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15.マグナス、十日ほど前の話
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15.マグナス、十日ほど前の話
「何があったかですって?」マリオンは繰り返した。そして小さく息を継いだ後、「私は必要以上に自分を強く見せることも、弱く見せることもしたくない」といった。
マリオンはマグナスを居間へ連れていった。テーブルや大きなソファがいくつか並んでいたが、小さな椅子などには白い布がかけられていて、ここに客が来ることなど想定していなかったようであった。
テーブルに召使が水のセットを置いて、外へ出ていった。サフソルムとマグナスはソファに座った。マリオンは窓のそばに立ち、壊れた噴水のある庭を眺めていた。
「話すことならいくつかある」マリオンはいった。「弟たちが結婚して、子供が生まれた。双子だった。弟と私は元は同じ一族ではあったけれども、私はもう彼らに会いに行くことはしなかった。おじやおばたちは覗きにいっていたわね。双子は男で人間の姿をしていた。そして成長が早かったわ。何かそこで気が付くべきだったかしら。彼らは人間以外の姿にはならないようだった。弟の妻は自身の家族からすっかり独立していたけれども、あるとき家族が現われたんだそう。何があったのか知らないけど、跡継ぎがいるといって双子を奪い去っていった。双子は驚くべき勢いで成長し、人間のやり方を覚えていった。
――このあたりの森も山も昔からずっと私たちアーウィズのもので、自然の恵みも私たちや森の住人たちが受け取ってきたものだった。それは昔から決められていたことでどこの誰に聞いたところでそれは明らかだった。でも人間にとってはそうではなかった。双子は人間らしいやり方をすればするほど、家の者たちにほめられた。やがて彼らはこの辺りが自分たちのものであると主張し始めた」
少しの沈黙があり、マグナスが静かにたずねた。「子供たちが奪われたとき弟夫婦は取り戻しにいかなかったのかい?」
「もちろんすぐに向かった。この家の何人かが立ち上がり、私の夫も弟たちと一緒に人間の家に行った。だけどそのときに何が起きたかは詳しくは分からなかった。弟の妻だけは助かったと聞いたわ。でもその妻もやがて亡くなったと聞いた」
マリオンの声はもとより温かみがあるとはいえなかった。とはいえ、感情的になることもなく話すのは並大抵のことではないと思えた。マグナスは彼女のそばまで行き、そっと肩に手を置いた。
彼女の青い瞳から涙が下へと流れ落ちた。「誰も戻ってこなかったの」
「信じられない」マグナスはつぶやいた。
涙の一筋が途切れて、彼女は続けた。「成長した双子たちは山や森に入り込み、木々を倒し、あるいは枯らし、生き物を住めないようにしている。そして私たちの住む屋敷も狙っている。彼らは満足を知らない。ここを奪ったとしても足りなくなる。ここを得たのちにはまた別の場所を奪いにいくに決まってる。人間とはそういうもの」
マグナスが何もいえないでいるうちに、マリオンは言葉を継いだ。「彼らは夜中になるとやってくる。大きな黒い生き物を連れて。たくさんの火を灯して現われる。大きな音をさせて、屋敷のあちこちを壊しては私たちが引っ込んだままでいるのを笑っている。屋敷へ入ろうと思えば入れるでしょう。でもそうはしない。あざ笑い、自分たちの力を見せつけては帰っていく」
そのとき居間の扉が音もなく開いて、「ママ」という声が聞こえた。振り向くと、十ほどの男の子供が入り口に立っていた。
こっちへいらっしゃい、アリステアと呼ばれると、子供はゆっくりと近付いてきた。マリオンはかがんで、子供を抱きしめた。
子供はマグナスを見上げ、ちょっと不思議そうな顔をしたが、少し離れたソファにゆったりと座っている大きな山猫を見つけるとワッと駆けていった。サフソルムは何かあったらすぐに逃げ出すなり、爪でやるなりしようと思っていたが、子供はソファの前に座り込み、子供にしては静かに手をだしてきたので大人しく撫でられてやった。
マリオンが話を続けた。「彼らがここを襲うようになってから、ほかの親戚たちを避難させることにした。避難といういい方は間違ってるかもしれないけど、もっとずっと遠くの土地へ行かせた。でも私とアリステアはここに残った。この先も何があろうとここに残ろうと思っている」
マグナスはマリオンと反対側の窓際に立ち、森や山の風景を眺めた。しばらく無言のままでいたが「今はきみの決定をどうこういうつもりはないよ」といった。
マリオンはマグナスを見た。「この家は私にとって命と同じくらい大切な場所。数え切れないくらいの年数を先祖たちが生きて繋いできた場所。仲間を失い、山や森がああなってしまったのはくやしいけれどここだけは誰にも渡すつもりはない」
「……しばらくの間、きみのところにいたいんだ。ここに何日かおいてもらってもいいだろうか」
「どうしようというの?」
「責任を感じているのさ」
マリオンは少し黙っていたが、召使に部屋を用意させる、といった。
「何があったかですって?」マリオンは繰り返した。そして小さく息を継いだ後、「私は必要以上に自分を強く見せることも、弱く見せることもしたくない」といった。
マリオンはマグナスを居間へ連れていった。テーブルや大きなソファがいくつか並んでいたが、小さな椅子などには白い布がかけられていて、ここに客が来ることなど想定していなかったようであった。
テーブルに召使が水のセットを置いて、外へ出ていった。サフソルムとマグナスはソファに座った。マリオンは窓のそばに立ち、壊れた噴水のある庭を眺めていた。
「話すことならいくつかある」マリオンはいった。「弟たちが結婚して、子供が生まれた。双子だった。弟と私は元は同じ一族ではあったけれども、私はもう彼らに会いに行くことはしなかった。おじやおばたちは覗きにいっていたわね。双子は男で人間の姿をしていた。そして成長が早かったわ。何かそこで気が付くべきだったかしら。彼らは人間以外の姿にはならないようだった。弟の妻は自身の家族からすっかり独立していたけれども、あるとき家族が現われたんだそう。何があったのか知らないけど、跡継ぎがいるといって双子を奪い去っていった。双子は驚くべき勢いで成長し、人間のやり方を覚えていった。
――このあたりの森も山も昔からずっと私たちアーウィズのもので、自然の恵みも私たちや森の住人たちが受け取ってきたものだった。それは昔から決められていたことでどこの誰に聞いたところでそれは明らかだった。でも人間にとってはそうではなかった。双子は人間らしいやり方をすればするほど、家の者たちにほめられた。やがて彼らはこの辺りが自分たちのものであると主張し始めた」
少しの沈黙があり、マグナスが静かにたずねた。「子供たちが奪われたとき弟夫婦は取り戻しにいかなかったのかい?」
「もちろんすぐに向かった。この家の何人かが立ち上がり、私の夫も弟たちと一緒に人間の家に行った。だけどそのときに何が起きたかは詳しくは分からなかった。弟の妻だけは助かったと聞いたわ。でもその妻もやがて亡くなったと聞いた」
マリオンの声はもとより温かみがあるとはいえなかった。とはいえ、感情的になることもなく話すのは並大抵のことではないと思えた。マグナスは彼女のそばまで行き、そっと肩に手を置いた。
彼女の青い瞳から涙が下へと流れ落ちた。「誰も戻ってこなかったの」
「信じられない」マグナスはつぶやいた。
涙の一筋が途切れて、彼女は続けた。「成長した双子たちは山や森に入り込み、木々を倒し、あるいは枯らし、生き物を住めないようにしている。そして私たちの住む屋敷も狙っている。彼らは満足を知らない。ここを奪ったとしても足りなくなる。ここを得たのちにはまた別の場所を奪いにいくに決まってる。人間とはそういうもの」
マグナスが何もいえないでいるうちに、マリオンは言葉を継いだ。「彼らは夜中になるとやってくる。大きな黒い生き物を連れて。たくさんの火を灯して現われる。大きな音をさせて、屋敷のあちこちを壊しては私たちが引っ込んだままでいるのを笑っている。屋敷へ入ろうと思えば入れるでしょう。でもそうはしない。あざ笑い、自分たちの力を見せつけては帰っていく」
そのとき居間の扉が音もなく開いて、「ママ」という声が聞こえた。振り向くと、十ほどの男の子供が入り口に立っていた。
こっちへいらっしゃい、アリステアと呼ばれると、子供はゆっくりと近付いてきた。マリオンはかがんで、子供を抱きしめた。
子供はマグナスを見上げ、ちょっと不思議そうな顔をしたが、少し離れたソファにゆったりと座っている大きな山猫を見つけるとワッと駆けていった。サフソルムは何かあったらすぐに逃げ出すなり、爪でやるなりしようと思っていたが、子供はソファの前に座り込み、子供にしては静かに手をだしてきたので大人しく撫でられてやった。
マリオンが話を続けた。「彼らがここを襲うようになってから、ほかの親戚たちを避難させることにした。避難といういい方は間違ってるかもしれないけど、もっとずっと遠くの土地へ行かせた。でも私とアリステアはここに残った。この先も何があろうとここに残ろうと思っている」
マグナスはマリオンと反対側の窓際に立ち、森や山の風景を眺めた。しばらく無言のままでいたが「今はきみの決定をどうこういうつもりはないよ」といった。
マリオンはマグナスを見た。「この家は私にとって命と同じくらい大切な場所。数え切れないくらいの年数を先祖たちが生きて繋いできた場所。仲間を失い、山や森がああなってしまったのはくやしいけれどここだけは誰にも渡すつもりはない」
「……しばらくの間、きみのところにいたいんだ。ここに何日かおいてもらってもいいだろうか」
「どうしようというの?」
「責任を感じているのさ」
マリオンは少し黙っていたが、召使に部屋を用意させる、といった。
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