91 / 98
第6章 肝試し大会編
第百二十九話 「頑張れ」
しおりを挟む闇ギルド。
冒険者ギルドとは対の存在。
冒険者ギルドには頼めないような依頼を超高額で受け持つ、闇側の冒険者ギルドのこと。
以前、シャルムさんからそう教えてもらったことがある。
非道なモンスター研究を行なう組織――モンスタークライムが、新たな計画のためにロメを捕まえようとしていて、その依頼を受けて彼女のことを追い回していたのがそいつらだ。
奴らは金のためならどんな依頼でも受ける。
小さな女の子を傷だらけになるまで追いかけるし、他人の従魔はおろか自らの従魔だって乱暴に”使って”みせる。
そんな連中が集う闇ギルドという組織に、ファナが入ろうとしている?
僕の幼馴染で、初めての英雄であるファナ・リズベルが、闇ギルドに?
オーランからそう聞かされて、僕は頭の中が真っ白になった。
意識がぼんやりとする。周りの音も聞こえない。
そして、気が付けば……
僕は森の中を全力で駆けていた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
激しく息を切らしながら足を動かす。
自分はいったいどこに向かっているのか、それすらもわからない。
無我夢中になって走っていると、やがて後方から呼び止められていたことに、今さらながら気が付いた。
「ちょ、ルゥ君! どこに行こうとしてるんですか!? 待ってください!」
パーティーメンバーであるクロリアの声が耳に入り、僕は足を止める。
いつの間にか頭上にはライムも乗っかっていて、本当にしばらく無意識の状態だったのだと思わされた。
僕は息を切らしながら振り返る。
「クロ……リア……」
すると彼女は、同じく疲れたように膝に手を当てながら言った。
「あの方からあんなことを聞いたから、びっくりしちゃったんですよね?」
「……」
正しくその通りだった。
先ほどオーラン・ガルドからファナのことを聞いて、僕はびっくりしてしまった。
気が動転して、訳もわからず走り出してしまった。
何がしたいとかどうするべきかとか、何もわからずに。
いまだに頭がぼんやりとする中、クロリアが優しい声音で続けてくれた。
「私はファナさんのことをルゥ君ほど知ってはいませんけど、闇ギルドに入るような方だとは思いません。もしかしたら、さっきの方が嘘を吐いているとか……」
まったく同じ予想、というか希望を僕も密かに抱いていた。
しかし先刻の光景を思い出しながら、弱々しくかぶりを振る。
「ううん、あいつが嘘を言っているようには見えなかった。って、クロリアもそれについては薄々わかってるんじゃないの?」
「まあ、はい、そうですね。嘘ついている様子ではなかったと思います」
彼女は同意して頷く。
改めてそれが事実なのだと知った僕らは、二人して口を固く閉ざしてしまった。
まだ、あの話が本当なのか信じられない。
ファナが闇ギルドに入ろうとしているなんて。
きっと何かの間違いに決まっている。だって彼女はいじめられっ子の僕のことを、いつも一生懸命守ってくれたんだから。
そう思い出していると、クロリアは再度確かめるように僕に聞いてきた。
「も、もしあの方が本当のことを言っていたとするなら、どうしてファナさんが闇ギルドなんかに……?」
「そんなの、僕の方が聞きたいよ」
歯を食いしばって項垂れる。
僕にわかるはずもない。
なんでファナは闇ギルドなんかに入ろうとしているんだ?
そもそも、オーランの言っていたことは本当なのか?
確かなことは何もわかっておらず、そう聞いただけと奴は言っていたけど、火のない所にそんな煙は立たないはず。
仮にそれが真実だったとして、僕はいったいどうすればいいんだ?
これからどうすれば……いや、僕は”どうしたい”んだろう?
いまだにもやもやとした感情が胸中で渦巻く中、その様子を見て心配してくれたのだろうか、クロリアが突然元気な声を出した。
「き、きっと何かの間違いですよ! あのフェアリーロードの冒険者の方も、詳しいことは知らないようでしたし、何か違った情報を耳にして勘違いしているだけです! だってファナ・リズベルさんは、ルゥ君と幼馴染で、凄腕のドラゴンテイマーで、ルゥ君が尊敬している大切な方なんですから。だから……」
彼女は爽やかな笑顔で、うつむき加減の僕の顔を覗き込んで言う。
「ルゥ君は、それが間違いであることを確かめに行ってください!」
「えっ……」
「先ほどあの怖い方が言っていたモスキート大密林という場所に行って、ファナさんのことを確かめに行ってください! そうした方が絶対にいいです!」
確かめに、行く?
呆然としながらクロリアの笑顔を見つめて、やがて僕は首を横に振る。
「で、でも、肝試し大会は? 僕たちは今すぐにお金を集めなきゃ……」
「そちらの方は心配しないでください。肝試し大会は私とミュウの二人だけで優勝してみせますから」
「……ふ、二人だけって」
僕はクロリアと、彼女の胸に抱かれているハピネススライムのミュウも見て思う。
そんなの、無理に決まっている。
だってクロリアはオバケが苦手で、昨日だってそのせいでエリア探索を中断したっていうのに。
それで二人だけで肝試し大会を優勝するなんて、絶対に不可能だ。
我ながら珍しく弱気な考えを抱いていると、クロリアは優しい笑みを浮かべたまま続けた。
「ルゥ君は今、ある人に追いつきたくて、強くなろうとしているんですよね? 私はそれを知っています。それと同じように、私だってルゥ君と肩を並べられるくらい強くなりたいと思っているんです。ここを乗り越えなくては、真にルゥ君たちの仲間とは決して言えませんから。だからここは私たちに任せて、ルゥ君とライムちゃんはファナさんのところに行ってください」
「……クロリア」
僕は黒髪おさげの少女を見つめながら、名前を零す。
まだ躊躇いの気持ちが心中に滲む中、僕に有無を言わさぬ勢いで、クロリアはこちらの両肩を掴んできた。
そしてくるりと後ろを向かせると、ぐいっと背中を押してくる。
「さあ、幼馴染の美少女が待っていますよ。ここで走り出さなくてどうするのですか」
「う、うん。ありがとうクロリア」
僕は若干狼狽えながらも、その背中押しに身を任せる。
勢いのままに前進すると、やがて僕は決心して自ら足を進め始めた。
僕はファナの元へ向かう。
オーランが言っていたことが事実なのかどうか確かめるため。
そして事実だった場合に、ファナの近くで何ができるか考えて、助けてあげるために。
僕は首を巡らして後方を一瞥すると、遠ざかるパーティーメンバーに手を振り上げて声を掛けた。
「絶対にファナを見つけて、真相を確かめてみせるから」
だから……
僕は走りながら、精一杯の声を彼女に届けた。
「頑張れクロリア!」
「頑張ってくださいルゥ君!」
そうして僕たちは、一時パーティーを解散し、別行動を取ることにした。
ここで一旦、お別れ。
ロメとも離れ離れだし、僕たちのパーティーはなんだか、別々になることが多いけれど。
必ずまた、みんなと揃って、笑顔を交わし合ってみせる。
そのために僕は、懸念しているファナのことについて、調べに行かなくちゃいけないんだ。
絶対に真相を確かめてみせる。
だからライム、またみんなと笑い合うためにも、弱虫な僕に力を貸して。
先刻の戦いの疲れがいまだに抜けず、力なく寝息を立てる頭上のライムに、僕は心中で大きく頭を下げた。
0
お気に入りに追加
3,060
あなたにおすすめの小説
三姉妹の姉達は、弟の俺に甘すぎる!
佐々木雄太
青春
四月——
新たに高校生になった有村敦也。
二つ隣町の高校に通う事になったのだが、
そこでは、予想外の出来事が起こった。
本来、いるはずのない同じ歳の三人の姉が、同じ教室にいた。
長女・唯【ゆい】
次女・里菜【りな】
三女・咲弥【さや】
この三人の姉に甘やかされる敦也にとって、
高校デビューするはずだった、初日。
敦也の高校三年間は、地獄の運命へと導かれるのであった。
カクヨム・小説家になろうでも好評連載中!
【完結】体を代償に魔法の才能を得る俺は、無邪気で嫉妬深い妖精卿に執着されている
秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)
BL
【概要】
同類になれる存在を探していた、無邪気で嫉妬深い妖精種の魔法使い VS 自衛の為に魔法を覚える代償として、体を捧げることにした人間不信青年
\ファイ!/
■作品傾向:ハピエン確約のすれ違い&性行為から始まる恋
■性癖:異世界ファンタジーBL×種族差×魔力を言い訳にした性行為
虐げられた経験から自分の身を犠牲にしてでも力を欲していた受けが、自分の為に変わっていく攻めに絆される異世界BLです。
【詳しいあらすじ】
転生しても魔法の才能がなかったグレイシスは、成人した途端に保護施設から殺し合いと凌辱を強要された。
結果追い詰められた兄弟分に殺されそうになるが、同類になることを条件に妖精卿ヴァルネラに救われる。
しかし同類である妖精種になるには、性行為を介して魔力を高める必要があると知る。
強い魔法を求めるグレイシスは嫌々ながら了承し、寝台の上で手解きされる日々が始まった。
※R-18,R-15の表記は大体でつけてます、全話R-18くらいの感じで読んでください。内容もざっくりです。
指輪一つで買われた結婚。~問答無用で溺愛されてるが、身に覚えが無さすぎて怖い~
ぽんぽこ狸
恋愛
婚約破棄をされて実家であるオリファント子爵邸に出戻った令嬢、シャロン。シャロンはオリファント子爵家のお荷物だと言われ屋敷で使用人として働かされていた。
朝から晩まで家事に追われる日々、薪一つ碌に買えない労働環境の中、耐え忍ぶように日々を過ごしていた。
しかしある時、転機が訪れる。屋敷を訪問した謎の男がシャロンを娶りたいと言い出して指輪一つでシャロンは売り払われるようにしてオリファント子爵邸を出た。
向かった先は婚約破棄をされて去ることになった王都で……彼はクロフォード公爵だと名乗ったのだった。
終盤に差し掛かってきたのでラストスパート頑張ります。ぜひ最後まで付き合ってくださるとうれしいです。
とびきりのクズに一目惚れし人生が変わった俺のこと
未瑠
BL
端正な容姿と圧倒的なオーラをもつタクトに一目惚れしたミコト。ただタクトは金にも女にも男にもだらしがないクズだった。それでも惹かれてしまうタクトに唐突に「付き合おう」と言われたミコト。付き合い出してもタクトはクズのまま。そして付き合って初めての誕生日にミコトは冷たい言葉で振られてしまう。
それなのにどうして連絡してくるの……?
あん摩マッサージ指圧師のひとりごと
どっぐす
エッセイ・ノンフィクション
田舎で開業しているあん摩マッサージ指圧師によるエッセイ……というほどきちんとしたものではなく、独り言・つぶやき集です。
内容もまちまち、文量もまちまち。リラックスして楽しく書いていこうという感じでやっていきます。
すべて1回完結のお話です。
僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた
いちみやりょう
BL
▲ オメガバース の設定をお借りしている & おそらく勝手に付け足したかもしれない設定もあるかも 設定書くの難しすぎたのでオメガバース知ってる方は1話目は流し読み推奨です▲
捨てられたΩの末路は悲惨だ。
Ωはαに捨てられないように必死に生きなきゃいけない。
僕が結婚する相手には好きな人がいる。僕のことが気に食わない彼を、それでも僕は愛してる。
いつか捨てられるその日が来るまでは、そばに居てもいいですか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。