駄目×最高

春待ち木陰

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第08話(性的な表現が含まれています。)

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「俺が一ノ瀬にオナニーを教えてやる」

 そう言った大山翔吾は、一ノ瀬夏純の返事も待たずに、自らのズボンとパンツとを一緒に下ろして、一気に下半身を露出させた。半勃ちのペニスがぼろんと現れる。

「うわッ」と声を上げて、夏純は横を向いた。

「見ないと分からないだろうが」

 叱り付けるみたいに言った翔吾の隣りで、和泉光助はくすりと笑った。

「さっきまで普通に動画のちんこは見てたのにな」

「さっきまでのはそういう役の人だと思ってたから。知ってる人のはちょっと」

 敬語を忘れる勢いで夏純はまくしたてた。まだ横を向いている。

「さっさと脱げ」

「え?」

「俺だけ脱いでも意味ねえだろうが。一ノ瀬も脱ぐんだよ」

「そんな事、言われても」

 横しか見られない夏純の下半身に、

「とろくせえな」

 自らの下半身をバッチリと露出させている男の手がさっと伸びる。

 横しか見ていなかったせいもあって、夏純はズボンをがっちりと掴まれてしまってから、その事に気が付いた。

「わ、わ、わ」

 と慌ててももう遅い。夏純と翔吾の体格差を考慮しなくても、単純に腕力と握力の強い翔吾は、いとも簡単に夏純の動きを抑えて、ズボンとパンツを引き下ろす。

「わーッ」と叫びながら夏純は光助の事を見た。

 客観的に見て、夏純は光助に助けを求めたのかと思われたが、見られた当の光助はというと、

「じゃあ。俺はコンビニで昼飯でも買ってくるかな」

 和泉光助の真骨頂か、実に爽やかな微笑みを返すだけだった。

「い、和泉先輩」

「心配するな。ちゃんと三人分、買ってくるから」

「そうじゃなくて」

「大丈夫だ。今日は奢ってやる」と言い残して、光助は翔吾の自室から出ていった。

 届かぬと分かっている手を虚しくも伸ばしながら、

「嗚呼」

 と力無くうめいた夏純の耳にトントントンと階段を降りていっているらしき足音が聞こえた。和泉光助は本当にコンビニに行ってしまうつもりらしい。

「一ノ瀬。勉強だ」

 下半身を丸出しにしたままの翔吾に真面目な顔と口調で言われてしまった夏純は、元々、今日の集まりが誰の為のものであったのかを改めて思い出す。

「あの。はい。そうですね」

 夏純の中で有り難いやら申し訳ないやらの気持ちが恥ずかしさを十二分に上回っていった。夏純は深く頭を下げる。

「よろしくお願いします。俺にオナニーとかいうものを教えてください」

「オウ。任せろ」

 普段から厚い胸を翔吾は更に張った。

「とは言え」

 翔吾はちらりと夏純の股間に目を向ける。

「やっぱ、萎えてるよな。あれだけバタバタしてたら」

 夏純のペニスはすっかりと縮こまっていた。今の状態では翔吾の小指よりも小さいかもしれない。これを握ってシゴくのは困難だ。

「とりあえず、もう一回だな。エロ動画、見て、勃起させるぞ」

「ボッキ?」

「ちんこを硬く大きくする事だ」

「あ、はいッ」と素直に頷いてくれた夏純の隣りに腰を下ろして、翔吾はパソコンを操作する。

 さっき見たばかりのエロ動画をもう一度、見せるよりは、また別のものを新鮮な気持ちで見てもらった方がより勃起しやすいだろう。

 翔吾も考えていた。

 事の始まりは、和泉光助からの話で断る理由も特には思い付かなかったから場所と機会を提供してやっただけという認識だったが、まあ、ここまで来れば乗り掛かった船だ。最早というか、むしろ、後輩の教育に協力をしてやるのもやぶさかではないというような気持ちとなっていた。

 苛められ気味と思われた一ノ瀬夏純でも部内の有力者である大山翔吾との繋がりが強くなれば、いや、実際のところは別にしても、強いように見えさえすれば、今後、ウチの野球部で気軽にちょっかいを出すような輩は居なくなるのではないだろうか。和泉光助にはそのような打算もあったのだが、形ばかりではなく、このように翔吾が積極的な姿勢を見せる事になるとは、予想もしていなかった。

 翔吾がクリックした今度の動画も内容的には、まあまあ「フツウ」だった。先程の動画との違いと言えば、男の年齢が十から二十程度、上がって、痩せっぽちだった青年から腹のふくれた中年に変わった事くらいか。

「また口でくわえてる」

 動画を見ながら夏純が漏らした。フェラチオ自体に対してはもうそれほどの驚きはないようだったが、

「俺、アレをやらされてたんだ」

 と恥ずかしそうにはしていた。その「恥ずかしさ」が理由ではないだろうが、

「あ、はい。集まってきた感じです、血が。ボッキになりました」

 夏純は律儀に報告をしてくれた。翔吾はきっちりと確認をする。

 これでフル勃起だろうか。

 大きくなってもなお夏純のペニスは頭の先までしっかりと皮を被ったままだった。全体的に色も白くて非常に綺麗な印象を受ける。「美しい」の方ではなくて「清潔」の方の意味だ。無修正の動画で見る大人の男の黒ずんだペニスに慣れてしまっていた翔吾には可愛らしいとさえ思えてしまった。

「勃起したか。良し。そしたら、それを利き手で握って」

 と最初こそ言葉で説明をしようとしていた翔吾だったが、すぐに「面倒臭いな」とそれを諦めると、ささっと袖まくりをして、

「見てろ。こうだ」

 自らの身体を使った実演をし始めた。

 亀頭の露出した立派なペニスの竿部分を右手で握るとそれを上下に動かし続ける。リズミカルながら豪快な行為に見えるのは、翔吾の腕から拳から、ちらちらと見える腹から太ももから、ペニスも含めて、あらわにされている箇所の全てが、たくましいからだろうか。

「こうですか」

 夏純は自分のペニスを掴むと見様見真似で上下に動かす。

 翔吾は自分の手を止めて、夏純の様子をうかがった。

「そうだな。合ってる」

 翔吾は頷いた。白いペニスと小さな手だった。

「そのまま、しばらく続けてみろ」

「はいッ」

 生まれて初めての物理的な刺激に夏純のペニスは硬度を増したがそれも不随意的な生理現象であって、夏純の意識としてはいまだ、性的な快感を覚えてはいなかった。

 一生懸命、夏純はシコる。

 何でこんな事をしているのか、これは一体、何なのか、何の為にする行為なのかも良く解っていないまま、夏純はシコり続けた。

 普段から冷静な和泉光助が見せたあの反応から察するに、どうもこれは常識の類いらしく、これをした事がなかったり、知らなかったりする事は大問題のようだった。夏純は野球に於けるキャッチボールのような感覚で、この行為を教えてもらっているという認識だった。

 動画を見ながら夏純はシコる。隣りの翔吾に見守られながら、延々、シコる。

 動作だけを見れば、夏純の行為も翔吾の行為も同じはずなのだが、何故だろうか、とてもではないが同一の行為とは思えなかった。

 本来は自主的に行うであろう行為を、夏純は、義務感のようなものを抱きながら、事務的に行っているからだろうか。

「これが、えっと、オナニーなんですか?」

 ずっと上下に振り続けている右腕の疲れを誤魔化す為にも夏純は尋ねた。

「そうだ。それがオナニーだ」

「皆、やってるんですか?」

「やってるな。俺らの歳だったら毎日やってる奴も珍しくないだろうし。一日に何回もやってる奴だって普通に居るだろうな」

「毎日ッ? 何回もッ?」と夏純は悲鳴みたいな声で驚いていた。

 翔吾は、

「好きでやる事だからな。苦じゃねえはずなんだけどな」

 首を傾げた。

「気持ち良くねえか? 今」

「今ですか。気持ち良くないというか、その、特には何も感じないというか。膝とか腰とかを擦るのと変わらないような」

「そうなのか?」と翔吾は軽く身を乗り出した。

 もしかしたら、自分の教え方に問題があったのだろうか。自分から「教えてやる」なんて言っておいて、これでは非常にバツが悪い。

「やり方は、間違ってないよな」

 まじまじと翔吾は夏純の股間を覗き込む。今更、夏純は照れたり、隠そうとしたりはしなかった。返って、多少でも見やすいようになればと自分の腰を突き出すような仕草を見せたりとしていた。

 やり方は、やっぱり、間違ってはいなかった。

「んんん」と唸った翔吾は、

「ちょっと貸してみろ」

 夏純の身体を背後から抱え込むようにして手を回すと、上下運動を繰り返していた夏純の手を軽く払い除けて、その場に残った白いペニスをすっと握った。

 目で見て分かったつもりにはなっていたが実際に握ってみた夏純のペニスは本当に小さくて、自分のモノを握る時と同じくらいの力を込めでもしたら簡単に握り潰してしまいそうだった。翔吾はそっとを意識しながら優しく夏純のペニスを撫で上げる。

 夏純のペニスは翔吾のてのひらにすっぽりと収まってしまっていた。翔吾の大きなてのひらに対して、夏純のペニス全体が、触れ合い、摩擦を起こしている為か、この握り方では何ともシコりづらかった。

 翔吾は人差し指と親指とで輪っかを作ると夏純のペニスをその中に通した。根本で優しく締め付けて、上下に動かす。

 ペニス自体を擦るというよりは、表面で余っている皮を適度な強さで締めながらに動かす事で、その皮越しに内側の本体を刺激するような感じか。

「あ」

 と夏純が吐息した。

「お」と翔吾は喜ぶ。

「気持ち良かったか? 今の」

 尋ねながらも翔吾の右手は動かされ続けていた。

「あの。あ。分からないです」と赤らんだ顔で夏純は答えた。

「くすぐったかった、みたいな。ビクッてなる」

「その感じだ」と翔吾は夏純の耳許で囁いた。

「そのくすぐったい感じを『気持ち良い』って思ってみろ」

「あ。あ。これが『気持ち良い』? あッ」

「そうだ。それが『気持ち良い』だ。くすぐったい感じを我慢しないで受け入れろ。何だったら動画の女みたいにもっともっと喘いでみても良いかもな」

 言いながら、翔吾は右手の動きを変える。輪っかはそのまま、今度は上下の動きの幅を大きくしてみた。上に行けば、指の腹で皮越しに亀頭の輪郭を優しく刺激して、輪っかの締め付けをほんのちょっとだけ強めながら下に行けば、余っている皮を巻き込んで、ぐっと引き下げる。その結果、長過ぎる袖を適当にまくり上げた時のように亀頭の先が、翔吾の右手の上下に合わせてリズム良く見えたり隠れたりとしていた。

「動画の、あ。女の人みたいに?」

 夏純は言われた通りに、動画の中で中年の男性からねちっこい愛撫を受けている女性と自分とを重ねてみてみる。自分が女性で、女性が自分だ。だとすると動画の中の中年男性は大山翔吾か。

 現実では翔吾にペニスをいじられながら、一ノ瀬夏純は、動画の中では翔吾に胸を揉みしだかれていた。

「あ。あ。あ。あんッ。あ」

 動画の女性と夏純の声が自然と重なる。動画の女性がびくりと跳ねると夏純の身体もびくりと揺れる。

「『気持ち良い』な?」と翔吾が囁く。

「は。あ。はい。あ」と夏純は息を切らしながらに肯定をする。

「『気持ち良い』です。あ。あッ。気持ち良い。です。あんッ」

 聞いていた翔吾が気付いていたかは別にして、夏純が本当の意味で「気持ち良い」と吐露した次の瞬間、

「あ」

 吐息と共に一ノ瀬夏純はその人生で初めての射精を経験した。びくんッ、びくんッと跳ねる小さな身体は、翔吾の厚い胸と二本の太い腕に力強く抱き支えられていた。

 翔吾の手によって、わずかに顔を覗かせていた亀頭の先から、どろりと白濁色の粘液が溢れ出る。勢いは無かった。

 自分も最初はこうだったかな。覚えてねえな、などと考えた後、

「イクならイクって言えよ」

 翔吾は、自分の胸の中で、ぐったりとしてしまっている夏純に声を掛けた。

「え。行く? 何処に」と息も絶え絶えに夏純が返す。

「イクってのは射精する事だ。覚えておけ」

「あ。はい。射精する事は『イク』」

 今回は夏純の射精に勢いが無かったから助かったものの、ともすれば、翔吾の自室を大きく汚してしまっていたかもしれないのだ。

 そういった理由から翔吾は、夏純に射精を事前に告知してもらえていれば、ティッシュで押さえるといった事も出来たのにという話をしたつもりだったのだが、一ノ瀬夏純にはまた違う意味合いで聞こえてしまっていた。

「『イク』なら『イク』って言う」

 そう言えば、今の前の動画でも男の人が「イクぞ。イク、イクッ」と言っていた。

 射精には、そういうマナーかルールがあるんだな。

 夏純は妙な誤解をしてしまっていたが、当然、翔吾はその事に気が付いてなどいなかった。
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