婚約破棄の裏事情

夕鈴

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番外編

第三王子

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王宮には3人の王子がいる。
3歳の第三王子サントスの上には4歳上の兄王子が二人。
兄達の生母は仲が悪い。
国王が王太子だった頃、婚約者の座をかけて二人の公爵令嬢による壮絶な争いが繰り広げられた。他の令嬢達は敵に容赦のない公爵令嬢達に恐れをなして逃げた。
女の戦いに勝利して婚約者の座を射止めたのは第二妃。第二妃が婚約者として認められても第一妃は諦めなかった。
第一妃は二人の婚儀の前に王太子を誘惑し、お手付きになり後宮入りを決める。第二妃との婚儀の前に子供を身籠ったと盛大に発表する。
第二妃は王族の新たな誕生を祝い表面上は笑顔で受け入れる。
争っても立場が悪くなり、第一妃を楽しませるだけとわかり第二妃が正妃の座を辞退し第一妃に譲る。
第一妃は念願の正妃の座を手に入れて、喜んだのは一瞬。悔しさのカケラもない清々しい顔で第一妃にしかわからない蔑んだ祝福の言葉を告げる第二妃に勝利した気がしなかった。そして第二妃の後宮入りはどんなに反対しても防げず、一足遅く入内した第二妃を歓迎するフリをして扇子で隠して真赤な唇を噛んでいた。第一妃の妨害を華麗にあしらい表面上は淑やかな第二妃も側室として迎えられ婚儀が終わり、すぐに御子を身籠る。

第一王子と第二王子の年の差は6か月。長い後継争いの始まりだった。
美人だが気性の荒い第一妃、淑やかだが狡猾な第二妃。
国王は仲の悪い二人を迎えるつもりはなかった。一人だけのつもりがうっかり手を付けてしまい、第二妃との婚儀も決まっていたので二人とも迎え入れるしかなくなった。
仲の悪い二人の妃に囲まれ疲れ果てた国王が手を出したのは行儀見習い中の平凡な顔立ちの年若い伯爵令嬢。伯爵令嬢は後宮入りを望んでいなかったが王に望まれれば拒めなかった。望んでいないのに国王の寵愛を受け後宮入りして3か月で身籠り生まれたのが第三王子。
平穏を愛する第三妃は産まれた王子と一緒に息を潜めて生活していた。国王に妃の中で一番気に入られても迷惑とは口に出せない。
産まれた王子が将来臣下に降る時に自分もついていけないかなぁと心の中で願いながら存在感を殺して生活するのに全力を注いでいた。
第三妃の生活は目立たないがモットーである。存在に気付かれ第一妃と第二妃との争いに巻き込まれるのは小心者の第三妃は避けたかった。
第三妃は第三王子のサントスに目立たず、兄王子に逆らわないように教え込む。第三王子は利発で、教えなくても文字を覚え、一人で勝手に本を読み勉強した。第三妃は聡明な第三王子にわからないフリを教え込む。王や周囲には平凡、できれば出来の悪い王子に見えるように。
淑やかだが蛇のような第二妃と違い、気性が荒く短気な第一妃は年下の第三王子が第一王子より優秀だと知れば容赦なく殺すだろう。第二妃は後ろ盾のない第三王子が後継争いに名乗り出るつもりがないと理解しているので、利用はしても敵視はしない。ただ第一妃は理屈で通じず感情的になると我を通すことを第三妃は良く知っていた。第一妃の本性に気付かず、美しくとも高慢な妃を選んだ国王の趣味の悪さをドン引きしていた頃を第三妃は懐かしんでいた。そして二人の妃と関わり、国王の話を聞くたびにさらにドン引きしても第三妃は口には出さない。第三妃は国王に善良で気立てがいいと評価を受けるが、善良で気立てが良ければ幼いうちに貰い手が決まり、後宮では生きていけないとは口に出さず、愛息子が父の女の趣味の悪さを受け継がないように心の中で祈るだけである。
第三妃は息を潜めて暮らしながら情報収集だけは欠かさず、侍女の報告を聞いて新たな王家の犠牲者に隠れて涙を流した。

第一王子の婚約者に選ばれたカローナ・マグナ公爵令嬢3歳。
第一妃の希望で毎日王宮に通い第一妃のもとで教育を受けると聞き、親が恋しい年頃に引き離され、厳しい教育と第一妃の癇癪に付き合う日々に同情した。自分達の身が一番大事な第三妃は助けてあげられないので、せめてもの償いで幸せを祈った。第三王子には目立たず、人に会わないようにひっそりと生活させていたが第一王子の婚約者には絶対に近づかないように言い聞かせた。

「母上、兄上の婚約者は可愛いね。目がくりっとしててニコニコしてるの。縫いぐるみ抱っこしてたよ。話しかけてないよ。見つかってない」
「第一王子殿下の婚約者だから関わっては駄目よ。でも意地悪もいけません」
「女の子には優しくするよ」

第三王子は同じ年頃の令嬢を見るのは初めてだった。第三王子にとってカローナは王宮にいる令嬢達にはない愛らしさを持っていた。第三王子がいつも見ているのはカローナの馬車に乗り込む姿。木の上に登り観察するのが気に入っていた第三王子は多くの人が行き交う馬車乗り場を刺激的でよく眺めていた。声が聞こえなくても唇の動きと表情を見て、会話を想像するのも楽しい遊びだった。


「母上、カローナがニコニコしなくなった。いつも笑顔だけど違う」
「王宮だもの。仕方ないわ」

第三妃は人に近づかずに目立たず、人目のない場所で遊ぶなら息子を自由にさせていた。落胆する愛息子の声を聞きながら王宮に通い始めて3か月で貴族の微笑みを身に付けたカローナに言葉が出なかった。
第三王子はお気に入りの笑顔が見れなくなり、落胆していた。第三王子はカローナが兄にニッコリ笑って挨拶する姿を見たことがあった。そして兄を特別好きと気付いていたので、兄の前ならニコニコするのかなと近づけないのを残念に思いながら観察していた。
第三王子はカローナとは公式で一度挨拶しただけだった。
第三王子は母の指導のもとわからないフリをしながら役に立たない平凡王子を演じる。目指すは母の希望の存在感のない王子である。

第三妃は初めて会った時は意思の強そうな瞳で元気いっぱいだった幼い少女の瞳からどんどん力が無くなり、しだいに生気を失っていく姿を見ていた。第一王子とカローナのお茶会に令嬢達が同席しているのを知り4歳なのに意地悪されているだろうカローナを想い涙した。
お茶会が終わり、一番早く第一王子の部屋から出てきたカローナは第三妃を見て、上品な笑みを浮かべて綺麗な礼を披露した。そして第三妃が様子を気にしていることに気付き「楽しい時間をいただけて殿下に感謝しております」と落ち着いた声で笑みを浮かべ礼をして第一妃の執務室に向かい歩いていった。
第一妃の横暴を許し助長させるように裏で手を引くのは第二妃派。第一王子とマグナ公爵令嬢の婚姻を潰したい思惑も理解できた。
カローナは隣国の皇帝の孫。国内一、後ろ盾として力を持つのがマグナ公爵家。
第三妃は侍女達の噂話を聞き、王子とのお茶会の後に第一妃に理不尽に叱責されたカローナに胸が痛くなり、自分の息子と同じ年の幼い令嬢に同情した。
見目麗しい第一王子の婚約者と羨望の視線を向けられ、美しい王妃に目をかけられ令嬢達が憧れる豪華で不自由ない生活を送っていると思われているカローナ。すでに貴族の顔を覚えて、人の顔色を読むことを身に付けたカローナを第三妃は憐れに思い、ずっとカローナに夢中な人の気配を読めるようになった愛息子にカツラを被せた。

「正体は内緒よ。庭園の一番奥にある大樹に誰にも見つからないように行ってらっしゃい。誰もいないならお話してもいいわ」

第三王子は母から教えられた新しい遊びに頷いて、人の気配に気をつけながら後宮の庭園の奥を目指して歩きはじめた。ゴールである大樹の下には書類を睨みながら眉を下げ、困った顔で首を傾げているカローナが座っていた。第三王子は母の思惑がわかり周りには誰もいないのを確認して隣に座り声を掛ける。
第三王子に気づいたカローナに不思議そうな顔を向けられた。第三王子は綺麗な笑顔と穏やかな顔しか知らなかったカローナの違う顔が見れて、嬉しくなり笑みを溢した。そしてカローナの悩んでいる書類を取り上げて、解説を始めた。するとカローナは不思議そうな顔から、こぼれそうなほど目を大きく開いた。しばらくしてコクンと頷き真剣な顔で解説を聞き入る。第三王子は表情豊かなカローナに嬉しくなりさらに丁寧に解説した。とうとう答えが見つかったカローナは花が綻ぶような笑顔を見せた。第三王子の世界で一番可愛い笑顔に目を奪われると人の気配を感じて、第三王子は慌てて立ち上がり別れの挨拶をして走り去った。もっと一緒にいたくてもお互いのために絶対に人に見られてはいけないのはわかっていた。

「母上、母上!!可愛かった」

第三妃は帰ってきて興奮する息子の頭を撫でて笑う。第三王子には遊び相手がいないが自分の腹心以外は近づけるつもりはなかった。それでも王家に巻き込まれ不自由を強いられる不憫な子供達の逢瀬を見つからないように手を回し暖かく見守ることにした。
第三王子がカツラを被り、カローナと会った大樹に行くとぼんやりと空を見上げているカローナがいた。
カローナは第三王子を見ると目を丸くしたあとに、にっこり笑った。第三王子は自身に向けられた愛らしい笑みに頬を染めながらカローナの隣に座る。

「驚いた」
「驚いた?」
「また会えるって思わなかったの」
「そっか。えっと……」

カローナは照れる第三王子を見て名前がわからず困っているのかと思い、カローナとは名乗れないので母に教わった名前を思い出した。自分にとって大事なたった一人の人に教えなさいと言われた名前。昔は第一王子に呼ばれることを夢見て想像した。でも甘くない現実を知ってしまった。王族に何かを望むことを許されないカローナは一生呼ばれないだろう名前を口にした。

「ロナ」
「ロナ。僕はサン」

カローナは照れている第三王子の瞳をじっと見つめる。
サンは太陽神の名前であり、黄色い温かみのある瞳の色がポカポカのお日様の陽だまりのようだった。
つい先程まで一緒だった自分に向けられる黄金の冷たい瞳とは正反対で尚更温かく感じニッコリ笑う。

「太陽の神さまの名前とサンの綺麗な瞳がお似合いだね」
「僕はロナの赤い瞳の方が宝石みたいで綺麗だと思うよ」
「ありがとう」

母親と妹とお揃いの瞳はカローナの自慢である。年上の令嬢達に不気味と言われても笑顔で受け流し、心の中で否定したカローナは第三王子の言葉が嬉しくてふんわりとやわらかな笑顔を溢した。自分の大事な瞳を綺麗と言われるのは王宮に来て初めてだった。第三王子はカローナに見惚れてぼんやりしながらカローナの話に相槌を打っていた。

「そろそろ戻らないと」

しばらくしてカローナがゆっくりと立ち上がった。

「ロナ、またね」

第三王子が笑って手を振るとカローナはにっこり笑い手を振り返して第一妃の執務室に戻っていく。
第三王子とカローナの楽しそうな逢瀬の話を第三妃は聞いていた。王宮では貴族の顔しかしないカローナの子供らしい姿にほっとしていた。冷たい王族の中で生きる運命を背負った可哀想な少女のために第三妃ができるのは、優しい思い出を作る手伝いだけ。第一妃から理不尽な叱責を受けても第三妃は手を差し伸べられず、侍女に不敬な扱いを受けても気付かないフリをする。後ろ盾を持たない自分達の力では介入できず、自室に戻り自分よりも不幸なカローナが幸せになれるようにと祈りを捧げるだけだった。



第三王子はカローナの課題を教えていると気付いたことがあり刺繍をしている母親を見上げた。

「母上、ロナの課題、おかしいよ。母上と同じのやってる」

第三妃は第一妃に呆れたが自分本位な性格を思い出し納得する。そして自分達が気付いたと知れば殺されかねないので、針を置いて第三王子の瞳を見つめてしっかり言い聞かせる。

「サン、貴方は何も知らない。わかった?」
「うん。僕、こっそり勉強がんばるから教えて。ロナに教えてあげる」

第三妃は内密に本を取り寄せ、資料さえあれば教師いらずの息子に与える。第三王子がカローナのために必死に勉強している姿を第三妃は叶わない初恋と知っていても口に出さずに温かく見守る。子供は目の前に広がる世界だけを見ていればいい。大人になって視野が広がり、抗えない現実を目の当たりにしたときに息子の努力は身を結び、生きる助けになるだろうと思いながら。

第三王子は国王からの呼び出しが終わり、帰る途中に第一王子の部屋の前を通ると中から聞こえる声に思わず足を止めた。

「幼いカローナ様のかわりに私が」
「そのお体ではお役にたてないのは仕方ありませんわ」
「カローナ、求めておらん。見てればいい」
「かしこまりました。お心づかいありがとうございます」

部屋の中の笑い声が廊下に響いていた。
この時、部屋の中では定例の第一王子とカローナのお茶会が行われていた。カローナは第一王子から一番遠い席に座り令嬢達に甲斐甲斐しく世話される第一王子を微笑みながら眺めていた。

「殿下の瞳の色はいつ見ても美しいですわ。やはり我が国の色が一番です」
「そなたらの色も美しい。我が国の花は他国にも負けんと母上も言っておる」
「まぁ!?我が国が……」
「私もそう思いますわ」

第三王子はカローナの瞳は異国の色と知っていた。そして笑い声の中にカローナへの批難がこめられていた。何も話さないカローナが傷ついていると思い、拳を握りしめた。

「行きますよ」
「待って、だって」

第一王子の部屋に飛び込みそうな第三王子を侍女は抱き上げ無理矢理その場から連れ出す。幼く成長が遅いと評価される第三王子が侍女に抱かれても礼儀を咎めるものはいない。侍女は第一王子の部屋の扉を守る騎士達に駄々を捏ねる第三王子を宥める仕草を見せつけながら騒がせて申しわけありませんと礼をして主の部屋に足早に目指した。
第三妃は侍女に抱かれる怒った顔で謁見の間から帰ってきた息子にため息をこぼした。状況は想像でき、人目に付かないように息子を回収した侍女に礼を伝えた。

「母上、ロナが」
「貴方が庇えば困るのはカローナよ。もし力になりたいならよく考えなさい」

怒っていた第三王子は母にかつてないほど厳しく叱られた。冷静になっても、逆らいたいのを我慢して静かに頷いた。
第三王子はカローナが令嬢にいじめられているのを知った。
兄はカローナを庇わない。令嬢達と一緒に意地悪を言われているのを聞いてカローナを連れ出したかった。
でもそれは許されないと頭ではわかっても悔しかった。
第三王子はカツラを被りいつもの大樹の下に行くことにした。しばらく待っているとカローナが来て、ニッコリと笑って第三王子の隣に座った。第三王子はいつもと変わらない笑っているカローナにほっとした。
カローナは空を見上げて呟いた。

「1日でいいからダラダラしてみたい」
「きっと叶うよ」
「叶うといいな。妹とも遊んであげたい。もっと頑張らないと」
「ロナは頑張ってるよ」
「ううん。まだ足りないの。いつも怒られちゃう」

第三王子は笑っているカローナの頭に手を伸ばし母親のマネして優しく撫でる。カローナは気持ちよさそうに目を閉じた。王宮で会えばいつも綺麗な笑顔の女の子。でも本当は可愛い笑顔を浮かべる女の子。カローナはサンの前では不満を口に出さない。カローナが寂しそうな声で呟くのは一人で空を見上げている時だけと気付いていた。

「ロナ、欲しい物はある?」
「ぬいぐるみ。でも駄目だって。淑女の持ち物ではありませんって怒られちゃった」

カローナは第二妃から縫いぐるみを贈られ、嬉しくて抱きしめて喜んでしまった。
それを第一妃に見られて厳しく叱責を受けた。それから縫いぐるみを我慢し、家にある縫いぐるみも泣く泣く封印したのはカローナの4歳の誕生日の出来事だった。
第三王子は寂しそうに笑うカローナを見て、母に相談した。
第三妃は第一妃と第二妃の争いに巻き込まれた縫いぐるみの件は知っていた。息子の熱心なお願いを叶えるために、美しい鳥の縫いぐるみを縫うことにした。縫っている自分を羨ましそうに眺めている息子に綿を詰めさせ出来上がった白い鳥の縫いぐるみをカローナの誕生日に匿名で贈った。マグナ公爵令嬢は大量の贈り物が届けられるので自分達の贈り物が目に止まるかわからない。マグナ公爵は寛大なので、匿名の贈り物は危険がなければ本人の手に届くが、不用な物は容赦なく下賜する。第三妃は初めて女の子に贈り物をした第三王子がそわそわとカツラを被り出かける姿を見送った。

カローナの誕生日には大量の贈り物が届いた。家族と親戚、王家からの贈り物を開けて、侍女に片付けを頼む。
そして残りの贈り物は孤児院や使用人にいつも下賜するが、お礼の手紙を送るため一つ一つ手に取って確認する。カローナは白い鳥の人形を持ち上げると軽くて抱き心地がよく驚いて目を丸くする。人形ではなく縫いぐるみと気付いて、じっと見つめた。綺麗な白い鳥の縫いぐるみは一見人形のようで淑女が持ってもおかしく見えなかった。カローナはニッコリ笑い縫いぐるみを棚に飾り、他の贈り物は下賜する手配を整えさせた。それからカローナは部屋に飾ってある白い鳥をこっそりと抱きしめるようになった。第一妃に淑女としてふさわしい行いを教えられても、縫いぐるみを抱きしめていけないとは教わっていないので。
第三王子は第一王子に贈られた黒い髪飾りを身に付けたカローナに誕生日の贈り物の話を聞いて喜んでいた。贈り物の中で一番嬉しかったと笑うカローナに笑顔で良かったねと頭を撫でる。内緒の会瀬は二人にとってかけがえのない時間だった。

第三王子とカローナの逢瀬が始まり1年経つ頃に第二王子に見つかった。
第二王子ならカローナを守る力を持っていた。第一王子は絶対に頼れない、頼りたくもなかった。第三王子は第二王子と手を組むことを決めた。第三王子は傷ついていくカローナを見るのが嫌だった。王位もいらない。将来第一王子のもとに出荷されると諦めた顔で空に呟いた大事な女の子を助けたかった。そのためならどんな物も利用すると覚悟を決める。第二王子に利用されてカローナの安全が買えるなら構わないと。
第三王子は第二王子と取引をしたあと第三妃を訪ねた。

「母上、僕は将来ロナをお嫁にもらいます。後ろ盾はあります。将来マグナ公爵になります。だから留学に行ってもいいですか?」

第三妃は第三王子が自分の意思で険しい道を望むなら邪魔するつもりはない。真剣な顔で自分を見る息子は止めても無駄だと思いながら、いつの間にか頼もしくなった息子を抱きしめる。

「決めたなら頑張りなさい」
「母上、僕がいないとロナが困ります。隠している本を贈っていいですか?」

第三王子はカローナが悩む課題を教えていた。誰にも頼れないカローナが自分がいなくなってから、一人で悶々と悩むのが想像できた。カローナはサンにさえ困っているとも教えてほしいとも言えない。そしてカローナに手を差し伸べる人はサン以外は誰もいない。

「貴方が出かけてから手配をするわ」
「ありがとうございます」

第三王子はその2週間後に旅立つ。
その後の小さい騒ぎを聞いて第三妃はカローナに心の中で謝る。ロナに挨拶もなく突然姿を消した第三王子のうっかりに頭を抱えながら。


カローナはどんなに待ってもサンに会えなかった。いつも5日に1度は会えていた。2週間待ってもサンは来ない。どうしても会いたいカローナは時間を忘れて庭園を歩き回った。
秘密なので人には言えない。必死に探すカローナは辺りが真っ暗になっていることに気付き、真っ暗の誰もいない庭園に心細くなりカローナは涙を我慢できなかった。

「サン」

カローナは泣きながら庭園を歩き、サンの名前を口に出した自分に気付いて口を押さえた。
真っ暗な庭園で泣いているカローナを保護したのは第二王子だった。

「カローナ?」

カローナは聞き覚えのある声に涙を拭いて礼をする。

「ご、ごきげんよう。殿下」
「散歩に付き合ってくれないか」

第二王子は目を腫らして、いつもの笑みを浮かべるカローナを抱き上げる。カローナは戸惑いながらも王族の命令は絶対なので静かにしていた。
第二王子は第一妃の執務室の側でカローナを降ろす。カローナは第二王子がわざわざ送ってくれたのに気付き礼をする。

「ありがとうございます」
「いいよ。カローナ、王子様が迎えに来るといいね」

意味深に笑う第二王子にカローナは礼をして背中が見えなくなるのを確認して第一妃の執務室に入る。目が赤く遅くまで遊んでいたため激しい叱責を受けたカローナは第二王子の言葉は頭から抜け落ちる。茶髪の少年が王宮にいないと知ったカローナは悲しくても、泣くのは許されないので白い鳥の縫いぐるみを抱いて目を閉じて眠った。
しばらくしてカローナはサンは妖精なので大人になれば会えないと気付いた。妖精に会えるのは幸運なことなので、出会えたことに感謝し、社交デビューという大人への階段をのぼる準備を始める。サンのいない王宮で、大人への階段を昇るたびにカローナの中の感情がどんどん押しつぶされていった。
目を腫らして夜遅くに王宮を歩いて馬車に向かったカローナは目立っていた。第二王子から話を聞いた第二妃は庭園で迷って泣いてしまい第一妃に怒られたカローナの話を哀れみながら噂好きの侍女に話す。そして非道な第一妃の噂が陰で広まり第一妃派が減っていく。

****

第三王子は留学先で必死に学んだ。
後ろ盾になる繋がりが欲しかった。後ろ盾を持たずに国のために必死に学ぶ第三王子は受けが良かった。第三王子は心に決めた人がいますと公言し、婚約の話はやんわり断る。いつか迎えに行きたい人がいると無邪気に笑う幼い王子はどこの国でも可愛がられていた。第三王子は平凡な容姿だがそれなりの外見を利用することも演技も得意だった。
第三王子が留学して4年後、10歳の時に一度帰国した。
第三王子は帰国の挨拶に国王の執務室に向かう途中ですれ違い礼をして道を空ける令嬢に足を止める。漆黒の髪と赤い瞳を持つのはマグナ公爵家だけだった。

「カローナ?」
「お帰りなさいませ殿下」

第三王子は紺のドレスを纏い、化粧をしているカローナに驚きを隠して笑う。
実は身長がカローナよりも低いことにショックを受けていた。

「ただいま。また後で」
「はい。失礼します」

出会った頃と外見が違っていても綺麗に笑う癖も声も同じだった。
第三王子は母に話しを聞いて言葉を失う。6歳で社交デビューし、王子の贈り物に合せて着飾ったのがカローナの厚化粧の始まりだったと。ヒールを脱いだら自分の方が大きいと微笑まれ喜んでいいかわからなかった。
6歳の社交デビューは異常だった。第二王子に任せることに初めて不安を覚えても他に方法はない。
第三王子はまた他国に出かける予定だが、できるだけカローナを気に掛けようと決めた。手を組んでいても、兄は信用できなくなった。
第一王子は遊び歩き、カローナばかりが仕事をしていた。この頃には楽を覚えた第一妃の仕事もカローナがほぼ引き受けていたのを第三王子は気付かなかった。


第三王子はいつもより歩みの遅いカローナに声を掛ける。いつもは立ち止まって礼をするカローナがゆっくりと歩いていた。
不審に思って手を掴むといつもは冷たい手が熱かった。
カローナは高熱で倒れそうな体を鉄壁の理性で平静を装い、第一王子に頼まれた執務を終えた。最後に第一王子に確認してもらい提出するだけだった。
手を掴まれて、第三王子に気づいたカローナは笑みを浮かべてゆっくりと礼をする。

「殿下、失礼しました」
「カローナ、熱が」
「申しわけありません。移すわけにはいきませんのですぐに」
「医務官呼ぶから休んで」
「申しわけありません。夕方までにとの仰せで。お気持ちだけで。本当に、どうかご勘弁くださいませ。失礼しますわ」

カローナは第三王子に礼をしてゆっくりと第一王子の部屋に入っていく。第三王子は労いの言葉もなく、カローナに世話をさせる第一王子を斬りたかった。熱があるのに気付かない兄に言葉を失い、カローナを疎んでいる兄なら仕方ないかと怒りを堪えて拳を握る。ここで部屋に入り文句を言えば全てが水の泡になるとわかり、第一王子の部屋の前から立ち去る。
2日後にカローナが熱があるのに書類を抱える姿を見つけ息を飲む。
強引にカローナの仕事を奪って手伝う。カローナを助け出して、お嫁さんにもらう前に過労死する不吉な未来が見えていた。
第三王子は短期間でもできるだけ、帰国することを決めた。絶対に二人の兄よりも力をつけてカローナを助けると第三王子はさらに熱心に学んだ。

****

留学も終わり、第三王子は任される仕事も増えた。王子としての評価も上がり目の色を変えた令嬢達は近づけないように臣下に命じていた。
視察が終わり王宮に帰ると大臣が走り回り騒がしかった。
母親にカローナと第一王子の婚約破棄騒動が起きていたと聞き慌てて事情を調べ、カローナの行方を腹心に探らせた。カローナを妾か弟の妃にほしいと綴られた友人からの手紙は握り潰し、丁重に断りの返事を送る。仕事を投げ出したカローナが責められないように、重要な案件だけは第三王子に回すように命じた。
第三王子にとって第一王子は敵で兄弟の情は一切なく、過労で倒れようとどうでも良かった。
荒れている第一妃も。巻き込まれる母は自分と似てズル賢いのでうまく対処するので気にしない。
自分に甘い父に兄との婚約破棄を迫り、カローナとの婚約を了承をもらえれば後は動くだけだった。
第一王子にカローナが見つからないように手配は整えた。
ようやく準備を整えてカローナに会いにいくと懐かしいロナの姿に笑みを浮かべる。
自分を好きだと言うカローナに顔が緩み、忘れられたらどうしようという心配は一瞬で吹き飛んだ。
ただカローナの瞳は空虚だった。
第三王子は幼い頃のように通って共に過ごした。変わったのはカツラを被らず、手を繋ぐ行為が増えただけ。
王宮で傷つけられて心を壊した大事な女の子。
第一王子がカローナを必死に探して憔悴しているのを見て初めて兄がカローナを好きだと気づいたが、渡すつもりはなかった。第三王子にとって兄がカローナを傷つけた事実は変わらない。それに守れる力があるのに傷つけて、隣にいる権利があったのに手放した。自業自得だと怒りしか沸かなかった。

「サン」
「なに?」
「呼んだだけ」

カローナが自分の手を繋いで楽しそうに笑う姿が愛しかった。サンを妖精だと思い込み自分の正体を伝えても動じないカローナが現実に戻りたくないのは第三王子は気づいていた。第三王子はカローナの望むままにいつまでもつき合うつもりだった。

「ロナ、なにがあっても離さないよ」

楽しそうに笑うカローナが時々瞳に悲しさを浮かばせていた。

「僕はロナが大好きだよ」

頬を染めるカローナに口づける権利はまだ持っていない。兄が壊れようとも渡さない。しばらくしてカローナが現実に戻ると決めてからはあとは簡単だった。
初めて夢ではなく現実と知り願いを口に出し涙を流したカローナに嬉しくなり絶対に守ろうと心に誓う。力のない子供でなくなった今なら兄にも国王にさえ負けない自信があった。長兄の得意な武術も次兄の得意な謀も勝利し出し抜ける自信が。
第三王子にとって呆気ないほど簡単にカローナとの婚約が了承されたのは嬉しい誤算だった。第三王子は世論を操作し、不遇なカローナを広めたイナナに心の中で感謝した。おかげで感傷的な大臣達の心を掴むのは簡単ですんなり婚約が認められた。
国王や大臣達に婚約が認められた第三王子とカローナは庭園で昔の思い出に浸っていたが二人の幸せな時間は長くは続かなかった。

「殿下、国王陛下がお呼びです」

第一王子の話だと察したカローナが顔を曇らせる。

「母上と待ってて。大丈夫だよ。僕はずっと一緒にいるよ。何があっても手を離さないよ。任せて」

第三王子の優しい笑みにカローナは頷く。
第三妃は息子に手を引かれたカローナを笑顔で迎え入れる。

「久しぶりね。いらっしゃい」
「お久しぶりです。第三妃殿下」
「かしこまらなくていいわ。サンの話でもしようかしら」

カローナは肩にかけてもらった上着を返そうとすると第三王子が首を横に振る。

「持ってて。僕の代わりに。行ってくるよ。僕は優秀だから安心してよ」

頷いたカローナが貴族の笑みを見せたので、第三王子は頭を優しく撫でて母親に任せて一刻も早く片付けて戻ってこようと国王の元に足を進めた。
第三妃は息子の背中を見送り立ちすくむカローナに椅子を勧める。お茶を飲みながら第三王子の昔話をしているとカローナが何度か瞬きをして眠そうな顔をしていた。

「カローナ、帰ってきたら起こしてあげるから眠りなさい。うちの息子は優秀だから大丈夫よ。第一妃殿下にも負けないわ」

サンに似た優しい笑みを浮かべて頭を撫でる第三妃にカローナは頷く。本当に大丈夫か不安だった。カローナの名を呼び令嬢を抱く第一王子は怖かった。縋られる声に怖くても助けないとと体が動きそうだった。怖い現実から目を逸らしたいカローナは優しい第三妃に甘えて第三王子のお日様の匂いがする上着を胸に抱いて目を閉じた。
カローナは心が疲れていた。優しい場所を知ったカローナには王宮は怖い場所である。
起きたらまた感情を殺して生きる色のない現実が待っていたらどうしようかと不安が消えない。
第三妃は息子の上着を抱えて眠るカローナを優しく見つめる。12年間必死にもがいていた少女を。眠る顔はあどけなく、童顔のカローナは15歳にさえ見えない。
実は第三妃も国王に呼ばれていた。王族のこれからを話し合う会議に力のない第三妃は必要ないが無視して糾弾されても面倒なので念のため行くことにした。第三妃はカローナに護衛に任せて、張り切っているだろう息子のいる謁見の間に足を進めた。


第一王子の処遇の話し合いも終わり、第三王子は自分の上着を抱いて眠るカローナに口元が緩んでいた。
カローナがぼんやりと目を開けると第三王子に優しく笑いかけられ、この人と一緒にいたいと思った。

「兄上は男爵令嬢との婚姻が決まったよ。臣下に降りるって」

カローナはゆっくりと起き上がる。

「私は」
「ロナは僕の婚約者だよ。成人したら僕も臣下に降りてマグナ公爵家に婿入りするよ」

緊張していたカローナは全身の力が抜けた。夢の続きかと思い頬をつねると感じた痛みに嬉しくなり笑うカローナを第三王子は抱きしめる。大事な女の子をやっと連れ出せた。

「待たせてごめんね」

カローナは温かい腕の中で優しい声に胸が苦しくなって涙が溢れた。どうして涙が出るかわからず、ただただ感情のままに泣き続ける。王宮で泣ける日がくるとは思わなかった。誰もカローナを咎めない。自分を見つめる優しい瞳をずっと見ていたいと。涙を拭う優しい指の持ち主が優しく笑う顔を見ると胸の痛みが段々和らぎ次第に消えていった。

第一王子の面会依頼を第三妃は丁重に断る。カローナに会わせてほしいと頼まれても息子の邪魔をするつもりはなかった。
第三王子はようやく泣きやんだカローナの手を繋いで馬車を目指す。
第一王子に捕まらないように王宮の裏に馬車を回させた。第一王子がカローナを諦めたようには見えず絶対に会わせたくなかった。

第一王子はカローナを何度も訪ねた。
第三王子もマグナ公爵家もカローナと第一王子を会わせるつもりはなく、カローナにも伝えない。カローナはイナナと過ごしていたため第一王子の訪問を気付かなかった。マグナ公爵と第三王子が相談してカローナとイナナを留学に送り出した。
第一王子が婚儀を終えて遠方の伯爵領に移り、ようやく第三王子はカローナを追いかける。
カローナは留学先の王太子夫妻に全力で遊ばせられていた。
花畑で花かんむりを作るカローナは突然背中に重みを感じ振り返ると目を丸くする。自分を抱きしめるお日様の匂いのする婚約者に頬を染めて、嬉しそうに笑う。

「殿下、どうされました?」
「追いかけてきた。当分はのんびりしよう」
「子豚になったら責任とってくださいね」
「もちろん」

抱き合う二人をイナナとポプラが暖かく見守る。
ずっとマグナ公爵家に第一王子からカローナ宛に手紙が届いていた。イナナは決して手紙を見せなかった。今更カローナへの恋慕を綴っても遅い。長い間虐げるだけで、カケラも優しさを与えなかった男。カローナのありがたみもわからない。不幸になればいい。イナナは落ち着いたら報復する気満々でも最優先は姉との時間だった。
イナナは幸せそうな姉を見て王族の中で第三王子だけは少しだけ認めることにした。

****

夜会で会うと第一王子はいつもカローナを見ていた。

「カローナ」

弱った第一王子の声にカローナは足を止める。振り向こうとするカローナを第三王子が抱き寄せ頬に手を添え見つめる。

「ロナ、おもしろくない」
「はい?」
「兄上の声への反応が僕より早い」

拗ねる第三王子にカローナが楽しそうに笑う。

「体が覚えてます。なにかご用でしょうか」
「まずは挨拶しないと。隣にいるだけでいいよ」
「はい。殿下にお任せします」

カローナは第三王子の声に頷き第一王子を振り返らなかった。第三王子は第一王子の傷ついた顔を見て笑う。
女の子には優しくする。好きな女の子は宝物である。
第三王子は兄に宝物を譲ってくれたことだけは感謝していた。
カローナは第一王子の声に反射で反応しても、優先するのは第三王子。
ずっと欲しかった物が手に入った第三王子はカローナと幸せに暮らした。
怠惰を愛すると豪語するのにカローナはいつも第三王子の隣で仕事をしていた。
カローナの怠惰は全く怠惰ではなかった。
カローナにとって怠惰に過ごすよりも愛しい人と過ごす時間の幸せを教えてくれたのは昔に出会った妖精だった。
カローナ以外には、ずる賢い第三王子は妖精には見えない。それでも楽しそうに話すカローナに顔を緩ませ突っ込みはいれずに話を聞く保護者達ばかりだった。その筆頭はカローナの夫である。
変幻自在のカローナの夫はいつまでも夢見心地のおっとりと抜けている妻を愛し続けた。
王家に振り回され寂しい子供時代を送った二人は幸せを掴んだ。
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