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第二章
第百七話後編 追憶令嬢の譲歩
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ごきげんよう。レティシア・ルーンです。
私はアリス様の願いを叶えるために遠乗りに来ています。道中熊に出会いましたがリオ達が華麗に退治し、その後は何事もなく馬を走らせています。
しばらく走ると馬の預かり場がありました。きちんと小屋が用意され世話人もいます。本当に観光名所ですのね。馬を預けて散策しましょう。森というよりも管理された大きな庭園が広がっています。私達の他にはお客様はいませんが。
薔薇が飾られたアーチをくぐると一面に赤い薔薇が咲き誇っています。水の気配に足を進めると湖がありました。
湖に大きな桃色の花びらをたくさんつけた花が浮いています。この花は水面下にある茎の棘に猛毒があるので触ってはいけません。本の知識で知ってますが本物は初めて見ました。知らなければ手を伸ばして触れて見たくなるほど魅力的な花ですわ。体が浮き上がり、湖が遠くなり首を傾げると
「危ないからこれ以上近づくな」
リオに抱きあげられて、湖から離されました。
「ほら。人に噛みつく魚がいるんだ」
魚が飛び跳ねてます。立派な牙があり噛まれたら痛そうですわ。
確かに危ないです。王都の遠乗り観光地って危険なんですの!?
実は有名な訓練場所の間違いですか?気にするのはやめましょう。人生は知らなくて幸せなことばかりですわ。ここを選んだリオのセンスが残念に思えることも含めて。
「ありがとうございます。おろしてくださいませ」
アリス様達の視線を感じます。アリス様達のことを忘れてました。うっかり湖に夢中になってしまいましたわ。でも今回は遠乗りの実現が目的なのでもういいでしょうか?
「私もいつか…」
ぼんやりしているアリス様に声を掛けてシエル達がお昼の用意をしているので合流しましょう。湖から離れると小さな小屋がありました。テーブルと椅子が用意され、その上にはシエルの用意した食事があります。料理長特製のチョコケーキとアーモンドクッキーも。
椅子に座って大きな窓から外を見ると光に反射した湖がキラキラ輝き、水面から飛び出す魚や水鳥も美しく見えます。この距離なら魚の牙も見えません。確かに近づきさえしなければ観光地として相応しく美しい場所ですわ。
食事をすませお茶を飲んでいるとリオの隣に座るノア様の視線を感じます。
「ルーン嬢、約束」
ノア様の茶色い瞳に見つめられ溢される呟きを拾いました。約束?
しばらく考えても思い出せずノア様の視線がリオを見ました。
思い出しましたわ。ノア様に微笑んで了承の合図を送ります。
隣に座るリオはチョコケーキを食べているので、食べ終わるのを待ちましょう。ノア様に早くしてとじっと見られていますがもう少しお待ちくださいと見つめ返します。物にはタイミングがありますのよ。リオがフォークを置いたので、ゆっくりと口を開きます。
「リオ、お願いがあります」
お茶を飲んでいるリオから視線で先を促されます。
「ノア様と手合わせしてくださいませ」
「は?なんで?」
ノア様に余計なことを言うなと睨まれてます。
熊から逃げるのにリオとの手合わせにつられたでは格好悪いですわね。ノア様に言いませんと笑い返すとゾクリと寒気がしました。辺りを見渡しても変わった様子はなく、リオは穏やかな顔でお茶を飲んでます。ですがこれは気乗りしないお顔です。効果はありませんが試してみますか?チョコケーキがあるので機嫌はいいはずです。
「私では訓練相手になりませんわ。駄目ですか?」
リオの手を握ってよわよわしい顔をして見つめます。
視線を逸らしたら負けです。
恥じらいの表情のほうが効果的らしいですが、まだ習得できてません。
この休みはケイトとの修行の時間が全然ありません。
「あざとい。可愛いシアの頼みなら仕方ないな。俺のシアはどの程度をお望みで?」
勝ちましたわ!!ケイト、今回は成功ですわ!!
リオの耳に囁きます。
「ありがとうございます。アリス様が見ていて幻滅しないくらいの」
「わかったよ。ノアやるか」
「ルーン嬢!!」
目を輝かせたノア様が青い顔のグランド様に腕を捕まれてます。
「ノア、無闇にご令嬢に近づくな。ルーン嬢はとくに」
「兄上、わかったから離して。リオ様の所に行くだけだから!!」
せっかくなので見学させてもらおうと二人の後に付いていきます。アリス様と並んで座りリオ達の手合わせを眺めています。リオに攻撃を仕掛けるノア様をアリス様は夢中で見ています。リオはきちんと目視できる手合わせをしてくれるみたいです。一度もリオを、捕まえられないノア様を眺めているとグランド様が隣に座りました。
「ノアのことを知りたがっていたのはマートン侯爵令嬢のため?」
アリス様に聞こえないようにささやくグランド様に小声で返します。アリス様のことはわかりやすいですよね。この状況を見れば誰でもわかりますわ。
「ええ。お兄様としては不服ですか?」
グランド様が息を吐いて安堵の顔をしています。
「安心したよ。いや、周りと家に迷惑をかけないなら構わないよ」
「中立ですのね」
「ノアの味方かな。ノアはまだ馬と武術に夢中だから長い道のりだろうけど」
確かにハンナ達の妄想したようなことは起こらなそうです。ノア様が夢中なのはリオと馬ですもの。食事中もずっとリオに話しかけてました。アリス様は眺めているだけで幸せそうですが。
「見守るだけですわね」
「ルーン嬢はマートン侯爵令嬢の味方じゃないの?」
以外そうな顔をするグランド様に首を横に振ります。
「道理を通してくださる限りはお二人の味方ですわ。今回はアリス様に求められたから力を貸しただけですもの。お父様の命や家が関与しないかぎり、人の恋愛には手を出しません」
できれば関わりたくないです。生前はルメラ様の取り合いに巻き込まれて大変でしたもの。幸せそうな顔をしているアリス様。想いが報われて欲しいと思うのと同じくらいに嫌な感情が沸き上がります。
「ルーン嬢大丈夫?」
「失礼しました」
令嬢モードが剥がれて素で冷笑を浮かべそうになったことに気づいて、慌てていつもの笑みを作ります。
「リオを好きな令嬢に協力を求められたらどうする?」
「リオがその方に好意を抱くなら協力しますわ。私の力では婚約破棄はできませんが愛人なら許しますわ。どなたかいらっしゃいますの?」
愛人を許すかは家に寄って異なります。ルーンは愛人を禁止してませんわ。ただし直系の子供は本家に引き取られます。優秀なルーンの血筋は宝ですもの。お父様はお母様一筋ですが。
私は邪魔しませんよ。でも、そうすると…。リオは邪魔になっても監禁しないと約束をくれたので大丈夫です。怖くないですわ。監禁に怯えて胸が痛くなるなんて、いけませんわ。どちらのご令嬢か教えてほしいですわ。私はモラルさえ守っていただけるなら全力で応援しますわ。
「目の前にいるんだけど」
グランド様の言葉に驚きました。昔のリオは落ち着いた女性が好みと言ってましたが、変わりましたのね。マートン候爵令嬢を愛人にはできませんわ。
「アリス様ですの!?」
「違うから。ごめん。忘れて」
「いえ、私の心に留めますわ。でも可能性は…。いえ、」
急に頭が重たくなりました。リオの前途多難な恋を知ったからでしょうか?リオに協力を求められるまでは知らないフリをしましょう。人の色恋にはやはり関わりたくありません。どんどん頭が重たくなっていきますわ。
「シア、ありえないから。俺は二人がシアの願い通りになればいいと思ってるよ。勘違いするなよ」
あら?
頭が軽くなり顔を上げると真顔のリオがいました。いつもなら見返す瞳から視線を逸します。まだ心の準備ができません。頬に手を添えられ顔を固定され無理矢理視線を合わされます。動揺を隠して無理矢理笑みを浮かべ、
「誰にも言いませんわ」
「シアの考えは勘違いだから。俺はシアの願いが叶えばいいと本気で思ってるよ。愛人も作らない。俺は不誠実なことは絶対にしない。わかった?」
ゆっくりと話しているのに反論を許さない意志の強さを感じる言葉に、真剣な銀の瞳に頷きます。これは絶対に逆らってはいけませんわ。本能が告げてますわ。
「余計なことは考えるなよ」
「かしこまりました。何も考えません」
怖いから忘れましょう。私にとってはリオから聞かされた言葉がリオの真実。関わるなというなら近づきませんわ。色恋に関わらなくてすむなら本望ですわ。
頬の手が放れて、リオの瞳から解放されてほっと息をつきます。
「サイラス、ちょっといいか、久々に一戦やろう」
「リオ、今日は遠慮しようかな、わかった、やるよ。帰りもあるから」
「あぁ。もちろん。シア達はこの結界から出るなよ」
先程よりも強固な結界を構築されリオ達が離れて行きました。いつの間にか結界の中には眠っているノア様がいました。アリス様が心配そうに見ているので、セリアの薬を1滴ノア様の口に垂らすとすぐに目を開けて起き上がりました。
先程からずっと爆音が響いています。見えませんがロベルト先生のお気に入りの二人が手合わせしているのでしょう。
ノア様が見に行きたいと騒いでましたが、ここに残っていただきました。止めても見に行こうとしたノア様がリオの結界を解除できなかったおかげですが。
しばらくするとスッキリした顔のリオと疲れた顔のグランド様が帰ってきました。
二人とも汚れも怪我がなくて流石ですわ。いつかは二人の手合わせを目視できるようになるんでしょうか…。
二人の手合わせが終わる頃には風も冷たくなりました。ノア様が紳士として非常に残念なので、花売から薔薇の花束を2つ買いました。一つはアリス様に、もう一つはハンナに贈ろうと思います。アリス様に花束を渡すと可愛らしく笑われました。そしてハンナ達の妄想通りに髪に一輪の薔薇を飾ると夕陽のせいかアリス様の顔が赤く染まったように映り、満面の笑みを浮かべた姿はさらに可愛らしい。私の頬が緩み、吊られて満面の笑みを返してしまいました。グランド様やリオはアリス様の可愛さに見惚れて頬を染めているのにノア様は馬に夢中でした。
遠乗りは楽しいですがアリス様達の仲は進展しませんでした。それでもアリス様の満面の笑みを見て、休みを返上した甲斐がありましたわ。お姉様達に反抗しても叶えたかった時間がアリス様にとって幸せなものになって良かったです。もしも今後またノア様がアリス様と遠乗りに行くのなら置いていかないように、最低限のマナーだけは身につけていただけるようにグランド様にお願いをしました。お兄様ですのできちんとお願いします。
リオに送ってもらいルーン公爵邸に帰り、アリス様はグランド様とノア様に託しました。念の為シエルを付き添わせマートン候爵邸に無事に帰ったか確認させました。
帰ってきたシエルの報告を聞いてほっと息をつきました。遠乗りは問題もなく終わりましたので、明日からまた社交地獄です。
私はいつになったら平穏な日々が送れるのでしょうか…。
私はアリス様の願いを叶えるために遠乗りに来ています。道中熊に出会いましたがリオ達が華麗に退治し、その後は何事もなく馬を走らせています。
しばらく走ると馬の預かり場がありました。きちんと小屋が用意され世話人もいます。本当に観光名所ですのね。馬を預けて散策しましょう。森というよりも管理された大きな庭園が広がっています。私達の他にはお客様はいませんが。
薔薇が飾られたアーチをくぐると一面に赤い薔薇が咲き誇っています。水の気配に足を進めると湖がありました。
湖に大きな桃色の花びらをたくさんつけた花が浮いています。この花は水面下にある茎の棘に猛毒があるので触ってはいけません。本の知識で知ってますが本物は初めて見ました。知らなければ手を伸ばして触れて見たくなるほど魅力的な花ですわ。体が浮き上がり、湖が遠くなり首を傾げると
「危ないからこれ以上近づくな」
リオに抱きあげられて、湖から離されました。
「ほら。人に噛みつく魚がいるんだ」
魚が飛び跳ねてます。立派な牙があり噛まれたら痛そうですわ。
確かに危ないです。王都の遠乗り観光地って危険なんですの!?
実は有名な訓練場所の間違いですか?気にするのはやめましょう。人生は知らなくて幸せなことばかりですわ。ここを選んだリオのセンスが残念に思えることも含めて。
「ありがとうございます。おろしてくださいませ」
アリス様達の視線を感じます。アリス様達のことを忘れてました。うっかり湖に夢中になってしまいましたわ。でも今回は遠乗りの実現が目的なのでもういいでしょうか?
「私もいつか…」
ぼんやりしているアリス様に声を掛けてシエル達がお昼の用意をしているので合流しましょう。湖から離れると小さな小屋がありました。テーブルと椅子が用意され、その上にはシエルの用意した食事があります。料理長特製のチョコケーキとアーモンドクッキーも。
椅子に座って大きな窓から外を見ると光に反射した湖がキラキラ輝き、水面から飛び出す魚や水鳥も美しく見えます。この距離なら魚の牙も見えません。確かに近づきさえしなければ観光地として相応しく美しい場所ですわ。
食事をすませお茶を飲んでいるとリオの隣に座るノア様の視線を感じます。
「ルーン嬢、約束」
ノア様の茶色い瞳に見つめられ溢される呟きを拾いました。約束?
しばらく考えても思い出せずノア様の視線がリオを見ました。
思い出しましたわ。ノア様に微笑んで了承の合図を送ります。
隣に座るリオはチョコケーキを食べているので、食べ終わるのを待ちましょう。ノア様に早くしてとじっと見られていますがもう少しお待ちくださいと見つめ返します。物にはタイミングがありますのよ。リオがフォークを置いたので、ゆっくりと口を開きます。
「リオ、お願いがあります」
お茶を飲んでいるリオから視線で先を促されます。
「ノア様と手合わせしてくださいませ」
「は?なんで?」
ノア様に余計なことを言うなと睨まれてます。
熊から逃げるのにリオとの手合わせにつられたでは格好悪いですわね。ノア様に言いませんと笑い返すとゾクリと寒気がしました。辺りを見渡しても変わった様子はなく、リオは穏やかな顔でお茶を飲んでます。ですがこれは気乗りしないお顔です。効果はありませんが試してみますか?チョコケーキがあるので機嫌はいいはずです。
「私では訓練相手になりませんわ。駄目ですか?」
リオの手を握ってよわよわしい顔をして見つめます。
視線を逸らしたら負けです。
恥じらいの表情のほうが効果的らしいですが、まだ習得できてません。
この休みはケイトとの修行の時間が全然ありません。
「あざとい。可愛いシアの頼みなら仕方ないな。俺のシアはどの程度をお望みで?」
勝ちましたわ!!ケイト、今回は成功ですわ!!
リオの耳に囁きます。
「ありがとうございます。アリス様が見ていて幻滅しないくらいの」
「わかったよ。ノアやるか」
「ルーン嬢!!」
目を輝かせたノア様が青い顔のグランド様に腕を捕まれてます。
「ノア、無闇にご令嬢に近づくな。ルーン嬢はとくに」
「兄上、わかったから離して。リオ様の所に行くだけだから!!」
せっかくなので見学させてもらおうと二人の後に付いていきます。アリス様と並んで座りリオ達の手合わせを眺めています。リオに攻撃を仕掛けるノア様をアリス様は夢中で見ています。リオはきちんと目視できる手合わせをしてくれるみたいです。一度もリオを、捕まえられないノア様を眺めているとグランド様が隣に座りました。
「ノアのことを知りたがっていたのはマートン侯爵令嬢のため?」
アリス様に聞こえないようにささやくグランド様に小声で返します。アリス様のことはわかりやすいですよね。この状況を見れば誰でもわかりますわ。
「ええ。お兄様としては不服ですか?」
グランド様が息を吐いて安堵の顔をしています。
「安心したよ。いや、周りと家に迷惑をかけないなら構わないよ」
「中立ですのね」
「ノアの味方かな。ノアはまだ馬と武術に夢中だから長い道のりだろうけど」
確かにハンナ達の妄想したようなことは起こらなそうです。ノア様が夢中なのはリオと馬ですもの。食事中もずっとリオに話しかけてました。アリス様は眺めているだけで幸せそうですが。
「見守るだけですわね」
「ルーン嬢はマートン侯爵令嬢の味方じゃないの?」
以外そうな顔をするグランド様に首を横に振ります。
「道理を通してくださる限りはお二人の味方ですわ。今回はアリス様に求められたから力を貸しただけですもの。お父様の命や家が関与しないかぎり、人の恋愛には手を出しません」
できれば関わりたくないです。生前はルメラ様の取り合いに巻き込まれて大変でしたもの。幸せそうな顔をしているアリス様。想いが報われて欲しいと思うのと同じくらいに嫌な感情が沸き上がります。
「ルーン嬢大丈夫?」
「失礼しました」
令嬢モードが剥がれて素で冷笑を浮かべそうになったことに気づいて、慌てていつもの笑みを作ります。
「リオを好きな令嬢に協力を求められたらどうする?」
「リオがその方に好意を抱くなら協力しますわ。私の力では婚約破棄はできませんが愛人なら許しますわ。どなたかいらっしゃいますの?」
愛人を許すかは家に寄って異なります。ルーンは愛人を禁止してませんわ。ただし直系の子供は本家に引き取られます。優秀なルーンの血筋は宝ですもの。お父様はお母様一筋ですが。
私は邪魔しませんよ。でも、そうすると…。リオは邪魔になっても監禁しないと約束をくれたので大丈夫です。怖くないですわ。監禁に怯えて胸が痛くなるなんて、いけませんわ。どちらのご令嬢か教えてほしいですわ。私はモラルさえ守っていただけるなら全力で応援しますわ。
「目の前にいるんだけど」
グランド様の言葉に驚きました。昔のリオは落ち着いた女性が好みと言ってましたが、変わりましたのね。マートン候爵令嬢を愛人にはできませんわ。
「アリス様ですの!?」
「違うから。ごめん。忘れて」
「いえ、私の心に留めますわ。でも可能性は…。いえ、」
急に頭が重たくなりました。リオの前途多難な恋を知ったからでしょうか?リオに協力を求められるまでは知らないフリをしましょう。人の色恋にはやはり関わりたくありません。どんどん頭が重たくなっていきますわ。
「シア、ありえないから。俺は二人がシアの願い通りになればいいと思ってるよ。勘違いするなよ」
あら?
頭が軽くなり顔を上げると真顔のリオがいました。いつもなら見返す瞳から視線を逸します。まだ心の準備ができません。頬に手を添えられ顔を固定され無理矢理視線を合わされます。動揺を隠して無理矢理笑みを浮かべ、
「誰にも言いませんわ」
「シアの考えは勘違いだから。俺はシアの願いが叶えばいいと本気で思ってるよ。愛人も作らない。俺は不誠実なことは絶対にしない。わかった?」
ゆっくりと話しているのに反論を許さない意志の強さを感じる言葉に、真剣な銀の瞳に頷きます。これは絶対に逆らってはいけませんわ。本能が告げてますわ。
「余計なことは考えるなよ」
「かしこまりました。何も考えません」
怖いから忘れましょう。私にとってはリオから聞かされた言葉がリオの真実。関わるなというなら近づきませんわ。色恋に関わらなくてすむなら本望ですわ。
頬の手が放れて、リオの瞳から解放されてほっと息をつきます。
「サイラス、ちょっといいか、久々に一戦やろう」
「リオ、今日は遠慮しようかな、わかった、やるよ。帰りもあるから」
「あぁ。もちろん。シア達はこの結界から出るなよ」
先程よりも強固な結界を構築されリオ達が離れて行きました。いつの間にか結界の中には眠っているノア様がいました。アリス様が心配そうに見ているので、セリアの薬を1滴ノア様の口に垂らすとすぐに目を開けて起き上がりました。
先程からずっと爆音が響いています。見えませんがロベルト先生のお気に入りの二人が手合わせしているのでしょう。
ノア様が見に行きたいと騒いでましたが、ここに残っていただきました。止めても見に行こうとしたノア様がリオの結界を解除できなかったおかげですが。
しばらくするとスッキリした顔のリオと疲れた顔のグランド様が帰ってきました。
二人とも汚れも怪我がなくて流石ですわ。いつかは二人の手合わせを目視できるようになるんでしょうか…。
二人の手合わせが終わる頃には風も冷たくなりました。ノア様が紳士として非常に残念なので、花売から薔薇の花束を2つ買いました。一つはアリス様に、もう一つはハンナに贈ろうと思います。アリス様に花束を渡すと可愛らしく笑われました。そしてハンナ達の妄想通りに髪に一輪の薔薇を飾ると夕陽のせいかアリス様の顔が赤く染まったように映り、満面の笑みを浮かべた姿はさらに可愛らしい。私の頬が緩み、吊られて満面の笑みを返してしまいました。グランド様やリオはアリス様の可愛さに見惚れて頬を染めているのにノア様は馬に夢中でした。
遠乗りは楽しいですがアリス様達の仲は進展しませんでした。それでもアリス様の満面の笑みを見て、休みを返上した甲斐がありましたわ。お姉様達に反抗しても叶えたかった時間がアリス様にとって幸せなものになって良かったです。もしも今後またノア様がアリス様と遠乗りに行くのなら置いていかないように、最低限のマナーだけは身につけていただけるようにグランド様にお願いをしました。お兄様ですのできちんとお願いします。
リオに送ってもらいルーン公爵邸に帰り、アリス様はグランド様とノア様に託しました。念の為シエルを付き添わせマートン候爵邸に無事に帰ったか確認させました。
帰ってきたシエルの報告を聞いてほっと息をつきました。遠乗りは問題もなく終わりましたので、明日からまた社交地獄です。
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