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第六話「別れた時のあなたのままで」PART2

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「……聞き及んでいた以上ね……コレを凌いじゃうんだ……さすが女神の使徒だわぁ……」

 不意に、黙して語らずだった変異体が口を開く。
 それまで、猛烈な数と速度の触手と、手にした二刀の乱撃を見舞われていて、サトルも満身創痍になりながらもそれをしのぎきった所だった。
 
 余裕なんて程遠い……防戦一方であとほんの数撃で力尽きていた……そう思わせる程度には厳しい状況だった。
 
「……やれやれ……とんだ化物だな……クククッ」
 
 不敵に笑うサトル……予想外の強敵の出現……追い詰められて、逃げることも叶わない……状況は極めて不利だったが……。
 サトルの目にはまだ闘志が残っていた。
 スライムに屈する気はない……その目はその意思を雄弁に物語っていた。
 
「あら意外と余裕なのね……さすが、女神の使徒……そう来なくちゃ! でも、ごめんなさいねぇ……これも皇帝陛下直々のご命令でね……けど、不思議ね……貴方、初めましてのはずなのに妙に懐かしい気がするの……なんでかしら?」

 酷く馴れ馴れしい口調……けれども、その声に妙に聞き覚えがあるような気がした。
 
 酷く懐かしくも……そして、忘れられないその声の主に思い当たる……。
 
 その声は……。
 
「そんな……お……ねぇ……ちゃん?」

 それは、前世でサトルの姉だったクリスタリアの懐かしい声だった。
 
 けれど、その言い方は正確ではなかった。
 
 ……姉に成り代わり、前世の自分を殺した憎むべきスライム……。
 それに気付くと共に、サトルに抑えがたい激しい怒りが湧いてくる!

 サトルの言葉に、アゴに指を当てて考え込むような素振りを姉に成り代わった異形がする。
 それは、良く姉がしていた仕草だった……。
 
「ああっ! 解ったわっ! あの時の……弟君? でも、なんで? あの子はあの時きっちり殺したはずよぉ……心臓の鼓動が止まって、抱きしめた身体が冷たくなっていく感覚……痺れるくらいに興奮したから、良っく覚えてるわぁ……」

「ああ、きっちり殺されたよ! けど、僕はお前たちを地上から抹殺する存在として、この世界に舞い戻ってきたんだ! お前だけはっ! お前だけはっ! 絶対にっ! 殺すぅううっ!」

 叫びと共に両腕に炎を纏い白い鎧の異形……クリスタリアに襲いかかるサトル!
 けれども、その一撃が届くよりはるか手前で、両腕両足に触手が絡まり、そのまま壁へ叩きつけられる!
 
「……駄目よぉ……まだまだお話の途中なんだから……相変わらず慌てんぼさんなんだから……と言うか、私……貴方に感謝してるのよぉ……なんて、素敵なめぐり合わせなのかしらぁ……」

 壁に張り付けられた状態で、手足が凍りついていくのをサトルは見ていることしか出来ない。
 パワーもスピードも……クリスタリアと名乗った特異個体のほうが上。
 おまけに、サトルの持つ炎の加護を打ち消すほどの冷気……尋常な相手ではなかった。

「感謝? 感謝だとっ! ふざけるなっ!」

「だって、私が最強のレベル5になれたのって、あの時君を殺したからなのよぉ……転生者を殺すとすっごいレベル上がるの……全然、知らなかったんけど、おかげで私は有象無象の雑魚スライムから、一気に無敵の存在になれたの……ホント、ありがとねぇ!
 おかげで、私ってば……使徒だって、何人も返り討ちにしちゃったくらい強くなったの……。だぁからぁ……この程度じゃ私には、勝てないと思うわ……さてさて、弟クン! これからどうしようかしらね?」

 そう言って……彼女は身動きを封じられたサトルへとゆっくりと近づいて行った……。
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