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ティーカップへと手を伸ばす。
乾いた舌を潤すようにゆっくりと一口含んだ。

「……好きだよ」

意外にも、その一言は滑り出すように自然に零れた。

「正直、自分自身で驚いているよ。私は、その……恋愛において自分の嗜好しこうは異性だとしか思っていなかったからね」

苦笑いを浮かべつつ、無意味に手の指を組んで弄ぶ。

「だから無意識に考えないようにしていたんだろうね。いつからかはわからないし、もしかしたら最初からだったのかも知れない。それは自分でもはっきりわからないけど、私はレイヴァンのことを恋愛対象として好きらしい。
見ないフリをしてきたそれをあの夜はっきり突き付けられた。雰囲気に流されたのはあるんだろうね、だけど……そういった感情がないのなら、口付けなんてしない」

あんなことをしながら「付き合えない」とお断りした手前、多少の言い訳も兼ねてそう口にすれば「嬉しいです」と花開くようにレイヴァンが笑った。

「ちなみに、女性とのお付き合い経験は?」

そしてすぐさま真顔で繰り出された質問には緩く首を振る。
本当に?と心の声丸出しで疑り深い視線で見つめてくる彼に「本当に」と答える。

「縁もなかったしね。それに……将来を約束したわけでもない女性に手をだすわけにもいかないし」

苦笑いしながら答えれば、前のめりだったレイヴァンが背もたれへと戻ってくれた。

「ラファエルは紳士ですね」

「そんなこともないだろう」

そもそも紳士だったら応えられない相手にキスなんてしない。

貴族に限ったことではないが、醜聞というのはあっと言う間に広がる。

もちろん、カイルのように遊びまくってる奴らもいるし、婚約者でない相手とのお付き合いがないわけでもない。
だが男性側はともかく、女性側は過去のそれが結婚時に大きなハードルとなることも少なくはないのだ。

それを知っていて軽々しく手を出そうとは思わなかったし、結婚を考えるような相手にも出会わなかった。ただそれだけだ。

そもそも俺、元の精神年齢があれだから今世では年上のお姉さんが好みなんだよね。

んでもって、女性の方が結婚適齢期が早いこともあって大概は旦那さん持ち。
流石さすがに人妻に手ぇ出す気はないし。

「ひとまず、お互いの気持ちは同じ、というわけですね」

いやにいい笑顔で確認してくるレイヴァンに戸惑いがちに頷けば「では次に」と会議で次の議題をあげるように彼は続ける。

「お断りの理由をお聞きしても?」

にっこり、と圧が強いその表情に俺が怯んだのは仕方のないことだったと思う。
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