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07_来ることが分かっているパンチには耐えられる(反語。
しおりを挟むミチタカは根が真面目と言うのか、こういった事に慣れていないと言うのか、
「このペットボトルのキャップ、開けられる?」
「シャーペンの芯、貰っても良い?」
「柔軟体操のペア、組んでもらえないかなあ?」
笹野君に軽く断ってもらえるような微妙な頼み事がなかなかに出来ないでいた。
「何だ。固くて開かないか? 貸してみ」
「シャー芯? 一本で良いのか?」
「おお。今日のミチタカはやる気だな。スポ根でも読んだか」
ミチタカの頼み事はことごとく笹野君に聞き入れられてしまう。
笹野君の友達の一人として、ミチタカも「親友」認定を頂きたいなどと思いつつ、でももしも頂けなかったらと思うとちょっと、いや、凄く怖かったりもして、そんな不安があるせいかミチタカの頼み事にはビミョー度が足りていなかった。
「えっと。ごめん。背中、掻いてもらったりしても良い?」
「あ、それ。美味しそう。一口、頂戴? とか言ってみたりして」
「こ、今度、一緒に、あの、映画とか。行かない?」
この日は朝から放課後になるまで幾つもの頼み事をミチタカは笹野君にしてみたのだが結局、笹野君は一度も断ってはくれなかった。
断ってもらえないと「友達だろう?」と追いすがる事が出来ず、そうなると「友達じゃない。親友だ」のお言葉は頂けない。
はあ、とミチタカは密かに落ち込んでしまっていた。これだけやって少しも上手くいかないという事は神様とか運命とかが止めておけって言っているのかもしれない。
これ以上、無理をし過ぎて取り返しのつかない大失敗をしちゃう前にもう変な事を笹野君に頼むのは止めておこうとミチタカはこのチャレンジからの撤退を決めた。
その裏で笹野君は思っていた。
「何だ。今日のミチタカはアレみたいだな。野良猫、いや、野良犬、違うな。野鳥がようやく慣れてきてくれた感じだな」
急な変化だった気がして多少の驚きや戸惑いもあったが、ミチタカの積極性に笹野君は「やっと打ち解けてきたか」と微笑ましいような誇らしいような気持ちになっていた。自覚も何も無かったが、もしかしたらそれは母性や父性に似た気持ちだったのかもしれない。
だがしかし。次の日のミチタカは、
「おはようございます」
から、
「じゃあねえ。また明日」
まで様子を見てみたものの間違いなくよそよそしくなってしまっていた。
ミチタカ本人にしてみたら馬鹿げたチャレンジを止めて元に、一昨日までの普通に戻っただけの事なのだがその印象を受け取った笹野君にしてみると、
「どうした、ミチタカ。何かあったか?」
と心配せざるを得ないテンションの急降下だった。
「え? 何かって。何が?」と素直に答えたミチタカに笹野君は、
「隠すな。隠すな」
軽く詰め寄ってしまった。勿論、悪気の類いは全く無かった。
それは老婆心だったのかもしれないが笹野君としては親心のようなつもりだった。
「て言われても」とミチタカは困ってしまう。そこで笹野君が言った。
「遠慮もするな。友達だろう?」
あれ。これってとミチタカはぴんと来てしまった。ぴんと来てしまったからには、
「と、とと、友達じゃない」
やらねばなるまい。大一番だ。緊張から少しばかりどもりながらだったがお約束の言葉をミチタカはどうにか発する事が出来た。
「え?」と笹野君はおよそ笹野君らしからぬ顔できしりと固まってしまった。
ミチタカは大事な決め台詞を前に力みが過ぎて、ぎゅっと目を強くつぶってしまい笹野君の顔を見られてはいなかった。そのまま、
「笹野君は親友だから」
絞り出すようにミチタカは宣言をした。
「…………」
「…………」
数瞬の長い沈黙が二人の間に訪れる。
ぎゅっとつぶっていた目をミチタカが恐る恐る開いたのとほぼ同時に、
「ぷッ」
と笹野君が吹き出した。
十数秒ぶりに暗闇から解放されたミチタカの目が最初に映したものは、
「あははははははッ!」
興奮気味に大笑いしている笹野君の姿だった。
ミチタカの気のせいか、それとも人体の正常な反応か、久し振りに光を取り入れたミチタカの目に笹野君の姿はまるで後光でも差しているかのようにぺかーっと輝いて見えてしまっていた。
笹野君はばんばんとミチタカの背中を叩きながら、
「やるじゃん」
と笑ってくれた。
何だろう。思っていた反応とちょっとだけ違うような気がしないでもなかったが、ミチタカは笹野君に褒められてしまったように感じて、
「えへへ」
とはにかんだ。
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