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しおりを挟む「あの、レイヴァン……」
神妙な表情で口を開いた俺を遮るようにレイヴァンが料理を手で示した。
「料理と飲み物も来ましたし、折角ですので召しあがりながらどうぞ?」
「あ、うん……」
出鼻をくじかれた感が物凄い。
完全に相手のペースな気がしたが、素直に紅茶を口にした。
ローストビーフがサンドされているサンドイッチはソースが絶妙に美味しい。
表情に出ていたのか「美味しいでしょう?ここのはお気に入りなんです」とレイヴァンが笑う。
うん、美味い。
……じゃなくて、いや、味は美味いんだけどそうじゃなくてっ。
自分のペースを取り戻すべく、必死に頭をフル回転させつつもぐもぐしてると、フォークを皿に置いたレイヴァンが姿勢を正しこちらを見た。
宝石みたいな綺麗な瞳が真っすぐに俺を映す。
「あの夜も告げましたが貴方のことが好きです。愛しています。だから僕と付き合って下さい」
形のいい唇が紡ぐのは、完結でいて明瞭な愛の告白。
口の中のものを飲み込んで、だけど咀嚼とはまた別にシンプルなその告白に小さく喉が鳴った。
美しく毅然としたレイヴァンの姿とは反対に、サファイアのような瞳に映る俺の姿は滑稽な程にみっともない。
動揺と歓喜、どっちつかずな……あるいは両者を含んだ呆けた表情はひどく間抜けに見えて、小さく笑う。
彼の瞳に映り込む自分自身の姿を見たことで心は平静を取り戻した。
「有難う。君にそんな風に想って貰えたことはすごく嬉しいし光栄だ」
だけど、の言葉にレイヴァンの眉がピクリと動いた。
「君と付き合うことは出来ない」
謝罪の言葉と共に頭を下げる。
沈黙。
……さらに沈黙。
そろりと頭を上げればレイヴァンは普通に食事を再開していた。
優雅にフォークを操りタルトを口にする彼を無言で眺めること数秒。
え……?これどうすりゃいいの?
キスをしておいてと詰られる覚悟はしていた。
罵られるのも、悲しませてしまうことも想定範囲だった。
だけどこの無反応は想定外です。
プチ混乱を起こしていると真っ赤な果実を味わっていたレイヴァンとふいに視線があった。
「で?」
「へっ?」
我ながら間抜けな声が出た。
そんな俺の反応には構わず、首を傾げたレイヴァンはプラチナブロンドをさらりと揺らす。
「へっ?じゃなくて。私はラファエルの主張の続きを待ってるんです」
「あ、ああ……。その、あの夜のことは本当に申し訳ないと思っている。応えられないのにあんなことをするべきじゃなかった。いくらでも非難は受ける気で」
「非難する気はないです。了承も得ず、先にあんなことをしたのは私ですし」
言葉を遮るようにレイヴァンの声。
しかも俺の言葉をなぞるようにあんなことがやたらと強調されている。
やっぱ、怒っているだろうか……?
冷や汗が背を伝うも、よくよく見てもレイヴァンが怒っている様子はなかった。
意外にわかりやすい彼のことだ、ある程度の感情を読み取れるぐらいには側にいた自覚はあるが怒りは微塵も見当たらない。
小さめのフルーツタルトを完食したレイヴァンはダージリンティーを口にし、ゆっくりとカップをソーサーへと戻す。そしてテーブルの上に両手をつくと、組んだその手に顎を乗っけてにこりと笑った。
「そうですね……まずは貴方の気持ちをお聞きしても?」
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