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番外編 もしもの話
第一王子のやり直し5
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カローナと第一王子が王宮に帰ると、第一王子が飛び出した後のことはトネリとイナナと将来のマグナ公爵により穏便に片付けられていた。
「おかえりなさいませ。急ぎのものはありませんのでご安心ください」
トネリから報告を聞いたカローナは優秀な妹達に笑みを溢した。
心に余裕ができたカローナはお茶の用意を始めた。第一王子はトネリからさらに詳しい報告を聞きながら机の上の仕事を片付けた。第一王子の仕事が一段落する頃にカローナは第一王子に声を掛けお茶会を始めた。トネリはうまく仲直りし、いつも通り二人の世界を作り始めた主達のために席を外した。カローナの淹れたお茶に口をつけ、好みの味に満足そうな顔をしている第一王子の顔を見てカローナは首を傾げた。何か忘れている気がして、部屋を見渡すと王家の紋章に目を止めた。
「カローナ?ロナ?」
様子のおかしいカローナに第一王子がお茶を飲む手を止めた。不思議そうにカローナを第一王子が見つめていることにカローナは気づかない。カローナは王家の紋章を見つめ、しばらくしてようやく婚約者が王位に興味がないと思い出した。そして思考を巡らせ始めた。
「ロナ?」
しばらくして成人してないカローナが第一王子に嫁いでも第二王子派からの不満が生まれない方法を思いつき極上の笑みを溢した。第一王子はカローナの笑みに見惚れ息を飲んだ。
「私は気づきました。嫌なら正直に教えてくださいませ」
表情をコロコロ変えながら考えをまとめたカローナ。大きな目を輝かせ第一王子を見つめ返し、意気揚々と話すカローナの提案に第一王子が反射で頷くと笑みを深めた。
「では失礼します」
カローナは第一王子の様子がおかしいことに気づかず、満足した答えを得られたことに喜び、颯爽と退室した。
カローナに見惚れ、固まっていた第一王子は部屋に戻ってきたトネリに肩を叩かれ我に帰り慌てて赤い顔のままカローナを追いかけた。
赤面した顔で婚約者を追いかける王子を見ても家臣達は驚かない。
先代に仕えた家臣達は淑やかな妃に怒られ、大の大男が縮こまる姿を知っている。
国王と同世代の家臣達は兄の背中に隠れてばかりの引きこもりの弱々しい男を知っている。
年下の婚約者に振り回され、王族の威厳の欠片もなくても、若気の至りで許されるような微笑ましい光景である。
兄妹のように見えていた二人はいつの間にか釣り合いがとれている。愛らし
い顔立ちのカローナは幼さの残る愛らしい笑みではなく、美しい微笑みを浮かべるようになった。カローナを見つめる第一王子も優しい兄の顔から恋する少年の顔になった。思春期まっさかりの第一王子とカローナの様子を王族、公爵令嬢としてふさわしくないと囁く者もいるが好意的に見守る者も多かった。
夢中で走る第一王子は周囲からの生暖かい視線には気づかない。カローナに追い付き、そのまま送り届けた。そしていつも通り招待を受けマグナ公爵邸で晩餐をすませた。晩餐では、かつてないほど楽しそうな様子で話すカローナの思いつきを聞いたマグナ公爵家の反応に戸惑いを覚えたが、第一王子はマグナ公爵家(主に女性陣)の勢いに負け、余計なことを口にすることはなかった。
***
第三王子は留学から帰国して、王宮を歩く第一王子とカローナの様子を眺めていた。他国を飛び回る第三王子は公式行事以外の二人の姿、カローナと第一王子が手を繋ぎ微笑み合う光景を見るのは初めてだった。食い入るように眺める第三王子に笑みを浮かべた第二王子が近づく。
「サントス、カローナを欲しくないか?」
第三王子は第二王子の言葉に首を横に振る。第三王子は一人ぼっちのカローナを辛い王宮から連れ出すと決めていた。でもカローナが自分の足で立ち、幸せそうに歩んでいるなら無理矢理手を引く気はおきなかった。長兄に甘ったるい視線を注がれ、サンの知らない顔で頬を染めているカローナを見れば、二人の世界が出来上がっているのは誰の目にも一目瞭然だった。
「カローナが幸せならそれだけで構いません」
第三王子は一人ぼっちのカローナを助けるために力が欲しいと努力した結果、身に付けた力でできることが増えた。他国の王家や貴族と親交を深めた第三王子は国外の後ろ盾は王子の中で一番持っている。武術も極めたので暗殺者も撃退できる。自分の身は自分で守れるため幼い頃のように気配を消して息を潜め幽霊のようにしなくても生きられるようになった。
「裏切るか?」
「僕は父上に従います。中立という立ち位置で動きませんのでご安心ください。僕達の取引は不成立でしょ?カローナの面倒を見たのはフィリップ兄上です。それなら僕が従う理由はありません。それでは」
第三王子は第二王子に礼をして一方的に話を切り上げ立ち去る。カローナが無事なら第二王子と手を組む必要はなく、面倒な王位争いにも兄弟喧嘩にも巻き込まれるのはごめんだった。
誰一人思惑通りに動かない兄弟に不機嫌そうな次兄の相手をするほど優しい弟でもなかった。
弟王子達の同盟が破綻した頃、第一王子は隣に座り本を読むカローナを見つめていた。
第一王子はカローナの願いは全て叶えたい。婚姻もカローナに押し切られるままに動いているが不安も迷いも消えない。それでも幸せそうに隣に寄り添うカローナを見ると、顔が緩んでしまう。第一王子はカローナの頬にそっと手を添えた。カローナは本を閉じ、顔を上げると第一王子の金の瞳と目が合い美しい瞳に笑みを溢した。カローナの真っ赤な瞳に見上げられ、幸せなそうに微笑むカローナと見つめ合う第一王子はきつく唇を結んだ。第一王子にとって誰よりも美しい笑顔の持ち主に教わった祝福の口づけを額に落とした。誰よりも幸せになってほしい少女。カローナが自分の側を去ったのは来年。昔の愚かな自分は仮初の幸せに浸って気づかなかった。カローナはそっと第一王子に抱きつき、自身の背中に回る腕に笑みを浮かべる。
「フィン、ロナは幸せ。イナナには申し訳ないけど、世界一幸せな花嫁は私よ」
「ロナ」
「もちろんフィンも世界一幸せにしてあげるから楽しみにしてて」
いつの間にか幼い愛らしい顔に美しい笑みを浮かべるようになったカローナに第一王子は見惚れる。昔の弟の側でも見たことのない顔をする愛らしさと美しさを兼ね備え誰よりも美しく成長するカローナが欲しくて、夢中になる心はどんなに自制しても止められない。腕の中の温もりが愛しくてたまらない。いつの間にか重なる唇に真っ赤になった自分を見て、楽しそうに笑う顔も好きで堪らなかった。腕の中のカローナのいない世界に目覚めることが怖いのに、一人になると襲ってくる闇もカローナが手を握り、笑みを浮かべて言葉をかけられると何も考えられなくなる。冷たい手の持ち主の第一王子の幸せの塊のためにできるのはどんなことからも守れるように強くなるしか思いつかなかった。
カローナは時々バカなことを考える第一王子に嫉妬と呆れと愛しさを持ちながら、余計なことが考えられないように策を練る。夫を翻弄する策を持つ伯母や伯爵夫人を代表に相談者には不自由はなく心強い味方もたくさんいた。
暗い顔をしている第一王子の腕から抜け出し、カローナ用の棚からボトルを出し、グラスに真っ黒い液体を注ぎ、トネリに一口毒味を頼み二人で視線を合わせ頷き合う。
「フィン、これ、飲んで」
「匂いが……」
第一王子は差し出されたグラスに注がれた毒の様な異臭のする液体に狼狽える。
「体に良いのよ。ほらぐいっと。毒味はすんでるから安心して」
カローナの笑みと頷くトネリに負けた第一王子は恐る恐る黒い液体に口をつけると、好みの苦味にグラスの中身を一気に飲み干す。カローナは第一王子の表情の変化に楽しそうに笑う。
「匂いのわりに、好みでしょ?」
楽しそうに笑うカローナに遊ばれたと気づかない第一王子は口元を緩ませ頷く。
「これを今度のお茶会で配ったらどう?」
「ロナ、毒かと」
「だめ?」
カローナが首を傾げると窘める顔をしていたのに悩み出す第一王子を眺め、しばらくしてニッコリ笑う。
「冗談よ。これはフィンにしか出さない。フィンの味覚は変わってるもの」
また楽しそうに笑い出したカローナにつられて第一王子も笑う。二人でいるといつも楽しそうに笑っている姿をトネリが温かく見守る。悩みが多い思春期を抜け出せない主はカローナに任せるのが一番なのは第一王子の臣下の常識である。主の鈍さと女心への疎さにカローナに同情しているトネリ達は可愛らしい悪戯に進んで協力する。カローナの悪戯で狼狽えていても、最後には第一王子が幸せそうに微笑むので根を詰めすぎる主の息抜きには丁度良かった。どんなに時が経っても王宮で一番幸せな空気が漂うのは第一王子とカローナの回りだった。
***
カローナはイナナと第一王子と共にマグナ公爵夫人の祖国である隣国に滞在していた。
カローナは皇帝である祖父と伯父の皇太子にお願いがあり私事ではなく、公式に会えるようにお願いをした。希望通りの謁見が終わり、目的が済んだので有意義な時間を過ごしていた。
第一王子は友人の皇子と遠乗りに、カローナとイナナは皇女と三人でお茶を楽しんでいた。
「カローナも思いきりますね」
カローナ達の謁見に同席し、皇帝へのお願いを聞いていた皇女が感心した声を出す。先ほどまで堂々とした態度で強面の皇帝と向かい合っていたカローナは頬を膨らませた。
「だって悔しかったんですよ。夢の世界とはいえ、私と共にいるのにずっと他のカローナのこと考えて悩んで苦しんでたって。私は・・」
「お姉様、イナナはその夢の世界のお話を詳しく知りたいです」
最初は拗ねた様子で話していたカローナは段々悔しさが蘇り言葉を飲んだ。カローナの心のうちに気づいた皇女は優しく微笑み、お茶を振る舞う。イナナは目を丸くするも、すぐにカローナの好きな無邪気な笑みを浮かべ先を促した。悔しさから言葉を飲み込んだカローナは興味津々な可愛い妹を見て、苦笑しながら口を開きゆっくり語り出す。
カローナは第一王子の夢の世界の話をもう一度詳しく聞いていた。夢のカローナに勝つ情報を得るために。最初は嫉妬と怒りと色んな感情に押しつぶされそうになったが、結末に涙が止まらなかった。困惑する第一王子の胸の中で号泣して、すっきりして決意した。
決意を固めたカローナは優しく抱きしめ頭を撫でてくれた第一王子の胸から顔を上げると不安そうな顔を見て強引に口づけた。二人で赤面し、第一王子が優しく額に口づけを返してくれたので、自分に嫌われたらどうしようとバカな考えを持っていたことは許してあげた。カローナはバカなことを考えるなら、口づけて余計なことを考えさせないという対処法を覚えた。そして自分は公式でさえ赤面しなければいいかという結論に至った。伯父夫婦の家に突然単身で飛び込みカローナを抱きしめた第一王子の必死な顔に笑い、その光景を思い出せば楽しくなり、どんな時も平常心を取り戻せた。妹の悪戯で自分が行方不明と聞き、裏もとらずに単身で探しにきたボロボロの婚約者にカローナの庇護欲や母性が刺激されていた。
クッキーを食べ、必死に気を紛らわしながらも拗ねた様子で語るカローナの話にイナナが首を傾げた。
姉が夢の話に嫉妬し、闘志を燃やし対抗しようとしていることに突っ込みはいれない。夢の結末が気に入らないという文句を呑み込んでいるのも気付かないフリをする。
「最初はそっくりですね。お姉様はおばあ様のところに訪問するまで毎日王宮に通ってました」
「そうね。でも夢の世界なのにあの人は…」
気分の切り替えが早いカローナが根に持つのは珍しく、夢の世界の自分自身に嫉妬する従妹に皇女はとうとう肩を震わせて笑った。
「カローナは殿下が好きですね。昔は心配してましたが今は幸せそうで安心しました。政略結婚でも幸せな夫婦に憧れるのは当然ですもの。もちろんカローナの願いはお父様達も叶えてくださいますわ」
「ありがとうございます。まずは安全に生き残ることが優先ですもの。妃殿下の蛇に噛まれて死にたくない…」
第二妃の愛蛇は実は毒を持っている。初めて蛇を紹介された時に寒気に襲われてたカローナは教えてもらった蛇について文献を取り寄せ調べた。よく見ると教わった無毒な蛇とは模様が違うのに気付き、新たに調べ直すと毒蛇だった。そして調べれば調べるほど第二王子と第二妃の狡猾さにカローナはドン引きした。
優しいお妃様と幻想を抱いた第二妃の本性に気付いてからは全ての行動に思惑があり最も警戒すべき対象に変わった。
よくよく思い返せば第一妃が癇癪を起こす前に第二妃に会って話したこともあった。
カローナは留学を理由に他国に逃げた第三王子が一番賢いと思っていた。カローナも第一王子さえ関わらなければ絶対に関係を持ちたくない人種だった。第一王子が暗殺されないように手は回してもまだまだ安心できなかった。第一王子が強く、毒の耐性はあってもカローナにとっては一切警戒を緩められない状況だった。
イナナと皇女はしっかりしているようで時々抜けている、ポツリと本音をこぼしている自覚のないカローナが心配だった。イナナ達ならまずその毒蛇を始末する方法を選ぶ。
「失礼します。殿下、」
第一王子の帰宅の報せを聞き、嬉しそうに笑い立ち上がったカローナは礼をして退席した。残された二人が真っ黒な顔で恐ろしい話し合いをはじめたのはカローナも第一王子も生涯気付くことはなかった。
****
第二王子の策はことごとく失敗していた。
カローナが手紙で第一王子のために帰国して側で仕えてほしいと願う言葉に応じ、留学に出した第一王子の側近達が少しずつ戻り始めていた。
カローナが邪魔でも力を持つ隣国の皇帝のお気に入りのため殺せない。心を壊そうとも揺さぶりがきかず、常に金でも動かない護衛がついているので近づけなかった。
カローナとイナナを引き入れようとした策は全て失敗に終わっていた。
第一王子派と第二王子派の対立はいつの間にか第一王子派が優勢だった。
第二王子はカローナが側近を呼び戻している本当の理由を知らなかった。また隣国が第一王子の後見についたと囁かれる噂の真実も。
国王は第一王子とカローナの極秘の面会を受けて絶句していた。
「なんと?」
「私の成人と共にカローナと婚姻させてください。そしてあの伯爵領を私にください。継承権は放棄します。マグナ公爵夫妻には了承を取ってます。王位争いで民を巻き込みたくありません」
王位争いは第一王子が優勢であり、混乱を避けたい王は第一王子の成人に伴い王太子に指名しようと真剣に考え始めていた。
「ずっと王を目指していたのでは」
「学んできましたが、そこまでは。やりたい者がなればいいかと」
生まれた時から王位争いをしていた息子が曇りのない瞳でサラリと言った言葉に国王は信じられなかった。そして、もう一人ずっと王妃教育を受け、第一王子派を率いていたカローナが受け入れるとも思えなかった。
「カローナ、本気か?」
「はい。マグナ公爵家は妹が婿を取ります。もしも王族の皆様が、王族位を持たない殿下を理不尽に廃したり不当な扱いをするのであれば私達のおじい様が動きます。臣下として正しく扱っていただけるなら何も望みません」
愛らしい声で聞こえた私達のおじい様という恐ろしい存在の名に国王は寒気に襲われる。
カローナが隣国の皇帝と皇太子に願ったのは第一王子の後見。
臣下に降りて不当に扱われるなら助けてほしいと頼む孫と姪の願いを二人は快く頷いた。子供が生まれたら知らせることを条件に。
「そなたらの即位を望む声のが大きいが」
王族の中で民に一番人気なのは見目麗しく頻繁に姿を見せる第一王子とカローナだった。
「ありえません。私達は臣下に降りるために、繋がりを作っていただけです」
「臣下に降りるにしても、なぜあのような場所を」
「王族は民のためにあるべきです。誰も引き受けない領地があるなら王族が動くべきでしょう」
「伯爵夫妻としての待遇で構いませんわ。ですが、」
国王はしぶしぶ二人の願いを聞き入れた。第一王子の身の安全の保証を約束しろと脅すカローナの笑顔が自分の母親とそっくりで怖かった。淑やかで純粋だと信じていた義娘も異質だったと心の中でショックを受けその晩は籠妃のもとに逃げ込んだ。
****
時は少しだけ遡る。
隣国を訪問する前にカローナと第一王子はこれからについて話し合った。
第一王子は自身の欠点、気付かず見落としてきたことの多さに視野の狭さに気付いていた。たった一人の大事な子のことさえ、見落としてしまうのに、国を治めるのは向いていないと思い始めた。もともと王位に興味はなく、弟が望むなら自分は退いてもいいと思っていた。後ろ盾についてくれた貴族への申し訳なさはあっても、それ以上に臣下や民を巻き込む王位争いは避けたかった。
カローナは手を繋いで王位継承権を放棄したいと話す第一王子の言葉を聞いて笑う。
「応援してくださった方々にはお礼をすればいいわ。それに臣下は王族の声に従うのは当然よ」
「ロナは本当に・・」
「私はフィン様さえいればいいの。でも、それならこれからを決めないと・・」
カローナは不安そうな第一王子の顔を見て、閃きが浮かびにっこり笑う。
「フィン様、お願いがあるの」
カローナが耳元で囁くお願いに第一王子は驚く。
「危険が」
「フィン様が守ってくださいます。貴方と一緒なら怖い場所なんてありません」
第一王子はカローナの手に口づけを落として頷いた。第一王子はカローナが喜ぶならどんなことも叶えたい。なにより頬を染めて微笑むカローナが愛しくてたまらなかった。
カローナは第一王子が王位を望まないなら王を目指す必要はなかった。
カローナがなりたいのはフィリップの妻であり妃ではない。王妃教育を受けても王妃になりたいと一度も思えなかった。ただ第一王子の妻として相応しくなるために努力しただけである。
これからを考えた時に夢の世界の第一王子が受け継いだ辺境の力のない荒れた伯爵領は都合が良かった。第一王子がマグナ公爵家に婿入りすれば様々な憶測を生む。狡猾な第二王子達に疑惑を仕掛けられ、反逆者に仕立てあげ処刑されるのは避けたかった。火のない所に煙は立たぬと言われても、無理矢理火を起こすような二人がいた。
それなら力のない伯爵として王族の身分を捨てて、王位に興味のないことを示して生きるほうが余計な波紋を生まない。
建前は色々あるがカローナの本音は第一王子が夢の中で孤独に過ごした伯爵領での記憶を塗り替えたいだけだった。カローナは夢の中の孤独な生活に第一王子が何も思っていなくても不満だった。
そして、第一王子はカローナの伯爵夫人になりたいという願いを叶えたいだけだった。
荒れている伯爵領を迅速に平定し、第二王子達に介入されても対抗するためには優秀で信頼できる家臣と伝手が必要だったので、精力的に動いていた。
不満があっても第一王子派の筆頭のマグナ公爵家と第一王子が王位から手を引くと表明すれば他家は従わざるをえなかった。
「おかえりなさいませ。急ぎのものはありませんのでご安心ください」
トネリから報告を聞いたカローナは優秀な妹達に笑みを溢した。
心に余裕ができたカローナはお茶の用意を始めた。第一王子はトネリからさらに詳しい報告を聞きながら机の上の仕事を片付けた。第一王子の仕事が一段落する頃にカローナは第一王子に声を掛けお茶会を始めた。トネリはうまく仲直りし、いつも通り二人の世界を作り始めた主達のために席を外した。カローナの淹れたお茶に口をつけ、好みの味に満足そうな顔をしている第一王子の顔を見てカローナは首を傾げた。何か忘れている気がして、部屋を見渡すと王家の紋章に目を止めた。
「カローナ?ロナ?」
様子のおかしいカローナに第一王子がお茶を飲む手を止めた。不思議そうにカローナを第一王子が見つめていることにカローナは気づかない。カローナは王家の紋章を見つめ、しばらくしてようやく婚約者が王位に興味がないと思い出した。そして思考を巡らせ始めた。
「ロナ?」
しばらくして成人してないカローナが第一王子に嫁いでも第二王子派からの不満が生まれない方法を思いつき極上の笑みを溢した。第一王子はカローナの笑みに見惚れ息を飲んだ。
「私は気づきました。嫌なら正直に教えてくださいませ」
表情をコロコロ変えながら考えをまとめたカローナ。大きな目を輝かせ第一王子を見つめ返し、意気揚々と話すカローナの提案に第一王子が反射で頷くと笑みを深めた。
「では失礼します」
カローナは第一王子の様子がおかしいことに気づかず、満足した答えを得られたことに喜び、颯爽と退室した。
カローナに見惚れ、固まっていた第一王子は部屋に戻ってきたトネリに肩を叩かれ我に帰り慌てて赤い顔のままカローナを追いかけた。
赤面した顔で婚約者を追いかける王子を見ても家臣達は驚かない。
先代に仕えた家臣達は淑やかな妃に怒られ、大の大男が縮こまる姿を知っている。
国王と同世代の家臣達は兄の背中に隠れてばかりの引きこもりの弱々しい男を知っている。
年下の婚約者に振り回され、王族の威厳の欠片もなくても、若気の至りで許されるような微笑ましい光景である。
兄妹のように見えていた二人はいつの間にか釣り合いがとれている。愛らし
い顔立ちのカローナは幼さの残る愛らしい笑みではなく、美しい微笑みを浮かべるようになった。カローナを見つめる第一王子も優しい兄の顔から恋する少年の顔になった。思春期まっさかりの第一王子とカローナの様子を王族、公爵令嬢としてふさわしくないと囁く者もいるが好意的に見守る者も多かった。
夢中で走る第一王子は周囲からの生暖かい視線には気づかない。カローナに追い付き、そのまま送り届けた。そしていつも通り招待を受けマグナ公爵邸で晩餐をすませた。晩餐では、かつてないほど楽しそうな様子で話すカローナの思いつきを聞いたマグナ公爵家の反応に戸惑いを覚えたが、第一王子はマグナ公爵家(主に女性陣)の勢いに負け、余計なことを口にすることはなかった。
***
第三王子は留学から帰国して、王宮を歩く第一王子とカローナの様子を眺めていた。他国を飛び回る第三王子は公式行事以外の二人の姿、カローナと第一王子が手を繋ぎ微笑み合う光景を見るのは初めてだった。食い入るように眺める第三王子に笑みを浮かべた第二王子が近づく。
「サントス、カローナを欲しくないか?」
第三王子は第二王子の言葉に首を横に振る。第三王子は一人ぼっちのカローナを辛い王宮から連れ出すと決めていた。でもカローナが自分の足で立ち、幸せそうに歩んでいるなら無理矢理手を引く気はおきなかった。長兄に甘ったるい視線を注がれ、サンの知らない顔で頬を染めているカローナを見れば、二人の世界が出来上がっているのは誰の目にも一目瞭然だった。
「カローナが幸せならそれだけで構いません」
第三王子は一人ぼっちのカローナを助けるために力が欲しいと努力した結果、身に付けた力でできることが増えた。他国の王家や貴族と親交を深めた第三王子は国外の後ろ盾は王子の中で一番持っている。武術も極めたので暗殺者も撃退できる。自分の身は自分で守れるため幼い頃のように気配を消して息を潜め幽霊のようにしなくても生きられるようになった。
「裏切るか?」
「僕は父上に従います。中立という立ち位置で動きませんのでご安心ください。僕達の取引は不成立でしょ?カローナの面倒を見たのはフィリップ兄上です。それなら僕が従う理由はありません。それでは」
第三王子は第二王子に礼をして一方的に話を切り上げ立ち去る。カローナが無事なら第二王子と手を組む必要はなく、面倒な王位争いにも兄弟喧嘩にも巻き込まれるのはごめんだった。
誰一人思惑通りに動かない兄弟に不機嫌そうな次兄の相手をするほど優しい弟でもなかった。
弟王子達の同盟が破綻した頃、第一王子は隣に座り本を読むカローナを見つめていた。
第一王子はカローナの願いは全て叶えたい。婚姻もカローナに押し切られるままに動いているが不安も迷いも消えない。それでも幸せそうに隣に寄り添うカローナを見ると、顔が緩んでしまう。第一王子はカローナの頬にそっと手を添えた。カローナは本を閉じ、顔を上げると第一王子の金の瞳と目が合い美しい瞳に笑みを溢した。カローナの真っ赤な瞳に見上げられ、幸せなそうに微笑むカローナと見つめ合う第一王子はきつく唇を結んだ。第一王子にとって誰よりも美しい笑顔の持ち主に教わった祝福の口づけを額に落とした。誰よりも幸せになってほしい少女。カローナが自分の側を去ったのは来年。昔の愚かな自分は仮初の幸せに浸って気づかなかった。カローナはそっと第一王子に抱きつき、自身の背中に回る腕に笑みを浮かべる。
「フィン、ロナは幸せ。イナナには申し訳ないけど、世界一幸せな花嫁は私よ」
「ロナ」
「もちろんフィンも世界一幸せにしてあげるから楽しみにしてて」
いつの間にか幼い愛らしい顔に美しい笑みを浮かべるようになったカローナに第一王子は見惚れる。昔の弟の側でも見たことのない顔をする愛らしさと美しさを兼ね備え誰よりも美しく成長するカローナが欲しくて、夢中になる心はどんなに自制しても止められない。腕の中の温もりが愛しくてたまらない。いつの間にか重なる唇に真っ赤になった自分を見て、楽しそうに笑う顔も好きで堪らなかった。腕の中のカローナのいない世界に目覚めることが怖いのに、一人になると襲ってくる闇もカローナが手を握り、笑みを浮かべて言葉をかけられると何も考えられなくなる。冷たい手の持ち主の第一王子の幸せの塊のためにできるのはどんなことからも守れるように強くなるしか思いつかなかった。
カローナは時々バカなことを考える第一王子に嫉妬と呆れと愛しさを持ちながら、余計なことが考えられないように策を練る。夫を翻弄する策を持つ伯母や伯爵夫人を代表に相談者には不自由はなく心強い味方もたくさんいた。
暗い顔をしている第一王子の腕から抜け出し、カローナ用の棚からボトルを出し、グラスに真っ黒い液体を注ぎ、トネリに一口毒味を頼み二人で視線を合わせ頷き合う。
「フィン、これ、飲んで」
「匂いが……」
第一王子は差し出されたグラスに注がれた毒の様な異臭のする液体に狼狽える。
「体に良いのよ。ほらぐいっと。毒味はすんでるから安心して」
カローナの笑みと頷くトネリに負けた第一王子は恐る恐る黒い液体に口をつけると、好みの苦味にグラスの中身を一気に飲み干す。カローナは第一王子の表情の変化に楽しそうに笑う。
「匂いのわりに、好みでしょ?」
楽しそうに笑うカローナに遊ばれたと気づかない第一王子は口元を緩ませ頷く。
「これを今度のお茶会で配ったらどう?」
「ロナ、毒かと」
「だめ?」
カローナが首を傾げると窘める顔をしていたのに悩み出す第一王子を眺め、しばらくしてニッコリ笑う。
「冗談よ。これはフィンにしか出さない。フィンの味覚は変わってるもの」
また楽しそうに笑い出したカローナにつられて第一王子も笑う。二人でいるといつも楽しそうに笑っている姿をトネリが温かく見守る。悩みが多い思春期を抜け出せない主はカローナに任せるのが一番なのは第一王子の臣下の常識である。主の鈍さと女心への疎さにカローナに同情しているトネリ達は可愛らしい悪戯に進んで協力する。カローナの悪戯で狼狽えていても、最後には第一王子が幸せそうに微笑むので根を詰めすぎる主の息抜きには丁度良かった。どんなに時が経っても王宮で一番幸せな空気が漂うのは第一王子とカローナの回りだった。
***
カローナはイナナと第一王子と共にマグナ公爵夫人の祖国である隣国に滞在していた。
カローナは皇帝である祖父と伯父の皇太子にお願いがあり私事ではなく、公式に会えるようにお願いをした。希望通りの謁見が終わり、目的が済んだので有意義な時間を過ごしていた。
第一王子は友人の皇子と遠乗りに、カローナとイナナは皇女と三人でお茶を楽しんでいた。
「カローナも思いきりますね」
カローナ達の謁見に同席し、皇帝へのお願いを聞いていた皇女が感心した声を出す。先ほどまで堂々とした態度で強面の皇帝と向かい合っていたカローナは頬を膨らませた。
「だって悔しかったんですよ。夢の世界とはいえ、私と共にいるのにずっと他のカローナのこと考えて悩んで苦しんでたって。私は・・」
「お姉様、イナナはその夢の世界のお話を詳しく知りたいです」
最初は拗ねた様子で話していたカローナは段々悔しさが蘇り言葉を飲んだ。カローナの心のうちに気づいた皇女は優しく微笑み、お茶を振る舞う。イナナは目を丸くするも、すぐにカローナの好きな無邪気な笑みを浮かべ先を促した。悔しさから言葉を飲み込んだカローナは興味津々な可愛い妹を見て、苦笑しながら口を開きゆっくり語り出す。
カローナは第一王子の夢の世界の話をもう一度詳しく聞いていた。夢のカローナに勝つ情報を得るために。最初は嫉妬と怒りと色んな感情に押しつぶされそうになったが、結末に涙が止まらなかった。困惑する第一王子の胸の中で号泣して、すっきりして決意した。
決意を固めたカローナは優しく抱きしめ頭を撫でてくれた第一王子の胸から顔を上げると不安そうな顔を見て強引に口づけた。二人で赤面し、第一王子が優しく額に口づけを返してくれたので、自分に嫌われたらどうしようとバカな考えを持っていたことは許してあげた。カローナはバカなことを考えるなら、口づけて余計なことを考えさせないという対処法を覚えた。そして自分は公式でさえ赤面しなければいいかという結論に至った。伯父夫婦の家に突然単身で飛び込みカローナを抱きしめた第一王子の必死な顔に笑い、その光景を思い出せば楽しくなり、どんな時も平常心を取り戻せた。妹の悪戯で自分が行方不明と聞き、裏もとらずに単身で探しにきたボロボロの婚約者にカローナの庇護欲や母性が刺激されていた。
クッキーを食べ、必死に気を紛らわしながらも拗ねた様子で語るカローナの話にイナナが首を傾げた。
姉が夢の話に嫉妬し、闘志を燃やし対抗しようとしていることに突っ込みはいれない。夢の結末が気に入らないという文句を呑み込んでいるのも気付かないフリをする。
「最初はそっくりですね。お姉様はおばあ様のところに訪問するまで毎日王宮に通ってました」
「そうね。でも夢の世界なのにあの人は…」
気分の切り替えが早いカローナが根に持つのは珍しく、夢の世界の自分自身に嫉妬する従妹に皇女はとうとう肩を震わせて笑った。
「カローナは殿下が好きですね。昔は心配してましたが今は幸せそうで安心しました。政略結婚でも幸せな夫婦に憧れるのは当然ですもの。もちろんカローナの願いはお父様達も叶えてくださいますわ」
「ありがとうございます。まずは安全に生き残ることが優先ですもの。妃殿下の蛇に噛まれて死にたくない…」
第二妃の愛蛇は実は毒を持っている。初めて蛇を紹介された時に寒気に襲われてたカローナは教えてもらった蛇について文献を取り寄せ調べた。よく見ると教わった無毒な蛇とは模様が違うのに気付き、新たに調べ直すと毒蛇だった。そして調べれば調べるほど第二王子と第二妃の狡猾さにカローナはドン引きした。
優しいお妃様と幻想を抱いた第二妃の本性に気付いてからは全ての行動に思惑があり最も警戒すべき対象に変わった。
よくよく思い返せば第一妃が癇癪を起こす前に第二妃に会って話したこともあった。
カローナは留学を理由に他国に逃げた第三王子が一番賢いと思っていた。カローナも第一王子さえ関わらなければ絶対に関係を持ちたくない人種だった。第一王子が暗殺されないように手は回してもまだまだ安心できなかった。第一王子が強く、毒の耐性はあってもカローナにとっては一切警戒を緩められない状況だった。
イナナと皇女はしっかりしているようで時々抜けている、ポツリと本音をこぼしている自覚のないカローナが心配だった。イナナ達ならまずその毒蛇を始末する方法を選ぶ。
「失礼します。殿下、」
第一王子の帰宅の報せを聞き、嬉しそうに笑い立ち上がったカローナは礼をして退席した。残された二人が真っ黒な顔で恐ろしい話し合いをはじめたのはカローナも第一王子も生涯気付くことはなかった。
****
第二王子の策はことごとく失敗していた。
カローナが手紙で第一王子のために帰国して側で仕えてほしいと願う言葉に応じ、留学に出した第一王子の側近達が少しずつ戻り始めていた。
カローナが邪魔でも力を持つ隣国の皇帝のお気に入りのため殺せない。心を壊そうとも揺さぶりがきかず、常に金でも動かない護衛がついているので近づけなかった。
カローナとイナナを引き入れようとした策は全て失敗に終わっていた。
第一王子派と第二王子派の対立はいつの間にか第一王子派が優勢だった。
第二王子はカローナが側近を呼び戻している本当の理由を知らなかった。また隣国が第一王子の後見についたと囁かれる噂の真実も。
国王は第一王子とカローナの極秘の面会を受けて絶句していた。
「なんと?」
「私の成人と共にカローナと婚姻させてください。そしてあの伯爵領を私にください。継承権は放棄します。マグナ公爵夫妻には了承を取ってます。王位争いで民を巻き込みたくありません」
王位争いは第一王子が優勢であり、混乱を避けたい王は第一王子の成人に伴い王太子に指名しようと真剣に考え始めていた。
「ずっと王を目指していたのでは」
「学んできましたが、そこまでは。やりたい者がなればいいかと」
生まれた時から王位争いをしていた息子が曇りのない瞳でサラリと言った言葉に国王は信じられなかった。そして、もう一人ずっと王妃教育を受け、第一王子派を率いていたカローナが受け入れるとも思えなかった。
「カローナ、本気か?」
「はい。マグナ公爵家は妹が婿を取ります。もしも王族の皆様が、王族位を持たない殿下を理不尽に廃したり不当な扱いをするのであれば私達のおじい様が動きます。臣下として正しく扱っていただけるなら何も望みません」
愛らしい声で聞こえた私達のおじい様という恐ろしい存在の名に国王は寒気に襲われる。
カローナが隣国の皇帝と皇太子に願ったのは第一王子の後見。
臣下に降りて不当に扱われるなら助けてほしいと頼む孫と姪の願いを二人は快く頷いた。子供が生まれたら知らせることを条件に。
「そなたらの即位を望む声のが大きいが」
王族の中で民に一番人気なのは見目麗しく頻繁に姿を見せる第一王子とカローナだった。
「ありえません。私達は臣下に降りるために、繋がりを作っていただけです」
「臣下に降りるにしても、なぜあのような場所を」
「王族は民のためにあるべきです。誰も引き受けない領地があるなら王族が動くべきでしょう」
「伯爵夫妻としての待遇で構いませんわ。ですが、」
国王はしぶしぶ二人の願いを聞き入れた。第一王子の身の安全の保証を約束しろと脅すカローナの笑顔が自分の母親とそっくりで怖かった。淑やかで純粋だと信じていた義娘も異質だったと心の中でショックを受けその晩は籠妃のもとに逃げ込んだ。
****
時は少しだけ遡る。
隣国を訪問する前にカローナと第一王子はこれからについて話し合った。
第一王子は自身の欠点、気付かず見落としてきたことの多さに視野の狭さに気付いていた。たった一人の大事な子のことさえ、見落としてしまうのに、国を治めるのは向いていないと思い始めた。もともと王位に興味はなく、弟が望むなら自分は退いてもいいと思っていた。後ろ盾についてくれた貴族への申し訳なさはあっても、それ以上に臣下や民を巻き込む王位争いは避けたかった。
カローナは手を繋いで王位継承権を放棄したいと話す第一王子の言葉を聞いて笑う。
「応援してくださった方々にはお礼をすればいいわ。それに臣下は王族の声に従うのは当然よ」
「ロナは本当に・・」
「私はフィン様さえいればいいの。でも、それならこれからを決めないと・・」
カローナは不安そうな第一王子の顔を見て、閃きが浮かびにっこり笑う。
「フィン様、お願いがあるの」
カローナが耳元で囁くお願いに第一王子は驚く。
「危険が」
「フィン様が守ってくださいます。貴方と一緒なら怖い場所なんてありません」
第一王子はカローナの手に口づけを落として頷いた。第一王子はカローナが喜ぶならどんなことも叶えたい。なにより頬を染めて微笑むカローナが愛しくてたまらなかった。
カローナは第一王子が王位を望まないなら王を目指す必要はなかった。
カローナがなりたいのはフィリップの妻であり妃ではない。王妃教育を受けても王妃になりたいと一度も思えなかった。ただ第一王子の妻として相応しくなるために努力しただけである。
これからを考えた時に夢の世界の第一王子が受け継いだ辺境の力のない荒れた伯爵領は都合が良かった。第一王子がマグナ公爵家に婿入りすれば様々な憶測を生む。狡猾な第二王子達に疑惑を仕掛けられ、反逆者に仕立てあげ処刑されるのは避けたかった。火のない所に煙は立たぬと言われても、無理矢理火を起こすような二人がいた。
それなら力のない伯爵として王族の身分を捨てて、王位に興味のないことを示して生きるほうが余計な波紋を生まない。
建前は色々あるがカローナの本音は第一王子が夢の中で孤独に過ごした伯爵領での記憶を塗り替えたいだけだった。カローナは夢の中の孤独な生活に第一王子が何も思っていなくても不満だった。
そして、第一王子はカローナの伯爵夫人になりたいという願いを叶えたいだけだった。
荒れている伯爵領を迅速に平定し、第二王子達に介入されても対抗するためには優秀で信頼できる家臣と伝手が必要だったので、精力的に動いていた。
不満があっても第一王子派の筆頭のマグナ公爵家と第一王子が王位から手を引くと表明すれば他家は従わざるをえなかった。
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