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第1章
第36話 装備
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話しているうちにケインさんの家に着き、あと4日ケインさんのもとで修行させて欲しいと皆で頭を下げた。ケインさんは少し困惑したような、それでいて少し嬉しそうな微妙な表情を見せたものの、乗りかかった船だから仕方ない、と引き受けてくれた。
それから昨日素材を売った代金を受け取って、できるだけ装備を整えたいので相談に乗って欲しい旨を話し、ドラムさんの営む『ドラム鍛冶工房』に向かった。鍛冶工房は金鎚の音が響くからか、村の外れ、自警団の元訓練場の近くにある。店の前を通ったことはあるが、中に入るのは初めてだ。
「おはようございます、ドラムさん」
「お! 兄ちゃん達どうした? ウチになんか用か? ん? ケインさんがなんで一緒に?」
明るい調子で挨拶に応じたドラムさんだが、ケインさんの姿を見た瞬間に大きく目を見開いた。意外な取り合わせだったからかな?
「あー、武器がだいぶ傷んできたんで買い替えたくてですね。ケインさんには修行をつけてもらってるんですよ」
「修行!? そーかいそーかい! そら、フォンド村じゃあケインさんが一番だからな! って、兄ちゃん達、今日は客か! そんじゃーホレこっちこっち! まぁゆっくり見てってくれや!」
ドラムさんは、ケインさんに修行をつけてもらうと聞いて驚いていたが、なぜかとても嬉しそうに俺の背中をバンバン叩いてきた。そして謎のハイテンションのまま、後ろから肩を掴まれグイグイ押されて武器防具コーナーに案内された。
後でアヤメさんにこの話をしたところ、ドラムさんはケインさんが『修行』というような事情で人と関わっていることが、単純に嬉しかったんだろうと言っていた。
ドラムさんとケインさんは、ケインさんが冒険者になって村を出るまでとても仲が良かったらしく、その後数年してドラムさんが街の工房に修行に出ていた頃にも親交があったそうだ。ケインさんが冒険者を引退して村に戻ってきてからずっと、人との関わりは最低限で自分自身を責めているかのように沈み込み続けているのを、とても心配していたらしい。
アヤメさんが、俺たちの修行をケインさんにお願いしたのも、ケインさんがもっと人と関わるきっかけになるように、との思惑があったのかもしれないな……。
ドラムさんの店は表側が商品を並べた店で、裏に鍛冶場があるようだ。店内は10畳ほどの広さで商品が所狭しと並んでいる。向かって右側は武器や防具が並び、左側には金属製の調理器具やら日用品と思われるものが並んでいた。武器類は木製のものや金属製のもの、モンスターの牙や角が使われたものもあり、防具類も木製、金属製、革製と、品揃えは広く浅くという印象だ。
今日はとりあえず装備品を見る予定だが、旅の間にも使える鍋とかの調理器具も必要になるだろうか。そのへんも後でケインさんに聞いてみよう。
武器防具類はざっと見たところ、中古品と思わしき、ちょっと傷みのあるものは3千リアから1万リアほど。新品は1万リアから5万リアくらいまでといった感じだ。さすがに新品をそろえるには金が足りないが、中古品なら一通り揃えられなくもないといった感じだろうか。
武器類については一応話し合っていたものを各々手に取り、重さや長さを確かめながらケインさんに相談して決めていく。コータは1mちょっとの両手剣、ミーコは片手で扱えるショートソード、サーヤは1.5mくらいの槍だ。コータとミーコは金属製のもの、サーヤの槍は、穂先にホーンラビットの角を使っているものを選んだ。俺の武器は当面、もともと持っていたナイフを使うことにした。このナイフは武器とするには小さすぎるのだが、切れ味という点ではアリアのものよりかなりいい。もっとレベルが上がって、盾を扱いながら攻撃もしっかりできるくらいになったら、改めて武器を購入するので充分だろう。
防具類についてはどうしたらよいか全く分からなかったので、ほぼケインさん任せになってしまった。とりあえず、盾役の俺だけは当然ながら盾を購入した。金属オンリーのものは、今の俺にはさすがに重くて使い勝手が悪く、丈夫な革を何枚か重ねて表面に薄い金属板を付けたものを選んだ。
あとは、全員に肩から背中と胸にかけてを守るレザーアーマーを購入しようとなったが、結局手持ちの金では足りず、それはまた明日にでも、ということになった。
欲を言えば、ミーコには片手で持てる程度の小さく軽い『バックラー』と呼ばれる類の盾を、前衛の3人には腕に付ける防具を、そして4人全員に、つま先部分に金属板の入った皮製のブーツがあれば…と言われたが、冒険者になるわけでもないので、そのへんは余裕のある時に追々揃えるということになった。
購入後は訓練所に移動して、手に入れた武器の感触を試したり、魔法の練習をしたりして昼まで過ごし、昼食をとってから昨日と同じく草原の奥の森で実戦訓練を行った。昨日の帰り際、森に入る獣道を隠すために改めてケインさんが設置した大岩を、今日もまた一瞬で崩していく。そういえば、せっかく岩を崩した砂を持ち帰っていたのに、昨日は疲れきっていて、結局考えるのも忘れていたな。まぁ、考えたところで検証のしようもないんだけど。
武器が木製から金属製になったことで、倒すのにかかる時間がかなり短縮され、その分、疲労も昨日ほどはなかった。やはり装備を整えるのは大事だな。それで、今日はオークを4体、ゴブリンを7体倒したのだが、帰りの荷物運び用に草原まで台車も持ってきていたこともあり、ケインさんが仕留めた1体を含めたオーク5体分の肉と素材も無理なく持って帰ることができた。
ただ、『赤い狐亭』ではもう、保冷庫がいっぱいいっぱいだとのことで、村で唯一の食料品店である『ターナーズマーケット』にもオーク1体を持ち込んだ。こちらの方が大きな保冷庫があるらしく、これからはこちらに持ち込むことになりそうだ。応対してくれたのは、店の主人である熊の獣人のターナーさん。本当に熊のような立派な体格で厳つい顔なのだが、頭にちょこんと乗っかった丸く可愛らしい熊耳と、これまたお尻にちょこんとくっついている丸い小さいモコモコ尻尾が、大変ミスマッチである。パーツだけ見るととても魅力的なのだが、さすがにモフモフしたいとは思わなかったな。
この日の夕食には、昨日のホーンラビットが煮込み料理で出てきた。人気のホーンラビットは、仕入れがあったらだいたいその日のうちになくなってしまうため、すぐに出来る炒め物や焼き物で出すことが多いらしい。しかし、昨日は3匹分あったため、残った肉がトロトロに煮込まれ、ビーフシチューのような料理になっていた。口に入れると、上顎と舌で挟んだだけで解れていくような柔らかさで、とろみのあるスープ(?)がよく絡んで絶品だ。昨日のソテーも美味かったが、この煮込み料理は別格だな。時間がかかる分お高いが、これは高くてもまた絶対食べくなる一品だった。今度ホーンラビットと出会ったら、ミーコなんかは「シチュー!」とか叫びながら嬉々として倒しに走るんじゃなかろうか。ケインさん、ホーンラビットをおびき寄せるような薬品の調合法知らないかな……。
ーーーーーーーーーー
翌朝、肉と素材の買い取り金で、保留していたレザーアーマーを買い足した。これでとりあえずの装備は整ったし、戦闘にもだいぶ慣れてきた、と意気揚々と実戦訓練に出かけた。昨日武器類を手にした時も勿論テンションが上がっていたが、全員でレザーアーマーを装着した姿はまたいつもと違う雰囲気で、俺たちは少々浮かれていた。ワイワイと草原への道を歩く俺たちは、傍から見れば遠足途中の小学生のようだったかもしれない。
「お前ら、慣れてきたからって油断するなよ」
見かねたケインさんから、ギロリと睨まれ、檄がとぶ。
「「「はい!」」」「うっす!」
その後はさすがに、はしゃぐことはなかったが、いつもの森の広場へと続く獣道を進み出しても、どこか浮かれた気分は残っていたように思う。広場までの道のりの3分の2程を進んだ頃、突然、先頭を歩くコータの焦った声が届いた。
それから昨日素材を売った代金を受け取って、できるだけ装備を整えたいので相談に乗って欲しい旨を話し、ドラムさんの営む『ドラム鍛冶工房』に向かった。鍛冶工房は金鎚の音が響くからか、村の外れ、自警団の元訓練場の近くにある。店の前を通ったことはあるが、中に入るのは初めてだ。
「おはようございます、ドラムさん」
「お! 兄ちゃん達どうした? ウチになんか用か? ん? ケインさんがなんで一緒に?」
明るい調子で挨拶に応じたドラムさんだが、ケインさんの姿を見た瞬間に大きく目を見開いた。意外な取り合わせだったからかな?
「あー、武器がだいぶ傷んできたんで買い替えたくてですね。ケインさんには修行をつけてもらってるんですよ」
「修行!? そーかいそーかい! そら、フォンド村じゃあケインさんが一番だからな! って、兄ちゃん達、今日は客か! そんじゃーホレこっちこっち! まぁゆっくり見てってくれや!」
ドラムさんは、ケインさんに修行をつけてもらうと聞いて驚いていたが、なぜかとても嬉しそうに俺の背中をバンバン叩いてきた。そして謎のハイテンションのまま、後ろから肩を掴まれグイグイ押されて武器防具コーナーに案内された。
後でアヤメさんにこの話をしたところ、ドラムさんはケインさんが『修行』というような事情で人と関わっていることが、単純に嬉しかったんだろうと言っていた。
ドラムさんとケインさんは、ケインさんが冒険者になって村を出るまでとても仲が良かったらしく、その後数年してドラムさんが街の工房に修行に出ていた頃にも親交があったそうだ。ケインさんが冒険者を引退して村に戻ってきてからずっと、人との関わりは最低限で自分自身を責めているかのように沈み込み続けているのを、とても心配していたらしい。
アヤメさんが、俺たちの修行をケインさんにお願いしたのも、ケインさんがもっと人と関わるきっかけになるように、との思惑があったのかもしれないな……。
ドラムさんの店は表側が商品を並べた店で、裏に鍛冶場があるようだ。店内は10畳ほどの広さで商品が所狭しと並んでいる。向かって右側は武器や防具が並び、左側には金属製の調理器具やら日用品と思われるものが並んでいた。武器類は木製のものや金属製のもの、モンスターの牙や角が使われたものもあり、防具類も木製、金属製、革製と、品揃えは広く浅くという印象だ。
今日はとりあえず装備品を見る予定だが、旅の間にも使える鍋とかの調理器具も必要になるだろうか。そのへんも後でケインさんに聞いてみよう。
武器防具類はざっと見たところ、中古品と思わしき、ちょっと傷みのあるものは3千リアから1万リアほど。新品は1万リアから5万リアくらいまでといった感じだ。さすがに新品をそろえるには金が足りないが、中古品なら一通り揃えられなくもないといった感じだろうか。
武器類については一応話し合っていたものを各々手に取り、重さや長さを確かめながらケインさんに相談して決めていく。コータは1mちょっとの両手剣、ミーコは片手で扱えるショートソード、サーヤは1.5mくらいの槍だ。コータとミーコは金属製のもの、サーヤの槍は、穂先にホーンラビットの角を使っているものを選んだ。俺の武器は当面、もともと持っていたナイフを使うことにした。このナイフは武器とするには小さすぎるのだが、切れ味という点ではアリアのものよりかなりいい。もっとレベルが上がって、盾を扱いながら攻撃もしっかりできるくらいになったら、改めて武器を購入するので充分だろう。
防具類についてはどうしたらよいか全く分からなかったので、ほぼケインさん任せになってしまった。とりあえず、盾役の俺だけは当然ながら盾を購入した。金属オンリーのものは、今の俺にはさすがに重くて使い勝手が悪く、丈夫な革を何枚か重ねて表面に薄い金属板を付けたものを選んだ。
あとは、全員に肩から背中と胸にかけてを守るレザーアーマーを購入しようとなったが、結局手持ちの金では足りず、それはまた明日にでも、ということになった。
欲を言えば、ミーコには片手で持てる程度の小さく軽い『バックラー』と呼ばれる類の盾を、前衛の3人には腕に付ける防具を、そして4人全員に、つま先部分に金属板の入った皮製のブーツがあれば…と言われたが、冒険者になるわけでもないので、そのへんは余裕のある時に追々揃えるということになった。
購入後は訓練所に移動して、手に入れた武器の感触を試したり、魔法の練習をしたりして昼まで過ごし、昼食をとってから昨日と同じく草原の奥の森で実戦訓練を行った。昨日の帰り際、森に入る獣道を隠すために改めてケインさんが設置した大岩を、今日もまた一瞬で崩していく。そういえば、せっかく岩を崩した砂を持ち帰っていたのに、昨日は疲れきっていて、結局考えるのも忘れていたな。まぁ、考えたところで検証のしようもないんだけど。
武器が木製から金属製になったことで、倒すのにかかる時間がかなり短縮され、その分、疲労も昨日ほどはなかった。やはり装備を整えるのは大事だな。それで、今日はオークを4体、ゴブリンを7体倒したのだが、帰りの荷物運び用に草原まで台車も持ってきていたこともあり、ケインさんが仕留めた1体を含めたオーク5体分の肉と素材も無理なく持って帰ることができた。
ただ、『赤い狐亭』ではもう、保冷庫がいっぱいいっぱいだとのことで、村で唯一の食料品店である『ターナーズマーケット』にもオーク1体を持ち込んだ。こちらの方が大きな保冷庫があるらしく、これからはこちらに持ち込むことになりそうだ。応対してくれたのは、店の主人である熊の獣人のターナーさん。本当に熊のような立派な体格で厳つい顔なのだが、頭にちょこんと乗っかった丸く可愛らしい熊耳と、これまたお尻にちょこんとくっついている丸い小さいモコモコ尻尾が、大変ミスマッチである。パーツだけ見るととても魅力的なのだが、さすがにモフモフしたいとは思わなかったな。
この日の夕食には、昨日のホーンラビットが煮込み料理で出てきた。人気のホーンラビットは、仕入れがあったらだいたいその日のうちになくなってしまうため、すぐに出来る炒め物や焼き物で出すことが多いらしい。しかし、昨日は3匹分あったため、残った肉がトロトロに煮込まれ、ビーフシチューのような料理になっていた。口に入れると、上顎と舌で挟んだだけで解れていくような柔らかさで、とろみのあるスープ(?)がよく絡んで絶品だ。昨日のソテーも美味かったが、この煮込み料理は別格だな。時間がかかる分お高いが、これは高くてもまた絶対食べくなる一品だった。今度ホーンラビットと出会ったら、ミーコなんかは「シチュー!」とか叫びながら嬉々として倒しに走るんじゃなかろうか。ケインさん、ホーンラビットをおびき寄せるような薬品の調合法知らないかな……。
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翌朝、肉と素材の買い取り金で、保留していたレザーアーマーを買い足した。これでとりあえずの装備は整ったし、戦闘にもだいぶ慣れてきた、と意気揚々と実戦訓練に出かけた。昨日武器類を手にした時も勿論テンションが上がっていたが、全員でレザーアーマーを装着した姿はまたいつもと違う雰囲気で、俺たちは少々浮かれていた。ワイワイと草原への道を歩く俺たちは、傍から見れば遠足途中の小学生のようだったかもしれない。
「お前ら、慣れてきたからって油断するなよ」
見かねたケインさんから、ギロリと睨まれ、檄がとぶ。
「「「はい!」」」「うっす!」
その後はさすがに、はしゃぐことはなかったが、いつもの森の広場へと続く獣道を進み出しても、どこか浮かれた気分は残っていたように思う。広場までの道のりの3分の2程を進んだ頃、突然、先頭を歩くコータの焦った声が届いた。
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