16 / 118
16
しおりを挟む牙を剥き出しにしたスコルが王子の足に噛みつく。
リーゼロッテ様が扇子を振って生み出した風の刃と、王子自身の魔法による炎によってそのスコルは絶命した。
素早い対処もあって噛みつかれた傷も深手ではなさそうだが、血の匂いに反応してか、それとも弱ったところから狙おうというのかさらに数匹の魔獣達が二人へ向かう。
「ラインハルトッ!!」
足を怪我した王子を守ろうとリーゼロッテ様がドレスをひるがえしそのおみ足でスコルをふっ飛ばし、扇子を振るう方向へと、友の名を叫んで駆け寄るレイヴァンとアレン。
ピィィィと甲高くも美しい声が響いた。
そして焦燥をあらわにした二人の前できらりと青が煌めいた。
スコルの群れを倒そうと手にした剣を、魔法を放つ腕を掲げる二人。
「え……?」
「おい……?」
呆然としたリーゼロッテ様と王子の声。
二人の声が漏れるより早く、違和感を感じ取ってすぐ視線を向けたのは上空だった。
「カイルッ!!アレンを抑えろっっ!!早くっ!!」
一番アレンと距離の近かったカイルへと叫び、自分はレイヴァンへと拘束魔法を放った。
光の輪のような拘束魔法がレイヴァンの腕ごとその身を絡み取る。
「えっ?はっ?あっ、ああ!!」
混乱しながらも飛びかかるようにカイルがアレンを羽交い絞めにした。
アレンは暴れるが兄の方が力が強く拘束を振りほどくことはできないようだ。
両手を指揮者のように振って複数の魔法を放った。
鮮やかな羽がひらひらと舞い散る。
そして数枚の羽を舞い散らせる夜啼き鳥の影にいた小鳥がピャッと甲高い声を上げて真っ二つに地に落ちた。
カイルとアレンへと向けて放った魔法が彼らの顔面近くでパァンンッ!と爆ぜた。
破裂音にビクリと体を震わせ、やがてその目が真ん丸に開かれる。
「え?」と困惑を顔中に張り付けて互いを見合った。
レイヴァンはアレンの居る方向を。
アレンはレイヴァンの居る方向を。
そして互いの間に位置する王子とリーゼロッテ様を。
自分たちが攻撃を放とうとしていたその対象を呆然と見やった。
「夢幻鳥です」
それは俺が屠った小鳥の名前。
「夜啼き鳥と共存関係であることが多く、夜啼き鳥の派手さと巨体に隠れて幻覚を見せる。宝石のような青い目で見たものに幻覚を与え、同士討ちを誘う。心が乱れているとそれだけ暗示にかかりやすくなります、気をつけて」
「……幻覚」
一羽だけであってほしいが、まだいないとも限らない。
俺は呆然としてるみんなに注意を告げた。
真っ二つになった夢幻鳥の青い瞳が空虚に空を眺める。
まるで宝石をあしらい作られた細工物のような小鳥は結構な値段がつくが、傷つけないように手加減してる余裕もなかったししゃーない。
そんでもって、呆然としてる余裕もない。
まだまだ魔獣は殺意も剥き出しにこちらを狙っているんだから。
「来ますよ。構えて」
拘束魔法をといて短く告げた。
さぁ、死にたくなければ抗え_____。
171
お気に入りに追加
785
あなたにおすすめの小説
どうやら手懐けてしまったようだ...さて、どうしよう。
彩ノ華
BL
ある日BLゲームの中に転生した俺は義弟と主人公(ヒロイン)をくっつけようと決意する。
だが、義弟からも主人公からも…ましてや攻略対象者たちからも気に入れられる始末…。
どうやら手懐けてしまったようだ…さて、どうしよう。
麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る
黒木 鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。
俺はゲームのモブなはずだが?
レラン
BL
前世で、妹に無理やりプレーさせられたBLゲームに、モブとして転生してしまった男。
《海藤 魔羅》(かいとう まら)
モブだから、ゲームに干渉するつもりがなかったのに、まさかの従兄弟がゲームの主人公!?
ふざけんな!!俺はBLには興味が無いんだよ!!
やり直せるなら、貴方達とは関わらない。
いろまにもめと
BL
俺はレオベルト・エンフィア。
エンフィア侯爵家の長男であり、前世持ちだ。
俺は幼馴染のアラン・メロヴィングに惚れ込み、恋人でもないのにアランは俺の嫁だと言ってまわるというはずかしい事をし、最終的にアランと恋に落ちた王太子によって、アランに付きまとっていた俺は処刑された。
処刑の直前、俺は前世を思い出した。日本という国の一般サラリーマンだった頃を。そして、ここは前世有名だったBLゲームの世界と一致する事を。
こんな時に思い出しても遅せぇわ!と思い、どうかもう一度やり直せたら、貴族なんだから可愛い嫁さんと裕福にのんびり暮らしたい…!
そう思った俺の願いは届いたのだ。
5歳の時の俺に戻ってきた…!
今度は絶対関わらない!
炊き出しをしていただけなのに、大公閣下に溺愛されています
ぽんちゃん
BL
男爵家出身のレーヴェは、婚約者と共に魔物討伐に駆り出されていた。
婚約者のディルクは小隊長となり、同年代の者たちを統率。
元子爵令嬢で幼馴染のエリンは、『医療班の女神』と呼ばれるようになる。
だが、一方のレーヴェは、荒くれ者の集まる炊事班で、いつまでも下っ端の炊事兵のままだった。
先輩たちにしごかれる毎日だが、それでも魔物と戦う騎士たちのために、懸命に鍋を振っていた。
だがその間に、ディルクとエリンは深い関係になっていた――。
ディルクとエリンだけでなく、友人だと思っていたディルクの隊の者たちの裏切りに傷ついたレーヴェは、炊事兵の仕事を放棄し、逃げ出していた。
(……僕ひとりいなくなったところで、誰も困らないよね)
家族に迷惑をかけないためにも、国を出ようとしたレーヴェ。
だが、魔物の被害に遭い、家と仕事を失った人々を放ってはおけず、レーヴェは炊き出しをすることにした。
そこへ、レーヴェを追いかけてきた者がいた。
『な、なんでわざわざ総大将がっ!?』
同性婚が可能な世界です。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
BL漫画の世界に転生しちゃったらお邪魔虫役でした
かゆ
BL
授業中ぼーっとしていた時に、急に今いる世界が前世で弟がハマっていたBL漫画の世界であることに気付いてしまった!
BLなんて嫌だぁぁ!
...まぁでも、必要以上に主人公達と関わらなければ大丈夫かな
「ボソッ...こいつは要らないのに....」
えぇ?! 主人公くん、なんでそんなに俺を嫌うの?!
-----------------
*R18っぽいR18要素は多分ないです!
忙しくて更新がなかなかできませんが、構想はあるので完結させたいと思っております。
嫌われ者の僕が学園を去る話
おこげ茶
BL
嫌われ者の男の子が学園を去って生活していく話です。
一旦ものすごく不幸にしたかったのですがあんまなってないかもです…。
最終的にはハピエンの予定です。
Rは書けるかわからなくて入れるか迷っているので今のところなしにしておきます。
↓↓↓
微妙なやつのタイトルに※つけておくので苦手な方は自衛お願いします。
設定ガバガバです。なんでも許せる方向け。
不定期更新です。(目標週1)
勝手もわかっていない超初心者が書いた拙い文章ですが、楽しんでいただければ幸いです。
誤字などがありましたらふわふわ言葉で教えて欲しいです。爆速で修正します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる