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4.ジョンの話
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4.
マグナスっていう人物はほんとにいい顔の持ち主だった。引き締まった顔立ちにアイスブルーの瞳。少し神秘的で、冷静な雰囲気に、いや、ひょっとすると冷酷な何かを持っているのかもしれなかったが、しかし生きていくのにどこか楽観的な余裕を持っている気もした。この人物は剣を持ち、心身ともに強靭である上に、見た目だってとんでもなく上等にできていた。明日も明後日のことも、もっとずっと先のことも考えなくたってうまく生きていける人物。ぼくとは違って、彼はそういう人物に違いなかった。
先へと進みだしたネコの後をぼくとマグナスは共に追いかけて歩き出した。
「だいじょうぶだって?」ぼくは手紙をしまって、隣のマグナスに声をかけた。「どこが? すべてが全然だいじょうぶじゃない。大体しゃべるネコってのがおかしいじゃないか! きみはあのネコの、まるで、いうがままに動いてる。そもそもぼくはああいう奇妙な生き物については全く無視して生きてきたんだ。それなのにきみはこんなおかしな状況を何とも思ってないみたいだ。普通だったらこんな状況、ぜったい腑に落ちないさ!」
マグナスは穏やかな笑みを浮かべてさらりといった。「じきに慣れるさ」
「それに」とぼくは続けた。「どうしてぼくの居場所がわかった? それと奇妙な生き物たちは何なのさ。見えない人には見えないくせに」
マグナスがまた答えた。「じきにわかるさ」
前を歩くネコが振り返った。「少しだけ教えてやろう、歌うたい。この世はひとつだけではないのだ。世界は無数に存在する。個々の世界が時に隣同士で存在し、また別の時には完全に離れて存在している。それぞれが星のように移動し、今日存在した場所に同じものが明日もあるとは限らないのだ。一方でこうもいえる。隣り合った世界の境目がきちんと分けられているときもあれば、滲んで互いに浸透しているときもある。突如何かが出現してくるときには境目が薄くなっているということだ。この世は実に複雑なのだ」
「あぁ……」肩から空気が抜けた。めまいがした。うんざりした。「あぁ……もういいよ。まぁいいさ」
ぼくはマグナスを見た。「とりあえずはこういう生き物が見えるのがぼくだけじゃないって分かったからさ、――だって考えてもみなよ、ここでこうしてネコと喋っているのを人に見られたとしたらぼくは完全にアタマがおかしいってことだろ? でもここに同じような人物がいるんだから」
しばらく誰も何もいわずに歩いていたが、結局また自分から口を開いた。
「いっておくけど、ぼくは血を見るのは無理だよ。剣をふりまわす輩とこれまで共にいたことは一度もない。まぁきみは剣を持った一般的な大男と見た目違うのはわかるけどさ。とにかく暴力とかそういう野蛮なことがいちばん嫌なんだ。何か保証をもらわなくちゃ、この先そういうものには遭わずにすむっていう」
一人とネコ一匹はその問いに何も答えなかった。それでもしばらくするとマグナスが口を開いた。「これまでとは少し違ったことに出会うだろうが、その分報酬が出るってことさ。ジョンの安全ならおれの剣かサフソルムの牙でなんとかなる」
これ以上何かをいうのは無理だった。報酬という言葉はぼくを黙らせた。このお喋りなジョンをね。とりあえず行った先で何か利益を得て、危険な出来事に出くわしたら彼らに任せて逃げるってこと!
家々の立ち並ぶ通りを抜けて、地面を覆っていた石畳が終わりになる辺りで、マグナスが一軒の馬屋へ向かい、二頭の栗毛の馬を左右の手にたずさえて戻ってきた。一頭の手綱を渡され、もう一頭に彼は身軽に飛び乗った。
ぼくは手綱を持ったまま立ち尽くした。「いまここで馬に乗るのが得意じゃないっていったら怒るかい?」
マグナスはさあ、とハンサムな微笑を湛えて答えた。そして優雅に馬をくるりとまわしてみせた。
ネコがぼくの足元に寄ってきて、地面に座り、ぼくに命令した。「乗れ。とにかく馬に乗れ」
ぼくは仕方なく馬をなだめんがために、――といっても、おとなしい馬だったのだが――、首筋をぽんぽんとたたいた。馬はそれが気に入らなかったのか、大量の息を鼻から吐き出して足を踏み鳴らした。ネコが舌打ちをし、目にもとまらぬ速さで馬の背に乗ると馬はなぜかおとなしくなった。しかし荷物やら楽器やらを抱えて馬の背に乗るのは大変で、文句をいってやろうと口を開きかけたが何も出てこなかった。ネコの後ろに苦労して乗ると一息つく間もなく二頭は一気に走り出し、白夜の街を後にした。
マグナスっていう人物はほんとにいい顔の持ち主だった。引き締まった顔立ちにアイスブルーの瞳。少し神秘的で、冷静な雰囲気に、いや、ひょっとすると冷酷な何かを持っているのかもしれなかったが、しかし生きていくのにどこか楽観的な余裕を持っている気もした。この人物は剣を持ち、心身ともに強靭である上に、見た目だってとんでもなく上等にできていた。明日も明後日のことも、もっとずっと先のことも考えなくたってうまく生きていける人物。ぼくとは違って、彼はそういう人物に違いなかった。
先へと進みだしたネコの後をぼくとマグナスは共に追いかけて歩き出した。
「だいじょうぶだって?」ぼくは手紙をしまって、隣のマグナスに声をかけた。「どこが? すべてが全然だいじょうぶじゃない。大体しゃべるネコってのがおかしいじゃないか! きみはあのネコの、まるで、いうがままに動いてる。そもそもぼくはああいう奇妙な生き物については全く無視して生きてきたんだ。それなのにきみはこんなおかしな状況を何とも思ってないみたいだ。普通だったらこんな状況、ぜったい腑に落ちないさ!」
マグナスは穏やかな笑みを浮かべてさらりといった。「じきに慣れるさ」
「それに」とぼくは続けた。「どうしてぼくの居場所がわかった? それと奇妙な生き物たちは何なのさ。見えない人には見えないくせに」
マグナスがまた答えた。「じきにわかるさ」
前を歩くネコが振り返った。「少しだけ教えてやろう、歌うたい。この世はひとつだけではないのだ。世界は無数に存在する。個々の世界が時に隣同士で存在し、また別の時には完全に離れて存在している。それぞれが星のように移動し、今日存在した場所に同じものが明日もあるとは限らないのだ。一方でこうもいえる。隣り合った世界の境目がきちんと分けられているときもあれば、滲んで互いに浸透しているときもある。突如何かが出現してくるときには境目が薄くなっているということだ。この世は実に複雑なのだ」
「あぁ……」肩から空気が抜けた。めまいがした。うんざりした。「あぁ……もういいよ。まぁいいさ」
ぼくはマグナスを見た。「とりあえずはこういう生き物が見えるのがぼくだけじゃないって分かったからさ、――だって考えてもみなよ、ここでこうしてネコと喋っているのを人に見られたとしたらぼくは完全にアタマがおかしいってことだろ? でもここに同じような人物がいるんだから」
しばらく誰も何もいわずに歩いていたが、結局また自分から口を開いた。
「いっておくけど、ぼくは血を見るのは無理だよ。剣をふりまわす輩とこれまで共にいたことは一度もない。まぁきみは剣を持った一般的な大男と見た目違うのはわかるけどさ。とにかく暴力とかそういう野蛮なことがいちばん嫌なんだ。何か保証をもらわなくちゃ、この先そういうものには遭わずにすむっていう」
一人とネコ一匹はその問いに何も答えなかった。それでもしばらくするとマグナスが口を開いた。「これまでとは少し違ったことに出会うだろうが、その分報酬が出るってことさ。ジョンの安全ならおれの剣かサフソルムの牙でなんとかなる」
これ以上何かをいうのは無理だった。報酬という言葉はぼくを黙らせた。このお喋りなジョンをね。とりあえず行った先で何か利益を得て、危険な出来事に出くわしたら彼らに任せて逃げるってこと!
家々の立ち並ぶ通りを抜けて、地面を覆っていた石畳が終わりになる辺りで、マグナスが一軒の馬屋へ向かい、二頭の栗毛の馬を左右の手にたずさえて戻ってきた。一頭の手綱を渡され、もう一頭に彼は身軽に飛び乗った。
ぼくは手綱を持ったまま立ち尽くした。「いまここで馬に乗るのが得意じゃないっていったら怒るかい?」
マグナスはさあ、とハンサムな微笑を湛えて答えた。そして優雅に馬をくるりとまわしてみせた。
ネコがぼくの足元に寄ってきて、地面に座り、ぼくに命令した。「乗れ。とにかく馬に乗れ」
ぼくは仕方なく馬をなだめんがために、――といっても、おとなしい馬だったのだが――、首筋をぽんぽんとたたいた。馬はそれが気に入らなかったのか、大量の息を鼻から吐き出して足を踏み鳴らした。ネコが舌打ちをし、目にもとまらぬ速さで馬の背に乗ると馬はなぜかおとなしくなった。しかし荷物やら楽器やらを抱えて馬の背に乗るのは大変で、文句をいってやろうと口を開きかけたが何も出てこなかった。ネコの後ろに苦労して乗ると一息つく間もなく二頭は一気に走り出し、白夜の街を後にした。
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