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「は?」

思わずフォークを操る手を止めた。
パチリと瞬いた俺のナナメ前ではなんてことなさそうに王子が優雅に食事を続けている。

「まだ先だが予定でもあるのか?」

「いえ、そうではなく……」

躊躇ためらいの理由はそこじゃない、断じてそこじゃなくて!

 “今度兄上の誕生日パーティーがある。招待状を送ったからもうじき届くはずだ”

まるで友人を遊びにでも誘うようにさらっと零されたそんなお誘い。
いや、こうして食事や行動を共にすることも増えたし、畏れ多くも友人扱いは百歩譲っていいとする。

「えー、俺らもいいんすか?」

「……どうして私まで?王太子殿下とはご面識もなければ、私はしがない一貴族ですし……」

肉にかじりつきながら興味津々で声をあげるカイルとは対照的に、俺はフォークを置いて言葉を濁した。

王子……ラインハルト様の兄上、しかも今度誕生日を迎える長兄はつまりは次期国王たる王太子殿下だ。

その誕生日パーティーといえば、王城で開かれる盛大なもの。
当然多くの貴族たちが招待されるが、招待客は各家の当主や後継者、特別に親しい者など格のある者達ばかりだろう。

招待客の同伴者という形でそれ以外の貴族が参列することはあれど……しがない伯爵家の次男坊の俺が直接招待される意味がわからない。

っか、ぶっちゃけ出たくない。

豪華絢爛な王族主催のパーティーに興味がないではないが、それはあくまでちょっとチラ見してみたいぐらいの好奇心。

現実問題として、そんなお偉いさんがたの集まりで粗相でもしたら……って考えるとカイルのように純粋には喜べねー。

「相変わらずだな。普通の貴族なら尻尾を振って飛びつくぞ?」

クツと喉を鳴らして王子が楽し気に笑った。
そして王子だけでなく、スープを口に運んでるレイヴァンの唇と目元もちょっと弧を描いている。

なんでそんな機嫌よさそうなん?

権力に群がる貴族共ハイエナに慣れている彼らには、俺のような「触らぬ神に祟りなし」精神の小物チキンは逆に新鮮なのだろうか……。

「まぁ、ともかく。招待は決定だ。一度兄上たちにも紹介したいと思っていたしな。兄上たちも話をしてみたいと言っていた」

はっ?!

待って!!なんでっ??

王太子殿下の誕生日パーティーに招待ってだけでもビビッてんのに、まさかの主役にご挨拶とか……。

内心焦りまくっている俺にさらにレイヴァンたちがしれっと追い込みをかけてきた。

「僕も両親に紹介したいと思ってたので丁度よかったです。家に招待しようと思いつつ、なかなか学園の休みと父の都合がつかなくて……」

「でしたら私もお兄様をご紹介しますわ。留学していたのでこの学園の生徒ではありませんでしたけど、ラファエル様やカイル様とは一つ違いで御歳も近いんですの」

は?の形のままポカンと口が固まる。

レイヴァンのご両親といえば宰相でもある侯爵夫妻、リーゼロッテ様のお兄様は次期公爵と、これまたVIP中のVIPだ。

しかもレイヴァン!!

その “両親に紹介” ってどういう意味でなのっ??

普通に学園で親しい友人、もしくは先輩って紹介だよね?
まさか “付き合ってます” ってカミングアウトじゃないよね?!

心中大パニックでレイヴァンを見れば、にっこりと極上の笑顔を返されたんだけど……その笑顔の意味ってなにーーーー???

レイヴァーンーーーーーー?!

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