追憶令嬢の徒然日記

夕鈴

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第二章

第百二十一話 追憶令嬢の秘策

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ごきげんよう。
レティシア・ルーンです。ステイ学園三年生です。

私はステラと一緒にエイミー様とレオ様のバイオリン練習に付き添うために音楽室に向かっています。
音楽室の扉を開けようとすると一番聞きたくなかった声が耳に入りました。
ステラに心の準備ができるまで待ってくださいと目配せすると笑顔で頷いてくれました。
最近はルメラ様をよくお見かけします。そして声を掛けられます。
淑女としてありえないのはわかってますが、そっと扉を開けて中を伺います。他の誰かの気配を感じたらもちろんやめますよ。今はシエルも付き添っていませんし、ステラは気にしないから大丈夫ですわ。中にはエイミー様とレオ様とルメラ様がいます。

「レオ様、レオ様の寂しさを私が埋めて差し上げます!!」
「寂しくないから、埋めてもらわなくても構わない」
「そんな!?強がらないでくださいませ。私が幸せにしてあげます!!」

笑顔でレオ様に話しかけているルメラ様。ルメラ様はレオ様のイチコロを狙ってますの?
生前レオ様はイチコロされてませんでしたわ。ブラコンの変態でしたから…。真顔のレオ様の眉がピクっと動きました。レオ様が嫌がっているときのお顔です。今世のレオ様はきちんとした王族なので表情も上手に作れるはずですわ。王宮行事であまりお見かけしませんが。それでもレオ様は嫌なことを上手に隠しますのに、これは相当ですわよ。

「出てってもらえないか」
「そんな方、レオ様には似合いません。私がずっと一緒にいてさしあげます。クロード殿下よりレオ様のほうが素敵ですもの」

エイミー様をそんな方?いえ、それよりも不敬罪ですわ。クロード殿下の誹謗中傷は許されません。しかも王族相手になんてことを。ルメラ様はクロード殿下にも接触してましたが…。腹黒殿下よりも純粋なレオ様のほうが好みなのは理解できても口に出してはいけませんわ。

「俺は兄上には敵わない」
「そんなことない。私がずっと傍で支えます」
「必要ない」
「私のために」

ルメラ様はどうしてうっとり無表情のレオ様を見てるんですか?エイミー様は淑女の笑みを浮かべたまま一言も話しません。王族が話しているのに口を挟むのはいけません。

「邪魔だから消えてくれないか」
「どうして?」
「俺は自分で傍にいて欲しい人を選べる立場じゃない」

確かにレオ様のお立場は難しいですわ。自嘲しているような口調が気になりますわ。これはあとでゆっくりお話しましょう。情操教育中ですから。

「私は誰になんと言われても傍にいます」

レオ様の手をぎゅっと握っり笑ったルメラ様の手をレオ様が振り解きました。殿下に触れるのは不敬なんですけど!!関わりたくないですが不敬の塊に頭が痛くなりますわ。すでに殿下の言葉を無視していることもですが。

「俺が傍にいてほしいのは君じゃない」
「まさか、あなたもレティシア様に攻略されて」
「レティシアは友達だ。関係ない」
「他に、誰が、まさか……」

ルメラ様の視線がエイミー様に向きました。目を吊り上げたルメラ様に嫌な予感がします。
エイミー様にルメラ様の相手は無理ですわ。私も無理ですが愛らしく優しいエイミー様にはもっと無理です。
レオ様がルメラ様の視線から守るようにエイミー様を背に庇いました。

「エイミーに何かしたら許さない。君がラウルの研究を駄目にしたのは、ラウルが許したから目を瞑った。これ以上俺の大事な人達に手を出さないでくれ」

ラウルの研究を駄目にしたってなんですの?そしてレオ様が怒ってますわ。

「あんな薄汚い平民を。どうして。大切なのはサラ様だけでしょ?」

ラウルの件は非常に気になりますが後ですわ。ルメラ様は平民の生徒にまで無礼を働いてますの?信じられないようにレオ様を見ていますがルメラ様はつい最近まで平民でしたよね?
ルメラ男爵の正妻が亡くなって引き取られたばかりですよね?

「ラウルの侮辱も許さない。目障りだから消えてくれないか」
「目を醒ましてください。エイミー様に騙されてます。エイミー様はたくさんの男生徒をかどわかしてますのよ」
「エイミーは魅力的だから仕方ない。俺だって立場が許せば……」

言いよどむレオ様。
この憂いをこめたお顔は…。これはチャンスですわ!!
関わりたくないルメラ様よりもブラコン回避が優先です。覗くのをやめて扉を開いて堂々と中に入ります。固まっているステラに「怖かったら逃げてください」と振り向いて伝えました。

レオ様に近づいてできるだけ優しく話しかけます。

「レオ様、立場が許せばの続きを教えてください。大丈夫です。私はレオ様の味方ですわ」

無表情のレオ様の金の瞳を見つめてできるだけ優しく微笑みかけます。
しばらく見つめ合うとレオ様が頷きました。

「俺はこれからもエイミーと一緒にいたい。ただ俺は母上を解放してさしあげたいから、俺を選んでなんて言えない。好きな音楽を思う存分やらせてあげられないかもしれない。もし陛下の許しがでても幸せにできない俺に言う資格はない」

ゆっくり話すレオ様の言葉は感情がこもっていません。それは王族なら仕方のないこと。それでもこの言葉に嘘がないのはわかります。

「レオ様はエイミー様のことを」
「母上と同じくらい大切。レティシア達も大事だけど、母上とエイミーは俺が幸せにしてあげたい」

レオ様!!素敵ですわ。こんな告白を聞いたらエイミー様、きっと……。
二人っきりにしてあげたい。でも邪魔が……。魔法が使えれば眠らせられますのに。無詠唱なら許されますか?
あら?静かではありませんか?そっとルメラ様を見るとステラが相手をしてくれてます。ステラ凄いですわ!!最近どんどんたくましくなりますわ。あちらはステラに任せましょう。ステラはやればできる子なので大丈夫ですわ。
感情を隠しているレオ様の瞳をじっと見つめます。そして臣下としてではない言葉をかけます。

「レオ様、お友達としてレオ様の幸せのお手伝いをさせてください。レオ様はお一人ではありません。夢は一つでなくてもいいのです。立場を忘れて自分の気持ちに正直になってください」
「レティシア?」

金の瞳に感情の色を見つけて笑みを浮かべます。揺らいでいる金の瞳に静かに語りかけます。貴族の言葉ではなくわかりやすい言葉で。

「レオ様、私は貴方の笑顔が好きですわ。優しく誠実なところも。レオ様のお心をどう受け止めるかはお相手次第です。レオ様が望んでくださるなら私は力になりますわ。私もエイミー様も弱くありません。どうかお心のままに」

しばらくするとレオ様の瞳の揺らぎがなくなりました。決意を固めたクロード殿下のお顔とそっくりになりましたわ。
二人っきりにしたいですが、まだ心配なので見守りましょう。空気になるので許してくださいませ。先程からルメラ様うるさいですわよ!!
レオ様がエイミー様に向き直りました。
二人に聞こえてないといいですが……。

「エイミー、俺はなにも持ってないけど、君にふさわしくなれるように頑張るから一緒にいてくれないか」

レオ様がそっとエイミー様に手を差し出します。告白としては情けないですが……。

「私はお傍においていただけるだけで幸せです」

エイミー様がレオ様の手を両手で包みました。瞳を潤ませ幸せそうな笑みが素敵。レオ様の金の瞳が大きく開き、次第に細くなり嬉しそうに笑いました。美しいですわ。
これはもう強硬手段ですわ。
ルメラ様の口をおさえ、肩を押して力づくで廊下に向かいます。
ステラも協力してくれます。

「何するのよ!?」
「私達はお邪魔です」
「どうして私の邪魔をするのよ!!」
「言ってる意味がわかりませんわ。お二人の邪魔はやめてください。王子殿下に不敬ですわ!!わかりました。今日だけ協力しますわ。ついてきてくださいませ」

レオ様のもとに行こうとするルメラ様の手を掴んで足を進めます。目立ちますが仕方ありません。
最終手段ですわ。
今日は生徒会がないので部屋にいると思います。どうせ近い将来イチコロされるんだからいいですね。エイベルの部屋をノックします。

「レティシアです。よろしいですか?」
「どうぞ、どうした?は?」

扉を開けて中に入るとエイベルの眉間に皺が浮かびました。エイベルの部屋にシエル以外を連れて訪れるのは初めてですわね。時々一人で訪ねますが…。

「挨拶は省略しますわ。お願いがあります。今はエイミー様とレオ様がお取り込み中です。どうしても彼女が邪魔すると聞きません。レオ様の代わりにお相手をお願いします。あとエイミー様とレオ様の婚約の根回しも」
「用件多すぎるだろう!!」
「よろしくお願いしますね、お兄様。では失礼します。ステラ行きましょう」
「待て!!話を聞け!!」

エイベルの声を無視して立ち去ります。
寂しいのを我慢してエイベルの恋を応援してあげますわ。ルメラ様を残してステラと立ち去ります。
エイミー様の恋が叶ってよかったですわ。私はお二人が婚約できるように動きましょう。これで監禁回避に一歩近付きましたわ。レオ様がエイミー様にイチコロされてくださればきっとブラコン回避です。
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