指先で描く恋模様

三神 凜緒

文字の大きさ
上 下
37 / 64

短編小話 クリスマス?と卵の話

しおりを挟む
冬の始まり、年の終わり、白い大地を、一歩一歩と歩く歩みは遅く、冷たい風に吹かれ、顔を伏せてしまう。
凍り付く息をゆっくりと吐きだし、己の体温が奪われていくのを感じる。
時間の流れはゆっくりで、目の前の景色はただ雪の粒が音も立てずに降り積もり、世界を白銀一色に染め上げる。

もうすぐクリスマスの日、あなたは誰と過ごしますか? と尋ねればきっとリアクションは二種類に分かれるのだろう。ボクは…ボクには一緒に過ごしてくれる家族も、好きな人もいる。だから今の瞬間はきっと幸せなんだと思う。
せっかくの御馳走が食べれる日、ボクは張り切ってケーキでも作ろうと、母に教わりながら、スポンジの材料である卵と、砂糖、小麦粉にバターを取り出し、一つずつ丁寧に分量を量りながら材料の準備をしつつ、オーブンに予熱をしすぐに焼き始めれる準備をしていた。

卵を四個、ボクは恐る恐る割ろうとすると、綺麗に真っ二つに割れず、楕円の尖った部分だけ割れてしまい、何か思うように割れない状況が続いた。
それは、母も同じだったようで、料理上手な母がどうしてそうなるのか首を傾げると、母は卵の殻が昔に比べて薄くなり、その代わり中の膜が厚くなって、割れにくくなってると言っていた。

昔の卵に触れた事もないボクは本当か実感は無かったんだけど、母の言葉に偽りは感じない。ボクはどうしてそんな事になったのか訊いたら…母は『恐らく』と付け加えて…

「親鳥に卵に対しての愛情が無くなったからでしょうね」
「愛情が無い?」
「何世代にも渡って、生まれた卵を全て人間に奪われていってるからね。そんなものに愛情を持ち続けたら辛いでしょ? だから…ウィルスに負けないような固い殻もなくなり、卵の中にある『気室』と呼ばれる空間も消滅しちゃったしね~」
「気室?」

聞き慣れない単語に首を傾げていると、母はサンドイッチに使おうとして余った殻を剥いた茹で卵を取り出し、ボクに手渡す。
それは綺麗な楕円形をしており、歪み一つない…そう歪みが一つもないんだ。

「昔の卵だったら、一部に凹みが出来ていたのよ。そこに気室があって、気室の大きさが卵の鮮度を表すみたいなんだけどね~」
「気室がなくて、凹みが出ないんなら…良い事じゃないの?」
「いや…確かにそうなんだけどね…気室が大きくならないって事は、卵の中の水分が蒸発してないって事みたいなんだけど、全くないという事は雛が空気を吸う為の穴が殻や、厚くなったうす皮にないって…事じゃないかな~って…まさかね」

あくまで素人だから、本当の処は分からないけどね~と言いながら、母は軽い鼻歌をしながら、手早くミキサーで卵を混ぜていく…ボクは見学をしながら、色々と勉強していくんだけど…
出来上がったケーキは何か…すごくボソボソになっていた! 何でだろうと首を傾げていると…母はああっ! っと絶叫してから……

「最後にバターを入れるのをすっかり忘れてたわ! 久しぶりだから不味ったわね…」
「そういえば、母さんがケーキ作るのは久しぶりだよね? 何で作らなくなったの…」
「そりゃ、お前……体重がね~~~」
「ああっ……なるほど(;^ω^)」

親子の愛って、こういうやり取りから生まれてくるのかな…? 鶏さん達には感じれない物だとしたら悲しいが…
お互い美味い物ほど、怖い敵はおらんなと言いながら、笑ってそのボソボソのスポンジにクリームを塗り込んでいく。混ぜ物がない分、純粋に美味い…と思う。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

七年間の婚約は今日で終わりを迎えます

hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

あの子を好きな旦那様

はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」  目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。 ※小説家になろうサイト様に掲載してあります。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

処理中です...