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第十話「冴さんと一緒……なのですっ!」④

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「……アヤメ先輩、部員って名前だけとかでも良いのです?」

 まず、部員の最低要件を割ってる状態。
 これを早急に解消する……それが最優先なのですよ。

「せやな。どこもそんなんやから、幽霊部員やら名義借りてってパターンも多いんやで。体育会系部活なんかも大会の時しか出て来ない助っ人部員なんてので、誤魔化しとるとこも多いしな。誰か、お友達とかいれば、声かけてくれるとありがたいんやけどな……」

「わたくし達って、あんまり同級生の友達っていなくて……。何より、わたくし達がタムラに睨まれてるってのは、皆知ってますからね……名義貸しですら、皆渋ってしまって……」

「……あたしみたいに、狙い打ちされたら堪らんって皆、そう思っとるんや。さすがにそれはしゃあないわ……」

 なるほど。
 そう言う点では、ユリはとっても都合が良い。
 
 ユリは、そう言うしがらみも何もないエスクロンからの留学生。

 留学生を追い出しとか、嫌がらせとか、そんな事したら、最悪、国際問題になる……。
 ユリが問題にしようがしまいが、そんな事になったら、大騒ぎ……マスコミが黙ってない。
 
 ユリが登校拒否になった時も、皆もその事をとっても心配して、ユリもその事に気付いたってのが思い直した理由のひとつ。
 
 生徒会長がどれだけ権限持ってても、そんな国際問題になりかねないとなると、手出しは控えると思うのです。
 
「なるほどなのです……。確かにユリは、そう言う心配はないのですよ」

「せやな……タムラもそこまでアホやないやろ。それに一応、ユリちゃんに関しては、キリコ先生から是非、宇宙活動部に誘ってやって欲しいって頼まれたんや。……あん時は、いきなり押し掛けて、騒がせてもうて悪かったなぁ……」

 ……キリコ姉。
 ホント、公私混同、職権欄用なのですよ。
 
 困った姉なのです……優しくて、妹思いで……なんだかんだで大好きなのですっ!

「……けど、そうなると、菅原さんは大丈夫なので? 思いっきり、生徒会所属……アイツの陰険さは、ちょっとなかなか定評ありますわよ?」

「そうなのですよ……その……会長さんに睨まれたら、色々大変なのではないのです?」

「私ですか? 元々、私……生徒会には不満持ってましたからね。色々裏事情知って、正直、今とっても義憤に駆られてます! 私、そう言う曲がった事って大嫌いなんです! タムラ会長が圧力かけてきても、私は絶対屈しません! むしろ、一戦交える気満々ですよ!」

 冴さん……なんだか、カッコいいのです!
 
 考えてみれば、皆がアンタッチャブル扱いしてる中、冴さんは色々手助けしようとしてくれたり、仲間はずれにならないように、色々頑張ってくれてた。
 
 要するに、見てみないふりが出来ないんだろうなぁ……いい人なのです。
 
 ……もし、冴さんが男の子だったら、とか考えたらユリもドキドキしてきた。
 う、うん……あとで、抱きついちゃおっと。
 
 けど、ユリに出来ること……活動実績を作るって事なら、前回ので一応、実績と言えなくもないのです。
 こう言うのって、外部にもアピールしたいから、公式活動報告なんかをネットで展開とか……。
 
 うん、女子高生が地上さむ~いとかやってたり、御飯作ってる動画とか撮って、公開……ウケるかも?
 エルトランとも相談して、色々考えてみよう……。
 
 部員も、あと二人……そこをクリアすれば、もう文句も言われない。

 でも、ユリ……お友達少ない……。
 その上、宇宙活動部に入ると、それだけで自動的に生徒会に睨まれる事になる。
 素行とか見た目とか、しょうもない理由でイチャモンつけられる可能性だってある。
 
 今の生徒会の執行部は、宇宙活動部を敵視してると見ていい。
 所属部員ってだけで、少なからぬ嫌がらせのひとつやふたつ、覚悟しないといけない。
 
 そんなのを承知の上で……となると、なかなか難しい。
 少なくとも、通りがかりの子やクラスメート程度ではとても頼めない……。
 
 冴さんも、友達少ない感じだし……うーん、なかなか前途多難なのですよ。
 
「……冴ちゃん、ええ子やなぁ……。まぁ、部員の件はあたしらがなんとかするから、心配せんでいいで! 冴ちゃんも、もしタムラがなんか言ってきたら、遠慮なく相談してな! あたしらが話し付けに行ったるから、任せときなぁ!」

「大丈夫ですよ。会計の岡村さんとかにも相談してみますし……。他にも生徒会に不満を持ってる子は多いんで、なんとかしてみせますよ。これは生徒会の問題でもあるんですから……。私、こうなったら次期会長、目指しますよ!」

 冴さん、驚きの次期生徒会長立候補宣言!
 
 どうも生徒会を抜本的に改革するとか、そんな事も考えてるっぽい。
 凄いのですよ……ユリだったら、そんな生徒会長とか相手取ってとか……逃げちゃうのですよ……。

「冴ちゃん、まじか……。次期会長って……あれってクラス委員から立候補するか、現会長から指名されるかって感じなんやったけ?」

「そうですわね……。クラス委員の時点で、菅原さんは会長候補の一人ってなりますし……タムラの人望の無さからすると……まともな後継者なんて、作れてなさそうですからね。そう言うことなら、生徒会長選挙……かなり荒れそうですわね」

 民主主義の基本を体験するとかで、何処の学校でもこの手の生徒会とかの選挙ってのがあるのです。
 サクラダ高校のは、間接民主制……もう、何百年も続く民主主義の基本みたいな政治形態。
 
 クラス代表ってことで選ばれたクラス委員のお仕事も、定期的に要望を拾い集めたり、アンケートとか取ったりして、意見を集約する。
 寄せられた要望やアンケート結果なんかをまとめて、その結果を様々な方面へ伝えたりする。
 
 ……要するに、学校側と生徒達、各種委員会との調整役って性格が強い。
 
 本来、その程度の組織のはずなんだけど。
 たまに勘違いして、横暴な絶対権力者みたいに振る舞う子ってのが出てきちゃう……そんな話は聞いたことあったけど……こんな身近なところでそれを見せられるとは……。

「冴さん、凄いのですよ。生徒会長とか……冴さんも入学して、半年程度なのに問題ないのです?」

 普通に考えて、一年とか下っ端。
 生意気とか言われるような気もするのです。

「問題ないで……なんせ、三月になったら、生徒会も問答無用で全員引退やからな。となると、今の一年生の中から、今から選ぶ……そんなもんや。これまでは、クラス委員の中から適当なのを見繕って指名ってやっとったけど、クラス委員の中から立候補が複数あれば、選挙って流れになるからな……案外、冴ちゃん会長とか本気でなるかもしれんで」

「いや、実は、私……そう言うのやってみたかったんですよ。あ、そう言えば、もし会長になったとして、掛け持ちって出来ますかね? それとこれは違う話なので!」

「ハセガワOBって言う偉大な前歴があるから、問題ないと思うで! いやぁ、ユリちゃんも、ええ子連れてきてくれたなぁ……」

「ですわね……思えば、これもわたくしの怠慢が撒いた種……。ユリコさんといい、菅原さんといい……わたくし達は後輩に恵まれたようですの」

 エリーさんがニッコリ笑う。
 ユリも先輩に恵まれたのですよ……と返したかったけど、何となく気恥ずかしくて、うつむいて誤魔化したのです。
 
『どうやら、皆様。お話がまとまったようですね。お茶が入りましたので、ごゆっくりとどうぞ……例によって、どなたか取りに来ていただきたいのですが……今日は、艦内ではなく、そちらでお話をされるのですよね?』

 不意にエルトラン合成ボイスが響く。
 どうやら、話の内容も全部聞いていて、気を利かせてくれたようだった。

「せやでー。まぁ、道具並べて、雰囲気だけ堪能って感じやけど、これはこれでええ感じやろ?」

『そうですね。アンティークランタンの光もちゃんと炎を再現していて、実にいい雰囲気を醸し出しています。本日のお茶は、雰囲気に会うようにレモンティーをご用意致しました。冷めないうちにどうぞ』

 アヤメさんが立ち上がろうとするので、そこは手で座ってるようにジェスチャーして抑えてもらう。

「ユリがいくのです!」

「なんや、あたしが行こうと思ったのに……ユリちゃんこそ、楽にしとってええでー」

「こう言うのは、後輩の仕事なのですよ? 先輩達は寛いでて良いのですよ」

「ユリコさん……い、今の人は? 凄いイケボだったんだけどっ!」

 何故か、冴さんが食いついてくる。
 確かに、エルトランの声……某有名男性声優さんをモデルにしたっぽい、イケメンボイス。
 気持ちは解るのですよ。

『ご紹介が遅れました。私は、航宙艦……エトランゼ号、艦載AIのエルトランと申します。菅原冴様……本日付での新入部員だと存じております。以後、お見知りおきを……』

 言われて、ようやっと冴さんも目の前にどーんと駐機されていたエトランゼ号に気付いたらしく、呆然としている。

「こ、これ……物置じゃなくって、宇宙船だったんだ……。え、えっと……菅原冴です! よ、よろしくおねがいしますっ!」

 さすがに、ビックリしてるのですよ。
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