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ヤバい、ついに幻聴が……。

興奮しすぎたようだぜ、とコッソリと深呼吸を一つ。
だけど無情にも俺に落ちた影も、オーラありまくりな存在感もなくならない。
あと周りの突き刺さるような視線も。

「私、ですか……?」

思わず自分を指して確認してしまったのは仕方がない。

「ああ」

めっちゃあっさり肯定されたけど。

居住まいを正して隣を見上げる。
本来なら立ち上がるべきなのだろうが、それをしたら彼の誘いにと答えたことになりそうで嫌だ。

「ご冗談でしょう?私などがゼリファン隊長のお相手を出来るわけ……」

「ただの手合わせだ。勝たなければならないわけでもない。なんなら誰か指定しろ。俺は一人だ、お前の方は何人でもいい」

「……どうして私を?」

「さっきからお前は観戦してるだけだろう?それに折角だ、の性能も見せたいしな」

かざされたのは俺が見立てた大剣。

どこからか無責任なはやし立てる声が響く。
「手加減してやれよ、隊長!」だの「俺を選べ!隊長とりてぇ!!」だの大盛り上がりだ。

なんかもう完全に断れる雰囲気ではない。

渋々重い腰を上げた俺はざっと周りを見渡す。
当然ながら俺が勝てるような相手ではない。むしろ戦闘力でいえば誰と闘っても絶対負ける自信がある。

だがやるなら全力で挑みたい。
こんな機会、二度とないだろうし。

「グレゴリー様とエアリス様、宜しいですか?」

視線を止め、名を告げたのは二人。
屈強な肉体をした大男と、線の細い小柄な男性。
名を呼ばれた二人は驚いたものの、素直に求めに応じてくれた。

グレゴリーはパワータイプの斧使い、エアリスは俺がよく使ってたクラウ・ソラスでも屈指のスピードを誇るキャラだ。

基本は暗器を得意とした暗殺者っぽい戦闘スタイルで、だけと他の武器も使えれば魔法もそこそこ。一撃の威力こそ高くはないが使いやすくて重宝していたお気に入り。

深く息を吐いて、リンクに立った。



「……たたっ」

痛みを堪え、起き上がる。

リンクの上に倒れている俺とエアリス、グレゴリーはリンク外までふっ飛ばされて、ただ一人ゼリファンだけが変わらず立っている。

結果はゼリファンの圧勝。

まぁ、そうだよな。

納得しつつ、それでも若干沸き上がる悔しさを押し殺していると目の前に差し出された掌。
顔を上げれば手の主はゼリファンで……。
座り込んだままその手を取ればグイッと力強い力で引き上げられた。

「ゼリファン隊長に一撃入れやがった!!」

「最後のアレは何だ?!」

「おいおい。はじめて組んであれかよ……」

ゼリファンの唇が開かれたのと同時に一瞬前まで沈黙に包まれていた周囲がどっと沸き立った。

手を握ったままのゼリファンの頬を薄く過る赤い線。

俺が放った魔法によるものだ。

ほぼ血も流れていないような薄っすい傷だが……。
まぁ、一撃は一撃。

良かった。他のみんなが善戦してる中、俺だけ「アイツだっせぇ!」扱いされずにすんだぜ!
そもそもモブに無茶ブリが過ぎる。

「やるじゃねぇか!隊長の動きをあんなに読むなんざ驚いた!」

がはははは!と豪快に笑いながらグレゴリーにバンバンと背中を叩かれる。
普通に痛い。やめて、お願い。

「なぁ、隊長?」

「ああ。驚いた」

「悪いな。俺もグレゴリーも指示通りに動くべきだった」

エアリスに謝罪され、いえいえと慌てて手を振った。
そもそも別に指示を無視されたわけじゃない。

ゲームじゃないんだ。思い通りに人を動かせるわけがない。
ましては信頼関係のある相手ならともかく、俺は戦闘経験さえ少ない一学生。
鉄板キャラゆえにゼリファンの攻撃スタイルを熟知した俺が「右」だの「左」だの指示を出したところで、躊躇ためらいやタイムラグが生まれるのは当然だ。

「お前、本当に本格的な指揮経験はないのか?」

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