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番外編
ルオの幸せ
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ルオはリーンを初めて抱きしめたのは、仲直りした日だった。
ルオは腕の中にいるリーンに胸が熱くなっていた。冷静になり自分がリーンを抱きしめていることに気付いたルオは赤面した。それでも離れることが名残り惜しく、しばらく抱きしめていた。
リーンは抱きしめたまま動かないルオに戸惑いつつも静かに体を預けていた。どんどん時間が過ぎていき、リーンはルオの腕の中で今日の予定を考えはじめた。
しばらくすると、ルオは恐る恐る問いかけた。
「部屋、帰ってくる?」
リーンは情けない顔をするルオの声に現実に戻った。全く腕から解放されないため、頭の中では小国の発展のため思考を巡らせていた。
「荷物を戻すの大変よね。寒いし。暖かくなったら」
小国の寒い日々はまだ数か月続く。しみじみと呟くリーンにルオが首を横に振った。
「俺が運ぶ。面倒なら新調すればいい」
必死な様子のルオにリーンが笑った。
「旦那様のお考えにお任せします」
ルオはリーンから向けられるありのままの笑顔に見惚れた。
「幸せで死にそう」
「夫が死んだら、私は別のとこに嫁がされるけど」
「死なない。リーンより長生きする」
「そのためには今日は休んで。病み上がりは大事にしないと」
「熱は下がった。調子も良いから。リーンの引っ越ししよう」
ルオはリーンを抱きしめる腕を解き、ゆっくりと手を差し伸べた。リーンは手を重ねたルオの真っ赤な顔を見て、回復したようには見えなかった。医務官を呼び、完治と診断されたためルオの好きにさせることにした。妻は夫に従うものである。
リーンの荷物を自ら運び出すルオを見て、リーンはイナに引っ越しの指示を出した。ルオの家臣は主が報われたこと、リーンの家臣は主の憂いが晴れたことに安堵の息を吐いた。リーンが誰かの行動に真剣に悩むのは初めてのことだった。
引っ越しを終えたリーンはルオに穏やかな笑みを浮かべた。
「私は執務に戻るわ。今日はゆっくり休んで」
「俺、もう大丈夫」
「今日は休んで、明日熱が下がったら執務に戻ってください。風邪は怖いわ」
リーンにとって風邪は命に関わるものだった。だがルオにとってはそこまで重いものではなかった。
「リーン様、執務は問題ありません。できれば殿下に付き添っていただけませんか?殿下はじっとしているのが苦手なので」
ルオの家臣の言葉にリーンは苦笑した。じっとしていられない弟にそっくりだった。
「わかりました。責任もって休ませます」
リーンはいくつか指示を出して、ルオに付き合うことにした。
ルオは回復していたが家臣の気遣いに甘えた。リーンと一緒に過ごせるのは夢のようだった。
「リーン、散歩でも」
「雪が降ってるわ。今日はお休みです。部屋で過ごして」
リーンは休む気のないルオに苦笑を隠して穏やかな笑みを浮かべた。
イナに声を掛けられ、まずは食事をすることにした。
ルオはリーンの食事の少なさに目を見張った。
二人が私的に共に食事をするのは初めてだった。
「リーン、それだけ?」
「はい。」
晩餐で用意される量の半分にも満たなかった。
「今までどうして」
「王族ですもの。調整できますわ。」
にっこり笑ったリーンにルオは見惚れて何も言えなくなった。リーンは気にせず食事をした。イナは仲直りしても温度差のある二人を静かに見つめていた。
食事をおえると、ルオはまたベッドに戻された。
リーンの目にはルオは幼い弟と重なっていた。ルオはリーンにされるがままだった。
ベッドに入り、頭を撫でられ、物語を聞きながら眠ったルオを見てリーンはため息をこぼした。ずっと一人でベッドにいるのは寂しいので、昔、イナがしてくれたように椅子に座って、起きたら顔が見れる場所で過ごすことにした。
ルオは目を開けると、リーンが眠っていた。何度思い出しても夢のような光景に顔が緩んでいた。寝苦しそうなリーンをそっと抱き上げて、自分の隣に寝かせた。寝苦しそうな様子に、リーンの首元を緩めているとリーンが目を開けた。
「ごめん。手を出そうとしたわけじゃ」
リーンはルオの慌てる様子に首を傾げた。自分の服が乱れている様子と赤面しているルオに察した。ルオの額に手を当てて、熱がないことを確認して、自分の服に手をかけた。
ルオは服を脱ぎはじめたリーンにさらに赤面した。
「リーン!?」
脱いだ服は椅子の上に置き、肌着だけになったリーンがルオを見て微笑んだ。リーンは固まっているルオを見て覚悟した。リーンは大国で房中術は学んでいた。初めての実戦に不安でも顔に出したりしなかった。
ルオはリーンから目が離せなかった。そっと腕を伸ばして抱きしめると、ふんわり笑ったリーンの頬に口づけを落とした。自分を見つめて、目を閉じたリーンにゆっくりと口づけた。ルオは理性を総動員してリーンの華奢で折れそうな体を優しく抱きしめた
リーンはルオが主導権を握ってくれることにほっとしていた。ただ途中から全く手を出す様子のないルオに戸惑った。
「ゆっくりでいいよ。」
リーンはルオの言葉に呆然とした。リーンの体は豊満ではない。やはり自分が覚悟を決めるしかないかと大国の秘術を思い返した。
心の中で葛藤し羞恥で頬を染め潤んだ瞳で自分をじっと見つめるリーンにルオは髪を掻き上げた。腕の中でリーンが緊張しているのはわかっていた。
「これ以上は止められる自信ない」
「いいの。優しくなくていい。」
リーンとしてはルオに頑張って欲しかった。
ルオの理性は負けた。華奢なリーンが壊れないように、優しく抱くつもりだった。口づけを深くして、とろけた顔で自分を見つめるリーンに最後の理性の糸が切れた。リーンの体に溺れ、正気に戻ったのはリーンが腕で気を失った時だった。
イナはノックしても声が掛からないので、入室した。食事の時間だった。
リーンはイナが了承なく部屋に入ることを許していた。
ルオの傍で読書をしてるリーンに声を掛けるため、寝室に入ると一瞬だけ目を丸くした。半裸で眠るリーンと焦った顔をしているルオがいた。
「体力の限界ですね。直に目覚めます。お食事はどうされますか?」
「まだいい。呼ぶまで入ってこないでほしい」
「かしこまりました」
ルオは淡々と話すイナに冷静さを取り戻した。リーンに謝るのは後にして、今は幸せに浸ろうとリーンを抱きしめて、ルオは再び眠りについた。
深夜にリーンは慣れない気配に目を開けた。自分を抱きしめて眠るルオを見て、状況を思い出した。心の中で母達に房中術は自分には難易度が高いと呟いた。でも無事に初夜をおえたことにほっと息を吐いた。ただリーンは重要な事実に気付いた。誰にも言っていないがリーンは知らない気配があると眠れなかった。これからルオと寝室を共にするなら慣れなくてはいけなかった。
リーンがもう一度眠ろうとしても無理だった。目を閉じると、規則正しい心臓の音が聞こえてきた。ルオの心音に集中して耳を傾けた。気付くとリーンは眠っていた。
翌朝、目を開けるとリーンはほっと息を吐いた。ルオと一緒に眠る方法を見つけたことに安堵した。いつもは自分の冷たい体が暖かかった。ルオの体温の高い体に包まれいてたおかげだと気づき、快適な目覚めに笑った。
ルオが目を覚ますとリーンが笑っていた。
「リーン、その・・・」
「おはようございます。もう体は大丈夫ですか?」
「ああ。リーンは?」
「なにも問題ありません」
「そうか」
ルオは自分に笑いかけるリーンに見惚れていた。リーンはルオの腕を抜け出し、服を纏い寝室を出ると湯あみの準備を整えていたイナに笑い甘えることにした。
「お疲れ様でした」
「イナ、久々に洗ってくれる?」
イナは笑顔で頷きリーンの髪を洗った。リーンは湯あみは一人でできるがイナに髪を洗ってもらうことが好きだった。イナはリーンの体に刻まれた痕にリーンの夫が無体を強いたら薬を盛ることを決めた。
***
ルオの家臣達は上機嫌な主を微笑ましく見守っていた。時々、手を止めてぼんやりする主を見逃すことにした。
リーンは離縁しないため方針を変えた。
寒い小国の環境を生かして、国を豊かにする方法を話し合っていた。家臣達は楽しそうに話すリーンを微笑ましく見ていた。
昼食を共に取りたいというルオの申し出をリーンは初めて了承した。
ルオが侍従が持ち帰った返事に感動して顔を緩ませていた。ルオの家臣も微笑ましく見守っていた。
リーンとルオの食事の様子を見ながら、イナ達は気付いていた。
リーンのルオに向ける視線は弟王子に向けるものとそっくりだった。仲直りをしても、温度差のある二人を愉快に見守っていた。
イナはルオの空回りに拍車をかけるために、時々情報を売ることにした。数多の男を落とした主をルオが落とせるとは全く思っていなかった。リーンの家臣達はルオがイナを味方と勘違いしていると気付いても忠告する優しさは持ち合わせていなかった。
***
ルオは執務に追われていた。リーンが部屋に帰ってきても中々共に時間を過ごせなかった。
ルオは寝室に入ると、リーンが目を擦って起き上がった。
「お帰りなさい」
「ただいま。わざわざ起きなくていいよ」
「ううん」
ルオはリーンの隣に寝転ぶと胸にくっつくリーンを抱きしめた。
リーンはルオの心音に意識を傾けまた目を閉じた。ぐっすりと眠るリーンを胸に抱いてルオは目を閉じた。明日こそはもう少し早く帰ろうと決めた。
ルオはリーンが自分の気配で目を覚ますとは知らなかった。
翌朝、目を開けると、リーンはルオの寝顔を眺めていた。
ルオと一緒でもぐっすり眠れるようになっていた。ルオは多忙である。それでも、毎日花を贈ってくれた。何度目かわからないお断りをすることにした。
「リーン?」
目を開けて、腕の中のリーンを確認するのがルオの癖だった。
「おはようございます。」
「おはよう」
ぼんやりとした目で自分に口づけ、口づけた後に目を見開き赤面する様子がリーンはいつも可笑しかった。リーンにとってルオのように表情豊かな王族は稀だった。
リーンはルオの腕を抜け出し、着替えて朝食に向かうことにした。
「殿下、もう花はいりません」
「え?」
「花を摘みに行く暇があるなら休んでください。」
「俺は体力あるから。それにリーンに喜んで欲しい」
「でしたら、早く帰ってきてください。私は花よりも湯たんぽが一番嬉しいです」
「湯たんぽ・・・?」
リーンは首を傾げるルオににっこり笑って朝食の席を立った。ぼんやりするルオを医務官に診察してもらい、異常がないと聞いたので、執務室に向かった。
***
ルオは自分を呼びにきた侍従に声を掛けられ我に返った。リーンに見惚れて、動けなくなっていた自分に苦笑した。リーンに初めて欲しいと願われたものを思い浮かべた。
「最高級の湯たんぽってどこから取り寄せれば・・・」
侍従はリーンからルオが自分に贈り物をするなら止めて欲しいと言われていた。
「殿下、贈り物はいらないって」
「リーンが花より湯たんぽが欲しいって」
イナは部屋を整えながら呆れていた。主の意図が全く伝わっていなかった。
「姫様は殿下に早く帰って自分の湯たんぽになってほしいと願われました。姫様は欲しい物は自分で手に入れますので、お気遣い不要です。」
ルオはイナの言葉に赤面しリーンの願いに震えていた。イナは気にせず、手を進めた。
「殿下、リーン様と過ごしたいなら執務をお願いします」
ルオは侍従の声に執務室に急いだ。今日こそは早く帰ってリーンと過ごそうと決めた。
侍従は決めたら意地でもやり遂げるルオに笑った。目的のためなら周りが見えなくなる姿は双子はそっくりだった。この日からルオが休憩もせず、必死に執務に向かう姿が見られるようになった。
***
ルオは朝食だけはリーンと共にしていた。
どんなに遅くなってもベッドに入り、リーンを抱きしめるのはルオの日課だった。
自分への態度がよそよそしくなったリーンが寝ぼけて、甘える仕草が可愛くてたまらなかった。
リーンはルオの気配に慣れたため、無意識に反応しなくなった。
リーンにとって人に抱きしめられて眠るのはルオが初めてだった。
また毎日、誰かと食事をすることも。
なにも思惑もなくただ傍にいてくれる相手は家族以外ではリーンにとって初めてだった。
少しずつリーンの中でルオが特別に変わっていた。無意識にルオの袖を掴んだ自分に戸惑い、リーンはルオの貞淑な妃になるために気合いを入れていた。リーンは礼節を持って接することがルオへの敬意の証だった。
その態度にルオが悲しんでいることはルオに言われるまで全く気付かなかった。
ルオは腕の中にいるリーンに胸が熱くなっていた。冷静になり自分がリーンを抱きしめていることに気付いたルオは赤面した。それでも離れることが名残り惜しく、しばらく抱きしめていた。
リーンは抱きしめたまま動かないルオに戸惑いつつも静かに体を預けていた。どんどん時間が過ぎていき、リーンはルオの腕の中で今日の予定を考えはじめた。
しばらくすると、ルオは恐る恐る問いかけた。
「部屋、帰ってくる?」
リーンは情けない顔をするルオの声に現実に戻った。全く腕から解放されないため、頭の中では小国の発展のため思考を巡らせていた。
「荷物を戻すの大変よね。寒いし。暖かくなったら」
小国の寒い日々はまだ数か月続く。しみじみと呟くリーンにルオが首を横に振った。
「俺が運ぶ。面倒なら新調すればいい」
必死な様子のルオにリーンが笑った。
「旦那様のお考えにお任せします」
ルオはリーンから向けられるありのままの笑顔に見惚れた。
「幸せで死にそう」
「夫が死んだら、私は別のとこに嫁がされるけど」
「死なない。リーンより長生きする」
「そのためには今日は休んで。病み上がりは大事にしないと」
「熱は下がった。調子も良いから。リーンの引っ越ししよう」
ルオはリーンを抱きしめる腕を解き、ゆっくりと手を差し伸べた。リーンは手を重ねたルオの真っ赤な顔を見て、回復したようには見えなかった。医務官を呼び、完治と診断されたためルオの好きにさせることにした。妻は夫に従うものである。
リーンの荷物を自ら運び出すルオを見て、リーンはイナに引っ越しの指示を出した。ルオの家臣は主が報われたこと、リーンの家臣は主の憂いが晴れたことに安堵の息を吐いた。リーンが誰かの行動に真剣に悩むのは初めてのことだった。
引っ越しを終えたリーンはルオに穏やかな笑みを浮かべた。
「私は執務に戻るわ。今日はゆっくり休んで」
「俺、もう大丈夫」
「今日は休んで、明日熱が下がったら執務に戻ってください。風邪は怖いわ」
リーンにとって風邪は命に関わるものだった。だがルオにとってはそこまで重いものではなかった。
「リーン様、執務は問題ありません。できれば殿下に付き添っていただけませんか?殿下はじっとしているのが苦手なので」
ルオの家臣の言葉にリーンは苦笑した。じっとしていられない弟にそっくりだった。
「わかりました。責任もって休ませます」
リーンはいくつか指示を出して、ルオに付き合うことにした。
ルオは回復していたが家臣の気遣いに甘えた。リーンと一緒に過ごせるのは夢のようだった。
「リーン、散歩でも」
「雪が降ってるわ。今日はお休みです。部屋で過ごして」
リーンは休む気のないルオに苦笑を隠して穏やかな笑みを浮かべた。
イナに声を掛けられ、まずは食事をすることにした。
ルオはリーンの食事の少なさに目を見張った。
二人が私的に共に食事をするのは初めてだった。
「リーン、それだけ?」
「はい。」
晩餐で用意される量の半分にも満たなかった。
「今までどうして」
「王族ですもの。調整できますわ。」
にっこり笑ったリーンにルオは見惚れて何も言えなくなった。リーンは気にせず食事をした。イナは仲直りしても温度差のある二人を静かに見つめていた。
食事をおえると、ルオはまたベッドに戻された。
リーンの目にはルオは幼い弟と重なっていた。ルオはリーンにされるがままだった。
ベッドに入り、頭を撫でられ、物語を聞きながら眠ったルオを見てリーンはため息をこぼした。ずっと一人でベッドにいるのは寂しいので、昔、イナがしてくれたように椅子に座って、起きたら顔が見れる場所で過ごすことにした。
ルオは目を開けると、リーンが眠っていた。何度思い出しても夢のような光景に顔が緩んでいた。寝苦しそうなリーンをそっと抱き上げて、自分の隣に寝かせた。寝苦しそうな様子に、リーンの首元を緩めているとリーンが目を開けた。
「ごめん。手を出そうとしたわけじゃ」
リーンはルオの慌てる様子に首を傾げた。自分の服が乱れている様子と赤面しているルオに察した。ルオの額に手を当てて、熱がないことを確認して、自分の服に手をかけた。
ルオは服を脱ぎはじめたリーンにさらに赤面した。
「リーン!?」
脱いだ服は椅子の上に置き、肌着だけになったリーンがルオを見て微笑んだ。リーンは固まっているルオを見て覚悟した。リーンは大国で房中術は学んでいた。初めての実戦に不安でも顔に出したりしなかった。
ルオはリーンから目が離せなかった。そっと腕を伸ばして抱きしめると、ふんわり笑ったリーンの頬に口づけを落とした。自分を見つめて、目を閉じたリーンにゆっくりと口づけた。ルオは理性を総動員してリーンの華奢で折れそうな体を優しく抱きしめた
リーンはルオが主導権を握ってくれることにほっとしていた。ただ途中から全く手を出す様子のないルオに戸惑った。
「ゆっくりでいいよ。」
リーンはルオの言葉に呆然とした。リーンの体は豊満ではない。やはり自分が覚悟を決めるしかないかと大国の秘術を思い返した。
心の中で葛藤し羞恥で頬を染め潤んだ瞳で自分をじっと見つめるリーンにルオは髪を掻き上げた。腕の中でリーンが緊張しているのはわかっていた。
「これ以上は止められる自信ない」
「いいの。優しくなくていい。」
リーンとしてはルオに頑張って欲しかった。
ルオの理性は負けた。華奢なリーンが壊れないように、優しく抱くつもりだった。口づけを深くして、とろけた顔で自分を見つめるリーンに最後の理性の糸が切れた。リーンの体に溺れ、正気に戻ったのはリーンが腕で気を失った時だった。
イナはノックしても声が掛からないので、入室した。食事の時間だった。
リーンはイナが了承なく部屋に入ることを許していた。
ルオの傍で読書をしてるリーンに声を掛けるため、寝室に入ると一瞬だけ目を丸くした。半裸で眠るリーンと焦った顔をしているルオがいた。
「体力の限界ですね。直に目覚めます。お食事はどうされますか?」
「まだいい。呼ぶまで入ってこないでほしい」
「かしこまりました」
ルオは淡々と話すイナに冷静さを取り戻した。リーンに謝るのは後にして、今は幸せに浸ろうとリーンを抱きしめて、ルオは再び眠りについた。
深夜にリーンは慣れない気配に目を開けた。自分を抱きしめて眠るルオを見て、状況を思い出した。心の中で母達に房中術は自分には難易度が高いと呟いた。でも無事に初夜をおえたことにほっと息を吐いた。ただリーンは重要な事実に気付いた。誰にも言っていないがリーンは知らない気配があると眠れなかった。これからルオと寝室を共にするなら慣れなくてはいけなかった。
リーンがもう一度眠ろうとしても無理だった。目を閉じると、規則正しい心臓の音が聞こえてきた。ルオの心音に集中して耳を傾けた。気付くとリーンは眠っていた。
翌朝、目を開けるとリーンはほっと息を吐いた。ルオと一緒に眠る方法を見つけたことに安堵した。いつもは自分の冷たい体が暖かかった。ルオの体温の高い体に包まれいてたおかげだと気づき、快適な目覚めに笑った。
ルオが目を覚ますとリーンが笑っていた。
「リーン、その・・・」
「おはようございます。もう体は大丈夫ですか?」
「ああ。リーンは?」
「なにも問題ありません」
「そうか」
ルオは自分に笑いかけるリーンに見惚れていた。リーンはルオの腕を抜け出し、服を纏い寝室を出ると湯あみの準備を整えていたイナに笑い甘えることにした。
「お疲れ様でした」
「イナ、久々に洗ってくれる?」
イナは笑顔で頷きリーンの髪を洗った。リーンは湯あみは一人でできるがイナに髪を洗ってもらうことが好きだった。イナはリーンの体に刻まれた痕にリーンの夫が無体を強いたら薬を盛ることを決めた。
***
ルオの家臣達は上機嫌な主を微笑ましく見守っていた。時々、手を止めてぼんやりする主を見逃すことにした。
リーンは離縁しないため方針を変えた。
寒い小国の環境を生かして、国を豊かにする方法を話し合っていた。家臣達は楽しそうに話すリーンを微笑ましく見ていた。
昼食を共に取りたいというルオの申し出をリーンは初めて了承した。
ルオが侍従が持ち帰った返事に感動して顔を緩ませていた。ルオの家臣も微笑ましく見守っていた。
リーンとルオの食事の様子を見ながら、イナ達は気付いていた。
リーンのルオに向ける視線は弟王子に向けるものとそっくりだった。仲直りをしても、温度差のある二人を愉快に見守っていた。
イナはルオの空回りに拍車をかけるために、時々情報を売ることにした。数多の男を落とした主をルオが落とせるとは全く思っていなかった。リーンの家臣達はルオがイナを味方と勘違いしていると気付いても忠告する優しさは持ち合わせていなかった。
***
ルオは執務に追われていた。リーンが部屋に帰ってきても中々共に時間を過ごせなかった。
ルオは寝室に入ると、リーンが目を擦って起き上がった。
「お帰りなさい」
「ただいま。わざわざ起きなくていいよ」
「ううん」
ルオはリーンの隣に寝転ぶと胸にくっつくリーンを抱きしめた。
リーンはルオの心音に意識を傾けまた目を閉じた。ぐっすりと眠るリーンを胸に抱いてルオは目を閉じた。明日こそはもう少し早く帰ろうと決めた。
ルオはリーンが自分の気配で目を覚ますとは知らなかった。
翌朝、目を開けると、リーンはルオの寝顔を眺めていた。
ルオと一緒でもぐっすり眠れるようになっていた。ルオは多忙である。それでも、毎日花を贈ってくれた。何度目かわからないお断りをすることにした。
「リーン?」
目を開けて、腕の中のリーンを確認するのがルオの癖だった。
「おはようございます。」
「おはよう」
ぼんやりとした目で自分に口づけ、口づけた後に目を見開き赤面する様子がリーンはいつも可笑しかった。リーンにとってルオのように表情豊かな王族は稀だった。
リーンはルオの腕を抜け出し、着替えて朝食に向かうことにした。
「殿下、もう花はいりません」
「え?」
「花を摘みに行く暇があるなら休んでください。」
「俺は体力あるから。それにリーンに喜んで欲しい」
「でしたら、早く帰ってきてください。私は花よりも湯たんぽが一番嬉しいです」
「湯たんぽ・・・?」
リーンは首を傾げるルオににっこり笑って朝食の席を立った。ぼんやりするルオを医務官に診察してもらい、異常がないと聞いたので、執務室に向かった。
***
ルオは自分を呼びにきた侍従に声を掛けられ我に返った。リーンに見惚れて、動けなくなっていた自分に苦笑した。リーンに初めて欲しいと願われたものを思い浮かべた。
「最高級の湯たんぽってどこから取り寄せれば・・・」
侍従はリーンからルオが自分に贈り物をするなら止めて欲しいと言われていた。
「殿下、贈り物はいらないって」
「リーンが花より湯たんぽが欲しいって」
イナは部屋を整えながら呆れていた。主の意図が全く伝わっていなかった。
「姫様は殿下に早く帰って自分の湯たんぽになってほしいと願われました。姫様は欲しい物は自分で手に入れますので、お気遣い不要です。」
ルオはイナの言葉に赤面しリーンの願いに震えていた。イナは気にせず、手を進めた。
「殿下、リーン様と過ごしたいなら執務をお願いします」
ルオは侍従の声に執務室に急いだ。今日こそは早く帰ってリーンと過ごそうと決めた。
侍従は決めたら意地でもやり遂げるルオに笑った。目的のためなら周りが見えなくなる姿は双子はそっくりだった。この日からルオが休憩もせず、必死に執務に向かう姿が見られるようになった。
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ルオは朝食だけはリーンと共にしていた。
どんなに遅くなってもベッドに入り、リーンを抱きしめるのはルオの日課だった。
自分への態度がよそよそしくなったリーンが寝ぼけて、甘える仕草が可愛くてたまらなかった。
リーンはルオの気配に慣れたため、無意識に反応しなくなった。
リーンにとって人に抱きしめられて眠るのはルオが初めてだった。
また毎日、誰かと食事をすることも。
なにも思惑もなくただ傍にいてくれる相手は家族以外ではリーンにとって初めてだった。
少しずつリーンの中でルオが特別に変わっていた。無意識にルオの袖を掴んだ自分に戸惑い、リーンはルオの貞淑な妃になるために気合いを入れていた。リーンは礼節を持って接することがルオへの敬意の証だった。
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