっぽうで木々の影は地面に濃く映って黒いまだら模様を作っていた。物音も聞こえず、しばらくの時が過ぎたが、マグナスの目に見間違いかと思うほどの変化が映った。小さな影が時々動いているのを認めて、いった。「ここから遠く離れた荒野に住んでる者たちだ」
「どうしてこんなところへ」
「わからない。夜中にやってくる、例の……、名前はつけないのかい?」
「名前なんて。弟の子供たち二人の名前だって、ろくに覚えていないのに。おじやおばは聞いてきて教えてくれたけど。何だったかしら。彼らをもっと可愛がっていたらこんなひどい仕打ちはされなかったのかしら。そうね、夜中にやってくる者の名前は『例のあいつ』にするわ」
マグナスは笑みを浮かべた。「例のあいつがやってきたら彼らは逃げていくさ」
「そうね」マリオンは答えた。「あんなの見たら逃げ出したくなる」
「きみは逃げ出さないのに」
「だってここは私の家、一族の家だもの。誰にも渡さないわ」
「きみが、もし強くなかったなら、とっくに……」マグナスは肩をすくめ、言葉をひっこめた。
「病になってるかしら。真っ青な顔になって泣きわめいて正気じゃなくなってるかしら。でもどこか安全なところへ逃げ出したところで、ここがどうなるかを考えているほうが気持ちがおかしくなるでしょうね」
「わかったよ」マグナスはマリオンの答えに小さく笑った。「きみだからこその決断ってことが」
二人はお互いを見て微笑んだ。
やがてマリオンはまじめな顔をして「それで」と静かにいった。「あなたにいったい何が起きたのか。どうしてそうなったのか」
「おれの至らなかった話だ」
「気分を悪くした? いいたくない話なのね」
「いや、すでに多くの者が知ってるよ。噂話やお喋りの好きな者もたくさんいるから。きみの耳にまで入らなかったというだけに違いない」マグナスは一呼吸置いて続けた。「月が見えるここで話すよ」
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