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しおりを挟む人気が途絶えたところを見計らい、絡みついた指。
指の間にがっちりと指が絡まるそれは、所謂 “恋人繋ぎ” というヤツだ。
「誰も居ないしいいでしょう?」
思わずその手へと視線を向けた俺にレイヴァンが笑いかける。
「付き合っているんですから」
繋いだ手にきゅむっと力を込めて彼はそう続けた。
ぷらぷらと手を大きく揺らして見せる姿はどこか幼く、 “アイスプリンス” とか誰のことだ?って思われそうな柔らかな笑みを浮かべている。
不思議な形をした巨大な多肉植物を「あれはなんていう品種でしょう?」なんて説明書きを覗き込んでいる姿は実にご機嫌だ。
「すごいですよラファエル。この植物は数十年に一度しか花を咲かせないそうです。それからこの植物はとても甘いシロップがとれるそうですが……あまり甘いイメージがわきませんね。あ、お酒も造れるみたいですよ。度数がすごい」
「花も随分と独特だね」
説明書きのすぐそばに展示されたイラストと見て思わず呟く。
場所は植物園の温室エリア。
なにをしているかといえば、デートの最中だ。
そう、おデートですよ、おデート。
しかも本日でもう三回目。
先のレイヴァンの言葉どおり、お付き合いをはじめた俺たちです。
前回、前々回は以前約束していた場所や互いのお勧めの店などを回ったが、今日は「人気が少なくゆっくりできるところ」という彼のリクエストで植物園に来ていた。
オルゴールや時計を扱うミュージアムと迷ったんだが、こっちの方がよりレイヴァンの希望に沿うかなと思ってこっちにした。
繊細な歯車の羅列や、それが生み出す仕掛けは彼も好きそうだから今度あっちも連れて行こう。
多分気にいると思う。
鮮やかな花が咲き誇る整えられたガーデンにはまだちらほらと人気があったが、どちらかというと地味で、かつ夏のこの次期にはちょっぴり熱いこの温室エリアはほぼ俺らの貸し切りだ。
だからこそこうして恋人繋ぎなんてして堂々とまわれるんだけど。
背の高いサボテンが並ぶ一角でふいにグイっと手を引かれた。
説明書きを読むために前のめりになっていた体勢はぐらりと揺らぎ、慌てて柱へと片手をつく。
唇にふにりと柔らかな感触と小さなリップ音。
柱と俺に挟まれたレイヴァンが悪戯が成功した子供のような表情で笑った。
「誰も見てませんよ?」
ね?ともう一度重なる唇。
ぽかんとなすがままの俺
「……レイヴァン」
「別に悪いことをしているわけじゃありませんから」
困り顔の俺に彼がしれっと言い放つ。
実際、悪いことをしているわけじゃないのだ。
この世界では同性同士の婚姻も珍しくない。
お互いフリーで既婚者でも婚約者がいるんでもない俺らが付き合うのも、イチャつくのもなんの問題もない。人前で手を繋ごうが、キスをしようが咎められるわけじゃない。
……「バカップルめ!」とは思われるかもだけど。
それなのに人目を避けているのは、まだ色々と感情の整理だのがつかない俺の問題。
柔らかな頬に手を伸ばし、少しだけ仰向かせると小さなキスを落とした。
「好きだよ」
その言葉に嘘はない。
不安にさせているだろうか?
そんな想いから零した行動と言葉に、レイヴァンは花開くように倖せそうに微笑んだ。
沸き上がる愛しさに心の中でこっそり白旗をあげる。
どうやら思った以上に自分は自制心がないようだ。
そもそも、レイヴァンへの想いを自覚したとはいえ、付き合うつもりなどなかったのだ。それなのに葛藤だの自制心だのがボロボロ音を立てて崩れていく。
あれは、王都に戻って3日目のこと___________。
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