指先で描く恋模様

三神 凜緒

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授業中の考察(東谷視点)

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授業とは何か…何て、俺はあまり考えた事がない。
高校の入試もスポーツ推薦で通っていたので、受験勉強もしたことがない…
元々部活動が大好きだった俺は、勉強そのものをあまりしていなかった気がする…
机にぶらさがったカバンからは、端がボロボロになった教科書が何冊も入っている。
国語の先生が教室に来る前に、カバンから教科書を出さないと…あれ?

「中西~すまん…教科書見せてくれ?」
「どうしたんだ? 東谷…教科書全部学校に置いてなかったっけ?」

他の人たちは時間割を見て、その日使う教科書だけの分を持っていくと思うが、俺は体力をつける為に、大きなカバンに全ての教科書を詰め込んで歩いている。
普段から重そうに揺らしているのだが、樹からは何も言われない…恐らく、それが辺り前になっているのだろう…

「いや、そうなんだけどさ…昨日隣のクラスの子に貸しちゃってて…返して貰うの忘れちゃったんだ…」
「また貸したのか…相変わらず、人がイイというかなんというか…ほれ」
「ありがとな~♪」

中西に礼を述べると、席をずらし教科書を見せてもらう。
自分とは違う清潔感のある教科書に眼を輝かせながら、指で今日の範囲のページを探る。

「しっかし、何でお前の教科書を皆貸してほしいのかね? 俺には良く分からん…」
「そう言われてもな~」

俺の教科書って何か特別な事ってあるっけ? と言われても、多少要点をまとめる為のマーカーとかコメントを書いてるぐらいなのだが…それのせいかな?
中西の教科書は、まっさらで何も書いてない。新品同様の綺麗な状態と保っていた。

「中学の頃の担任には言われたんだよね…」
「何て言われたんだ?」
「この教科書はお前の物なんだ。小奇麗にしようとするよりも、お前の使いやすいように好きにしろって…」

それまでは教科書とは何か聖域のように汚せなかったのだが、担任のその一言を聞いてから、ノートのように色々と書き込むようになった。

「へえ~その結果が…教科書で筋力増強なの?」
「あたぼうよっ!! …って、そういう意味じゃないわっ!」
…………
「お前ら~~席につかんか~~~!」

「ええ~、お前たちもうすぐ紅葉狩りの俳句作りをする訳だが、きっと国語や古語の先生に質問してる熱心な生徒もいるだろう…先生もこの学校長いからな。ある程度アドバイスも出来ると思う! なのでドンドン質問してくるよ~~~に!」
「は~~~~い!!」
「おお~~~っし、授業開始するぞ~~~!!」

この大久保先生は、授業においてはとても熱心で真面目な先生なのだが、どうにも空回りしていて、その熱血さに殆どの生徒が距離を置いている…
一番の特徴はその朗読だろうか…まるでドラマの台本のように熱く語るその大袈裟な仕草は、生徒たちに一定の感動を与えている。

「『その時! 彼は懐から短刀を取り出し、ギラついた目で担当者に単刀直入に、この短刀を短答で研いでくれませんかと…』」
「先生~今持ってる本…教科書ではなく、ただのダジャレ本では…?」
「おおっと、いかんいかん…つい生徒たちのウケ狙いの愛読書が混ざってしまった…ナハハハハッ!!」
「先生ったら、そそっかしい~~ハハハハッ…」

毎回毎回、授業の初めに真面目な顔で何らかのボケをかましてくれる。それで生徒たちのウケを取れているのだから凄いなといつも思って見ていた。
自分にはない、余裕のあるその仕草や態度…大人になるってのは、こういう事を言うのか…

――――いつも、気づけば樹が傍にいた。樹が後ろにいると何か頑張んなきゃって思った。
自分でも背伸びしてるかなって思いながらも、いつも堂々とした態度を保っていた思うけど、それって大人になるって言うのかな?

「大人になるのって難しいよな~~はあ~~~」
「何を言ってるんだ? お前は…?」

机をくっつけている中西から、訳が分からんという風に見られたが、それも一瞬。
すぐに舞台俳優になりきった大久保先生の声に耳を傾ける。
特に激しく、時に悲しく、作者の意図を読み解きながら表情豊かに熱演していた…


…………
激しい大久保先生の授業を終え、中西に軽く礼を伝えると席を戻す。
ぐぐっぐっ! っと背伸びを一つ…ずっと体を横に曲げていたので、少し筋肉が固くなっていたのだ…
あと二つ授業を終えれば、昼休みだが工藤先生の所にまた行っていいのだろうか?
ずっと彼女の休み時間を潰すのも悪いかな~と思うのだが、授業中の先生の表情はとても楽しそうで、これでいかなかったら残念がるんじゃないかな? と思ってしまう。

「一応、顔を見せて、今度は余裕あるタイミングで切り上げるのがイイかな? さすがに二度も授業に遅れそうになるのはまずい…」

待たせるのはまずいと、少しだけ早く歩き廊下に出ると…そこには先程と同じようにクラスの扉の前で変な動きをしていた…おいおいおい…(;^ω^)
デジャブだろうか…まったくあいつは俺がいないと、何も出来ないんだから…と思いながら、足音を立てずにゆっくりと近づき、そっとその頭を撫でる…

「どうしたんだ? またこんな所で…」
「んんっ!! 東谷君…また…!? もう~~~」

何か知らないが少し怒っているようだ。顔を赤くして唸っている姿を見ながら、少し困ったように頭を掻きながら、その怒りをごまかすようにその手を握り、職員室に向かう。

「ほらっ…いくぞ?」
「うんっ……」

手を握ると大人しくなる樹にそっと微笑むと、少しだけ笑ってくれた。
工藤先生の授業……俺に理解出来るかな~~~?
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