44 / 106
44
しおりを挟むヤバい、ついに幻聴が……。
興奮しすぎたようだぜ、とコッソリと深呼吸を一つ。
だけど無情にも俺に落ちた影も、オーラありまくりな存在感もなくならない。
あと周りの突き刺さるような視線も。
「私、ですか……?」
思わず自分を指して確認してしまったのは仕方がない。
「ああ」
めっちゃあっさり肯定されたけど。
居住まいを正して隣を見上げる。
本来なら立ち上がるべきなのだろうが、それをしたら彼の誘いに是と答えたことになりそうで嫌だ。
「ご冗談でしょう?私などがゼリファン隊長のお相手を出来るわけ……」
「ただの手合わせだ。勝たなければならないわけでもない。なんなら誰か指定しろ。俺は一人だ、お前の方は何人でもいい」
「……どうして私を?」
「さっきからお前は観戦してるだけだろう?それに折角だ、コレの性能も見せたいしな」
コレと翳されたのは俺が見立てた大剣。
どこからか無責任な囃し立てる声が響く。
「手加減してやれよ、隊長!」だの「俺を選べ!隊長と闘りてぇ!!」だの大盛り上がりだ。
なんかもう完全に断れる雰囲気ではない。
渋々重い腰を上げた俺はざっと周りを見渡す。
当然ながら俺が勝てるような相手ではない。むしろ戦闘力でいえば誰と闘っても絶対負ける自信がある。
だがやるなら全力で挑みたい。
こんな機会、二度とないだろうし。
「グレゴリー様とエアリス様、宜しいですか?」
視線を止め、名を告げたのは二人。
屈強な肉体をした大男と、線の細い小柄な男性。
名を呼ばれた二人は驚いたものの、素直に求めに応じてくれた。
グレゴリーはパワータイプの斧使い、エアリスは俺がよく使ってたクラウ・ソラスでも屈指のスピードを誇るキャラだ。
基本は暗器を得意とした暗殺者っぽい戦闘スタイルで、だけと他の武器も使えれば魔法もそこそこ。一撃の威力こそ高くはないが使いやすくて重宝していたお気に入り。
深く息を吐いて、リンクに立った。
「……たたっ」
痛みを堪え、起き上がる。
リンクの上に倒れている俺とエアリス、グレゴリーはリンク外までふっ飛ばされて、ただ一人ゼリファンだけが変わらず立っている。
結果はゼリファンの圧勝。
まぁ、そうだよな。
納得しつつ、それでも若干沸き上がる悔しさを押し殺していると目の前に差し出された掌。
顔を上げれば手の主はゼリファンで……。
座り込んだままその手を取ればグイッと力強い力で引き上げられた。
「ゼリファン隊長に一撃入れやがった!!」
「最後のアレは何だ?!」
「おいおい。はじめて組んであれかよ……」
ゼリファンの唇が開かれたのと同時に一瞬前まで沈黙に包まれていた周囲がどっと沸き立った。
手を握ったままのゼリファンの頬を薄く過る赤い線。
俺が放った魔法によるものだ。
ほぼ血も流れていないような薄っすい傷だが……。
まぁ、一撃は一撃。
良かった。他のみんなが善戦してる中、俺だけ「アイツだっせぇ!」扱いされずにすんだぜ!
そもそもモブに無茶ブリが過ぎる。
「やるじゃねぇか!隊長の動きをあんなに読むなんざ驚いた!」
がはははは!と豪快に笑いながらグレゴリーにバンバンと背中を叩かれる。
普通に痛い。やめて、お願い。
「なぁ、隊長?」
「ああ。驚いた」
「悪いな。俺もグレゴリーも指示通りに動くべきだった」
エアリスに謝罪され、いえいえと慌てて手を振った。
そもそも別に指示を無視されたわけじゃない。
ゲームじゃないんだ。思い通りに人を動かせるわけがない。
ましては信頼関係のある相手ならともかく、俺は戦闘経験さえ少ない一学生。
鉄板キャラゆえにゼリファンの攻撃スタイルを熟知した俺が「右」だの「左」だの指示を出したところで、躊躇いやタイムラグが生まれるのは当然だ。
「お前、本当に本格的な指揮経験はないのか?」
163
お気に入りに追加
718
あなたにおすすめの小説
僕は悪役令息に転生した。……はず。
華抹茶
BL
「セシル・オートリッド!お前との婚約を破棄する!もう2度と私とオスカーの前に姿を見せるな!」
「そ…そんなっ!お待ちください!ウィル様!僕はっ…」
僕は見た夢で悪役令息のセシルに転生してしまった事を知る。今はまだゲームが始まる少し前。今ならまだ間に合う!こんな若さで死にたくない!!
と思っていたのにどうしてこうなった?
⚫︎エロはありません。
⚫︎気分転換に勢いで書いたショートストーリーです。
⚫︎設定ふんわりゆるゆるです。
逆ざまぁされ要員な僕でもいつか平穏に暮らせますか?
左側
BL
陽の光を浴びて桃色に輝く柔らかな髪。鮮やかな青色の瞳で、ちょっと童顔。
それが僕。
この世界が乙女ゲームやBLゲームだったら、きっと主人公だよね。
だけど、ここは……ざまぁ系のノベルゲーム世界。それも、逆ざまぁ。
僕は断罪される側だ。
まるで物語の主人公のように振る舞って、王子を始めとした大勢の男性をたぶらかして好き放題した挙句に、最後は大逆転される……いわゆる、逆ざまぁをされる側。
途中の役割や展開は違っても、最終的に僕が立つサイドはいつも同じ。
神様、どうやったら、僕は平穏に過ごせますか?
※ ※ ※ ※ ※ ※
ちょっと不憫系の主人公が、抵抗したり挫けたりを繰り返しながら、いつかは平穏に暮らせることを目指す物語です。
男性妊娠の描写があります。
誤字脱字等があればお知らせください。
必要なタグがあれば付け足して行きます。
総文字数が多くなったので短編→長編に変更しました。
悪役令息なのでBLはしたくないんですけど!?
餅粉
BL
大学生だった天城陵は飲み会で酔い潰れ、気がついたら妹がプレイしていたBLゲームの悪役令息ルーカスになっていた。悪役令息なのでBL展開はないなと油断しているうちに攻略対象であり婚約者であったロシェスにいつの間にか溺愛されていた!?
「あれ,俺確かロシェスに婚約破棄され殺されるのではなかったか?」
※攻略対象はロシェス含め四人の予定
学生ですので投稿が不定期です。
色々と書き直し中で7〜32非公開にしています。
悪役令息に憑依したけど、別に処刑されても構いません
ちあ
BL
元受験生の俺は、「愛と光の魔法」というBLゲームの悪役令息シアン・シュドレーに憑依(?)してしまう。彼は、主人公殺人未遂で処刑される運命。
俺はそんな運命に立ち向かうでもなく、なるようになる精神で死を待つことを決める。
舞台は、魔法学園。
悪役としての務めを放棄し静かに余生を過ごしたい俺だが、謎の隣国の特待生イブリン・ヴァレントに気に入られる。
なんだかんだでゲームのシナリオに巻き込まれる俺は何度もイブリンに救われ…?
※旧タイトル『愛と死ね』
婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する
135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。
現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。
最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。
転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!
煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。
最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。
俺の死亡フラグは完全に回避された!
・・・と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」
と言いやがる!一体誰だ!?
その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・
ラブコメが描きたかったので書きました。
悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】
瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。
そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた!
……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。
ウィル様のおまけにて完結致しました。
長い間お付き合い頂きありがとうございました!
カクヨム、小説家になろうでも投稿しています。
死に戻り悪役令息が老騎士に求婚したら
深凪雪花
BL
身に覚えのない理由で王太子から婚約破棄された挙げ句、地方に飛ばされたと思ったらその二年後、代理領主の悪事の責任を押し付けられて処刑された、公爵令息ジュード。死の間際に思った『人生をやり直したい』という願いが天に通じたのか、気付いたら十年前に死に戻りしていた。
今度はもう処刑ルートなんてごめんだと、一目惚れしてきた王太子とは婚約せず、たまたま近くにいた老騎士ローワンに求婚する。すると、話を知った実父は激怒して、ジュードを家から追い出す。
自由の身になったものの、どう生きていこうか途方に暮れていたら、ローワンと再会して一緒に暮らすことに。
年の差カップルのほのぼのファンタジーBL(多分)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる