73 / 128
73 (※)ラインハルト
しおりを挟むコイツこんなにわかりやすい奴だったか?
思わずそんなことを思ってしまったのも仕方がない。
「ラインハルト殿下とリーゼロッテ様はそちらの馬車へ。マルク様とゼリファン隊長はどうぞお二人とご一緒に」
そういって侯爵家の紋が入った黒塗りの馬車を示すレイヴァン。
別にその言動におかしなところはない。
侯爵家の馬車が立派な造りをしているとはいえ、人数を考えれば数台にわかれるのは当然。
そして王族である俺に護衛として二人がつくのもまた当然。
当然……なのだが、レイヴァンの本心はゼリファンをこっちに寄越したいだけだ。
賭けてもいい。
いつもは呼び捨てな癖にわざわざ殿下呼びまでして俺をダシに使いやがって。
「ずいぶんと嫌われたな」
「そのようですね」
揶揄い半分にかけた言葉には薄く笑って答えられた。
まぁ、昨日も一昨日もちょっとでもエバンスに近づこうものならことごとくレイヴァンに敵意を向けられていたゼリファンだ。あのあからさまな態度に気付かないわけもないだろう。
「ちょっかいをかけたのが面白くなかったようで」
クッと喉を鳴らす姿は嫌味なぐらいに男前。
凄みさえ帯びた美貌の男はいつになく機嫌が良さそうだ。
「ちょっかい……」
「ロッティ?」
なにやら赤い顔でふるふる震えるロッティにどうした?と声をかければ「ちょっと暑くて」と扇を仰ぐ。少し窓を開けるか。
「エバンス様のことか?」
その名に薄い唇が微かに笑みを浮かべた。
問いかけたマルクの瞳が開かれる。
隣に座る男を見るその瞳には意外なものを見た驚きが浮かんでいた。
正直、俺も驚いている。
堅物で婚約者以外には見向きもしないマルクと違い、目の前の色男は決して品行方正でない。
ハメを外すようなことはしないが、誘われればそれなりに応じていたのは風の噂で知っている。
だが気まぐれや一夜の相手ならばともかく、この男が他人に興味を抱くのは稀だ。
レイヴァンといい、ゼリファンといい、エバンスは他人に興味が薄い奴らを惹き付けるなにか特殊な磁力を放っているのかもしれない。
「珍しいな」
「殿下も興味がおありかとおもいましたが?」
返されたそれには、「まぁ、な」と曖昧に答えた。
彼らの抱く感情とは違うが、興味というならあるだろう。
前々から手元に留め置けたらと考えてはいたが、いまはより一層そう思う。
「卒業後はクラウ・ソラスに入隊するつもりだった。もちろん一時期だけだがな。……でもいまは迷っている」
いずれは公務を担うことになるだろう。
だけど数年はクラウ・ソラスに所属する許可は父王からも得ていた。
民を、国を直接的に守る部隊であるクラウ・ソラスに所属することは誇り高いことで、王族貴族では珍しいことでもない。
「 “象徴としての影響力” あの夜のエバンスの言葉が頭を離れなくてな」
王族である自分だからこそもっと他にできることがあるんじゃないか。
あの日からその考えがぐるぐると渦巻く。
未だ心は定まらないのに、浮き立つように鼓動が踊る。
足の上に置いていた手に、そっと華奢な繊手が重ねられた。
「すぐに答えを出される必要はありませんわ。どのような決断を選ぼうと、私はラインハルト様を応援いたします」
柔らかな笑顔に、思わず抱きしめようとして人前だというのを思い出した。
ワザとらしく咳ばらいをして座り直す。
「興味深い男なのは認めるさ。領地に返すのは惜しいくらいにな」
将来的には側近候補としてぜひとも勧誘したいところだが……下手をすると俺までレイヴァンに睨まれそうな気しかしないな。
177
お気に入りに追加
855
あなたにおすすめの小説
泣かないで、悪魔の子
はなげ
BL
悪魔の子と厭われ婚約破棄までされた俺が、久しぶりに再会した元婚約者(皇太子殿下)に何故か執着されています!?
みたいな話です。
雪のように白い肌、血のように紅い目。
悪魔と同じ特徴を持つファーシルは、家族から「悪魔の子」と呼ばれ厭われていた。
婚約者であるアルヴァだけが普通に接してくれていたが、アルヴァと距離を詰めていく少女マリッサに嫉妬し、ファーシルは嫌がらせをするように。
ある日、マリッサが聖女だと判明すると、とある事件をきっかけにアルヴァと婚約破棄することになり――。
第1章はBL要素とても薄いです。
悪役令息は断罪を利用されました。
いお
BL
レオン・ディーウィンド 受
18歳 身長174cm
(悪役令息、灰色の髪に黒色の目の平凡貴族、アダム・ウェアリダとは幼い頃から婚約者として共に居た
アダム・ウェアリダ 攻
19歳 身長182cm
(国の第2王子、腰まで長い白髪に赤目の美形、王座には興味が無く、彼の興味を引くのはただ1人しか居ない。
モブらしいので目立たないよう逃げ続けます
餅粉
BL
ある日目覚めると見慣れた天井に違和感を覚えた。そしてどうやら僕ばモブという存存在らしい。多分僕には前世の記憶らしきものがあると思う。
まぁ、モブはモブらしく目立たないようにしよう。
モブというものはあまりわからないがでも目立っていい存在ではないということだけはわかる。そう、目立たぬよう……目立たぬよう………。
「アルウィン、君が好きだ」
「え、お断りします」
「……王子命令だ、私と付き合えアルウィン」
目立たぬように過ごすつもりが何故か第二王子に執着されています。
ざまぁ要素あるかも………しれませんね
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
ギャルゲー主人公に狙われてます
白兪
BL
前世の記憶がある秋人は、ここが前世に遊んでいたギャルゲームの世界だと気づく。
自分の役割は主人公の親友ポジ
ゲームファンの自分には特等席だと大喜びするが、、、
旦那様と僕
三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。
縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。
本編完結済。
『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。
麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る
黒木 鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる