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俺、なんかやった……?

心当たりが思う浮かばないまま、内心ビクビクしてリーゼロッテ様を見る。
リーゼロッテ様は見るからにお怒りだ。

そんな仁王立ちの彼女と裏庭で向きあった俺。

あの場で “お話し” とやらをするつもりはなかったようで場所を移した俺たち。
王子らはついてこようとしたがきっぱりお断りされた。

……だが、王子やレイヴァンは当然のように納得しないし、俺としても王子殿下の婚約者様と二人っきりというのは避けたい。

と、いうことで食堂のガラス越しの裏庭に落ち着いた。
ここなら姿は見えるけど会話は聞こえない。

リーゼロッテ様は背を向けてるから気づいてないけど……俺からはガラス越しに丸見えな不審者たちが気になって仕方がない。

「それで、お話しというのは?」

唇を引き結んだままのリーゼロッテ様に問いかければ、肩眉がピクリと上がって俺の肩もビクリとあがる。

「ラファエル様」

静かな声が俺を呼んだ。

「私、お二人がお付き合いされたことは大変喜ばしく思っておりますの。レイヴァン様があれほど感情を豊かに出されるお相手はラファエル様だけですし、ラファエル様は優秀でお人柄も素晴らしく、申し分ない方だと思っておりますわ」

「いえ、そのようなことは……」

謙遜けんそんは必要ありませんわ。それにな方だとも信じておりますわ」

なんかやたら誠実に力が込められたな……。

そしてじりじりと近寄ってくる不審者たちがめっちゃ気になってイマイチ集中できないんですが。

気になるのはわかるけどガラスに張り付くのはやめなさい。他の生徒に気付かれたら大変だからレイヴァンも王子も自重して。んでもってカイルとアレンは面白がってねーで二人を止めろ。

「押し切った、とレイヴァン様は仰っていましたが……ラファエル様も彼のことはお好きですのよね?」

「もちろん。そうでなければ付き合ったりしませんよ」

上目遣いで躊躇ためらいがちに問われた言葉に迷わず返せば、華奢な肩がほっとしたように下りた。
あからさまに安堵するその姿を見て俺の気持ちも少しほぐれた。
急なお呼び出しは驚いたが、ようは友人を心配してのことなのだろう。

……さっきまでご機嫌だったのになんで急変したのかは謎だけど。

そんなことを思っているとその答えを告げるように再び問われた。

「じゃあシエル様のことは?」

「シエル……?」

何故にシエル……?

首を傾げる俺にリーゼロッテ様はひどく真剣な表情のまま「ええ」と頷く。

「可愛い甥っ子ですが……?」

「あくまで親戚としての愛情で、レイヴァン様への感情とは別ですか?」

「え?ええ。それは当然……」

困惑しながらも答えれば、リーゼロッテ様の表情は微妙なものへと変化した。

安堵と不満、言いたいけれど言いにくいことがありそうな、なんともいえない表情に。
数秒の沈黙。

唇をもごもごと動かして、真っ赤になったり、目を逸らして俯いたりと挙動不審な様子を見せたリーゼロッテ様が意を決したように顔をあげた。

頬を色づけたまま淡いピンク色の唇が開いた。

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