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26「光あれ」
しおりを挟む「ホラティオ・レイショホー。――ステイ!」
「んッ? お、おう……どうした?」
テルマはホラティオとの撃ち合いを中断させてクラウディウスに歩み寄る。
「クラウディウス――」
「今度はわたしの番ですよね」
テルマが掛けた声とクラウディウスが発した言葉が重なる。
恐らくクラウディウスにはテルマの声が聞こえていなかった。
テルマもまたクラウディウスが何と言ったのかよくは聞こえていなかった。
「え? 今、何て言ったのかしら? 何『ですよね』?」
テルマが眉間にシワを寄せるのと同じタイミングでクラウディウスはまた「光」を作り出していた。それは先程の人間大よりも更に二周りは大きい「光」だった。
「ちょ、ちょっと待ちなさい――」
「クラウディウス様ッ。何をされているのですか!」
テルマの言葉に今度はフォーブラス・テイン先生の大声が重なる。
クラウディウスが応えた。
「先生。危ないですよ。少し離れてください」
テイン先生はうずくまるような格好で崩れ落ちていたクランツのすぐそばに居た。
「……クラウディウス様。何をしようとしているのですか……?」
テイン先生はその場から一歩も動かずに問うた。
「何って……『土』に『光』を当てるだけですけど」
悪気も悪意も全く無さそうな顔でクラウディウスが答えた。
「先生。どいてください」
「……いいえ。どきません」
テイン先生は動かないクランツを背に庇うようにして立ち塞がる。
「うーん……」と可愛らしい困り顔をこしらえたクラウディウスに、
「――クラウディウス。何をしているの!」
ようやくテルマの声が届く。だが、
「お姉さま……?」
その姉の言葉をどう捉えたのかクラウディウスは、
「――はいっ。頑張りますっ!」
と元気に応えて片手を掲げた。大きな「光」が持ち上がる。
高く掲げられた手の先で、大きな「光」がぐにゃりとそのカタチを変えた。
細くて長くて真っ直ぐな――まるで一本の「槍」と化した「光」が、
「……えいッ!」
掲げられていたクラウディウスの小さな手が振り下ろされるのと同時に、
「何と――ッ!?」
身構えていたテイン先生の本当にすぐ脇を通り過ぎると、その背後で丸まっていたクランツの背中に突き刺さった。
「クラウディウスッ!?」
叱責なのか悲鳴なのかテルマが叫んだ。
「何をしているのッ!?」
それはつい先程にも発せられた言葉だった。
同じ台詞を続けて二度も聞かされたクラウディウスは、
「えっと……?」
不思議そうに小首を傾げていた。
「クラウディウス。説明しなさい。どうしてこんな事をしたの?」
「どうして……ええと。ひとつ前にわたしの出した『光』がクランツさんの『土』で打ち消されたので今度はクランツさんの『土』をわたしの『光』で打ち消す番だからクランツさんにわたしの『光』を当てました」
「んん……?」とテルマは表情を険しくする。クラウディウスの説明は、ともすれば聞き流してしまいそうになるくらい流暢だった。
流暢過ぎて逆に咀嚼が必要になる。
「……ちょっと待って。何かしら。あー……と。クラウディウス。あなた、変な事を言っているわよね……?」
顕現化させた魔力を人間にぶつけてはいけないという基本的な注意はさておきだ、クラウディウスが口にした言葉に矛盾があるというかなんというか……変なのだ。
「変……ですか?」
「そう。変よ? わたくし、横目で見ていたけれど『ひとつ前』はクラウディウスが大きな『光』をクランツに当てていたじゃないの……」
更には。混乱しかかっていたテルマがその咀嚼を終えるより先に、
「クランツ君ッ!?」
まるでテルマの咀嚼を邪魔するように――と言ってしまっては言い掛かりになってしまうだろうが、テイン先生の大きな声が聞こえてきた。
「ええ……?」とテルマは振り向く。頭はまだ正常には働いていなかった。
振り向いたテルマの目に入ってきたのは地面にうずくまっているクランツの姿と、その背中に刺さっていた「光の槍」であった。
「……あら?」
テルマは気が付いた。
クランツに接触している部分を「槍」の穂先とするならばその反対側の先端である石突の部分から徐々にその「槍」は短くなっていっているようだった。
そしてそのまま消え去るかと思われた「槍」は結局、元々の半分程の長さとなったところで変化を止めた。
「消えた……?」とテイン先生の呟きが聞こえた。
「先生? 『槍』はまだ残って――」とまで言ってしまってからテルマは黙る。
「槍」の石突の部分に注目していた事やテイン先生の陰となっていた事で気付くのが遅れてしまったが、
「……クランツは? 何処に?」
その場所にさっきまであったはずのクランツの姿が無くなっていた。「光の槍」の穂先は他に何も無いただの地面に突き刺さっていた。
「これは……どういった事だ……?」
フォーブラス・テインがクランツの居た地面に手を置いて考え込む。
先生にも分からない事がテルマに分かるはずもなかったが、
「……顕現化された魔力で人間を物理的に消す事は出来ない。人間の精神には影響を及ぼす事が出来るが……となると、さっきの『光の槍』は質量を伴った『魔法』? そうだとしても。聖属性の魔法は基本的に癒やしや浄化の作用しかないはず……」
テルマェイチが自分の中の知識に基づいて目の前の出来事を整理してみると――。
「……クランツは『死霊』だった……?」
テルマが導き出した突拍子もない答えには、
「いえ。あの……『死霊』ではないんですけど」
間髪を容れず否定の声が上げられてしまった。クラウディウスが続ける。
「クランツさんは『土』で出来た『ゴーレム』でしたので。えっと。クランツさんを真似て『光』を濃くしながら『土』にぶつけてみたんですけど。『土魔法』で出来たクランツさんを打ち消せたという事はわたしも『聖魔法』が撃てたんでしょうか?」
もっと単純な話であった。
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