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「ラファエル様に他意はないのかもしれませんが……少々、距離が近すぎるのではありませんか?」

固い口調で発された言葉は予想だにしないものだった。

思いがけない言葉に声を失う。
そんな俺の沈黙をどう取ったのか、勢いを増すリーゼロッテ様。

「仲が宜しいのは良いことですが、いささか良すぎると思いますわ。ラファエル様も、それにシエル様にも恋人がいらっしゃるのでしょう?レイヴァン様もシエル様の恋人の方も気が気でないと思いますの」

ガラスに背を向けたリーゼロッテ様の表情は見えずとも、そちらを向いている俺のポカン顔はよく見えるのだろう。レイヴァンたちが不思議そうな顔をしている。
あっ、レイヴァンが扉に向かおうとしてアレンに腕つかまれた。

現実逃避みたいに彼らの状況に気を取られつつ、パチリと瞬いて首を傾げる。

「それほどでしょうか?」

「それほどですわっ!!」

うーん。

確かに俺のとこは家族仲もいいし、距離が近いっちゃ近いのかもしれない。
けどこうして呼び出し喰らうほどのことでもない気はする。
まぁ、レイヴァンがやきもち焼いてたのは事実だけどさ。

納得いかない顔の俺に、身体の両脇で握りこぶしを作ったリーゼロッテ様が前のめりに叫んだ。

「どう考えたって親密すぎですっ!!まるで恋人のような距離感です。お……同じベッドで寝るなんて……っ。そっ、それだけじゃなく…………お、おふっ……お風呂まで、だなんて……っっ!!」

顔が真っ赤だった。

沸騰しそうな程に真っ赤なのは顔だけじゃなく、耳も腕も全身で。
婚約者の尋常じゃない様子に、今度は王子が走り出そうとしてカイルに羽交い絞めにされている。

「お風呂……」

「シ、シエル様が仰ってましたのっ」

相変わらず真っ赤な顔でリーゼロッテ様が告げた。

ゆで蛸たこのようなそのお顔を見て、シエルが別れ際にリーゼロッテ様となにやら話していた時の内容はもしかしてこれか、と思った。

「ですがシエルはまだ子どもですし……」

「ラファエル様にとってはそうかもしれませんが、14歳はそう子どもではありませんわ!」

苦笑い気味に言い訳を口にすれば返されたその言葉に「ん?」と首をひねった。

14歳……?

ガラスの向こうのカイルを見れば、バッチリ視線が合わさってあっちも「ん?」と首を傾げた。

そして……なんとなく気づいた。

なるほど、テメェの所為せいせいか。コノヤロウ。

レイヴァンのやきもちと、俺がリーゼロッテ様にお呼び出しされた理由がわかって、そう内心で呟きながら額を押さえる。
そして声が届かないところに居るカイルの代わりに目の前のリーゼロッテ様へと問いかけた。

「もしかしてなんですが……シエルの年をご存じないですか?シエルは5歳なんですが……」

「はっ?」

鳩が豆鉄砲を食ったような、ってこんなんなのかな?

俺はことの経緯を説明した。

「……ってことでシエルの実年齢は5歳です。そもそも兄が結婚したのは20過ぎですし」

信じがたい話だろうが、客観的事実も加えれば信じて貰えたようだ。

さっきまで真っ赤だったリーゼロッテ様の顔色が元へと戻り、逆にすぅっと青褪めて、再び赤く染まるという大変化を起こすのをなんとも言えずに見守った。

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