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凌辱の果てに──華開く奴隷姫

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「おい……なんだ……あれ……」
「まあ…………なんて冒涜的な…………」

 徐々に近づいてくる「それ」の姿がはっきりと確認出来るにつれ、道を行き交う人々の口から次々と戸惑い、あるいは非難の声が漏れる。

「うわぁ……すごい……」

 親に使いを任された少年が、目の前を通り過ぎていく未知の塊に、思わず立ち止まり、視線を吸い寄せられていく。そのいたいけな興味が宿る熱いまなざしを、脇から飛び出してきた善良な女性が、あわてて塞いだ。

「こんな明るいうちに……俺は夢でも見てるのか?」

 まるで現実感を伴わない光景に、酒屋の店主が呆然と呟く。

 人々の好奇の視線の中心で闊歩する官能的な曲線美。網膜に焼きつく白い柔肌。
 劣情を呼び起こす甘やかな香り。

「娼婦かしら……人前を……あんな格好で」
「なんて汚らわしい」

 市場や商店が立ち並び、活気に溢れる街の大通りに突如現れた、違和感という名の黒いシミ──善良な人々が生活する日常の中に、夜の匂いを漂わせるその蠱惑的な影が紛れ込んできたのは、まだ日の光が中天に輝く白昼の事だった。
 
「すげぇなぁ。
 みろよあのイヤらしい腰つき。誘ってやがる。もう欲しくてたまらないって顔してやがるぜ」
「男日照りでこんな時間から営業か?大した淫売だな」
「それにしてもとんでもない出で立ちだな……どこの店の娘なんだろう。あれじゃ営業というよりほとんど晒し者だぞ」

 実際、ただの娼婦が身銭を稼ぐのに男に声をかけているだけであれば、これほど大きな街である、人々が興味を魅かれる事は無かっただろう。
 彼等が奇異な存在として「それ」を認識したのは、「彼女」が現れた時間と、その身に纏った衣装の過激さからであった。

「スケベな身体しやがって。ひひ、大事なところが見えちまいそうだ」
「乳に比べて随分デカい尻だな。あんなに丸出しにされていると、ひっぱたいてやりたくなるよ」

 ──否、果たしてそれは衣装と言えるものであっただろうか。
 魅力的な肢体に申し訳程度に張り付いている布地は、下着としての機能性すら持たない薄布で仕立てられており、白い肌に柔らかな陰影を齎す事でより身体の線を強調する。
 装飾性だけを追求した異郷の羽衣のようなそれは、ただひたすら見る者や纏う者自身の官能を煽るだけに特化した代物であった。

「まあ。司祭様の前を堂々と……同じキリスト教徒として恥ずかしいわ」
「でも……なんて綺麗なのかしら……」
「シャクだけど、物凄い美人ね」

 男達が鼻息を荒くする一方、女達が嘆息する。
 卑猥さだけが強調された衣装を纏う人物は、一方で国王の寵姫もかくやと言う程の美女であったからだ。

 国と時代が変れば、「シースルーテディ」と呼ばれる艶やかな衣装と、肉付きの良い太腿まで覆う絹の靴下、ほっそりとのびる腕にはめられた長手袋だけを纏い、かかとの高い靴で石畳を鳴らして歩く、この街の人々の常識からすれば、裸同然、あるいはそれよりも恥ずべき姿をした異端者──その妖しくも麗しい姿に、人々が抱く感情は様々であったが、いずれにせよ、老若男女、その陽光の下に舞い降りた夜の女神から目を離す事が出来ずにいたのは、共通していた。

 今や異様な熱気が通りには渦巻き、善良な市民達は、女神の一挙手一投足に注目している。

「ほら……ごらんよ。みんな君に夢中になってる。
 すごいね、すっかり人気者だ」

 さざめく視線の波の中を歩む美女の背後から、彼女に付き添う黒服の男の一人が近づき、そっと耳元で囁く。

「はぁ……ぁンッ♥……んぁあああああああああッ♥♥も……もぉ、もぉやめてぇ……♥♥やめてェッ♥♥
 ……ぅうっ♥あゥッ♥♥……は、恥ずかしぃいっ……♥♥
 恥ずかし過ぎて……ッく♥♥イクッ♥……いっちゃぅぅううッ♥♥♥♥」

 吹き込まれる言霊と吐息による堕落への誘惑で涙目になりながら、卑猥な衣装をまとった女神が喘ぐ。
 全身に突き刺さる極限の羞恥に、「彼女」の精神はもはや破綻しそうになっていた。

「恥ずかしくてイッちゃうって……おかしな子だなぁ。
 みんなに見られるのが嬉しくて気持ちよくなっちゃっただけでしょう?
 アルテュールちゃんといい、君といい、本当に自分の身体を見られるのが好きなんだねぇ……困った変態さんだ♡」
「んぁ……ッ♥♥あひぃいいィィっ♥♥ダメぇッ♥あっ……アアッァアンッ♥♥」

 追い打ちをかけるように男が言い、美女が纏う衣装のホルタ―ネックから伸びた金鎖をそっと引っ張ると、長い白髪と汗を散らして「彼女」が仰け反る。
 その拍子に、張り出した胸元で硬く張りつめ存在を主張する、淡く色付いた木苺のような勃起乳首が、衣装の薄布に擦れてしまい、腰の奥から頭頂へと悩ましい身体の内で甘美な電流を走らせた。

「あゥ……ッ♥ンひぃいいいいいぁあッ♥♥」
「でもまぁ、今の君が魅力的な事は確かだからね。
 自信を持って君の全てを見てもらうといいよ、ジルちゃん」

 快感に腰が砕けてその場にうずくまりそうになる美女を無情に引き立てて、男はこの残酷な「お披露目」を続けようとする。

「ほら、ゴールはまだ先だよ?」
「う……うぅ……」

 美女は紅潮した頬に涙を零し、身悶えながらも、渋々その意に従い、再び歩き始める。
 その様子に、随分とおとなしくなったものだ……良い傾向だ、と男は内心ほくそ笑む。

「そうそう。この街って、前に君が亡くなった彼女と一緒に敵軍から解放した場所なんだってね?
 どう?久しぶりに見る平和になった街の感想は」

 今も降り注ぐ視線の刃に心を切り刻まれながら、通りを練り歩かせられている美女からの応えはない。
 苦悩と苛む官能に柳眉をたわめさせ、時折堪えられぬ淫熱の波に長身を震わせながら、大人しく指示された道を進んでいる。
 最中、切れ長の碧眼から紅潮した頬へと、官能からくるもではないであろう涙が伝うが、男は見てみぬふりをした。
 あまつさえ、綻び始めた「彼女」の心へと氷針のような言葉を突き刺す。

「君もその彼女もこの街にとっては英雄だ。みんなきっと感謝しているだろうね。
 ……もっとも、その恩人の騎士様が、まさか娼婦になって帰ってきたとは夢にも思っていないだろうけど」

 黒服の男達に囲われて、日の高いうちから破廉恥行為をさせられている美女──それはかつて救国の英雄と呼ばれた騎士の変わり果てた姿であった。
 長い髪を二つ結いにして両肩から垂らし、薄化粧を施した顔すらろくに隠していなかったが、今の「彼」を見たところで、街の誰も栄光に包まれた過去の姿を重ねる者はいないだろう。

 ただ歩いているだけで見る者を誘惑する、脂がのった腰回りは、男のモノとは到底思えぬほど魅力的な弧を描き、大きく張り出した双丘は特に意識するわけでもなく、一歩を踏み出すだけで媚びるように左右へと揺れてしまう。
 そこから繋がる太ももも、触り心地の良さそうなもっちりとした柔肌の下にほどよく脂肪がのり、ふくらはぎにかけて理想的な脚線美を構成している。

 そんな悩ましい豊かさに満ちた下半身に比べ、華奢な印象のある上半身であったが、ふっくらと実った触り心地の良さそうな胸は、あれから更に膨らんで、商売女としてはやや小振りながらも、動きに合わせて弾むような大きさになり、男達の目を楽しませていた。
 あまつさえ、その形の良い美乳の上にちょこんとのっている敏感な乳頭は、可愛らしい色合いとは裏腹に小指の先ほどの大きさに育ち、常時尖って布を押し上げているそこに布が擦れる度、とろけるような快感をもたらし、「彼女」を苦悶させる。
 結果、艶やかに濡れた唇から漏れ出る甘い吐息が、ますますその身を妖しく彩っていく。

 骨格こそ男のものに変わりなく、女にしては長身であったものの、全身から発せられる淫靡な雰囲気は、正義の騎士が纏う清冽な覇気とは程遠い。
 「彼女」が「彼」であったささやかな名残は、飾り襟によって隠された喉仏と、身体の女性化が進むにつれ、勢いを失っていった股間の逸物だけだった。

「はは、やっぱりジルちゃん見られて興奮してるんでしょ~!
 ちんちんおっきしちゃってるじゃない♡ぴくぴくっ♡って♡もう、かわいいなぁ♡」
「……ひぃっ♥うぅっ、ぅうっ♥♥あんッ♥♥♥♥」

 今も胸の突起から全身に伝播する官能の波と、好奇の視線を受ける事で生まれた被虐の興奮により、歪んだ快感が血流にのって下肢の中心を疼かせていたが、いっそついていない方がマシなほど生殖器としての機能を退化させてしまったソコは、先走りの滴をじわじわと滲ませながら、前張りの布をわずかに押し上げるほどの突起を作っているのに過ぎなかった。
 しかし感度だけは以前より倍増しにされた「彼」の情けない「メスチンポ」は、こうして布越しに撫で上げられるだけで、軽く達してしまうのであった。

「うんうん。仕上がりはなかなか良好、と♡
 でもこのくらいじゃ全然足りないでしょ。頑張ったらちゃんと後ろのおクチも可愛がってあげるからね~♡」

 下腹部と尾てい骨付近に刻まれた、呪術的な効果をもつ卑猥な刺青──淫紋により常時発情状態にある身体は、雄の快感によってこれから解放される事は既に叶わず、青年の肉体は、自らが失った逞しい男の精を欲して熟れ火照る淫らなメスのものへと生まれ変わりつつあった。

「しっかし凄いね……あの女の子達の嫉妬に満ちた視線……!
 きっと前はぴょんぴょんはね跳びながら、君に憧れの眼差しや黄色い声援を送っていたんだろうにね~
 せっかくだから手を振ってあげたらどう?
 花の代わりに、石でも投げられちゃうかもしれないけど♡」

 自らが置かれた立場のあまりの惨めさと、嘆く心とは裏腹にふつふつと湧きあがる官能への期待に、蠱惑的な長身を震わせながら、騎士であった異端の女神は歯を食いしばって恥辱に耐える。

 だが、虚勢を張り続けるのもいい加減、限界だった。
 次々と肉体に加えられていく不可逆の変化により、いかに抗おうと、そこに宿る精神も徐々にその在り方を歪められていく。

 胸だけで達してしまうようになって以来、そこを起点に「彼」の身体は崩れ落ちるように男達の魔の手に屈していった。
 
 もはや誤魔化しきれぬほどの変調を来した「彼」の姿を見つめる部下達の視線──劣情よりも純粋に主を心遣う、老家令の痛ましげな眼差し。
 主人の「病のためだ」との言葉を信じて、甲斐甲斐しく仕える小姓が、申し訳なさそうに湯浴みを手伝うのが、時折恥ずかしそうに顔を伏せて頬を染める姿が、ひどく苦しかった。

 片や、徐々に女のようになっていく自分の姿を、「美しい」と褒めそやし、化粧の仕方や淑女らしい振る舞いを身に着けるにつれ、満足げに笑う調教師の男達。
 はち切れんばかりに実った身体を軍服に押し込めた姿に、倒錯的な魅力でも感じるのか、貴婦人達や傭兵達から妙な方向に熱い視線も感じる。
 
 労わるように差し伸べられる手。
 言葉をつくして容姿をほめそやす唇。
「女」である自分をむしろ歓迎する者達。

 自分の方がおかしいのだろうか。
 男であった方が不自然だったのだろうか。

 すっかり慣れてしまった胸の重み。男を迎え入れると多幸感に包まれる胎の内。
 おっかなびっくり自分についてくる小姓や若い従騎士を、微笑ましく、たまらなく愛おしく思ってしまう気持ち。

 私は──私は男で──騎士であった──そのはずなのに──

「これで強情なジルちゃんもよく分かったでしょ?
 もう君を、国を救った立派な騎士様だと思う人間は──男だと認める相手は、誰もいない」
「あ…………」
「それともなに?こんな真昼間からおっぱいとおしり丸出しで街中を歩いている女の子を、君は騎士だと言うのかな?」
「あ……あ……」

 耳の良さが災いして聴こえてくる、人々の声、声、声──

……「恥知らずの売女」「だらしのない身体」「男好きそうな顔」「しゃぶってほしい唇」「子供に見せたくない」「男に媚びやがって」……

 知ってる。誰より分かっている。こんな淫らな生き物が騎士であるはずがない──
 だったら私は──私は──

「でもさ、君の事、愛してくれる人はたくさんいるよ?
 ううん、むしろ君みたいな綺麗な子は、そこにいるだけで沢山の人を幸せにする。愛される権利があるんだよ。
 男だから!って、騎士だから!って、戦って痛い思いをしたり、綺麗な顔に傷をつける必要はもうないの!
 ただ君が気持ちよくなって、可愛く微笑むだけで、相手も気持ちよくさせられる、幸せにさせられる……そんな素晴らしい世界があるんだよ。
 だからジルちゃん。もう苦しい思いをするのはやめよう?
 多分、天国の彼女も君が辛い思いをするよりも、幸せになるのを願っているんじゃないかな……?」
「幸せ──私の──幸せ──」

 その言葉は、ひどく甘く、魅力的に脳裏に響く。悪魔の囁き。

「そ、辛くて厳しい騎士様はもう卒業♡
 これからジルちゃんは~みんなに愛されて~可愛がられて~たくさ~ん気持ちよくなって、みんなも気持ちよくさせられるお姫様になるの♡
 僕らの可愛いお姫様♡俺達の女神様♡夜の世界を支配する素敵な女王様にね♡」

 男の声が、「彼女」の頭の中でぐるぐる回る。
 誘うように。嘲笑うように。

「私は……わたし……は……」
「──ほら、君がカワイイから、早速お客さんが来てくれたよ♡」

 見ると、遠巻きに熱い視線を送っているばかりだった人々の間から、いかにも歴戦の兵、といった風情が漂う屈強そうな男達が数名、美女とその一行の前に立っていた。

「すげぇ、近くで見ると本当にとんでもない美人だな」
「うひぃ……いい匂いがする……たまんねぇ……」
「おい、べっぴんさん。
 アンタを今晩買いたいんだが、いくらだい?」
「あ……あぁ……」

 相手の顔を確認した美女が、青年であった頃の記憶を呼び起こし、蒼褪める。
 現れた男達は、粗暴な事で有名な傭兵団の一員だった。
 以前、一軍を率いる騎士として、同じ戦場で轡を並べて戦った事もあったが、大口をたたいて高い給金を請求する割に練度が低く、旧友の傭兵隊長と顔を見合わせて閉口したものだった。

 しかし、官能の悦びに目覚め始めたばかりのメス娼婦の身体が、奉仕する相手を選り好みするような真似をするはずもない。

 厚みのある身体から放たれる芳しい程の雄の匂いに、淫紋が反応し、胎の内を疼かせた。
 じわじわと下の口から女の蜜壷のように染み出してくる甘露が、太腿を伝い落ちてくる気配に、長身が震える。
 
 そして、男達がそんな娘の仕上がりを確認する機会を逃すはずがなく。
 すかさず客との間に入って話を進め始める。

「ああ、さすが旦那方。お目が高い。
 実はこの娘、元々は高名な貴族の分家筋にあたる令息でしてね。
 ただ、不幸にも幼くして両親が亡くなり、後ろ盾もなく、このように身を崩した有様で。
 聴くも涙、語るも涙、少しでも憐れんで下さるのなら、是非、初心なこの娘に優しく本物の男を教えてやって下さいませんか?」
「ん……?『令息』だと……?」

 会話の中に紛れ込んだ単語に、リーダー各の男が首を傾げる。

「……兄貴!この娘よく見たらチンポついてる」
「え!これで男とかマジか!」
「なんだオカマかよ……久しぶりに上玉を見つけたと思ったのに」

 目ざとく見つけた美女の股間の膨らみに、男達が次々に難癖をつけ始めるが、黒服は落ち着いたものである。

「おやおや。この性別を超えた美しさを理解出来ないとは。
 いずれこの娘はあなた方には触れる事が叶わない存在になるだろうに。このせっかくの機会を逃すとは……もったいない話です」
「ほう……えらい自信だな」
「そうですとも。この娘は我々が見出した逸材……最高傑作ですから。
 お客様を愉しませる術や淑女のイロハは十二分に教え込ませてあります。あとは実地で試すのみ。
 この娘の身体は素晴らしいですよ……試してみたくはありませんか?」
「ふーん……」

 値踏みするような視線が、俯いたまま官能と恐怖の両方で震えている美女の全身を滑る。

「男娼なんかとやるのは一生御免だとおもっていたが……確かにこれほどの上玉なら話は別だ。
 それに男とは一度やってハマるとクセになる程いい、って話もきくしな」

 眉根を寄せて、唇をわななかせている美貌の顎を掴み、男が獰猛な笑みを浮かべる。

「それじゃあ俺にも男を教えてくれるかい?お嬢さん」
「──では、交渉成立ですね」

 己が立っていた世界が、足下から崩れ、奈落の底へ堕ちていくようだ───
 自分の意志とは関係なく、自分の命に値段が付けられ、買われていく。

 かつて軍を率いる将軍として、配下の騎士団に支払っていた給金と比べれば、まさにはした金のような金額で、己の誇りも何もかもが売り払われてしまうこの現実。
 後戻り出来ぬほど落ちぶれた自らの姿に、かつての英雄は宝石のような碧眼からまた一筋、涙を零すのであった。


[newpage]

「……わ、わたしは……女の心を持ちながら……男の身体に生まれてしまった、惨めな生き物です……
 ご奉仕させて頂きますので……どうか、皆様の手で……私を本当の女にして下さい……」

 教え込まれた口上で、己の心をかき乱しながら、騎士の魂を宿した美姫が膝立ちの姿勢で男達に媚びる。
 自らたわわに実った両胸を揉みしだきながら、妖しく腰をくねらせると、その動きに合わせて、男の来訪を待ち侘びる下の唇から、淫蜜がベッドの上にぽたぽたと零れ落ちた。

 頬を薔薇色に染め、蕩けた表情で男達を見つめるその姿に、男達が下卑た笑みを浮かべる。

「へっへっへ、女に憧れるあまり、こんなスケベな身体になっちまったってか」
「みろよ、このデカい乳首。どんだけ弄り倒したらこんな牛みたいなエロ乳首になるんだか」

 男の手が無造作に目の前で踊る胸の突起を摘み、きゅっと扱き上げる。

「ああっ♥♥やんっ♥♥」
「嫌そうには全然見えないがな……ええ?お姫様よ?
 ……ああ、本当は若様だったか?」
「若様ねェ……不幸がなければさぞかしモテただろうに……でもこんな情けないチンポじゃ、女をイカせるのはとても無理か」

 愛液に湿る衣装がずらされ、美女に残る雄の跡が曝された。
 揶揄の言葉に美貌がリンゴのように真っ赤になる。

 かつては平均以上の質量を誇り、むしろその大きさを戦友から揶揄され、女性への挿入に際して躊躇するほどだった肉の槍は見る影もない。
 男達の視線に刺されて、ぷるぷると揺れる哀れなソレを弄り回しながら、騎士の心を抉る辱めの言葉が次々に飛び交う。

「前も後ろもツルツルの丸見え。短小包茎の見事な子供チンポだな。これ、まともに勃つのか?」
「ほ~れ、シコシコ~♡シコシコ~♡」

 にゅるっ、くちゅ、くちゅうっ……くちゅちゅっ……
 男達の荒れた太い指先が、繊細な部分を容赦なく攻め立てる。

「や、やめ……やめてっ♥♥
 オチンチンしこしこしないでぇ……っ♥♥男の子のところいじめないでッ♥♥」
「やめろ、と言われてやめる馬鹿がどこにいるよ」
「ひぃ♥♥いいぃン……ッ♥♥」

 ぷちゅぅっ、ちゅるるるるっ……

 ほんの少し扱かれただけで、敏感な肉の芽はあっと言う間に刺激に対する許容値を越えてしまい、可愛らしい音を立てながら、お漏らしのような潮を吹いてしまった。

「ふぁ……っ♥♥あァァっ♥♥」
「早……ッ!
 大きさもお粗末な上に早漏かよ。ひでえなオイ」
「これじゃ男として生きる気もなくすわぁ……」
「女を孕ませられないんじゃ、お貴族様の男子としては失格だもんなぁ」
「あ……♥♥あぁ……♥♥♥♥」
「こんなんもはやチンポですらねえだろ」
 
 あまりの羞恥に眩暈がする。膝立ちになった長身がふらついた。
 惨めな媚肉の塊を弄ばれながら、女神が喘ぐ。

「まったく……仕方がねえな……俺が本当の男ってもんを教えてやるよ」

 堕ち切った己の身体に絶望する暇もなく、全身を官能の紅で染め上げた美姫の戦慄く唇の前に、濃厚な雄の臭気を放つ男根が突き付けられた。

「ほれ。これが本物の雄チンポ様だ。ご奉仕してくれるんだろ……?」

 さぞかし沢山の女を狂わせてきたのだろう、使い込まれた事が伺える黒光りする見事な逸物は、脈打ちうねくる蛇のような血管を纏わせ、反り返った先端から先走りの汁を吐き出している。
 だが、この鼻を突くすえた獣の臭い。まともに風呂に入っていないのか、そこかしこに恥垢がこびりついているそれは、これから女性を抱く男が見せるものでは決してない。

 女性を愛すのでも悦ばせるのでもなく、ただただ己の欲を見たし、蹂躙する為だけに隆起する、狂暴な肉の牙──同じ男として唾棄するようなモノを見せつけられて、騎士の魂に真っ当な怒りが湧くが、この堕ちた身では振り上げる拳も抗う術すらなく。

「うぅ……」

 つまり自分は男でも女ですらない、性欲を吐き出される為だけに存在する人間以下の生き物なのだ……と。
 自らの境遇を改めて突き付けられた騎士の魂は痛みに潰されそうになりながら、それでも従順に唇を開き、穢れた肉棒の先端へと舌を伸ばすしかなかった。

「ん……くちゅ……ちゅぱっ♥♥」

 夢中で膝立ちの腰を左右に振りたくり、舌を幹に這わせ、生々しい感触と臭いに涙目になりながらも、丁寧に汚れを清めていく。
 元々男だったからこそ分かってしまう、良さそうな部分を指先で刺激しては、伺うように男の顔を見る。

 本人にその気はなくても、上目使いする美貌は、すっかり媚びる娼婦の顔そのものだった。

「まだるっこしいな……もたもたしてないで、さっさとしゃぶれよオカマ野郎」
「……むぶっ!」

 だが、奉仕される男にとっては物足りなかったようだ。
 頭を掴まれると、いきなり喉の奥まで剛直を突きこまれ、美姫の全身が総毛だった。鼻が捻じ曲がりそうな刺激臭が脳天まで尽きぬける。

「んぶ……っ、んむぅっ♥♥むぐぅ……♥♥」
「ほれほれ、綺麗にしてくれよ。
 これからお前の中につっこんでやるんだからな……っ」
「んん─────っ♥♥」

 その匂いと大きさに、呼吸すら覚束ないまま、口腔を犯しつくされ、美姫が苦鳴とも歓びともつかない甘い喘ぎを漏らす。

「……おい、俺のもしてくれよ。手が空いてるだろ」

 身悶える堕ちた美女の白く長い指先を取り、男が自分の猛ったものを握らせる。
 他の男もこれに続けとばかりに、雄の芳香が立ち昇る穢れた肉棒を、小刻みに痙攣する身体の至る所へ擦り付け始めた。

「ふう……なかなかいいクチマンコっぷりだな。この間抱いた娼婦より才能あるぞ、お前」
「いいなぁ、早く俺にも回してくれよ……ほらほら、もうちょっとお手手のほうも頑張って~」
「くそっ……仕方がねえな……俺は髪の毛で我慢してやるよ」
「じゃあ、オイラは可愛いおっぱいいじっちゃおうかなァ♡」
「は……うむぅ♥……あぁンッ♥♥……んんんんんっ♥♥」

 騎士の──青年の心が──彼を形作っていたモノが、その魂の拠り所が軋み、悲鳴を上げる。
 
 ──抗う事は無い、楽になればいい。ただその身を任せて受け入れるだけ。
 ──そうすれば生まれ変われる。こんな苦しみから解放されて、果てなく永久に快楽を貪ることが出来る。

 違う。駄目だ。そうじゃない。私には為すべきことが──

 ──為すべき事?それは己が幸福の──快楽の追求。この命題以上に大切なものなんて何もない。私が為すべき事は、私自身を幸せにする事。私の幸せはみんなの幸せ。
 ──愛し、愛され、昇りつめる。これぞ至福。これぞ至高。女の──メスの悦び。

 ──そう。私はメス。メスの娼婦。

 ──男に尽くす事こそ私の悦び。尽くされる事こそ幸せ。
 ──何も考える必要はない。欲望に忠実になればいい。この快楽に身を任せるだけで、ほら──

 悪辣な呪いは、青年の心の揺れを見逃さない。
 腹と腰に刻まれた堕落の印が、肌に喰い込み、その効力を発揮した。

「んんっ♥♥ん─────ッ♥♥♥♥」

 背筋を這い上がり、広がっていく悪魔の仕掛けが心を、身体を蝕む。

「んっ♥♥……あ、おぉ♥♥……んぉおぁあ……んんんっ♥♥」

 ……全身をくまなく同時に犯されて、魂を凍りつかせながら、堕ちた女神の美貌に浮かんだのは、官能に蕩けた悩ましい表情だった。

 うっすらと笑みの気配すら感じるそれに、悪徳に憤る騎士の意志は感じられない。
 熟れ火照る身体は、むしろ歓喜の声を上げてこの蹂躙を愉しんでいた。
 薄布の下に隠された淫紋が妖しく輝き、淫らな願望をより深くその身体と心に植え付けていく。
 放置されている下の秘めた口は、ぴちゅぴちゅと粘つく音を立てながらいやらしくひくつき、気付いてほしいとばかりに、なおも無駄な淫液を垂れ流した。

 碧い瞳からは、急速に理知の輝きが失われていく。
 代わりに宿るのは、飽くなき放蕩への渇望だった。

「……なあ、こいつさ。俺、昔どっかで見たような気がするんだよ」

 そんな最中、偽りの女体を嬲りながら、男の一人がぼそりと呟く。

「どこだったかな……こんな美人、一度見たら忘れるはずがないんだけど……」
「おいおい。そこいらの娼館に転がっているような面じゃないだろ」
「そうだ、お前。名前は何て言うんだ」
「…………んぷっ!
 はぁ……はぁ……じ、じるです……じるといいます……♥」

 吸い付いていた幹から唇を離し、喘ぎながら美姫が答える。

「……ジルね……
 ああ、そうだ!思い出した!こないだの戦場で一緒になった司令官の一人にいたろ、むちゃくちゃ目立つ容姿のヤツ。あのお貴族様にそっくりなんだ、この娘」
「馬鹿言え。お前の言ってるジル様は、先代の元帥閣下で、国王の戴冠式の立会人になったような英雄だぞ。
 こんなところで傭兵風情のチンポしゃぶってるわけないだろ」
「でも……見れば見るほどそっくりなんだよなぁ……」

 胎の内を昂ぶる官能に熱く滾らせつつ、男達の会話に正体がばれてしまったら……というすさまじい緊張感と恐怖で美姫の背筋に悪寒が疾る。
 しかし一方で堕ちた心の内には、いっそこのまま素性が明らかにされて、堕ちるところまで堕ち切ってしまえばいい……という昏い転落への誘惑と被虐の法悦が渦巻き始めていた。
 既に騎士であった記憶は、「彼女」にとって不幸な己に酔う為の装置でしかなかった。

「ふぅん。そう言われると確かに似ているな……へへっ、あのお高くとまった元帥閣下が、俺のマラをしゃぶってよがってると思うと興奮するぜ。
 正直あの野郎はいけ好かなかったんだ。
 ……オラ!この淫乱元帥!さっきから物欲しげな顔で見やがって。そんなに欲しけりゃくれてやるよ!」

 口腔を犯していた肉棒が、唐突に引き抜かれた。
 察した背後の男が、発情した身体を抱え上げ、足を大きくMの字に開かせる。
 
「はぅううう……ッ♥」

 爛熟した身体の中心点──淫紋の効果によって蜜で濡れそぼり、ぬかるみのようになった卑猥な後孔が、狂暴な支配欲をぎらつかせている獣の前に曝される。
 もはや慣らす必要など微塵も感じさせない、蕩けきったそこへ、滾った剛直が宛がわれ、一気に貫いた。

「おぁあああぁあぁぁああああああ……ッ♥♥♥♥」

 その一撃で。理性も良心も、騎士の誇り高く善良な人間性を形作ってきたモノが、蒸発する。
 凄まじいまでの歪んだ多幸感が全身を包み、内からその在り方を作り変えていく。

「あ♥♥……ぁあ……っ♥♥……ぁあああああっ♥♥おほぉっ♥♥」
「あれれ?ちょっとこの娘、さっきより声が可愛くなってない?」
「おっぱいも少し大きくなったような……」

 ぐちょぐちょと、品の無い濡れた音を立てながら、肉棒が完全な変貌を遂げた身体を、女と化したその器官を荒々しく掻き回す。そして貪欲な娼婦の熱い粘膜はこれに応えるように男の形を感じとりながら、更に幹を食い締め、扱き上げた。

「すげぇ!俺のマラが全部入りやがった!」

 蜜が滴るふしだらな媚肉の壷が、迎え入れた逸物を絡みつくような動きで翻弄し、男から精を搾り取ろうとする。
 感度自体も高まり、抜き差しされながら胎の内を掻き回される感覚が生み出す法悦に、美姫の唇からメスの本能をむき出しにした歓喜の声が溢れだす。

「おぁあっ♥おほぉっ♥♥んおぉっ♥おほぉおお゛おおおおっ♥♥♥おひぃっ♥♥」
「んおおおおっ !?
 このスケベマンコが!生意気にぎゅぎゅう締め付けやがって!」

 男が腰の動きを加速させる。
 肉の槍が打ち込まれる度に、劇的な変化の波紋が美姫の全身に伝播していく。
 激しく揺さぶられている乳房の上で、ただでさえ目立つ乳頭が、吸ってくれと言わんばかりにますますいやらしく勃起した。

「おぁっ♥♥……おぉ……ぁあ♥……ほぉおおおっ♥♥」
「てめえ、淫乱メスが男みたいな声出すんじゃねえよ……!女らしく鳴けや!」
「……あっ♥♥おぁあっ♥♥す、すいませ……っ♥♥んっ♥♥もっ♥気持ちよすぎてっ♥♥あぁん♥♥あはン……っ♥♥」
「ああ?どこが気持ちいんだって?オカマ元帥様よ」
「お……オマンコがっ♥♥
 オマンコ気持ちよすぎて……っ♥♥あぁっ♥♥いいっ♥♥すごくいいのっ♥♥もっと突いてっ♥♥めちゃくちゃにしてぇッ♥♥♥♥」

 淫気に狂った女神の口から、品の無い懇願が艶やかな喘ぎと共に飛び出す。
 今やその身も心も、己を貫く男以上に獣欲に支配された淫蕩なものへと生まれ変わっていた。
 異常なまでの性への渇望が、「彼女」の身体を燃え上がらせる。

「ケツの穴がオマンコだとよ……!笑わせるぜ!」
「マラも勃たねえ男崩れの変態が。種付されて孕んじまえ……!」
「ああっ♥♥いいっ♥♥すごくいいのッ♥♥おチンポ最高♥♥
 出してッ♥じるのなかにっ♥♥傭兵様の特濃ミルクッ♥♥いっぱい出してぇッ♥♥♥♥」
「メス犬みたいに腰ふりやがって!いいぜ!腹が膨れるまで出してやらぁ!」

 どくっ!どぴゅどぴゅ!どびゅるるうううううう──!びゅぴぴっ!

「はぁああああぁあぁあンッ♥♥出てるぅ♥♥
 極太マラからミルクッ♥♥孕み汁いっぱい出てるぅぅうううううッ♥♥♥♥」
「おら!次は俺だ!」
「頭からぶっかけてやる!」

 とびゅ!びゅるるっ!びゅるううううううっ!

「あああっ♥♥すごっ♥すごいぃ……ッ♥♥イクッ♥♥じるもイクッ♥♥♥♥イッちゃううぅううッ♥♥♥♥
 オマンコ♥きゅんきゅんするぅうう♥♥」

 内に中にと、全身に白濁液をぶちまけられ、美姫が絶頂する。
 男性としての機能を失い、ただ男達に弄ばれ嘲嗤われるためだけに存在する代物と成り果てた惨めな突起から、愉悦の印が滲み出し、喘ぐ唇からはあられもない歓喜の声が零れ落ちる。

「けっ!ざまあねえな……!」
「このクソ淫乱が!よがりまくりやがって!」
「へたってんじゃねえよ!まだまだ終わってねえぞ……!」
 
 しかし一度の発露で男達が満足するわけもない。
 美貌を紅潮させ官能の波に身悶える堕ちた女神の身体を貪り尽そうと、我先にと白い肢体へ群がり、髪の一房からつま先まで、余すことなく汚していく。

 払った代金分、男達が満足するまで、その獣欲の赴くがまま、狂気の宴は続く。

「しゅ……しゅごいぃっ♥♥傭兵チンポしゅごいいいっ♥♥じる、女の子にされちゃったぁあああ♥♥♥♥
 んぁあああああっ♥♥気持ちぃいいッ♥♥気持ちよしゅぎてっ♥♥またイっちゃぅウウウウッ♥♥♥♥」

 そしてその中心で、恍惚とした表情で激しく長身を痙攣させ、男達に蹂躙される「彼女」の中に、「彼」はもういなかった。


■■■



「この度の件ですが───でありまして、───という事例を踏まえた上で考えますと、私が思うに───」
「……なあ、ジルはまだ帰らないのか?」

 古くから仕える直臣の報告を遮り、どこか夢見るような表情と口調で、リッシュモン伯アルテュールは呟いた。
 最後に語らったのは何時の事だったか。
 最愛の友とは、もう随分と長い間、顔を会わせていない気がした。

「恐れながら閣下……」

 あくまでもさりげなく発せられた主の言葉に、側近である男は痛ましげな表情で答える。

「ご病気の男爵を慮って、軍での任を解かれた上、ご領地へと帰還するのを奨めたのは、閣下ご自身ではありませんか?」
「…………え?」

 端正な唇から、内外にその名を轟かす智将らしからぬ、間の抜けた声が漏れた。
 心底わけがわからない、という表情で己を見返す金髪の美丈夫に、男は続けて言う。

「……閣下も大分お疲れなご様子。
 しばし務めを離れて休養なされた方がよろしいのではないでしょうか?
 男爵もおりません上に、今閣下にまで何かあれば、国にとっては一大事。
 ブルターニュにいらっしゃる兄公爵様も御心配されております。
 どうかご自愛を」
「あ…………ああ、そう……だな」

 切に訴える忠義の徒に、伯爵は戸惑いを隠せぬまま、曖昧な相槌を返す。

「早く……また元気な姿を見せてくれればいいのだが……」

 心ここにあらず、といった口調で繰り返すその様子に、

「やはり最近の閣下はおかしい」

 主の執務室を退去した家臣団は口々に言う。

「ご自身の指示を忘れていたり、覚えていても急に覆したり──落ち着きがなく、まるで別人のようだ」
「我々や古くから仕える兵を差し置いて、妙な者達の出入りを許しているとか」
「男爵が病で静養中というのは偽りで、既に亡くなられているという噂も──」
「信じたくはないが、従騎士との間でもよからぬ話を聞いたぞ」
「それどころか、いささか品位に欠ける店に出入りしているのを見た、という者までいるが」
「まさか──あの実直で奥様想いの閣下に限って」

 ここのところ、まばゆいばかりの威光に包まれていたはずの伯爵に付きまとう黒い影に、仕える者達は声をひそめ、やがて不穏な空気が災難となって我が身へと降りかかるのを恐れ、震えるのであった。

「何故、このような時に限って、男爵はあの方の傍におられぬのか。
 我々ではもう閣下を諌められぬというのに──」 
 

■■■ 


「ごめんね、アルテュールちゃん。ジルちゃんは俺達がもらうよ」

 猛った己を丁寧に奉仕する美女の白髪を優しく撫でながら、調教師の男が微笑んだ。

「でもね。もともとこれは君の身から出たサビなんだよ。『彼女』を巻き込んだのも、こんな姿にしちゃったのも。
 ジルちゃんはね、すっごく頑張ってたんだ。君を正気に戻すってね。
 だから俺達はちょっとした取引をしたの。
 もし、君が少しでもかつての誇りを思い出して、俺達に攻められる以外でエッチをしなかったら、君も彼も元の生活に戻してあげる、って。
 正直、君と違って彼はなかなか折れてくれなかったから、この提案に同意してくれた時には助かったよ。
 まさか、自分が想像していた以上に、君がおばかさんになってたとは、夢にも思わなかったんだろうね。
 君ときたら、堪え性が無くて、いつでもどこでも一人でよがっちゃうんだもの。
 とうとう部下にも手を出しちゃった。
 ……ジルちゃんの絶望した顔ったらなかったね!あの時はものすごい良い表情してたよ!この子!最高だった!
 ああ、本当に見せてあげたかったなぁ……」

 帰らぬ友を待ちながら、大人しく本来の勤めをこなしているであろう美丈夫の姿を思って、悪魔が笑みを深くする。

「……そうして君がヘマをする度に、どんどん身体をいじられちゃって、こんなに可愛くなっちゃった♡
 ね、ジルちゃん。今、君は幸せ?」

 愛おしげに幹を舌で舐め上げていた白髪の女神が、主人である男に声をかけられると、顔を上げ、たおやかに微笑みながらこれに答えた。

「はい♥私は、殿方を慰めて自分の胎を満たす事にしか能がない卑しいメスですから……♥♥御婦人方に蔑まれながら、殿方に媚びて生きていくだけの、恥知らずにもほどがある、出来損ないの女未満な生き物ですもの♥♥
 ご主人様に可愛がって頂けるのは無上の悦びです♥」

 髪を結いあげ、貴婦人のごとき豪奢なドレスに身を包んだ淑やかな姿からは、「彼女」がかつて勇猛な騎士として戦場をかけていた片鱗すら見られない。
 青年であった頃の知人がすれ違っても、もはや誰も気が付かないだろう。

「ジルちゃんは謙虚な良い子だね。
 でも君は卑しいメスなんかじゃないよ。可愛いお姫様なんだから自信を持って。
 君みたいな子は高貴な人達から物凄い需要があってね。
 本物の女と違ってうっかり孕ませたりしてお家騒動になる事もないし、ないがしろにされた奥方様達も自分の誇りを潰されずに済む。元が男だからそれとなく相手の気持ちも察せるから、とにかく誰からも恨まれずにモテモテなわけよ。
 ……最近ちょうどうちの看板娘だった子が亡くなっちゃったから、本当に助かったよ。
 これから二人で頑張ろうね♡」

「はい♥♥」

 哀しくも麗しい過去を背負った美姫の奉仕を受けながら、そしらぬ顔で彼女に美丈夫の相手をさせるのも面白いかもしれないな……と男は思いつき、その皮肉な光景を想像しては、声を上げて嗤うのだった。 
  
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