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21「終わりの始まり」

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 学院から公爵邸へと戻る馬車の中、

「お疲れ様、クラウディウス。はじめての学院はどうだったかしら?」

「はいっ。お屋敷に居るときよりもずっとお姉さまと一緒にいられたのが嬉しかったですっ」

「そ、そうね。クラウディウスがクラス分け試験で頑張って、わたくしと同じ中の上ランクに入ってくれたから。本当はもっと出来るのに。手を抜かせてしまって――」

「謝らないでください。お姉さま。わたし、お姉さまと一緒に居られるなら何だってできますから。だから。謝られるよりも……あの、試験ではがんばりましたし、これからもがんばりますので、その……わたしはお姉さまにほめてもらいたいです」

「そ、そうなのね。ええ。ええと。そうね。え、偉いわ。クラウディウス」

「えへっ。えへへ。ありがとうございますっ。お姉さまっ」

「ちょ、ちょっと。こら。はな、離れなさい。――危ないからよ。走る馬車の中なのだから。立ち上がらない。座りなさい。もう。それで、その……今後の実技の授業についてなのだけれども」

「はい」

「難しいと言われている聖属性の魔法もね、クラウディウスならきっとすぐに出来てしまうと思うけれども。わたくしを含めて、同じクラスの皆――あの赤いのや兄弟の実力と足並みを揃えておかないと……クラウディウス一人だけクラスを変えられかねないから」

「それは嫌ですっ」

「ええ。ありがとう。――だから。もしかしたら単に聖属性の魔法を覚える事よりも難しいかもしれないけれど。クラウディウスは悪目立ちをしないように……そうね、わたくしや赤いのよりもあの地味な兄弟をお手本にしたら良いかもしれないわね」

「あの。兄弟って。えっと……クランツさんとスターンさん?」

「……そうね。確か。その名前で合ってると思うわ」

「クランツさんとスターンさんをお手本に……」

「悪目立ちしないよう。足並みを揃えて。そうすれば、きっと……わたくしとクラウディウスはずっと一緒に居られると思うわ。ずっとね」

「ずっと一緒に……――はいっ。わたし、わたし……がんばりますからっ!」

 それぞれの専属メイドであるロウセンとキルテンを傍らに置きつつテルマェイチとクラウディウスがそんな秘密の話し合いをしてからわずか三日後の事だった――。

「きゃーッ!」

「なんだよこれ、なんなんだよッ!?」

「痛い痛い痛い……」

 逃げ惑う生徒。その場にへたり込んで喚くしか出来なくなってしまっている生徒。運悪く怪我を負ってしまった生徒。瓦礫と化した校舎の一部。

「…………」

 目を閉じて祈るように深く集中するクラウディウス。

「……クラウディウス」

 呟くも妹を止める事は出来なかったテルマェイチ。

 そして――天高くから降り注がれる白い雨。

 太陽光の反射ではない。その白い雨の雫は自ら光り輝いていた。

「きゃ……あ、あれ? 何かしら。この感じ……?」

「なん……だ? あたたかい……?」

「痛……くない? 血が……止まってる? ……え? 傷が無くなった……?」

 どうして。こんな事になってしまっているのか。

 テルマェイチはその現実から目を背けるが如くまぶたを閉じて、

「はあ……」

 と溜め息を吐き出した。



 テルマ達が所属する中の上クラスの担当教師であるフォーブラス・テインの強引な提案によって、本来であれば個別に鍛錬を行うべきであろうところ、

「……本当に大丈夫なのかしら」

 テルマ、

「わたしはお姉さまと一緒なら。なんでも」

 クラウディウス、

「教師ってのは師匠って事だろ。師匠なんてのは無茶ばかり言うもんだぜ」

「赤い勇者」ことホラティオ・レイショホー、

「去年は平和だったのに……」

「やっと一年が過ぎたと思ったら……」

 クランツとスターン兄弟の五名は一つのグループとなって実技の授業を受ける事になってしまっていた。その初日である。

「んで。具体的には何をするんだ? 皆で魔力を当て合うのか?」

 馬鹿丸出しなホラティオの発言に対してテルマが呟く。

「……野蛮な発想ね。そんな事を繰り返していたら魔力が向上する前に死ぬわよ」

「おいおいおい……。殺しかねないって自覚がありながらマジで魔力をぶつけてくるような奴に野蛮だとか言われたくねえぞ。恐ろしいオンナだな」

「こ、公爵令嬢に対して」

「なんて口の利き方を……」

 ホラティオの身を案じるというよりはそれより発する不興や何やらのとばっちりを恐れているのだろうクランツとスターン兄弟の言動も含めて、テルマはホラティオの反論を聞き流した。完全に無視である。

 公式の場であったりや他に大勢の人間が居る中となれば、問題にしない方が問題となってしまうだろうが極めて少人数――五~六人程度しか居ない実技の授業中ならば構う事もない。……実技の授業中は専属メイドであるロウセンの厳しい目も無いし。

 ホラティオ・レイショホーの暴言など負け犬の遠吠えのようなものだ。

 テルマは獣の吠え方にまで礼節を求めたりはしない。

 クラウディウスは「うーん」と考え込んでいた。

 いや。ホラティオの無礼な言動に対する処罰を考えているわけではない。

 テルマに言われた「クランツとスターンを手本に足並みを揃える」にはどうしたら良いかと考えていたのだった。

 ホラティオ・レイショホーの乱暴な言葉は、考え中だったクラウディウスの耳にも届いてはいたが、公爵家の養子となってまだ半年しか経っていない教会育ちのクラウディウスにはその粗野な言動を「無礼」だと認識する事が出来ていなかった。

「先生」と答えを求めてテルマがフォーブラス・テインを見る。

 老教師は目を細めて、

「ほっほっほっほっ。それでは説明を致しましょうか――」

 その詳細を語り始めた。


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