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第6章 肝試し大会編
第百二十二話 「僕たちの喧嘩」
しおりを挟むしばし自分が何を言ったのかわからず固まっていると、それを聞いたオーランが首を傾げた。
「あっ? ファナ? ファナっつーと、ファナ・リズベルのことか?」
「……」
そう聞き返されたことで、ようやく自覚に至る。
質問の内容を間違えた。
思わず両手で自分の口を覆いたくなってしまった。
どうして僕は今、ファナのことを……
いや、理由はわかっている。
この機を逃したら、もう『正当なる覇王』のメンバーと接触することができなくなるかもしれない。
そういう気持ちが僕の心を急がせて、無意識のうちに問いが零れていた。
昨日耳にしたファナの噂が、今の状況よりも優先されてしまったのだ。
あまりに突拍子もない質問をしてしまい、さすがに周りの人たちも不思議そうな顔をしている。
すぐさま訂正しようと口を開きかけるが、先にオーランが鼻から笑いを漏らした。
「んだよ、あいつの話もう広まってんのか」
「えっ……」
彼のその反応に、僕は戸惑う。
今のは明らかに、こちらの問いに対して頷き返したように思える。
つまりファナは、本当にフェアリーロードを……
という薄れかかってきた疑念は、オーランの次なる言葉で完全に消失することとなった。
「てめえの言うとおり、あいつはパーティー辞めたぜ。ついこの間な」
「じゃ、じゃあ、今はどこに……?」
「なんだてめえ? どうしてあいつのことを聞きたがる」
「……」
……しまった。と遅まきながら後悔。
少し踏み込み過ぎた。
ファナのこととなると、しょっちゅう我を忘れてしまう。
なんとなくこいつには、ファナと僕が知り合いということは隠しておきたい。
そのうえで彼女のことを聞き出せればいいと思っているのだが。
でもまあとりあえず、彼女がフェアリーロードを脱退した事実の確認は取れた。
あとはその理由と脱退後のファナの状況について気になるところだ。
もやもやとした気持ちに苛まれていると、不意にオーランが目を細くして僕を見据えた。
「ギルド本部で見たときから、な~にかあるとは思ってたが……まさかてめえら知り合いか?」
「……」
「ははっ! やっぱそうなのかよ! そう考えるとあのときの一幕は爆笑もんだな」
おそらくギルド本部で初めて顔を合わせたときのことを思い出しているのだろう。
オーランは耐えきれなくなったと言わんばかりに、大袈裟に腹を抱えて笑っている。
確かにあれは、僕とファナが知り合い同士と知った上で傍から見ていたら、よほど滑稽に映っていたことだろう。
けれど本当は、ファナの優しさがこれ以上ないくらい押し出された場面だった。それは本人たちにしかわからないことなので、別にこいつに笑われようが一向に構わないけど。
それより何より、彼女と知り合いということがバレたのがちょっと癪だ。
冷めた表情でオーランの笑いが収まるのを待っていると、またしても彼は不意に、糸のように目を細めた。
「あいつがどこに行ったか知りてえか?」
「えっ……」
思わず、”教えてほしい”という気持ちを顔に出してしまった。
本心をさらけ出してしまった。
パルナ村を旅立ってからそれなりの時が過ぎ、彼女とはたった一瞬だけど再会も果たした。
だが、ちゃんと話をしたことはまだ一度もない。
冒険者になってからのこと。フェアリーロードという横暴なパーティーに身を置いていたこと。突然そこを脱退したこと。
それらすべてを聞くためにも、直接彼女と会って話がしたい。ファナの居場所を知りたい。
その気持ちが、オーランの放った言葉一つで浮き彫りになってしまった。
やがてオーランは片頬を緩める。
少しでも期待した僕を嘲笑うように、彼は緩めた頬から笑い声を吹き出した。
「教えねえよバーカッ!」
「――ッ!?」
「俺が親切に教えるとでも思ったか? あり得ねえだろうが。知りたかったら”力”で口を割らせてみろやスライムテイマー」
ぷつん、と頭の深くで何かが切れた。
同時にオーランが、抑えていた狂気を解放して、拳を鳴らしながら近づき始めてくる。
それを後方から見たクロリアが、戦いの気配を察して慌てて僕の横に並ぼうとした。
僕は何も言ってないのに、彼女は当たり前のように戦いに参加しようとしてくれている。
しかし僕は、腰裏からメイスを引き抜こうとしたクロリアの右手を、軽く片手で制した。
「クロリアとミュウは、後ろに下がってて」
「えっ? で、ですが……」
「いいから」
短くそう言うと、彼女はミュウを抱いたままおもむろに足を後ろに引いた。
心なしか、自分の声が低かったように感じる。クロリアが慄いて後退したようにも見える。
僕はライムと共に、闘志を燃やした瞳を前方に向けた。
「これは、僕たちの喧嘩だ」
「キュルキュル!」
その業火の如き闘志に呼応するように、フェアリーロードのオーラン・ガルドが凄まじい勢いで迫ってきた。
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