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休日、俺は王都にある武器屋に来ていた。

「お前武器使ってなくね?」とかいうツッコミはなしだ。

貴族として一応剣術はたしなんでいるし、ナイフなんかも持ってはいる。
ただ、剣術体術ともに上の下~中レベルという “そこそこモブ” をキープしているブレない俺だ。
なので基本は魔法重視。

対人相手ならともかく、魔獣相手ならなおさら距離取りたいしね。
ゼリファンやカイルみたいに接近戦躊躇ためらわないのは、その強さ故だろう。
チキンにはムリ。

それに、武器はロマンだ。

恰好いいデザインの剣やアーマー、ナイフや槍にetc……。見てるだけでも心が躍るし、ゲームで見た武器なんて発見した日にゃテンションMAX!
特注武器も作ってくれるこの工房は何気に常連だったりする。

いくつか買い物を済ませ、厳つい親方に発注だの雑談だのをしていると新しい客が入ってきた。
ふと扉に目をやり、驚きに目を見開く。
すると相手も僅かな驚きを浮かべて……。

「ラファエル・エバンス」

……はい?
天下の英雄・ゼリファン隊長のお口から何故に俺のフルネーム??

開きすぎて乾いた瞳をパシパシしながら、天才は記憶力もいいようだと無理矢理自分を納得させる。
正直、一モブの名を覚えてらっしゃるとは思いませんでした。

なんとか冷静さを呼び戻した俺は邪険にされるのを覚悟で彼に近づく。

皮のジャケットに細身のパンツ姿というシンプルながら男前オーラハンパないゼリファンは、いつもの隊服でないことからも恐らくプライベート。

せっかくの休日を邪魔するのは心苦しいが、助けられた身として一言お礼を告げるのは礼儀だろう。

「先日は危ういところを救って頂き有難うございました」

「いや、怪我はもういいのか?」

「はい、お陰様で」

定型文のようなやり取りではあったが嫌な顔もせずこちらの心配をしてくれた。
しかも会話に入ってきた親方とのやり取りからゼリファンもこの店の常連らしい。

なんと!!
もしかしたらゲームで出てきた武器屋ってここなのか?!
やたら見覚えある武器があるのは偶然じゃなかったのか?!と密かにテンション上がる俺。

本来の目的だろう武器を見繕いだしたゼリファンに「あっ」と声をあげてしまった。

慌てて口を閉じるも、それほど大きくなかった筈の声はしっかり届きアイスブルーの瞳がこちらを捉える。

「どうした?」

ミーハー根性でゼリファンを盗み見てしまっていた俺は「すみません」と首をすくめる。

ゼリファンの手にした剣は他のキャラの使用していたモノだ。
同じくクラウ・ソラスのメンバーで「エデル」という名前のキャラはゼリファンと闘い方も似通っており、彼が使ってもきっと手に馴染むだろう。

だが俺は……ここにもっとゼリファンに相応しい武器があるのを知っている。

俺がゼリファン使用時に一番愛用していた 彼のための剣が。

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