追憶令嬢の徒然日記

夕鈴

文字の大きさ
上 下
3 / 172
第一章

第二話 追憶令嬢5歳 目標

しおりを挟む
ごきげんよう。レティシア・ルーンです。
先ほどまでお茶を飲み、追憶に浸っておりました。
私はレオ殿下のブラコンのために亡くなりましたのね。
必死に頑張った15年間はなんだったのでしょうか。
魔が差しました。
生前は貴族として清く正しく生きましたので今世は平穏、穏やか、気楽に楽しく生きたいです。
民や家のために生きずに、自分のために生きたいですわ。
窓の外は青い空に白い雲に快晴。私の門出を祝福してくださっています。
うっかりお茶を飲みすぎてお腹がタプタプですが、これも貴重な初体験です。お母様が聞いたらお説教案件ですので内緒にしてくださいませ。
さてずっと気になっていたのですが、私は手足が短くなっており小さくなっています。
部屋に置いてある日記を読むと5歳。
懐かしいですわ。
幼い頃は難しい勉強にお母様の叱責、ルーン公爵令嬢として相応しくなるための教育が辛かったですが、今の私には簡単。
心は15歳ですし、王妃教育も受け終わっております。
どんな目的のためにも情報収集と綿密な計画が大事ですわ。

目指すは平穏な人生!!
日記に大きな文字で書きました。

目標は、
第一は監禁回避!!絶対シエルを守ります!!
第二は王家に関わらない!!王太子殿下との婚約回避です。王子の婚約者は平穏から遠く、多忙ですわ。
第三は脱貴族!!
三大目標ですね。
目標を日記帳に書き込んで文字を睨んでもどうすればいいか皆目見当もつきません。

「お嬢様、お嬢様、大丈夫ですか」

シエルに後ろから覗き込まれ急いで日記帳を閉じる。
これは絶対に見られてはいけません。

「シエル、驚かさないでください」
「日記帳を見て、ブツブツおっしゃっておりましたので。お嬢様、何かご心配が?」

穏やかなお顔で見つめるシエルに聞いたらわかりますかね。

「シエル、王子様の婚約者はどんな方が選ばれますか?」
「すみません。私にはわかりません。旦那様に聞くのが一番でしょう。お嬢様は王子様がお好きなんですか?」
「違います!!私は王子様苦手です。どうしたら婚約者に選ばれないか知りたいです」
「珍しいですね。申し訳ありません。お嬢様お食事です」
「お腹すいてません」
「お茶をたくさん飲みましたものね。朝ご飯もほとんど召し上がらなかったので、お昼は駄目です。食べてください」
「シエルの意地悪」
「お嬢様の為ですわ」

瞼の腫れ引いてますし、笑みを浮かべるシエルは折れてくれませんね。
使用人は主の命令に絶対です。シエルは物心ついた時から一緒にいるので、私が相応しくない行動をすれば諫めます。主と家臣の関係はそれぞれです。ルーン公爵家で私の行動に口を出すのはシエルと執事長だけです。決して他人の前では私の命令に逆らうことも諫めることもありません。使用人に諫められるなど恥ずべきこと。他人の目がない場所で、他人には通じないようにやりとりするのは常識ですわ。
家臣は主の意図を察して動き、視線で意思疎通。主の命令がないと動けない使用人は二流です。
そしてルーン公爵家は宰相一族。情報漏えいを防ぐためにきちんと教育されたルーン公爵家を第一に考える家臣特に専属侍女や執事を名乗れるのはルーン公爵夫妻に認められた者だけです。

食事に向かうと誰もいません。
この頃はお母様とお食事をしていた記憶がありますが・・。

「シエル、お母様は?」
「奥様は王妃様のお茶会です」

チャンスですわ。今日を逃せばいつ機会があるかわかりません。お願いなどしたことがありませんが、私は脱貴族するので、醜聞なんて気にしません。怒られても構いません。
それにお母様は恐ろしいですがもう一人の恐ろしいアリア様はいらっしゃいません。

「マール公爵家に行きたいです!!お勉強は明日頑張るからお願い!!」

はしたないですが、シエルのスカートを引っ張り見上げます。シエルが一瞬固まり、頬に手を当てて珍しく真顔で悩んでます。
今の私は二日分のお勉強なんて簡単ですわ。一週間分のお勉強を課題に出されても余裕ですわ。
なんのお勉強をしているかはわかりませんが。
日記には日付と天気しか記載してませんでした。5歳の私は何を思って日記をつけていたのでしょうか。正直、全く覚えておりませんわ。

「後日では?」
「お母様に怒られても我慢しますからお願い」
「お嬢様がお食事をきちんと食べたら相談してきます」
「食べます!!」

私は食事をするために気合いをいれました。エスコートされて椅子に座るとサラダにスープにお肉が一切れに小さいパン。
料理がいつもより少なく拍子抜けしましたわ。
懐かしい味がしますわ。温かいスープなんていつぶりでしょうか。
思わず頬が綻んでしまいます。毒を気にせず食事ができるなんて幸せですわ。
お腹がすいてないことを料理長に伝えてくれたシエルの優しさも嬉しいです。今世は絶対シエルを守ります。食後のお茶は断り、食事をすませて厨房に行きました。

「お嬢様!?どうなさいました」

料理人達が手を止め、一斉に視線が集まりました。用があれば料理長を呼びますが、私が厨房に足を運んだのは初めてです。

「邪魔してごめんなさい」
「お嬢様なら大歓迎です。なにかお願いですか?」

料理長が膝を折り、視線を合わせてニコニコと私を見ています。距離の近さに驚きますが、無礼を咎めたりしませんよ。他の料理人達から生暖かい視線を感じますわ。

「お願いがあるの。これから、リオ兄様に会いにいきたいから、チョコのお菓子が欲しいです。できれば」

突然のお願いに非常識な自覚はありますので、だんだん声が小さくなるのは仕方ありません。脱貴族のために醜聞は気にしないと思っても非常識はよくありませんよね。
いつも予定通りに動いていたので、急遽お願いすることはありませんでした。

「おまかせください。リオ様のお好きなチョコクッキーと他にも色々ご用意しますよ」
「本当!?お仕事を増やしてごめんなさい。嬉しいです!!ありがとうございます」
「お嬢様のお願いならいつでも大歓迎ですよ。遠慮せず、いつでもお越しください。できればシエルと一緒にお願いしますね。出来上がり次第お持ちします」

笑顔の料理長や頷く料理人の皆様の優しさに胸が暖かくなり笑みがこぼれます。感動している場合ではありません。
シエルに厨房に行くのを伝えてないので急いでお部屋に戻らないといけません。勝手にいなくなれば心配しますわ。いつもは食事のあとは自室で過ごすので。

「ありがとうございます」

礼をして急ぎ足で部屋に向かいます。お母様もシエルもいないので、はしたないと怒る人はいません。
後ろで雄たけびが聞こえますが気にしません。この世界には知らないほうがいいことがたくさんあります。第二王子が変態なんて知りたくありませんでしたわ。
うん。知らなければ幸せなことだらけですわ。
自室に戻るとシエルが待っていました。遅かったですわ。

「お嬢様!?どちらにいらしたのですか」

きっと、私がいなくなったので驚かせたのでしょう。
つい勝手に動いてしまいました。膝を折って私の肩に手を置いて真顔のシエルに笑いかけます。

「厨房にお願いに」
「私が行きますよ。料理長、喜びすぎてお嬢様に危害を加えませんでした?」

危害?きっと厨房にも私の知らない世界が広がってるんですよね。
気にしませんわ。怖いことは知りたくありませんわ。

「大丈夫です。今度はシエルと一緒においでって。シエル、午後の予定は」
「お嬢様の初めてのおねだりなので頑張りました。今日はマール公爵とリオ様がご在宅なので、いつでもいらっしゃいとのことです」
「シエル、ありがとう!!支度をお願いします」

笑顔のシエルに微笑み返します。
料理長が用意してくれたお土産を持って馬車に乗りマール公爵家へ向かいました。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

もう二度とあなたの妃にはならない

葉菜子
恋愛
 8歳の時に出会った婚約者である第一王子に一目惚れしたミーア。それからミーアの中心は常に彼だった。  しかし、王子は学園で男爵令嬢を好きになり、相思相愛に。  男爵令嬢を正妃に置けないため、ミーアを正妃にし、男爵令嬢を側妃とした。  ミーアの元を王子が訪れることもなく、妃として仕事をこなすミーアの横で、王子と側妃は愛を育み、妊娠した。その側妃が襲われ、犯人はミーアだと疑われてしまい、自害する。  ふと目が覚めるとなんとミーアは8歳に戻っていた。  なぜか分からないけど、せっかくのチャンス。次は幸せになってやると意気込むミーアは気づく。 あれ……、彼女と立場が入れ替わってる!?  公爵令嬢が男爵令嬢になり、人生をやり直します。  ざまぁは無いとは言い切れないですが、無いと思って頂ければと思います。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます

葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。 しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。 お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。 二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。 「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」 アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。 「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」 「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」 「どんな約束でも守るわ」 「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」 これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。 ※タイトル通りのご都合主義なお話です。 ※他サイトにも投稿しています。

処理中です...